第102話:澱(よど)みの反撃(孤立する誠実と、49歳の裁き)
ロイを「店の鍵」に任命してから数日。ケニーの期待とは裏腹に、現場の空気はさらに冷え切っていた。
1. 牙を剥く「悪貨」
「……チッ、あいつまた棚掃除かよ。点数稼ぎに必死だな」
バックヤードから、古参スタッフたちのひそひそ話が漏れ聞こえる。
真面目に働くロイの存在は、サボることを正当化してきた彼らにとって、自分たちの醜さを突きつける「鏡」だった。
彼らはロイを無視し、わざと重い荷物を押し付け、彼が綺麗に並べた商品を陰で崩すといった、陰湿な嫌がらせを始めていた。
2. ロイの涙と、ケニーの自責
深夜、ケニーが抜き打ちで店を訪れると、ロイが一人、裏口で拳を握りしめて震えていた。
「……オーナー、すみません。僕が未熟なせいで、みんなと上手くやれなくて……」
少年の瞳には、悔しさと悲しみが混じった涙が浮かんでいた。
ケニーは胸が締め付けられる思いだった。良い人間を評価しようとすれば、悪い人間が束になってそれを潰しにかかる。これが、組織というものの、そして「コンビニ」という密室の残酷なリアリティだ。
3. 49歳の「非情な決断」
「……ロイ、お前は何も悪くない」
ケニーは静かに、けれど氷のように冷たい声で言った。
彼はそのまま、バックヤードで談笑していたスタッフたちの前に立った。
「オーナー! お疲れ様です、今ちょうど在庫の確認を……」
「嘘をつくな。記録は全て見ている」
ケニーは、これまでのサボり、嫌がらせ、そしてロイへの仕打ちを一つずつ淡々と突きつけた。
「明日から来なくていい。解雇だ」
「なっ……! そんなの、今の王国の法じゃ認められないはずだぞ!」
スタッフたちが食ってかかるが、ケニーは一歩も引かなかった。
4. 経営者の「業」
「法が守るのは『労働』だ。お前たちがやっていたのは『略奪』だ。店の信頼を、ロイの誠実さを、俺の時間を奪った。……文句があるなら騎士団でも裁判所でも行け。俺は一歩も退かん」
49歳の男が放つ圧倒的な威圧感に、スタッフたちは毒気を抜かれたように黙り込んだ。
彼らを追い出した後の静まり返った店内で、ケニーは再び、ロイと二人きりになった。
人手は足りなくなる。明日からのシフトは地獄だ。売上も一時的に落ちるだろう。
けれど、腐った部分を切り捨てなければ、店という体は保てない。
ケニーは深夜の空を見上げ、自分にしか聞こえない声で囁いた。
(……『星空のビリー・ホリデイ』。悲しい時は、いつだって……)
心はウツに近いほど重い。けれど、隣で「ありがとうございます」と頭を下げるロイの姿に、ケニーは微かな救いを感じていた。




