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第133話:聖者の身受け(冷徹な交渉と、制服の重み)

大聖堂の奥深く、司祭の執務室。ケニーは、先ほど見た地下牢の光景を表情に出さぬよう、49歳の冷静な実業家の顔に戻っていた。

1. 司祭の邪推

「……それで、あの狂人と何を話したのだ? 汝の国の言葉が通じたようだが」

司祭が、値踏みするような視線を向けてくる。聖教国において、理解不能な言語を操る者は「異端」か「聖者」のどちらかに仕分けされる。

「いえ、あれは言葉ではなく、商売の『呪文』のようなものです。彼が口にしていた『揚げ鶏』や『ニッポン』という単語、実は私の故郷の古い伝承に登場する、失われた食文化の名なのです」

ケニーは息を吐くように嘘を重ねた。

「彼は奇跡を起こす聖者などではない。ただ、その伝承に詳しすぎるがゆえに、精神を病んだ哀れな男に過ぎません」

2. 「更生」という名の商品開発

司祭は疑わしげに眉をひそめた。

「ほう。だが、あ奴を聖者として祭り上げ、民衆から寄進を募るという手もあるのだがな」

「それはお勧めしません。もし彼が偽物だとバレれば、教団の権威は失墜します。それよりも……」

ケニーは、机の上に新店舗の「聖教国限定ラインナップ」の計画書を広げた。

「彼を私の店の『商品管理責任者』として引き取らせてください。彼が持つ伝承の知識を使い、教団のロザリオや聖像を『より霊験あらたかなデザイン』にリニューアルさせます。その売上のお布施、当初の予定より5%上乗せしましょう」

3. 取引成立

「……売上の5%増、か」

司祭の目が、欲に濁った光を放った。管理の面倒な狂人を手放し、代わりに確実な金が入る。強欲な聖職者にとって、これほど魅力的な取引はない。

「よかろう。だが、あ奴が外で余計なことを口走れば、即座に処刑する。汝が責任を持って『飼う』のだな?」

「もちろんです。私の店には、24時間、不審な動きを監視する『防犯魔導カメラ』がありますから」

ケニーは、内心の怒りを押し殺し、穏やかな笑みを浮かべて握手を交わした。

4. 救い出された「魂」

数時間後。地下牢から引きずり出され、泥と垢にまみれた青年が、ケニーの前に連れてこられた。

青年は、自分を「買った」というこの中年の店主を、恐怖と困惑の入り混じった目で見つめている。

「……あの、あんたは……。なんで俺を助けたんだ? さっきの言葉、どうして……」

震える声で問う青年に、ケニーは用意していた「石造りの店舗」に相応しい、質素な修道服風のスタッフ制服を投げ渡した。

「理由は一つだ。お前の親父さんに、シフトの穴埋めを頼まれたんでな」

「……え?」

「いいから着替えろ。今日からお前は、第801支店の『副店長代行』だ。まずは、店の裏で在庫の検品から始めるぞ。……泣いている暇があったら、手を動かせ」

青年は制服を抱きしめ、再び号泣した。

ケニーはそれを見ようとはせず、石造りの新しい店舗の棚を見つめた。

「……さて。これでまた一つ、とんでもなく大きな『徳』を積むことになりそうだな」

聖教国の静寂の中に、新しいコンビニの看板が、目立たぬように、けれど確かに掲げられた。

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