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精霊の執事  作者: 3608
祭りへ連れ出し大作戦的な
21/68

初友的な

「うわっ!?」「え、何々!?」

 

 突然の大喝采に僕とお嬢様は何が何だか分からずに驚きの声を上げた。


「今の演奏が聴衆に認められたのでしょう。ご覧下さい」


 ユリアさんが指し示した方向には、人、人、人。

 演奏の前から結構な人数が集まっていたけれど、今はそれとは比べ物にならないくらいの人が集まっている。ここら辺一体の人が全て集まっているんじゃないかと勘ぐってしまうほどだ。

 そして、その集まってくれた人の誰もが盛大な拍手喝采を送ってくれていた。

 その大勢から向けられる賛辞に顔を赤くして照れているお嬢様に、先程相談をしていた青年が歩み寄ってくる。


「あなた方がどこのどなたかは存じ上げませんが、あなた方の御蔭で演奏を中断することなくお客様に曲を贈ることが出来ました。我々一同、心よりの感謝をあなた方に捧げます」


 後ろの楽団員達も揃って頭を下げてきた。

 これには僕だけでなく、お嬢様まで慌ててしまう。 


「あ、頭を上げてくださいっ。わたしは皆さんに断りも無く歌っただけですし、皆さんの伴奏が凄かったからこんなに観客の人達が喜んでくれてるだけですっ」

「それは謙遜です。彼らの言葉に耳を傾けてみてください」


 言われて、未だに鳴り止まない喝采の声に耳を澄ませてみる。


『いいぞー!』

『綺麗な歌だったわー!』

『よく歌ってくれた!』

『メイドさん達もよくやった!』

『また聴かせてねー!』


 …………。

 

「……わたくしはずっとお嬢様に喜んでいただければいいと思って生きてきましたが、このような感覚も悪くはありませんね」

「僕もです」


 確かに喝采の声はしっかりとお嬢様に、そして僕とユリアさんにもしっかりと向けられていた。地球にいた頃から数えても、こんなに沢山の人に直接的に称えられたのは初めてだ。

 お嬢様はどう反応していいのか分からないのか、何とも言えない表情をしている。


「…………ええっと、なんて返したらいいのかな」

「僕もイマイチ分からないですけど、取り敢えず笑えばいいんじゃないですか? お祭りなんですし」

「なんと安直な……手を振るなどがあるでしょうに」

「笑顔……。ええっと…………えへっ」

『ウオォーーーーーー!』

『キャーーーーーーー!』 


 お嬢様の二ヘラとした恥じらいを混ぜた笑みは、しっかりと観客の人達に届いたみたいだ。


「…………」

「あれ、ボーッとしてどうかしたんですか、お嬢様?」

「うーん、わたしって今まで屋敷から出てこなかったからユーリとユリアとだけしか関わってこなかったでしょ?」

「……と言われても僕はそこまで前のことは知らないんですけど」

「お嬢様のおっしゃる通りです。今までずっとあの屋敷を訪ねてくるような人物などいませんでしたが……それがどうか致しましたか?」

「いやね、物心がついてから今日初めて屋敷から出てきたわけだけど、誰か困っている人を助けたのもこんなに大勢の人に拍手されたりするのも初めてだなーって」


 そうか、さっきからお嬢様は見るもの全てが初めてで、だから色んな物に興味を示していたんだ。

 そんなお嬢様が、見知らぬ人達を助けて、見知らぬ人達拍手される経験も初めてなのは当たり前だ。

 初めてであろうそんな経験で、お嬢様がどう感じているのかが気になって問いかけの声が口から付いて出ていた。


「……お嬢様はその経験でどんな事を感じましたか?」


 お嬢様は自分へと問いかけるように胸に手を当てて――――はにかむように小さく笑いながら、


「胸がポワってなってるのかな? ユーリやユリアと一緒にいる時とはまた違った…………うん、良いかも」


 抽象的で容量を得ない言い方だったけれど、その感情をお嬢様がこの先も忘れないでいてくれますように。

 ユリアさんが慈しむような温かい目でお嬢様を見つめているのに対して、僕はそんな願いを視線に込めてお嬢様へと視線を送った。


 ◆


 アンコールコールに後ろ髪を引かれるように楽団の皆さんと別れた後、徐々に散っていった聴衆の間からトテテ~と掛けてくる影が一つ。

 その影は一直線にお嬢様の元へ向かい、ポフンとお嬢様の膝に飛び込んだ。


「わっ!」

「えへへ~。お姉ちゃんの歌綺麗だったよ~」


 この聞き覚えのある間延びしたぽわぽわボイスは……。


「シューラ様ですか!?」「姫殿下!?」

「え、嘘っ!? 姫殿下!?」

「あ~っ、ユーリちゃんとユリアちゃん~」


 昨日見た純白花柄のドレスとは違って、やや仕立ての良いお嬢様が今着ている物とあまり変わらない服装だけれど、そのピョコピョコ揺れる黒髪のツインテールと無邪気な子供のような顔は間違いなく昨日のお騒がせお花畑王女様だった。


「また今日も抜け出してきたんですか?」

「今日は違うよ~。ほら~」

「ぜえ……ぜえ……姫殿下……自由に動くなとは申しませんが……ぜえ……せめてわたしの傍を離れないで頂きたい……」


 シューラ様が指差した方向から息も絶え絶えな師団長が威厳もクソもない体で走ってきた。


「こんにちはクラウさん。昨日ぶりですね」

「ぜえ……ユーリにユリア嬢か……お前達には昨日の事で言いたいことがあったんだ」

「「――――?」」


 はて、昨日はクラウさんと別れた後は何だかんだで一度も会うことなく屋敷に帰ったわけだけど、何か問題でもあったんだろうか?


