第103話:情報の集積地(800の灯火と、盤上の王)
コストナーが開発した「魔法の器」は、今や王国のみならず帝国の軍部、さらには模倣品を作る粗悪な業者たちで溢れかえっていた。市場は飽和し、価格競争は泥沼化している。
だが、ケニーは焦っていなかった。彼の手元には、他者が決して持ち得ない武器――王国全土に広がる800の店舗網があった。
1. 模倣品に潜む「予兆」
「オーナー、各地の店舗から上がってきた報告です。帝国製の安価なコピー麺の空き容器が、国境付近の街道で大量に発見されています。……それも、特定の騎士団の紋章が入った袋と一緒に」
ソラリスが冷徹な数字とともに報告する。
市場に模倣品が出回ることは、ケニーにとって「敵の動きを可視化するセンサー」でしかなかった。どこで誰が何を食べているか。800店舗のゴミ箱と在庫の動きをパッカーンと組み合わせれば、軍隊の進軍ルートや規模までが、手に取るように分かった。
2. 国家を操る「兵站の蛇口」
王国も帝国も、表面上は自国で「魔法の器」を量産していると強弁していた。だが、その実態は、ケニーの店が提供する「本物」の味と栄養価、そして安定した供給力に依存しきっている。
「ソラリス、国境沿いの20店舗から、一時的に商品の供給を絞れ。理由は『魔導物流の不具合』とでもしておけ」
ケニーが指先一つで供給の蛇口を締めると、数日後には帝国軍の進軍がピタリと止まった。腹を空かせ、粗悪なコピー品で体調を崩した兵士たちは、もはや戦うどころではなかったのだ。
3. 事務所に並ぶ「支配者たち」
「ケニー殿、頼む! 我が軍の駐屯地の隣に、あと三つ店舗を作ってくれ。……いや、言い値で構わない。我が国の機密情報と引き換えでもいい!」
深夜、ケニーの事務所には、王国の将軍や帝国の特使が、なりふり構わず頭を下げに来ていた。
「お断りします。うちは中立のコンビニですから。……ただ、もし『隣国の物資集積所の場所』を教えていただけるなら、そこへの配送ルートを優先的に確保しましょうか?」
4. 49歳の「孤独な凱歌」
かつて、数人の従業員に裏切られ、人を疑うしんどさにウツになりかけていた男の姿は、そこにはなかった。
800もの店舗が吸い上げる、膨大な「生きた情報」。
ケニーは、盤上に並べた800のコマ(店舗)を眺めながら、静かに息を吐いた。
(……人を管理するのは地獄だが、国家を転がすのは、単なる物流の調整に過ぎないな)
模倣品が溢れようと、国家が挑んでこようと関係ない。
この世界で最も「どこにでもあり、誰でも入る」場所を握っているのは、自分なのだ。
ケニーは、深夜の静寂の中で、次なる「平和の強制」に向けて、新たな発注書にペンを走らせた。




