↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
16/24

母の言葉

【呼びかけ】


私は廊下の真ん中で立ち止まる。アウレリアを見ながら。


「あの……会長。」


彼女の左肩に、そっと手を置く。


「少しリナ・クロツキのところへ行くよ。少し話したい。彼女と話すことがある気がする。」


アウレリアは体全体を私に向ける。紅の瞳が見開かれる。ほんの一瞬。声を上げる。


「何?リナ・クロツキと話すの?」


私の顔が赤くなる。両手を前に上げる。


「そうじゃなくて。ただ彼女と話したかった。何か理解できるかもしれない。すごく気になったから。」


アウレリアの視線が決定的になる。しかし声は静かだ。どこか軽い挑戦を含んで。


「ふうん……力?力だけに興味があるの?」


私は手を顔に当てる。


「そうじゃない。力じゃない。ただ……彼女の技術に驚いた。」


アウレリアは大きく息を吸う。言葉を返す。


「わかった。行って話してきなさい。でも早く戻って。私は宮殿で待ってる。少し遅れたら、夕食全部をゴミ箱に捨てるから。」


私は息を呑む。


「わかったわかった。大丈夫。すぐ行ってすぐ戻る。約束する。」


私は振り返る。走る。廊下を。訓練場へ戻りながら。


彼女を見る。


リナ・クロツキ。


彼女はまだそこにいた。障害物エリアに。地面に座っている。背中を石の柱に預けて。両脚を前に伸ばして。両手を脚の上に。頭を少し下げて。


近づく。止まる。彼女の前に。


「こんにちは。」


彼女は答えない。ただ沈黙。


「リナ・クロツキ。だよね?」


彼女は動く。顔を上げる。私を見る。瞳は深く暗い。訊く。


「何の用?」


私は頭をかく。


「あの……ただ話したかったんだ。戦いのこと。君が呼び出そうとしたもののこと。何だったのかわからなかった。誰もわからなかった。アウレリアでさえ。」


リナは黙る。一瞬。長い。私を見つめる。呟く。静かな声で。どこか軽い皮肉を含んで。


「なぜ気にするの?」


私は正直に答える。


「なぜなら。君の瞳に何かを見たから。他の誰の目にも見たことのない何かを。決意のような。意志のような。君がすべての笑みの後ろに隠している何かを。」


リナは凍りつく。瞳が揺れる。ほんの一瞬。告げる。低い声で。震えながら。しかし冷たく。


「あなたは何も知らない。」


私は言葉を続ける。


「そう。知らない。何も知らない。君が誰かわからない。どこから来たかわからない。しかし知っている。一つだけ。君の瞳に何かを見た。苦しみのような。喪失のような。君がすべての笑みの後ろに隠している何かを。」


リナは黙る。長い一瞬。口を開く。低い声で。しかし冷たくはない。中に何かがある。


「あなた。本当に奇妙ね。ジャワド・タナカ。とても奇妙。」


彼女は顔を上げる。空を見る。告げる。


「すべてを話せない。今は。ここでは。でも一つだけ言う。あれ。私が呼び出そうとしたもの。それは雷の槍。母の武器。彼女はいつも呼び出していた。しかし私は呼び出せない。なぜかわからない。毎日試す。しかし毎回失敗する。」


彼女は視線を私に固定する。


「私は強くない。あなたが思うほど。ただ強くなろうとしている。誰も必要としないように。誰も私のために苦しまないように。もう一度。」


私も黙る。答える。


「誰も君のために苦しまない。リナ・クロツキ。誰も。君は一人じゃない。この世界で。」


彼女は私を見る。瞳が揺れる。ほんの一瞬。呟く。震えながら。


「あなたにはわからない。誰にもわからない。」


彼女は立つ。私を見る。長い視線。一つ。告げる。静かな声で。どこか隠れた感謝を含んで。


「ありがとう。あなたの言葉。でも行かなきゃ。今。」


彼女は振り返る。歩く。門へ。遠ざかる。やがて完全に消える。


私は立ち尽くし、心の中で呟く。


「リナ・クロツキ。何を隠しているの?」


リナが廊下の終わりに消えた後。私は体全体を起こす。素早く顔を上げる。叫ぶ。大きな声で。空の訓練場を満たす。


「でも覚えておいて!」


私は胸を膨らませる。続ける。


「もしあの力を呼び出したいなら。真実を認めるしかない。嘘の後ろに隠れるのをやめて。嘘は君の力を引き出さないから!」


沈黙。空の訓練場。私も歩く。門へ。出る。学院から。向かう。ローゼンフィル家の宮殿へ。


【家族の夕食】


夕食の席。長いテーブルに豪華な皿が並ぶ。金色のシャンデリアが全てを照らし、銀のカトラリーが光を反射する。ローストした肉の香り、焼きたてのパン、赤ワインの匂いが混ざり合う。大きな窓の外では、夜の闇がゆっくりと広がり始めていた。


