表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊の執事  作者: 3608
鋼の王様的な
63/68

昔の人的な

あの時、僕がルクルーシェ様に頼んでいた件についての情報提供者は、何故か例の帝国の皇子(別名、ニート)その人だった。

 何でここに? という疑問と驚きは、ルクルーシェ様の「この男に心当たりがあるらしい」という言葉によって後へと回された。


「事情はさっぱりだけどよ、王霊関連でテレスっていう人物なら心当たりがある」


 皇子に詳しい話を聞き、やって来たのがここ、帝国領のとある施設だ。可能性の一つとして予想していたとはいえ、まさかの事実だった。

 回想終わり。

 それにしても、あらかじめ知らされていたとはいえ、まさか本人がまだ生きているとは思いもよらなかった。

 アスカさんは初めてあった時に最後の知り合いが死んでもう百年って言ってたっけ。その認識は間違っていたわけだけれど、アスカさんがそう思ったという事はこの人は最低でも百歳を超えているというわけで。長寿大国日本の人達もビックリの寿命だ。

 僕の確認に対してテレスさんは考える素振りも見せずに「そうです」と肯定した。

 

「それで? このただ生きているだけの老害に何か御用で?」


 この施設は一般の為に作られた施設じゃない。まあ、知られたら(特に他国に)不味い物が一杯あるので、厳重な警備が敷かれている。

 その警備の人の目を掻い潜り、時には眠ってもらったりしてここにやって来た僕は紛れもない侵入者という奴なんだけど、この人の眼からは僕に対する敵意や警戒が全然感じられない。


「……ああ、心配なさらずとも、年をとると細かい事はどうでも良くなるのですよ」

「いや、それはどうかと」


 侵入者なのについツッコんでしまった。いや、年をとっても細かい事を気にする人は普通にいると思うんですよ。

 何だかこの人、どことなくお嬢様と似てる感じがする。不審者だとかそういうの関係無しで相手を包み込むような雰囲気とか。

 とにかく話を素直に聞いてくれるのはありがたい。気絶させた警備の人達がいつ起きるか分からないからだ。


「ずっと前……百年くらい前の話です。あなたは――」

「もしかして、アスカのことですか?」


 言おうとした名前が先に向こうの口から出てきた。

 正直、百年も前の事なんか覚えている筈が無いと思っていただけに驚きを禁じ得ない。


「……本当に覚えてるんですか?」

「聞いてくるという事はやはりそうなのですね。忘れる筈がありません、この百年の間ずっとあの子の事が気がかりだったのですから。老いて自分で何をする事も出来なくなって、それでも生にしがみついていたのもその為」


 そう言う彼女の視線はチューブを介して繋がった機械、そしてその傍らで自分の存在を誇示し続けている目がついた水色のモコモコへと向けられた。


「あなたにも済まない事をしているわ。こんな場所に縛り付けてごめんね、パサラン」


 気にするなと言うようにモコモコは首……はないから体を振る。

 テレスさんは最低でも百歳を超えている、そんなのこの世界はおろか、地球でだってそうそう見つからない。

 彼女が今も生きながらえているのは勿論理由があるのだ。

 一つはこの機械、地球で言うところの生命維持装置。

 そしてもう一つが、この水の精霊らしいパサラン。

 機械と精霊による延命、それが齢百をとっくに超えても生きているカラクリで、帝国で秘密裏に行われている研究の一つだ……というのが皇子の受け売りだ。


「いつか立ち直って訪ねて来てくれると思ってずっと待っていたけれど、中々来なくて……いつの間にか百年近くも経ちました。けれど、それもようやく終わりそうですね。あの子がわたしの事を話す程に信頼出来る人が出来るなんて……」

「その事なんですけど、実は困った事になってるんです。あなたはアスカさんの事を……」

「あの子が王霊である事は存じ上げております」

「だったら話は早いです」


 僕は話した、アスカさんがまだ人間との関わりを拒んでいる事を。本心と現実の違いに悩み、魔に侵されたこと事を。自ら死のうとして失敗し、今はもう殆ど自暴自棄になっている事を。