「何故……何故昨日姫殿下を見つけてから俺に知らせてくれなかった!」

「えぇっ!?」

「わたくしもその点は疑問に思っておりましたが、精霊師団のどなたかが連絡してくれるものと……」

「こなかったさ……! そのせいで今日の明け方まで走り回っていたんだぞ……!」


 そういえばハイになってて殆ど気にしなかったけれど、車椅子を持って走っている時に、僕以外にも誰かが猛スピードで走ってるような音がしてた気がするけど……まさか未だに探し回っていたとは露程も思わなかった。


「明け方になっても見つからず、諦観の体で姫殿下の宿泊場所に戻った時にその当人が当たり前のように居座っていたのを目撃した時の俺の徒労感が分かるか!?」


 ふ、不憫な……。シューラ様を見つけた瞬間にその場にへたり込むクラウさんの姿が簡単に想像できてしまう。

 けど、その件は僕とユリアさんに特に問題は無いように思うし、このまま延々と愚痴られても嫌なのでここはさらりと流すことにしよう。


「まあまあクラウさん。お姫様に何か起こるよりはずっとましじゃないですか」

「そ、それを引き合いに出すか……」

「ソーシェルド様、それにあれをご覧になればそのようなことは些末な事と思われませんか?」


 ユリアさんの言うあれとは、


「わたしアルシュラ、シューラって呼んでね~。お姉ちゃんのお名前は~?」

「は、はいっ。お、おおおおお目にかかれて光栄でございます姫殿下。わわわわわたくしは――」

「む~長いよ~。お友達になるならお名前だけでいいの~」

「は? お、お友達ですか……?」

「そう~。お友達~」


 シューラ様の瞳には他意など込められていない、言葉通りの意味しか含まれていなかった。つまり、お嬢様と友達になりたいと。

 お嬢様から緊張が抜けたのが見て取れた。張っていた肩から力を抜き、落ち着いた状態で微笑んだ。


「リイル。わたしの名前はリイルですよ、シューラ様」

「リイルちゃんっ。覚えたよ~。よろしくね~」


 片や王族、片や貴族の令嬢なのに、そんなの関係無いとばかりに、二人は朗らかに笑いあった。


「……あれを前にして、御自分の徒労感をいつまでも語るのも無粋というものではありませんか?」

「いや、それとこれとは別だと思うんだが……まあいいか。姫殿下にとっても、身分などという煩わしいことを気にしない友人が出来るというのは一生物の宝になるだろうからな」


 新しくできた友達であるお嬢様に頬をこすりつけながら甘えるシューラ様と、シューラ様の頭を優しく撫でて微笑むお嬢様はまるで姉妹のように仲が良い。見ている方の心にも満ち足りたような暖かさが湧いてくる。小さな子供を見守る親というのはこんな気分なんだろうか。


「それにしてもシューラ様のお嬢様への懐き様凄くありません? お嬢様の歌を聴いていたみたいですけどそれが原因でしょうかね?」

「さすがにそんな理由で誰にでも懐いていたら王族としては失格だ。姫殿下は恐らく本能的に相手の人柄を察しているんだろう。精霊師団の連中にも、性格が悪かったりする奴には近づこうともしないからな」

「クラウさんは平気だったんですか?」

「光栄にもな。それにしても姫殿下がこの街に来てからあそこまで楽しそうにしている姿を見るのは初めてだ」

「僕が見つけた時は最初からすっごく楽しそうでしたよ?」

「それはあれこれ口出しする人間がいなくて伸び伸び出来たからだろう。宿泊場所には常に何人もの見張りがいるからな、いつも窮屈でつまらなそうにしておられた。俺が傍にいる時は多少マシそうにしていたが、それでもいつも傍にいられるわけじゃない。そういう意味でも姫殿下に親しい知り合いが出来るのは喜ばしいことだ」

「それはお嬢様も同じです。お嬢様はずっと、わたくし達以外に親しい知り合いなどいませんでしたから」

「そうですね……」

 

 それからしばらくは初めてできた友達同士を黙って見守っていた。

 しばらくしてからクラウさんがシューラ様に言った。


「姫殿下、そろそろ時間です」

「え~、もう~?」


 その瞳は『もっとお話してたい』とありありと語っていた。


「ユーリ、お前達はこの後湖に行くんだろう?」

「あ、はい、そうです」

「姫殿下、彼女達とは後でまた会えます。準備もあるので今は我慢なさってください」


 後でまた会えるが効いたようで、シューラ様はしばらく唸っていたけれど、やがて首を縦に振った。


「わかった。リイルちゃん、ユーリちゃん、ユリアちゃん、わたし秘宝を湖に持って行く人やるから見ててね~。じゃあまたね~」


 クラウさんは軽く手を挙げて、シューラ様はブンブンと大きく手を振りながら去っていった。


「湖って?」

「道すがらで話しますよ」

「では参りましょうか」


 いよいよ祭りのクライマックスだ。

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