間話 エリルの洞窟
僕達は神器を見つける為にエクレシアが知る情報を当てにして、二手に分かれた。
シグルド達はエクレシアと共に、ある町へと転移していった。そして僕達はエクレシアの部下と共に、ある洞窟へと足を踏み入れていた。
洞窟の名前は「エリルの洞窟」であり、なかなか強い魔物が巣食っているという噂を聞いている。
エリルの洞窟の名前は、冒険者をしていたときに聞いた覚えがあったがまさか実際に行くことになるなんて思いもしなかった。というのも、このエリルの洞窟は近くに小さな王国があったのだ。そしてその小さな王国にも冒険者ギルドは存在しており、そこにいた冒険者は経験値を稼ぐためによくエリルの洞窟を利用していた。
しかし最近になってその経験値稼ぎもなくなった。……いや、出来なくなったと言った方が正しいだろう。何故ならその冒険者ギルドがあった王国「トゥエリル王国」は、魔神によって滅ぼされたからだ。
「でも良かったにゃー。近くに街があったおかげで数日歩かずに済んだにゃ」
「これもレシア嬢が用心深いおかげですね。感謝しろよユーシンとやら」
「いやなんで僕だけなのさ!」
そんな他愛もないやり取りをしながらも、エリルの洞窟内を順調に進んでいく僕達。
元々トゥエリル王国の近くに存在しているから、転移先はトゥエリル王国になる予定だった。しかしトゥエリル王国が滅んでいたので、転移することは不可能だった。なので数日かけてトゥエリル王国に行く予定を立てていた。
けれどもう一人共にいたエクレシアの部下、レフィが「王国の近くの街……転移できる」と言ったのだ。その言葉を信じて転移魔法陣を使用すると、案の定、トゥエリル王国の近くにある街へと転移できた。
それからは街の人に情報収集をして、エリルの洞窟へと辿り着いたということだ。
「しかしまさか、トゥエリル王国が滅んでいたとは……魔神の被害がここまで及んでいるのも驚きです」
「騎士団が躍起になるのも頷けるにゃ」
「けどそのおかげで、神器もまだ無事だという可能性が浮かんだのは良い事だね」
エリルの洞窟はレベルの高い魔物や厄介な魔物が多く、未だに誰もその奥へと辿り着いたことはない。魔物が強いといっても、それは冒険者を生業とする初心者ならの基準であり、今の僕達のレベルだと開拓は出来ると考えている。
ドニア城砦で魔王軍との戦争を経験し、敗戦はしたものの僕達は生き残ることが出来た。あの戦争に比べればエリルの洞窟に巣食う魔物は、別段恐怖を抱く対象ではない。それに加えて退魔属性を使う武器を持つレフィとアイザックがいるのは、正直言って助かる。
性格はアレだけど、彼ら二人の力でエリルの洞窟の魔物を軽く倒して楽に進めているのも事実なのだ。僕もエクレシアが作った退魔の武器が欲しいくらい、その力は魔物に対して有意さを示している。
「にしても、ほんとにこの洞窟に神器はあるのかにゃ?」
「あの街からの情報とエクレシアさんの情報を元に考えると、この洞窟にあるのは間違いないよ」
「だとしても、洞窟に隠すのもどうかと思うにゃけど」
「それほど神器ってのは、強力な武器なんだよ。君も実感しただろ?」
「まぁ、そうにゃんだけどさ」
ククリナは面倒臭そうに溜息を吐いたが、その神器というものに苦しめられたのは事実なのだ。
ドニア城砦で相手にしたジムエル。
彼は僕たちと同じく転生者であり、魔王軍に与する敵。実力は正直に言うと強敵だった。僕たち二人がかりで彼を攻撃しても、傷一つ付けることが出来なかったのだ。
実際に攻撃を当てていたのは間違いないのだが、それでも彼が着用していたマントには攻撃が通らなかった。多分、あのマントが彼の神器だろう。
それに彼の力は召喚術。しかも骸骨を呼び出すような死霊使いである。