「色々やってみたんですけど、もう手が思いつかないんです。だけど、あなたならアスカさんについて何か知ってるんじゃないかと思ってここに」


 テスラさんは今のアスカさんの事を聞くと、視線を宙に彷徨わせて考え込むように呟いた。


「……やはりあの子はまだ気にしているのでしょうか」

「やっぱり何か知ってるんですね!?」


 つい大きな声を上げてしまった口を抑える。異常がばれたらまずいんだってことを忘れてた。

 幸い今の声は警備には聞こえなかったようで一安心。

 だけど予想外な事態は他でもないテレスさんによってもたらされた。


「会ったばかりのあなたに言うのは不躾だと承知の上で、お願いしたい事があります。わたしをアスカのいる所まで連れて行ってもらえませんか?」

「……え?」


 僕はここにアスカさんの過去を知ってる人から、彼女を元気づける手掛かりを聞きに来たんだ。

 そりゃあ確かに本人が会えばまどろっこしい事は抜きにしてアスカさんの心に届く効果的な話が出来るかもしれない。

 だけど、この人はこの場所を動ける筈が無いんだ。

 視線を生命維持装置に向ける。

 動力は知らないけれど、チューブとは別にコードのような物が部屋の外に伸びているからバッテリーとかじゃないだろう。

 つまり、この機械はこの場所から動かせない。

 必然的にそれとチューブで繋がっているテスラさんもこの部屋から出ることは出来ない。チューブを外せばどうにかなるけど、そうすればテスラさんに待っているのは……。


「老いさらばえた身では腕を動かすのも一苦労です。お手数をおかけしますが、あなたがチューブを抜いてもらえませんか?」

「あなた、それがどういう意味か分かって言ってるんですか?」

「わたしはもう十分過ぎる程に生きました。最後の心残りを解決する為なら、喜んで命を差し出しましょう」


 そう言われて「はいそうですか」と頷ける訳もない。

 躊躇っている僕の内心を見透かすように、テスラさんは僕の眼を覗き込んでくる。


「そういえば名前を伺っていませんでしたね」

「ユーリです」

「ではユーリさん、人には何に替えても叶えたい願いというものがあります。時に富や名声、時に大切な人。そして、それを叶える為なら命だって天秤に載せられるのですよ」

「それがあなたにとってはアスカさんだと?」

「今となっては……。昔はもっと沢山いたのですが、皆死にました。わたしもこのまま何もせず生きながらえたところで意味はありません。だから、老いぼれの最後の頼みを聞いてはもらえませんか?」


 ベッドで横になったまま、いつ死んでもおかしくないというくらいに老いてしまったにも拘わらず、テスラさんの目からは強い意志の光が感じられる。這ってでもアスカさんの元へと行こうとするような強固な覚悟。

 意志に歳は関係無いという事を知らされた瞬間だった。

 ここで否と言っても、それは相手を侮辱している事と同じだ。


「本当に良いんですね?」

「二言はございませぬ」


 目に宿る光は微塵も揺らがない。

 テスラさんの体のまとわりつくチューブに手をかける。

 見た目的にはあまりよろしくないとはいえ、これは間違いなくテスラさんの命を繋いでいる物だ。これを断ち切るということは、彼女を殺すことに等しい。

 思えばこの世界に来てから戦いに巻き込まれた事は多々あれど、自分の意志で人の命に手をかけたことは無い。緊張で手が震えてしまうのも仕方無い事だろう。

 とはいえテスラさんの覚悟を見せつけられてはここで手を引くわけにはいかない。

 僅かな逡巡の後、僕はチューブをテスラさんの体から抜き取った。


「取った……」

「時間がある訳ではありません。パサランに何とかわたしの体を保たせてもらうので、早急に――」


 途端、機械から何かの警告音が大音量で鳴り響く。

 同時に外が騒がしくなる。耳をすませば「何事だ!」とか「侵入者だ!」と叫ぶ声が聞こえる。

 バンと扉が乱暴に開け放たれる。


「警備が来ます。退却しますよ」


 そこにいたのは一般的な旅装のユリアさんがいた。実はここまで付いて来てもらって、今まで外で見張りをして貰っていたのだ。いや、だって、僕地理全然分からないし、一人で来れるわけないじゃないか。


