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間話 共存する町 後編

 共存する町ペルト。

 この町には、鍛冶屋が一箇所しかない。というのも、この町に鍛冶屋を開いたとしても、あまり儲からないのだ。

 その理由は、もうこの町には有名な鍛冶屋が存在するからだ。グランディアという有名な鍛冶屋が……。



 カーン、カーン、と、俺たちが鍛冶屋に入ったのにも関わらずに自分の作業を続けているのは、テリアさんの息子であるデリウス・グランディア。雰囲気的に職人のような鋭い眼光が特徴的だが、それも他の奴からしたらただ目つきの悪い人という印象でしかない。聞くところによると、彼の作る武具には何かしらの効果やスキルが備わっており、強力な品物ばかりという。


「うーん、どうやら仕事中のようだね」

「まぁ、兄さんは熱中すると周りが見えなくなりますからね」


 グランディアの鍛冶屋へと到着し、中に入ると出迎えてくれたのは色白で目が狐の様に細く、それなりの高身長……大体179センチぐらいだろうか?髪は全体的に黒く、毛先は赤色という特徴的ではあるもののそれなりに整っており、世間一般でいうイケメンの部類に入るだろう。それがテリアさんの息子で、次男にあたるギーノ・グランディアである。

 彼は長男や妹のような技術力には恵まれていないが、他人とのコミュニケーション能力や交渉術に長けており、グランディアの鍛冶屋で接客の仕事をしている。長男はそのような技術は乏しいということもあるので、互いに持ちつ持たれつの関係で暮らしてるというわけだ。


「しかしまさかレシアちゃんが訪ねてくるなんて、驚きました。しかも用件がグランディアの鍛冶屋ですからね。」

「ギーノさん、それは私には鍛治技術に興味がないといっている様に聞こえるのだけれど?」

「あぁいや、別にそういう意味でいったつもりはありませんよ?不快にさせてしまったのなら、申し訳ございません。……ですが、僕の妹とも競い合ってる魔道具製作者の方が、なぜ今更鍛冶屋なんかに?と疑問を持ちましてね」


 ギーノは申し訳なさそうな顔を見せたが、すぐに自分の知的好奇心を埋めるかのように思いついた疑問をぶつけてきた。

 だがギーノのいうことも最もだ。エクレシアはミハルと魔道具のことで競っている。それはミハルの家族には当然のように伝わっているのだからエクレシアがグランディアの鍛冶屋に来ること自体、不思議なことなのだ。


「確かに、貴方のいうように私は鍛冶屋に興味すらありませんわ。けれど私の連れはこの場所に用事があったので、私が連れてきたというだけよ」

「……なるほど、それで貴方達は?」


 エクレシアの紹介に対して、ギーノはエクレシアが連れてきた二人に視線を向けた。

 初対面の相手に対して緊張しないわけじゃないが、それでも話をしないことには始まらないので、俺は口を開いた。


「俺はシグルド、それで隣にいるのがレイラだ。俺たちは事情があって、エクレシアの紹介でここまで足を運んだんだ」

「ようこそ、シグルド君とレイラさん。エクレシアさんの紹介ですのでお話は伺わせて頂きます。まずは貴方達の事情というものをお話ししてください」

「分かりました。ではーーーー」


 俺たちは、互いに顔を見合わせながらギーノさんの言葉通りに、ここまでに至った経緯を全て話した。

 まずはここにきた結論を述べ、そして神器や転生者、ミハルとの関わりやミハルの製作した魔道具のこと。人間側と魔王側での戦争のことや、そこでミハルと再開した事実。その全てを話した。そのほうが何かと話が進めやすいと思ったからだ。

 いつもなら、転生者を教えることに関してのデメリットを考えて全ての話をすることはないのだが、今回は別だ。何せ、エクレシアにはもう全てのことを話しているのだから。エクレシアと関わりがあるミハルの家族にも話をしても問題ないと思ったからだ。それにギーノの父親であるテリアさんにはもう話をしてあるので今更隠したところで、何も意味なんてないだろう。それに、事前にテリアさんには話をしていたおかげで今回の説明も上手く納得してくれたようだ。


