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精霊の執事  作者: 3608
祭りへ連れ出し大作戦的な
22/68

秘宝的な

「おっっっきーーーーーねーーーーー……」


 街に出てきてから驚きの連続だったお嬢様は、今までの中で一番の驚きを感じさせるような唖然とした声を上げた。どんな小さな事にも大げさに反応していた今日のお嬢様に、この湖の美しさや壮大さは脳内で処理が追いつかない程の衝撃を与えたみたいだ。

 ここ数日見ない間に湖のほとりの一角は青色系統の花(かなりの割合が僕達が売ったやつだ、もし僕達が売っていなかったらどうなってたんだろうか)を主に使用してこれでもかと言うほど華美な装飾を施されており、その中心というべき台座のような物体が鎮座している。もしかしなくても、あそこに秘宝が設置されるんだろう。

 台座の周りには秘宝を一目見ようと観客がおしくらまんじゅうのように押し掛けており、精霊師団の面々が等間隔に並んで見張っている。まるで大統領パレードを警護する警察官みたいだ。

 なお、僕、ユリアさん、お嬢様の三人もその人の山の中でおしくらまんじゅう張りにされて……なんていたらお嬢様が結構洒落にならない事態になるのでそんな事になっている訳もなく。

 現在僕たちはクラウさんを伴って精霊師達によって区切られた内側で悠々と秘宝が運び込まれるのを待っていた。

 なんで僕達だけ特別扱いされているかって? 無邪気に行使された権力は最強とだけ言っておこう。

 精霊師達は何故僕達が内側にいるのか疑問の視線を送ってくるも、傍にクラウさんがいるので何も言ってこない。恐らくさる重要なお方とそのお供とでも思っていることだろう。

 さて、ここ数日は常に動き回って忙しい日々を送っていた反動か、何もせずにジッとしているのがどうも耐えられない僕は、暇つぶしにクラウさんに話しかけていた。


「秘宝秘宝って何度も話に出てきてますけど、結局それってどんなやつなんですか? 多分ものすごく綺麗なんだろうなあとは思ってるんですけど」

「そのことか。正直に言うと、あまり今回の事は乗り気じゃない」

「今回の事ってシューラ様が秘宝を運んであの台座に飾るってやつですよね。何か問題でも?」

「姫殿下が秘宝を運ぶ役目云々は特に異論は無い。神事のような貴重な物が表に出される行事の時に儀式の一環として王族ややんごとなき身分の人間がそれを扱うのは珍しいことではない。問題は今回扱われる秘宝の方だ」

「確か涙雪のアミュレットでしたっけ? 何かいわくでもあるんですか?」

「詳しいことは知らない。陛下や重鎮はあれを単なる貴重な宝石のような物と扱っている。ただ……俺がこの街に来る前に秘宝について軽く調べてみると、あれにはちゃんとした用途があって作られたと書かれていた」

「用途ですか? それって……」

「文献によれば研究狂いの学者がとある精霊を呼び出す為の道具として作ったらしい。涙雪のアミュレットに使われている宝石や装飾も滅多に手に入らない一級品ばかりだそうだ」

「しかしソーシェルド様、その学者が呼び出そうとしていた精霊が何であれ、陣を描かなければ何が起こるはずも無いのでは?」

「その通りだ。涙雪のアミュレットがここに運ばれてくるまでも何もなかったと報告は受けている。まあ……杞憂だろうな」


 妙に気になりそうな事を言うだけ言ってクラウさんは押し黙った。話を振ったのはこっちだけど、杞憂だと思うのならわざわざ不安になるようなことを言わないで欲しい。

 僕達の話が終わったのを見計らったように、とてもうるさかった観客たちのざわめきがピタリと止んだ。

 精霊師達によって区切られた道をゆっくりと歩いてくるのは儀礼用らしい衣装に身を包んだシューラ様。

 そしてその手には――くだんの秘宝が。

 中央の拳大の宝石は単純に言葉で表せないほどに澄み渡った青と緑の色を水晶のような輝きとして周囲に撒き散らしており、それと対比するように内部では違った種類の蒼や碧、翠の光が漂っている。

 宝石を引き立てるのは正体不明の水色の羽や氷のような牙、他にも沢山の素材によって作られた細やかな装飾。

 本体から装飾に至るまで、その全てが普通じゃない存在感を放っているにも関わらず、その美術品としても至高の一品であろうそれは紛れもなく秘宝と呼ぶにふさわしい物だった。

 シューラ様が僕達の傍を通る。

 シューラ様の視線は周りに見えないようにして僕達へと向けられており、その手に秘宝を持っていなかったりしたら間違いなくおーいとでも言いながら手を振っていただろう。

 クラウさんはこちらを向いてよそ見をするシューラ様に、前方を小さく指差し長ら必死に口パクで前を向くように伝えている。もはやこの人に威厳があったのは初対面の時だけで、それ以降はずっと残念だ。苦労人という意味で。

 実際は少々グダグダ感がありながらも、儀式の表面上は滞りなく進み、シューラ様が秘宝を恭しく台座に鎮座させ、観客にも見えるように一歩横にずれる。

 それを合図にしたかのように上がる大歓声。思わず耳で塞いでしまうほどの大音量だ。

 湖から反射した光が秘宝の内部で乱反射して内部を漂う光と交わり、幻想的な光と化して僕達の目を魅了する。後ろの広大な湖と相まって、その光景の素晴らしさは筆舌に尽くし難い。

 …………ん?