一般的に召喚術を使用する術士は魔力量が多く、魔術などにも長けているのだがその反面、防御力や攻撃力が弱いというのが定石なはず。なのに彼にはその傾向が無かった。
それを踏まえて考えられることといえば、弱点を克服するためにレベルやスキルを上げまくったか、もしくは装備で補っているかのどちらかだ。そして彼の場合は、後者の可能性が高い。
彼自身の実力がどうなのかは見定めた訳じゃないが、少なくともあれだけ強力な骸骨兵を大量に召喚し、操ることは一般的に考えると難しいだろうし、もし操れたとしても術士自身を強くする事なんて、同時並行するだけ大変だ。
もしそれが可能というなら、彼自身の弱点を補うなにかを身につけているとしか考えられないのだ。そしてその身に付けているのが神器ならば、彼の強さにも納得がいく。
ジムエルと共に行動していたミハルに関してはあまり詳しくはないけど、シグルドの話を聞く限りじゃあ彼女も僕たちと同じ転生者だ。しかし彼女の強さだけは計り知れないものがあった。シグルドやレイラの話では彼女は魔族とのハーフで実力は、転生者の僕たち以上……もしかしたら、敵であるジムエルよりも上なのかもしれない。それほどの実力を彼女は持っている。それはミハルと戦い敗北したシグルド達が十分に理解していることだ。
「神器というものが強力なのは、レシア嬢やククリナちゃんの話を聞いて明らか。故に先人達は神器を隠したのですよ。誰にも悪用されぬようにとね。
レシア嬢は常々私たちに言い聞かせていますよ、強力な武器ほど悪用させてはならぬ。と」
「……人は、欲まみれ、だから」
「確かに、どこにいても人間というのは欲望を持っている。だから犯罪は起こるし、戦争だって起きる」
「まぁ欲望に忠実っていうのは、悪くにゃいんだけどねー」
「いやそれでも、限度っていうのはあるよククリナ」
ケタケタと楽しそうに笑うククリナに対して、冷静にツッコミを入れた。
多少の欲望なら大抵のやつが解放しても許される。けれど許容範囲を超えた欲望は、他人にとっては害意以外の何者でもない。だから欲を出しすぎたものは排除されるのだ。まぁそれも今となってはどっちが欲をだしているのかは分からないけれどもね。
この世界で僕たちは人間側に味方している。成り行きとはいえそれは事実だ。しかし僕たちのような転生者は魔王軍にもいる。彼女らはどういう理由があって魔王軍に協力しているのか理解できないけど、それでもあのドニア城砦で僕たちに伝えてくれたことは、僕たちの今後を考えるのには十分すぎた。十分すぎるほど僕たちは迷ったのだ。迷って話し合い、それでも結論は出なかった。
僕でもシグルドから聞いた話を知って、結論なんて出せなかった。少なくともエクレシア本人は騎士団が怪しいと考えているようだが、シグルドは多分。エクレシアの話を聞いても簡単に切り捨てることは、できないだろう。
なんせ彼は優しすぎる。僕たちが住んでいた日本じゃないこの世界で、人を殺したり、裏切ったりすることができない性格なのだ。だからミハルと相対してもミハルを殺そうとするのではなく、連れて帰ろうとしていた。ミハルの部下からの願いを理由に……。
多分ミハルやエクレシアからしてみれば、それは甘い考えだと言われるだろう。僕も勿論そう思う。けどだからこそ、僕は彼についていく価値はあると考えている。僕は彼のように優しくはないから、この世界に染まってしまう可能性だってある。けど彼がいるおかげで、この世界に馴染むことはないと思っている。もし馴染んだとしても、彼が連れ戻してくれると信じているからだ。そしてそれは逆もあり得る話である。