「……ふむ、にわかには信じ難い話ですが、父さんとエクレシアさんの事を考慮すると、どうやら本当のことのようですね」

「あーまぁ、信じてくれてありがとな」

「いえ、お礼を言われるようなことではありませんよ。それに、貴方達が求める神器というのは僕は知りませんからね」


 俺たちの話を聞き、自分では力になれないと判断したギーノは申し訳なさそうな顔を浮かべながら、話をした。

 どうやら、ギーノは神器のことを知らないようだしそうなるとこの鍛冶屋に来た意味が分からないが……。


「けどそうですね。僕は知りませんが、兄なら知っているかもしれません。……そこんとこ、どう考えてますか?兄さん」


 ギーノの呼びかけに対して、いつの間にか鉄を打つ作業を終えていたデリウスは、自分が製作した武器を眺めていた。どうやら俺たちが話をしていたのを耳を澄まして聞いていたらしい。デリウスは暫く武器を眺めていたが、これ以上無視していても無駄かと判断したのかため息を漏らした。


「悪いが、俺ぁギーノや親父の様に見ず知らずの野郎の話なんて信じねぇ質なんだよ。だからテメェのいう様にテメェらが転生者っていうのも理解できやしねぇな」

「どうせ、する気もないのでしょう? 考えることが嫌いなのは相変わらずのようね」

「ふん……。ミハルにも劣る野郎が、俺のこと分かった風にいうんじゃねーよ」

「あら? 少なくとも彼女に挑むことを止めた負け犬のことは、多少理解しているわよ?」

「あぁん? なんだと?」


 デリウスは言葉で喧嘩を売ってくるエクレシアにイラつきを示し、睨みつけた。それに対してエクレシアは間違ったことを言ってはいないという堂々とした態度で、いつもミハルに向ける勝ち誇った笑みを浮かべていた。

 エクレシアとミハルの兄弟がどういう関係なのかは知る気もなかったのだが、どうやら兄であるデリウスとの関係はあまりよろしくないとみた。二人の喧嘩……と言っても口喧嘩だが、それでもこの場の空気を悪くするのには十分すぎるほど効果はあった。

 しかし、その空気に耐えかねて口をひらいたのが弟のギーのである。


「はい二人とも、そこまでですよ。お客様の前なんですから兄さんも私情で動かないで下さい」

「……ッチ」

「どうやらギーノ君は野蛮なお兄さんと違って、冷静な様ですね」


 ギーノのおかげでこの場は丸く収まると思ったが、エクレシアの余計な一言のおかげでまたデリウスをイラつかせた。だがそれも、ギーノに言われた手前これ以上は無意味だろうと悟ったのだろう。デリウスはエクレシアの言葉を無視して、俺たちの方を見た。


「さっきも言ったが、俺ぁお前達を信用出来ねぇ。つまりテメェらが転生者ってのも理解できやしねぇのよ」

「……まぁそれが当然の反応でしょうね。どうやらこの世界じゃ転生者っていう言葉も、あまり知られていない様だしな」


 デリウスの言葉はこの世界で最も当然な反応だ。

 いきなりこの世界の住民に「私は違う世界から生まれ変わってきました。よろしく」と言われても、一般的な常識を持ち合わせているのなら突然の情報すぎて訳もわからないだろう。ここまで来る為にエクレシアにも転生者の話はしたが、逆にいえば転生者と伝えて理解したエクレシアの方が可笑しい。まぁミハルと競争するぐらいだから可笑しくなるのも無理はないが……。