「ユリアさん、今湖光りませんでした?」

「ええ、太陽の光の反射とは違う輝きが一瞬だけですが……」


 疑問を口に出したその瞬間、涙雪のアミュレットの内側を漂っていた光が暴れるように激しくなり、一際強い光を放つ。

 

「くっ……!」

「な、なんですかこれっ!?」

「二人共、あれっ!」


 何の事か聞く必要は無かった。

 ――涙雪のアミュレットを起点にしてまるで二つの筋が走るように湖が凍っていく。

 二つの氷の筋は湖の逆側で繋がり、今度は内部に複雑な図形を描くように凍っていく。

 それは、何かの魔法陣のようにも見えた。


「市民は街へと走れ! 精霊師は半分が市民の誘導! 残りはここに残って姫殿下の護衛だ! 急げ!」


 クラウさんの怒声が、目の前の異常事態に言葉を失っていた全員の意識を戻した。

 一般人は悲鳴を上げながら我先にと駆け出し、精霊師の何人かがそれを必死に誘導し、残りは未だに止まらない異常事態に警戒している。

 クラウさんが自分を叱咤するように舌打ちをした。


「くそっ、抜かったっ。あれに陣を描く機能そのものが組み込まれていたとはっ」

「それじゃあやっぱり、あれって精霊を召喚する為の……?」

「聖域という特殊な場所に持ち込まれたことによってその機能が作動してしまったというところでしょうか?」

「恐らくな。場所柄的にも状況的にも何が出るかわからない。一般市民は早いところ逃げたほうがいいと思うのだが……」

「僕だって逃げれるならさっさとお嬢様を連れて逃げたいですよ」


 溜息をつきたいのを堪えて後ろを振り返る。

 街へ通じる道は逃げようとする人でごった返しており、あそこを車椅子のお嬢様が通り抜けるのはかなり難しい。無理に通ろうとすればお嬢様が椅子から投げ出されかねない。 


「逃げられない以上はここでお嬢様をお守りするしかありません。ユーリさんもそれくらいの覚悟はあるでしょう?」

「まあ、そうですけどね」

「リイルちゃ~ん!」


 そんな中、流石にこんな時の行動は弁えているみたいで、秘宝から離れたシューラ様がこちらに駆け寄ってくる。


「姫殿下、リイル嬢と共に我らの後ろに」

「う、うん……」


 クラウさんに促されてシューラ様は素直にお嬢様の傍まで移動する。

 いつもはポワポワしている表情も、今は不安に染まっており、震える手でお嬢様の服を掴んでいる。

 お嬢様はそんなシューラ様の頭をそっと抱き寄せた。


「リイルちゃん?」


 そのまま優しい手つきでシューラ様の頭を撫でていく。するとシューラ様の表情から不安や緊張が抜けていくのが見て取れた。


「大丈夫、大丈夫ですからね」

「……うん」


 シューラ様はもう心配無さそうだ。

 けど、お嬢様だって不安を感じていない筈は無い筈なんだけれど……。

 僕とユリアさんは心配するような視線を向けるが、お嬢様は不安など一切感じさせない微笑みを返してきた。

 


「お嬢様って強いですよね」

「街に出てわたくし達以外の他人と関わったことも影響しているかもしれませんね」


 僕とユリアさんが言葉を交わす先で、遂に湖の氷結が止まる。

 何が起こるのかと全員が身構えるが、特に変わったことが起こる気配はない。

 拍子抜けしたような空気が辺りに広がる中、お嬢様が抱え込むように腕をさすった。


「ねえ、なんだか寒くない?」

「そういえば……。さっきまで若干暑いくらいだったのに」

「――っ! 皆さん、あれを!」


 ユリアさんが指差すのは氷で構築された陣の中心。

 白い粒のように見えるそれは……。


「もしかして雪じゃないですか?」

「状況的に間違いは無さそうですね」


 徐々に増していく雪の密度と下がり続ける気温。

 僕達の吐く息が白くなる頃には中心には渦巻く雪で壁が作られたようになっており、それはまるで何かの卵のようにも見える。

 高まっていく緊張。

 だけど、脅威は意外にも別の場所からやってきた。

 湖の凍っていない部分が泡立っている。

 最初は小さくても、それはすぐに音と共に大きくなり、やがて大きな水飛沫と共に二つ・・の巨大な影が姿を現した。

 ――グゥオオオオオオオオオ!

 衝撃波と勘違いしてしまいそうな程の二重の咆哮。

 蛇のような長い胴体に、何物をも弾きそうな鱗、牛や馬などの家畜さえ丸のみに出来そうなその大きな口にはどんな物でも砕けそうな鋭い牙が並んでいる。

 出現した二体の影の正体は紛れもなく竜だった。

 誰かが信じられない物を見たかのように言った。


「りゅ、竜種の精霊だ!」


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