シグルドはこの世界に来てから誰一人として人間を殺したことはない。例えそれが悪人であっても殺すようなことをせず、変われるチャンスを作る。その行為が良いことなのか悪いことなのかはまだ分からないけど少なくとも、それで今までこの世界を生きてきたのは凄いことだと、僕は思う。けどそれもこれから先は、通用しないかもしれないし、もしかしたら壁にぶつかるのかもしれない。それでもし彼が誰も殺せないようなら、代わりに僕がやれば良いと、そう考えている。
彼にそこまでする価値があるのかどうかと問われると、分からないし、もしかしたら無いのかもしれないけれど、それでも僕は彼の優しさに助けられたことは忘れない。少なくとも、助けてくれた恩を返すのが礼儀だと僕は考えているからだ。
「さてと、情報通りならそろそろ目的地に到達すると思ってるんですがね」
僕たちに群がってくる魔物を撃ち殺したアイザックが、そう発言しながら次のエリアへと目を向けた。
色々と説明しながらも、奥に進むにつれて迫り来る魔物を各々で討伐しながら進んできたわけだけど、どうやらもう少しでエリルの洞窟は奥まで辿り着くようだ。ここまでは意外に苦戦することもなく順調に進んできたわけだが、次のエリアではそうはいかないだろう。
エリルの洞窟での最奥は、まだ誰も到達したことがない未開地の場所。街で収集した情報によると奥に眠る宝を守護する魔物が存在すると言われている。その魔物はエリルの洞窟に巣食う魔物より強力な個体で、今は無きトゥエリル王国の冒険者だとしても勝利することは難しいと言われているのだ。
ただこの情報は街での噂話程度の情報であり、確証がないのが事実だ。つまりガセネタかもしれない可能性だってあるということだ。まぁ今更ここまできてガセネタだとは思わないけれど、それでも目的の神器がなかったら少し……いや、だいぶ困ることになるだろう。だがそれも、進んでみないと分からないのが事実。だから僕たちはもう進むしかないのだ。神器を手に入れる為に。
「んーなんか、広いところに出たにゃあ」
「新しい魔道具を試すにはもってこいの広さですね」
「いや多分そんなことをすれば、この洞窟は崩れるんじゃないかな」
「冗談だよユーシン。レシア嬢の部下である私がそんなことをするとでも思ったのかい?」
「……冗談に聞こえないから言ったんだけどな」
どうもアイザックとは話が合わないみたいだ。一緒に行動していて分かったが、彼は男性が嫌いらしい。エクレシアから話は聞いていたが、これはもう重症というべきものだ。それでいて実力は良いとくるものだから扱っていたエクレシアも大変だっただろう。彼女の気持ちが今になってよく分かる。
そしてそれとは別に、全く口数が少ないレフィに関しては謎すぎるがエクレシアに頼まれたことに関しては忠実である。今現在もこの広いエリアに出て状況把握をしているようだ。
「……あれ……扉」
「本当にゃ、奥に扉があるにゃあ」
広いエリアの奥にはレフィが言うように、扉があった。遠目で確認した限りではどこにでもありそうな扉ではあるけど、少し違うのは何かしらの形をした窪みがあるということぐらいだ。
扉の窪みが何を意味するのかは分からないが、少なくとも怪しいということは理解できる。扉を開けるための鍵かもしくはそれ以外の装置か……。なんにせよ、近づいて確認しないと分からないことは確かだ。そう思い、僕たちは扉の方へと足を進ませると、
「ーーー!? 下がれッ!!」
アイザックが突然、全員に言葉を発して僕たちはその言葉に従って、下がった。すると上から巨大な何かが落ちてきたのだ。
一体何が落ちてきたのか、土煙が広がって分からないが次第にその土煙も晴れていき、その巨大な何かの正体が姿を現した。
姿形は人型であり表面は鋼鉄……いや、鋼鉄のようななにかと思しき光沢を放ち、数十メートルの巨体。人間でいう顔面部分には、なにやら赤く菱形の宝石のようなものが埋め込まれていた。
「これは……、自動人形にゃ」
「多分、あの扉を守る為に造られた物でしょうね」
「……倒せば、いい」
