1.ゼフィロウ城の緊急会議②
ウイルスチェックが終わり、部屋のドアが開くと、移動用のベッドと医者、そしてヴァンとラビスミーナが入って来た。
ラビスミーナが砂や埃にまみれたアイサを抱きしめる。
ぐったりとしたシンがベッドに乗せられた。
(とにかくシンを助けることだ。そのためにここへ来たのだ。シンにはまだやることがある。ひょっとしたら、一人で地上に行った私以上に困難なことが)
アイサにとって、ここにヴァンが来てくれたことが心強かった。
(ヴァンは工学以外にも、あらゆる科学分野に通じている。何より、頭の固い連中とは違う。きっと力になってくれる)
アイサはヴァンを見た。
「君は休んだ方がいいよ。こいつのことは僕らが最善を尽くすから」
ヴァンは言ったが、アイサは首を振った。
「いいえ、私も行くわ」
「呆れた奴だな。お前はヴァンを信じられないのか? そいつのことはヴァンに任せておけばいい。そんなことよりアイサ、まずはお前のことをずっと心配していたこの姉に付き合うのが筋というものだ」
ラビスミーナが不機嫌に言った。
アイサは思わず笑ってしまった。
笑うとほっと身体の力が抜けた。
「帰ってきたのね」
アイサは懐かしい姉の顔を見た。
「当たり前だ」
ラビスミーナはぶっきらぼうに言うと、先に立って廊下を歩き始めた。城に直結する専用のエレベーターが二人の生体認証をし、二人を先ほどとはまったく趣の異なった城の居間に運んだ。
「お父様は?」
居間のソファーに腰を掛け、まずアイサは聞いた。
「レンに行っている。もう既にお前の帰国と、お前の連れてきた坊やの話を聞いているだろう。忙しくなるな。それを考えると、父上がレンにいたのは都合がよかった」
こう話す間も、ラビスミーナとハビロは互いに油断なく相手を観察している。
ラビスミーナはハビロから目を離さずに、さりげなくアイサに聞いた。
「ところでお前、あの坊やをどうする気だ? まあ、アエル母上の例もあるが……面倒なことを起こしてくれたな?」
「ひょっとしたら、母上のことより面倒かも……」
アイサは曖昧に言い、ラビスミーナは目を細めた。
「どういうことだ? あの坊主が気に入って結婚する……とか言い出す以上のことがあるというのか?」
単刀直入な姉の言葉に、アイサは珍しく言葉に窮した。
「あの、それは……もう少し複雑で。ねえ、姉様は……私のこと好き?」
「それは、もちろんだ。小さい頃から母親代わりと思って、陰になり、日向になって、お前を大切に守ってきたつもりだからな。だから言わせてもらうが、お前にそう聞かれたときには、必ず後にろくでもないことが続く。今度は何だ?」
(今度はシンを助けるためにまた地上に行きたいって言ったら、どうなるだろう?)
アイサは面と向かってこの姉に話す勇気がなくなった。少なくともヴァンが側にいるときの方がいい。
「とにかく、ハビロを紹介するわ。シンのことは、どうせ皆に話さなければならないから」
素早く計算したアイサを見て、ラビスミーナははっきり気に入らないといった顔をしたが、ハビロに目をやってすぐに機嫌を直した。
「ハビロというのか?」
「ハビロ、ラビス姉様よ」
「ハビロ」
ラビスミーナが呼ぶ。しかし、アイサとラビスミーナをじっくり観察していたハビロは、ちらりとラビスミーナを見ただけで一層アイサの側に寄った。
「そういうことか」
突然ラビスミーナがハビロに襲いかかった。飛びついて押さえつけようとするラビスミーナに、ハビロも飛び退いて牙を見せる。
ハビロはかつて船上で海賊に襲われ、右往左往していた頃とはまったく違う。ビャクグンやスオウを始め、シャギルやルリといった武術の達人に囲まれていたのだ。瞬時に強敵だと悟ったハビロは、ラビスミーナが次に動く前にラビスミーナを抑え込もうと身を低くした。
「ハビロ」
アイサの声でハビロの動きが止まった。
「いい動きだ。気に入った」
ラビスミーナは生き生きと笑った。
「よし、散歩に行こう。私のオルクにも乗せてやるぞ?」
「そんなの無理だわ。じゃ、私も行くから」
「その心配は要らない。お前は自分の面倒でも見ていろ。ひどい格好だぞ? グリン」
ラビスミーナは部屋に自分の副官を呼んだ。ラビスミーナより年上だが、気安い感じの男だった。
「グルナに知らせてくれ。アイサを休ませよう。私はこれを連れて一回りしてくる」
こうと決めたら聞かない姉にアイサは苦笑した。
「行っておいで、ハビロ」
アイサが言うと、ハビロは観念したようにラビスミーナに連れて行かれた。