 しかし困ったことになったな。

 エクレシアと違ってデリウスには一般的な常識があるのは、さっきの言葉で理解した。だがそうなると、話を進めるのには苦労するだろうな。

 そもそもどうやって俺たちが転生者ってことを認めさせていたのかだが、ミハルの場合は確か俺がミスをして素性をバラしてしまったというのもある。だがそれ以外にとなると、俺たちの能力だ。どうやら俺たちは各々、特殊なユニークスキルが備わっているということを把握している。そしてそれは戦闘や鑑定紙によって視覚的に分かることだ。しかし今この場に鑑定紙がある様には思えない。ならば戦って証明するか?という考えにも至るが、それだと迷惑がかかるのはこの鍛冶屋になる。それに俺たちが戦闘したところで、戦闘の達人ではない限り、理解するのは苦しいだろう。そう考えると、どうも手詰まりだ。


 他に何か、転生者であるという証明ができることはないだろうかと俺が考えていると、デリウスは製作した武器を棚に閉まってから、口を開いた。


「テメェら、神器っつーのを探してんだよな?」

「ああ、だからこの鍛冶屋に案内されたんだが」

「……なら、着いてきな」


 デリウスは俺たちにそう告げながら、工房の奥へと足を運んだ。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 工房の奥には様々な武具が置いてあった。

 多分どれもデリウス自身が作ったものなのだろうが、それでもこの数は異常というべきほどの量だった。


「ふむ。初めて奥まで来たけれど、やっぱり異常ね。製作していらなくなったものも紛れ込んでいるのかしら?」

「いいえ、その辺はちゃんと分けていますのでご安心ください」

「なるほど、いらなくなったものは作っているのね」

「……つーか、何でテメェらまで着いてきてんだよ」

「「着いてこいと言われたから」」

「テメェらには言ってねーんだよ!!」


 何食わぬ顔で当然だと言わんばかりの反応をしてみせたのはエクレシアとテリアであり、それに対してデリウスは反論した。ギーノが着いてきているのは多分、工房の奥がどうなっているのか説明がいるだろうと理由である。


「ギーノはまだいいとしても、何で親父まで着いてくんだよ」

「やだなぁ、息子の仕事ぶりを見るのは親として当然だろう?」

「……くそ、勝手にしやがれ」


 もう反論するのも面倒なのかデリウスは、乱暴に返答した。身内に対しては案外優しいのか彼の鋭い眼光も、柔らかくなっているのが確認できる。

 しかしまぁエクレシアじゃないにしても、この大量の武具を確認すれば誰だって困惑する。それほどまでの異常な量だということだ。視界に映っている範囲でもざっと1万個ぐらいはある。そんな量を一体どうやって整理しているのか気になるところだが、それを聞くのは止めておこう。


「……にしても、一体どこに連れていくのかしら」

「さぁな……。何にしてもあの人の言うように着いていくしかねーだろ」


 不意に話しかけてきたレイラに対して、今の現状を伝えると呆れながらも「……そうね」と返してきた。どうやらレイラは初対面の相手に対して不安があるようだ。確かに俺たちは、エクレシアに言われるがままこの場所へと赴いて、初対面となるミハルの両親や家族と行動を共にしている。正直ミハルの家族と聞いて、一体どんな奴らなのかという緊張もあったが、これが割と普通……いや、変人だった。だから安心という訳じゃないが、とりあえず害がないということだけは理解できた。俺はだけど。

 しかしレイラは、まだ警戒しているようだ。まぁあのミハルの家族というのもあるだろうが、それでも他人に対しての警戒心を解くのは難しいだろう。彼女はこの世界じゃそういう生活をしてきたのだから。だからこそ、俺は緊張せずにいられるんだがな。

 そしてどうやら、そんなことを考えている内に到着したようだ。


「ここだな」

「ここって、どこに何があるのかしら?」

「ちょっと待ってろ」


 エクレシアの疑問に対して無視するように、言葉を投げる。そしてデリウスは徐に床を触り出してそして、床にあった扉を引っ張り開けた。

 そんなところに扉があるなんて、俺たちは勿論エクレシアや親であるテリアも知らずに驚いた。この中の面子でその扉を知っているのはデリウス本人とギーノだけだろう。そして驚いた俺たちを無視して、その開いた扉の地下奥へと、デリウスは入っていった。