「簡単に言うけど、僕たちで倒せるのか?」
「それは分からないけど、少なくとも考えてる場合じゃないってことは確かだね」
自動人形は僕たちを認識するなり、機械的な声をあげて威嚇し始めたのだった。
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「さてと、どうやって倒そうかにゃあ」
「見た限りではなかなか硬そうな装甲をしてそうだが……って、ちょっと待てレフィ!! 無闇に突っ込むな!!」
「……攻撃しなきゃ、分からない」
さもそれが当然、だと言わんばかりの判断ではある。けれど相手のことも分からない状況で無闇に行動するのもどうかと思うんだけど……。どうやらレフィという子は言葉より行動するタイプのようだ。まぁ一緒に行動していて無口なのは分かっていたことだけどもね。
しかし彼女の言うことも一理ある。今のまま考えていたところで、僕たちには自動人形の情報が全く無いのだ。つまりここでこうして考えたところで無駄という可能性もある。だから僕たちもレフィという子のようにある程度攻撃を……と、考えていたその最中だった。
なにかが僕たちの頭上を勢いよく通り越して部屋の壁に激突した。それは自動人形から投げられたものではなく、殴り飛ばしたもの。最初に向かって行ったレフィが殴られて、飛んできたのだと理解した。
「おいおい、これは流石に想定外ですよ?」
「にゃはは……。まさか一撃にゃんてね」
ククリナやアイザックも飛んできたレフィを確認するなり、危機感を覚えたようだ。
それもそのはずだ。ここにくる道中、レフィの攻撃力は僕たちより上なのは明らかだった。魔物が出現すれば即座に戦闘態勢に入り、身の丈に似合わない大剣へと変化させた武器で魔物を斬り裂いてきた。そしてその側でククリナが剣で攻撃したり、爆発物を投げたりというサポートをし、僕やアイザックは弓と銃を使い遠距離で攻撃するというパーティーの役割をしていた。
つまりは僕たちの中で一番の火力が出せるレフィを、殴り飛ばした自動人形は彼女以上の攻撃力を有しているし、防御力も高いということになるのだ。
「ていうか、レフィさんは大丈夫なんですか!?」
「あーアイツは大丈夫だ。……多分生きてる」
「そんなテキトーな……」
「それより自分の心配でもしといた方がいいぞユーシン。奴が、来るぞ」
アイザックの言葉の通り、自動人形は動き出した。
まず奴はその重そうな両腕を軽々と動かし、僕たちの方へと向けてそして薄紫色に光る球体を生成していた。そして一定の時間が経過した際にその球体から眩い光線が僕たち向けられて放たれた。その光線に当たってしまえば、命が奪われてしまうほどの熱量である。
だが僕たちはその光線を回避し、左右に散らばった。そして一番最初に行動を起こしたのがククリナである。彼女は自分のユニークスキルである錬金術で、鉄槌を生成した。普段の彼女の攻撃スタイルとしては剣や短剣、あるいは爆弾などといったサポートをする感じである。けれど今の状況や相手をみて考え、剣よりも攻撃力がある鉄槌を生成したのだろう。それともう一つのユニークスキルである猫耳族。これはユニークスキルというより種族なのだが、猫耳族は人間と違って足が速い。そんなククリナだからこそ自動人形のすぐ近くまで近付くことが可能だったのだろう。
「光線なんてワクワクする攻撃にゃけど、まだまだ遅いにゃあ!!」
ククリナはそう発言しながら、自動人形の巨大な足に力一杯鉄槌を打ち付けた。その瞬間に、鉄と鉄がぶつかりあう鈍い音が部屋全体に鳴り響いたが、それでも自動人形の巨大な足には鉄槌で殴られた痕しか残らなかった。
「か……かったいにゃあ」
どうやらククリナの攻撃力では、自動人形を倒すまでには至らないようだ。
