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第101話:深夜の共犯者(嘘の嵐と、一輪の誠実)

店舗の拡大とともに、現場は荒みきっていた。ケニーが目を離せば、従業員たちは露骨にサボり、在庫を誤魔化し、互いに責任を押し付け合う。

「……信じるだけ無駄か」

深夜、司令室のモニター越しに、腐りゆく現場を眺めるケニーの精神は、すでに限界に達していた。人を疑い、監視し続ける日々。それは経営者というより、囚人を見張る看守のような虚しさだった。

1. 泥の中に咲く花

そんな中、一人だけ異質な動きをする新入社員がいた。

名はロイ。まだ少年の面影が残る、言葉数の少ない若者だ。

他のスタッフが裏で隠れて休んでいる間も、彼は一人で棚の埃を拭き、期限切れの商品を分単位でチェックし、客の姿が見えれば、誰も聞いていないのに「いらっしゃいませ」と真っ直ぐに頭を下げていた。

2. 監視の夜、隣に座る影

深夜三時。ケニーは抜き打ちでその店を訪れた。

案の定、他のスタッフはバックヤードで居眠りを決め込んでいたが、ロイだけは冷え込むレジ横で、商品の陳列を黙々と直していた。

「……ロイ、少し休め。コーヒーでも飲むか」

ケニーが声をかけると、少年は驚いたように肩を揺らし、それから申し訳なさそうに笑った。

「いえ、オーナー。ここを綺麗にしておかないと、次のお客さんに失礼ですから」

その言葉に、ケニーの胸の奥に深く刺さっていた「不信」という棘が、少しだけ溶けるのを感じた。

3. 星空のメロディ

二人は、深夜の搬入口の段差に腰を下ろした。

空には、この世界特有の巨大な月と、降るような星々。

ケニーはポケットから、冷えた試作品のカップ麺を取り出し、ロイと半分に分けた。

「……しんどくないか、ロイ。周りはみんな、適当にやってる。お前一人だけ頑張っても、給料は変わらないんだぞ」

ロイは麺を啜り、夜空を見上げて答えた。

「自分に嘘をつく方が、もっとしんどいです。僕は、オーナーが作ったこの『明るい場所』が好きなんです。ここに来ると、ホッとするから」

ケニーの唇が、自然と動いた。

この世界には存在しない、けれど今、この瞬間のためにあるような、あの懐かしい旋律。

『星空のビリー・ホリデイ』を、ケニーは自分にしか聞こえないほどの囁きで口ずさんだ。

「……星空のビリー・ホリデイ、悲しい時は、いつだって……」

歌詞の意味はロイには伝わらない。けれど、ケニーの歌声に乗った、切なくも温かい響きが、二人の間の空気を静かに満たしていく。

4. たった一人の「共犯者」

「いい歌ですね。なんだか、夜が怖くなくなります」

ロイが呟いた。

ケニーは苦笑した。人を疑い、監視し、ウツになりかけていた49歳の経営者が、たった一人の若者の言葉で、もう一度だけ現場を信じてみようと思えた。

「……よし、ロイ。明日からお前を、この店の『鍵』に任命する。俺の代わりに、この光を守ってくれ」

サボりも嘘も、完全には無くならない。経営の苦しさはこれからも続く。けれど、この広い異世界の片隅に一人でも「自分と同じ景色」を見ている奴がいる。

それだけで、このしんどい旅路を、もう少しだけ歩いていける気がした。

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