「必要な事は聞けたのですか?」

「それが、本人を連れて行くことになっちゃいまして」

「本人?」


 ユリアさんの視線がベッドの上のテスラさんを捉える。

 それにテスラさんが答えた。


「あなたはユーリさんのお仲間ですか? 委細は後にしましょう、警備の者がやって来ます」


 疑問は持っているようだけど、そこはユリアさん。今優先すべきことを理解して何も聞かずに行動に移してくれる。


「施設内にいた警備は全員昏倒させておきました。しかし、施設の近くには帝国軍の駐屯場もあります、直に大量の騎士が駆けつけてきます」

「じゃあ急ぎますか、それじゃあテレスさんは僕が――」

「それはわたくしの役目です。皇子の出した条件を忘れたのですか? たった三日間で?」

「……ごめんなさい」


 言外に鳥頭と言われてしまった。

 ユリアさんがテレスさんを背負う。それだけで老体には堪えるらしく、小さな呻き声が漏れた。

 とはいえ既にサイは投げられている、ここで止まっている事は出来ない。

 時間が無いのでいちいち廊下を走って入口まで走っていくのは無駄だ。もう隠密行動をする必要も無くなったので、僕達は部屋の窓を突き破って一気に外へと躍り出る。

 そしているわいるわ結構見覚えのある銃やら鎧やらで武装した帝国騎士達が。王国とは違って精霊師が少ないらしいからそれを補う為の重装備なんだろうけど、相手に与える威圧感で言うならこっちの方が断然上だ。


「貴様ら、一体何者――」


 偉そうな人が何かを言おうとしてたけど、それを聞く前に顔を踏んづけて踏み台にする。ユリアさんも後に続いた。

 着地地点にいる騎士は地面から生えた樹でなぎ払う。


「これは……っ。まさか、王国の精霊師か!」


 これは不味い。僕達が王国の人間だと思われたら余計な火種になりかねない。侵略されたとはいえ、身を隠しているのは王族などの帝国にとって生きていると不味い人達ばかりなのだ。

 ユリアさんが目線で「やってください」と訴えかけている。

 嫌だけどやるしかなかった。


「ふっ、精霊師? 僕を人間なんかと一緒にしないでほしいな」

「なんだと……?」


 ああ……死にたい。すぐに顔を隠して穴かどこかに隠れたい。今の僕は人生最大の黒歴史だ。心を空っぽにして、何も感じないようにして凌ぐんだ……!


「――世界を支え、命を育む豊穣の大樹。水と地を司りし草花の王。名を――『ユグドラシル』」


 霊句を唱え、着ている服が霊装に変わり、霊器をその手に持つ僕を見て騎士は愕然とする。口に出していないとはいえ、その目には「まさか……」と言いたげな半ば確信しつつも信じられない葛藤が見え隠れしている。

 それも仕方の無いことだ、王霊とは人間にとっては強さの次元が違う天上の存在であり、それは事実としてもあながち間違っていないからだ。


「さて、遊んであげようか、人間。死ぬ覚悟がある奴からかかってくるといい」


 今の僕は底の見えない虚ろな目をしているだろう。相対する人にとってはそれが更に恐怖を煽られる原因にもなっているようで、明らかに及び腰なのが分かる。ちなみに、後ろの辺りから感じる何とも言えない微妙な視線は知らない、気のせいだ。

 それもこれも、全部皇子が悪いんだ。

 テスラさんの情報を教えてもらう交換条件が『王霊だと分かるくらい派手に暴れて欲しい』だったんだから。しかも追加として『出来れば国に対する脅威として振舞ってもらえれば尚良い』とか。

 何を考えているのかは知らないし、一応敬わないといけない相手だけど、心の中でこれだけは言わせて欲しい。

 覚えてろ……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