僕たちの中ではレフィの攻撃力が一番ではあるが、ククリナもレフィには敵わないにしても、それなりの攻撃力は持ち合わせている。しかし相手が相手。自動人形の防御力もそれなりに高いということだ。
ククリナから攻撃を受けた自動人形はダメージを受けたとは感じず、軽く動く巨大な腕をククリナ目掛けて振り下ろした。
「や、やばいにゃ……」
「残念ながらそうはさせないよ!」
その巨大な腕がククリナに命中する前に、ククリナと腕の間にアイザックが入り込み、銃を構えた。そして、
「退魔多連弾ッ!!」
アイザックが銃の引き金を引くと、銃口からは白い弾丸が幾つも飛び出して自動人形の巨大な腕に命中した。
どうやらエクレシアが作った武器の退魔属性を放ったようだ。退魔属性は魔に対して優位に立てる属性であり、それはこの洞窟内で遭遇した敵と戦って証明されている。だからこの自動人形に対しても退魔属性は有効だと、僕達は思っていた。だが……
「……おいおい、嘘だろ?」
アイザックの技が命中した巨大な腕には、傷が一つもついていなかったのだ。それに対してアイザックは苦笑いしながら今の自分の状況をいち早く理解した。
巨大な腕の勢いは、さっきのアイザックが放った攻撃で止めることはできた。しかしダメージが入っている様子はなく、さらには自動人形の目の前にいる状態だ。つまりこの後、アイザックは攻撃を受ける。
「くっ!」
自動人形は止められた腕とは違う腕を動かして、アイザックを攻撃した。アイザックは直撃を防ぐ為に防御体勢を取るも、自動人形が軽く動かした腕の拳が命中し、勢いよく吹き飛ばされた。
レフィのように壁に叩きつけられるほど吹き飛ばされはしなかったが、それでも結構なダメージを受けたのは間違いない。
「大丈夫かアイザック!!」
「……男に心配されるほど、落ちぶれちゃいねーよ」
「あー、そうですか」
心配して近寄ったというのに感謝の一言も言ってくれないアイザックだが、逆に男性に対して感謝の言葉をいうようなら本当にどうした?頭でも打ったのか?と疑ってしまいそうになる。なのでアイザックに関しては今の状態の方が正しい。うんそう思っておこう。
「しかし困ったことになりました」
「そうだね。まさか洞窟の奥に自動人形がいるなんて思いもしなかったからね」
「それもありますが……一番はあの自動人形に退魔属性が効かないということでしょうか」
「……え、ちょ、それってどういうことですか?」
「言葉通りの意味ですよ」
アイザックがいうには退魔属性の攻撃を受けた魔物は、今までそうだったように一撃で滅ぼされたり、強大なダメージを受けたり吹き飛ばされたりと魔物に対して有効であることは間違いない。だがあの自動人形には退魔属性の効果が反映されていないのだ。その結果アイザックは自動人形の反撃を受けて吹き飛ばされた。
このことからあの自動人形について考えられることといえば、
「あの自動人形は、魔物じゃないってことか」
「魔物じゃない、もしくは魔によって作られたものじゃないということですかね。なるほど、レフィも簡単に吹きとばされるわけだ」
「確かに……って、分析してる場合じゃないよ!? 君たちの退魔属性が効かないなら、どうやって自動人形を倒すか考えないとやばいよ!!」
「なら貴方が考えてください」
「はぁ? いやなんで!?」
「私は状況判断はできますが、作戦を練ることは得意じゃない……加えて、今の状況の中で戦いながら作戦を練ることもできやしない。ならばこの中で一番頭がきれる貴方がやるべきことです。違いますか?」
「いやそりゃ分からんでもないけど……」
「それに私たちは、まだ動けますので」
アイザックがその場から立ち上がって発言すると同時に、僕たちの頭上を何かが通り抜けていった。その何かとは最初に自動人形に立ち向かっていき、吹きとばされてしまったレフィだった。どうやら彼女は意識を取り戻したようで、そのまま自動人形の方へと向かっていったようだ。