 多分何かしらの保管庫のような場所なのだろうけど、それを詮索していいものなのかどうかと迷っているとギーノが口を開いた。


「この地下保管庫は、周囲にある武具よりも貴重な物が保管されているのです。なのでいくらエクレシアさんの紹介であっても、信頼されていないお方は申し訳ございませんが中に入らせるわけにはいきませんので」

「ああそれは俺たちも気にしないので、大丈夫です」

「話が分かる方で助かります」

「ふむ、つまり私は入ってもいいということですね」

「ダメです」


 エクレシアの反応に対して、即座に対応してみせたギーノ。長年この鍛冶屋にいるだけのことはあるな。

 ギーノの即答に対してエクレシアは少々不服そうな顔をしながらも、「仕方ありませんね」と言い、ため息を吐いた。そもそも信頼されていると自負してるのがすごいわ。まぁ彼女はミハルの家族と面識もあるからワンチャンいけるんじゃないのかと考えたのだろう。何とも強気なことだな。


 と、そんなことをしている内に、その地下保管庫からデリウスが戻ってきた。少々埃を被りながらもその手には鞘に収まった剣を持ちながら。一体、何の武器だろうかと疑問を抱いたいのは俺だけではないだろう。見た限りではどこにでもありそうな至って普通の剣だが、その剣を見るなり驚いた者がいた。


「兄さん、それって確か」

「あぁ、例のアレだ」


 例のアレ。デリウスが言う例のアレという意味はわからないが、多分デリウス達にとってはとても重要な物なのだろう。


「悪いのだけど、二人だけで解決しないでもらえないかしら? 例のアレと言われても私たちには何もわからないのよ?」


 エクレシアの言葉に対して、デリウスは軽く舌打ちをした。そんなにエクレシアのことを嫌っているのは明らかではあるが、エクレシアの言うことも一理あるので、デリウスは口を動かした。


「……この剣は、俺がある洞窟で武具の材料を探してた時に見つけたもんだ。一見、ただの剣にみえるがこいつの刀身を、俺は見たことがねぇ」

「それは、どういうことなんだ?」

「そのままの意味だ。この剣は鞘から抜けねぇんだ。鍵がついてるわけでもねぇし、何らかの魔法がかけられているわけでもねぇ……。だが鞘からはどうやっても抜けねぇんだよ。まるで、剣自体が鞘から引き抜かれるのを拒んでるみてぇにな」


 剣自体が拒んでいる。それは逆にいうと剣に意思があると言わんばかりの答えだ。

 その話が本当なのかどうかと、デリウスが試しに両手に力を入れて剣を鞘から抜いてみるが、全然引き抜ける気配がなく、ただ無駄に力を消費しただけだった。それは、この場にいたテリアやエクレシアがやっても同じ結果に終わった。


「鞘から抜けない剣、ねぇ? 普通に考えるのなら不良品として扱うのが常識ではないかしら?」

「それは僕も考えました。ですが……」

「こいつは不良品じゃねーよ。柄を持ってみりゃコイツがまだ生きてるってことは分かる」

「……その根拠は?」

「鍛冶屋の勘だ」


 その返答に対して、エクレシアは呆れた様にため息を吐いた。

 呆れるのも無理はない。なんせ勘という根拠も何もない言葉でその剣が普通じゃないと言われている様なものだからな。


「だがテメェらの話を聞いて、もしかしたらって思っちまってな。こいつは拒んでんじゃなくて、自分で選んでるんじゃねぇかってな」

「……つまり、この剣はもしかしたら神器だと。兄さんはそう考えているんですか?」

「あぁ、そうだ。それにもしコイツらの話が本当なら、この剣を鞘から引き抜いた時点でそれは証明される。そうだろう?」


 なるほど、確かに俺たちの言っていることが本当なら、この剣を引き抜くことによって俺たちの話は本当だということは証明できるだろう。

 だが逆にいうと、鞘から剣を引き抜けなければ俺たちの話は嘘だということになる。それにこの剣が本当に神器なのかどうかも分からないときた。正直なところリスクが大きすぎるのは明らかだ。もしかしたらエクレシアやギーノが言うように不良品だという可能性も、あるにはあるのだから。