いや待って、彼女吹きとばされたダメージ受けてたけど大丈夫なの?と心配したのだが、アイザックは「その必要はありませんよ」と返してきた。なにを根拠にそんなことを言っているのか理解できなかったが、それもすぐに理解できた。
「ちょ、待って待って、流石に耐えれないにゃあ!!」
今までただ一人で自動人形の相手をしていたククリナだけど、そろそろ限界も近いようで自動人形の振り下ろされた攻撃も耐えることが難しくなっていていた。
そんな最中に、間に入ってきたのが身の丈以上の大剣を持って巨大な腕を防いだレフィだった。
「はぁ……。助かったにゃレフィ。ありが……と?」
自動人形の攻撃を防いでククリナを守ったレフィに対してお礼をいうが、ククリナは何かを感じ取ったのか少し震えていた。
「……クヒ、クヒヒヒヘ……いいねぇ、いいよぉ。こぉんなカッタイの斬れるなんて……ゾクゾクしちゃうよぉ」
まだ幼いながらも頬を赤らめ、明らかに嬉しそう……いや楽しそうにするレフィさん。そんな彼女を目の当たりにしてククリナは即座に距離を取り、身の安全を確保した。
……うん、あれだ。アイザックが言ったことがようやく理解できた。つまり彼女は異常者だってことなのだろう。なにせ幼いながらにしてあんな表情をし、楽しそうに身の丈以上の大剣を振り回し、あの自動人形と互角に戦っているのだから異常以外の何者でもないだろう。アイザックも「ほら、大丈夫でしょう?」と何事もなかったかのように反応するので、これがエクレシアたちの日常なのだろうと即座に把握した。
しかしこれでこちらは四対一。数は元のままで戦力は変わらない。……いいや今のレフィを見た限りじゃ攻撃力はいつもより数倍以上。それでも自動人形には傷がつく程度なのは、自動人形の防御力が高いということをいってるようなものだ。それに退魔属性も効かないとなるといよいよ対抗する手段が少なくなってくる。
そもそも誰がこんな化け物を作ったんだよと嘆きたい気分だ。けど逆にあの自動人形が存在していることで一つ分かったことがある。この先にあるものは相当大事なものだということだ。全くもって分かりやすいことだし、そうだとするならあの自動人形も、倒しがいがあるというものだ。
「……作戦かどうかは分からないけど、試してみたいことがある」
「その話、詳しく聞きましょう」
僕が考えた作戦をそのままアイザックに伝えると、彼はすぐさま理解してそのまま自動人形へと向かって走って行った。
自動人形は今、異常者のレフィと戦っていた。レフィは身の丈ほどの大剣を振り回し、自動人形の攻撃を防ぎ、受け流しながら一撃ずつ確実に攻撃を繰り出しているが、あまり効果がないのはみてとれる。しかしレフィは諦めることなく、攻撃を繰り返した。嬉しそうに楽しそうにケタケタと笑いながら、自動人形との戦闘を楽しんでいた。そしてその最中にレフィは、あることに気付いて無邪気な笑みを浮かべ、両手で握りしめ大剣を勢いよく自動人形の右足に叩きつけた。
だがそんなことをしても自動人形にはあまりダメージが無い。自動人形に反動がない為に奴は気にせず足元に存在するレフィに向けて、腕を振り下ろし、今度こそレフィを潰そうとした。その時だった。
「……フヒヒ……倒れちゃえッ!!」
レフィが不気味な笑みとともに、自身の大剣から爆発が生じた。それは今までにない強力な威力であり、生身の人間が受けてしまえば命がないだろうと思わせるような爆発だった。そんな爆発を受けた自動人形の右足は、吹き飛ばされ片膝をついてしまった。その際に奴は大勢を崩して前に倒れそうになったが、そうはさせまいとアイザックが近付いてきた。
「まだ倒れるには早いですよ。人形さん」
アイザックはそう発言しながら、銃口を自動人形に向けた。そして、
「水流多連弾ーーーー!!」
銃口から幾つかの水流の弾丸が放たれた。それは自動人形の左肩に命中し、前のめりに倒れそうになっていた自動人形が後方へと倒れるようにしたのだ。どうやらこの自動人形は属性攻撃に対しての耐性が乏しいようで威力の高い技であれば反動を受けるようになっているみたいだ。まぁそれでもダメージが入ってないのは流石というべきだろうけど。
自動人形もただやられているだけというわけじゃなく、体を吹き飛ばすような攻撃を喰らっても敵であるアイザックを認識すると、空いている右腕を使用してアイザックに攻撃を繰り出していた。が、それよりも早くに自動人形の右腕を吹き飛ばそうと、鉄槌をぶつけるのがククリナだった。
しかし彼女の攻撃力が自動人形の攻撃力より上回っていないことは、彼女が一番よく知っている。だから、
「この鉄槌は、ちょっと特別性なんだにゃあ。てことで……吹っ飛べッ!!」
ククリナが力を入れると、鉄槌をぶつけていない反対の面が爆発しその反動で鉄槌の勢いが増した。そしてその瞬間、自動人形の右腕を吹き飛ばしたのだった。
なんともククリナが考えそうなカラクリだ。どうやら自分の錬金術でちょっと特殊な鉄槌を生成したのだろう。なんにせよ、その判断は今の状況では正しい判断だ。そしてここからは、僕の出番だ。
自動人形とアイザック達が戦っているのを見て、思ったことがある。あの自動人形は誰が作ったのだろうか?と。姿形を見た限りでは至って普通の自動人形。しかし攻撃してみればダメージというダメージが通らない人形。今でこそ属性攻撃に耐性がないと分かったけれど、それでも退魔属性だけに耐性があるということは、あの自動人形は魔のものが作ったものではない。とするなら、この世界に存在する人間の誰かとなる。だとするなら何故、その人間はこの自動人形を作ったのか。それは多分、奥にある宝……神器を無闇に盗られたくないからだと、僕はそう思った。
けどその人間は、いつか来る時に神器が必要になるという考えも捨てきれずに、神器を手に入れるチャンスを残した。だから僕は今から、そのチャンスを掴み取る。
「ーーーこれで、終わりだ!!」
自分のスキルで生成した貫通矢。その一本を自動人形の頭部に向けて放った。
さっきまでだったら自分の生成した貫通矢は頭部に届くことなく防がれていただろう。しかし今はアイザック達の活躍により自動人形の行動は無防備。
だからこの攻撃は、簡単に自動人形に届く。そして僕の推測が正しければ神器を手に入れるチャンスを撃ち抜く。自動人形の顔面に埋め込まれた菱形の宝石を。
弓から放った貫通矢が自動人形の顔面を貫いた瞬間、奴の動きは完全に停止した。どうやら自分の推測は正しかったようだ。
「やったにゃあ。ようやく落ち着けるにゃ」
「さすが、とだけ言っておきましょうか」
「はいはい、ありがとう。それじゃあ早く先に進みましょう」
僕は倒れた自動人形から菱形の宝石を取り出して、先に進むように進言した。しかし、
「……ちなみに、レフィはずっとあのままにゃのか?」
「「……え?」」
ククリナは苦笑いしながらレフィのことを聞くと、僕たちは二人とも疑問符を浮かべていた。
そしてククリナに呼ばれたレフィはというと、
「あーあぁ、斬り損ねちゃったなぁ……まぁいいかぁ、どうやら他にも、斬り裂けるのがいるみたいだし、ねぇ?」
レフィは大剣から短剣に戻したその武器の刃を、舌で舐めながら僕たちをみて無邪気に笑っていた。それが多分、今度は僕たちがターゲットだと確定した瞬間だったのだろう。
その後、斬り裂きレフィの出現によって僕たちが死に目に遭いながら、僕が神器を手にするのに丸一日かかったのは言うまでもないことだった。