「で、どうするよ? やるか、やらねぇかの二択になるが……お前はどっちを選ぶんだ?」


 やるか、やらないか。確かに状況的に考えたらこの二択しかない。それにさっきも考えた通りやった時のリスクが大きいのは、正直わかっている。けど……ここで引いても意味がねぇってことは今の俺でも分かることだ。


「分かった。やってみるよ」

「ほう、度胸あんじゃねーか」


 デリウスはそう言葉にしながら、鞘から抜けない剣を、俺に手渡した。



 手渡された剣は見かけより少々重いが、持てないほどではなかった。

 濃い紺色の鞘を片手に持ち、もう一方の手はゆっくりとその剣の柄を握った。辺りは静まり、物音一つしない空間が出来上がった。緊張していないといえば嘘にはなるが、それでも一旦、リラックスする為に目を瞑り、一呼吸する。そして……目を開いた瞬間に、剣の柄を握った手に力を入れた。すると、




 剣は、呆気なくその刀身の姿を現したのだった。

 ……これは一体、どう反応すればいいんだろうか?案外簡単に鞘から抜けてしまったのだが、もしかしてこれは抜いてはいけなかったパターンなのだろうか?え?もしかしてそういうノリだった?ダメな感じだったの?

 迷いに迷った挙句、その剣を抜いてしまった時の反応は、


「えっと……なんか、すんません」

「「なんで謝った(の)」」




 ーーーーーーーーーー




 鞘から抜けなかった剣が、俺によって意図も簡単に抜けたことにより謝罪してしまった後、他の人達に全力で突っ込まれてしまった。

 その後、俺たちは工房へと戻り鞘から抜けた剣を調べていた。といっても調べていたのは興味があったデリウスやエクレシアだが、それでもその剣がすごい武器だということは確かであった。

 まず俺が鞘から引き抜いた時点で、その剣は俺以外で扱えるかだが答えとしては不可能だった。その理由としては俺以外でこの剣を持てないからだ。俺以外でこの剣を持つと、剣自体が重くなり自由に振り回すことが不可能なのだ。

 なので剣は俺が工房まで持ち運び、工房の机に置いて今現在進行形で調べてもらっている。こういう時に鑑定や解析スキルがあれば役に立つんだが、生憎と俺にはそういうスキルが備わっていないのだ。俺以外の転生者なら持ってるかもしれないが、まぁそれを今考えたところで後の祭りだ。


「……おい、エクレシア。こりゃあ何かの間違いか?」

「ここに存在しているということは、間違いではないでしょうね。少なくとも、魔道具製作をしている私が調べていても、貴方と同意見よ」


 その剣を鑑定・解析をしていたエクレシアやデリウスが互いに、意見を交えながらもその剣の正体を掴もうとしていた。掴もうとしていが、どうも上手くいっていない様だ。普通ならそう時間もかからない鑑定・解析もこの剣であったのなら難しい。ということだろう。しかしそれも、この二人にかかればいつもの時間じゃなくとも鑑定・解析は完璧にこなした。そして一息ついた。


「それで、結果はどうだったんですか?」

「……結論からいうと、異常、だな」

「異常……っていうのは?」

「私が作る魔道具や彼が作る武具。それら全ては何かしらの特徴や性質を持っているものなの。その分デメリットっていうのも存在するのも事実。例えば私が作る魔道具で特徴的なのが対魔属性。これはこの世に存在する魔物や魔族などに対して優位に立てるわ。けれどその反面、対人にはあまり効果がないの。

 つまり戦う相手がもし、盗賊や傭兵なら効果がなく無意味に等しいわ。ここまではお分かりかしら?」

「……人は完璧じゃないから、作るものも不完全っていうことですか?」

「ああ、その解釈で間違ってねぇ。俺だって武具を作ったときのデメリットは存在するからな。

 ……けどこの剣には、それが全く見当たらねぇ」

「えっと、それはどういうことですか?」

「そのままの意味よ。……この剣は私の作る魔道具や彼の作る武具を、遥かに凌駕しているの。一言で言うのなら、完璧に近い剣。正しく神器と呼んでいいほどの品物ですわね」


 二人からの説明でようやくこの剣が神器だということが判明した。そのことは俺たちからしてみれば喜ばしいことだ。なんせ探し求めていたものが見つかったのだから。当然だろう。

 けど何故だろう、こんなにも喜べないのは。


 ……神器。この二人が認めるのならまず間違いないだろう。そしてその神器は俺を認めてくれた。つまりこれで、ミハルともう一度戦える。喜ぶべきなのかそれとも悲しむべきなのか正直、どう感情表現していいのか分からない。多分まだ俺は彼女にビビってんだ。

 あの時の戦闘で俺はミハルの実力を体験した。武器は壊され仲間も殺されかけた。俺の実力でどうにかなると思っていた分、ミハルの実力の前に太刀打ち出来ずに敗北したのは、俺の自信を無くすのには十分すぎるんだ。だがそれも、ここまで来てしまった以上弱音なんて言ってられないてのも分かってはいる。分かってはいるんだがな。


「……シグ」

「おい、あんた!……シグルドっつったか?」

「え、あ、はい。そうですけど」


 エクレシアが何か言いかけた様な気がしたが、デリウスはそれを遮るように俺を呼んだ。そして続け様に言葉を発した。


「この剣が抜けたからには、俺はアンタらの話を信じる。つーか信じるしかなくなった」

「……はい」

「それと同時に、勝手ながら一つ頼みたい。……アイツを……ミハルを止めて欲しい。

 アンタらの話の通りなら、アイツは魔王軍。つまりは人間を殺すために戦ってるんだろ?ならアンタらはミハルが戦う場所に向かうってのも理解できる。

 俺たちの親父は母親は、全力でミハルのやることを応援するんだろうが……アイツの魔道具を作る技術は人を無闇に殺していいもんじゃねーんだ。ましてや、戦争で命を落として良い存在ってわけでもねぇ。だから、グランディア家の長男として、一人の兄としてお願いしたい。

 彼女をーーーーミハルを、止めてくれ」


 デリウスはいたって真面目に、そしてミハルの兄弟である一人として妹を止めてほしいと律儀に頭を下げてお願いしていた。

 その行為は他人からしてみれば安っぽく見えるのかもしれないが、俺からしてみればこの行為は……すごいものだ。兄弟っていうのはただこの世界で血の繋がっただけの関係だが、それでも妹のことを大事に思っているこの兄貴の気持ちを、蔑ろにしてはいけないと思った。

 それに状況から考えても、今一番妹であるミハルの行為を止めたいと思っているのは、このデリウスなのだろう。けど自分の力じゃどうにもならないから、どうにかできる相手に頼むしか方法がないのだ。だから一番ミハルを止められる可能性がある相手に今、身内のことを頼んでいる。何ともカッコいい兄貴だ。


 そして俺はそんなカッコいい兄貴の行為に対して、ビビる訳にはいかない。俺は机に置いてある剣を持ち、鞘に収めると共に、妹思いの彼にこう告げた。



「アンタの頼み、請け負った!」



 その言葉を告げた時の彼の顔は、多少微笑んで見えたのは気のせいではないだろう。

 

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