カシアンとロゼリアが広間に入り、席に着く。カシアンは椅子を引く音を立て、ゆっくりと座る。右手にワイングラスを持ち、一口含んでから、視線を私に向ける。紅の瞳がわずかに細められる。


「ふむ。戻ったようだな。何があった?」


ロゼリアはカシアンの隣に座り、ナプキンを膝の上に広げる。口元に、狡猾な微笑みが浮かぶ。青い瞳が、私とアウレリアの間を行き来する。


「何かたくさんあったようね。」


エヴェリアがコーヒーカップを手に加わる。彼女の足音は静かで、床に吸い込まれるようだった。カップがテーブルに置かれる、小さな音。ピンクの瞳が私を一瞬見て、それからアウレリアに移る。


「物事が続いていると疑うわ。」


私は口を開かない。テーブルの下で、アウレリアの指が私の右腕をつねる。痛みが走る。だから黙る。彼女は私が話すことを望んでいない。私が話せば、今日のすべてが明らかになるからだ。リナ・クロツキとの対話、あの奇妙な雷、私が彼女に叫んだ言葉。全部。


アウレリアが静かに告げる。声は低く、しかし確信に満ちている。


「何も重要じゃない。普通の一日だった。訓練と友好的な対戦だけ。」


カシアンはワイングラスを置く。皿の上の肉を一口切り、口に運ぶ。咀嚼しながら、彼は私を見る。


「友好的な対戦、か。で、お前は何をしていた?」


アウレリアが答える。私が答える前に。


「彼は観客だった。私とリナ・クロツキの戦いを見ていた。」


ロゼリアが小さく笑う。声は柔らかいが、その中に隠れた皮肉がある。


「観客?まあ。なんて小さな子供。」


カシアンはフォークを置く。体を少し前に倒し、私をじっと見る。紅の瞳が、炎のように揺れる。


「観客。疲れていた。戦わなかった。しかし次は、戦うだろう。そうだな?」


私はうなずく。声は低いが、正直に。


「はい。次は戦います。」


カシアンは満足そうに頷く。再びフォークを取る。


「それでいい。ローゼンフィルの従者は、戦えなければならない。守るべきものがあるのだから。」


エヴェリアがカップを置く。音は静かだが、その場に響く。彼女は私を見る。ピンクの瞳は、何かを探るように細められている。


「ジャワド・タナカ。今日、何か感じたか?体に変化は?」


私は少し考える。正直に答える。


「疲れはあります。でも、それだけです。エネルギーが暴走することはありませんでした。」


エヴェリアは頷く。しかしその瞳は、まだ何かを探している。


「そう。ならいい。しかし忘れるな。何かあれば、私に言いなさい。私個人に。」


アウレリアが口を挟む。声は少し急いている。


「おばあさま。彼は大丈夫です。私がついています。」


エヴェリアはアウレリアを見る。小さく笑う。笑みは温かいが、どこか寂しげでもある。


「わかっているわ。だからこそ、言っているの。」


沈黙が一瞬訪れる。フォークとナイフの音だけが、広間に響く。私は皿の上の肉を切る。手が少し震える。今日の出来事が、まだ体に残っているからだ。


ロゼリアがワイングラスを傾ける。私に話しかける。声は柔らかい。


「それで、ジャワド。リナ・クロツキという娘は、どんな子だった?」


私は顔を上げる。ロゼリアの青い瞳が、好奇心で輝いている。彼女は本当に知りたいのだろう。しかし、どこまで話せばいいのか。アウレリアが私を見る。その瞳は、「話すな」と言っている。


私は慎重に言葉を選ぶ。


「強い意志を持った子です。それに、何かを抱えている。でも、私にはそれを解き明かすことはできません。」


ロゼリアは頷く。何かを考えるように、ワイングラスを回す。


「なるほど。意志の強い子、ね。それはいいことよ。ローゼンフィル家にも、かつてそういう娘がいたから。」


カシアンが彼女を見る。少し驚いたように。静かに告げる。


「ロゼリア。」


彼女は軽く肩をすくめる。話題を変える。


「さて。デザートにしようか。」


エヴェリアが立ち上がる。彼女の動きは優雅で、まるで若い女性のようだ。実際、彼女は百歳を超えているのに。


「私が持ってくるわ。今日は特別な日だから。」


アウレリアが私を見る。その瞳は、少し和らいでいる。彼女は私の腕をつねるのをやめ、代わりに、そっと私の手に触れる。一瞬だけ。すぐに離す。


「食べなさい。明日も早いのだから。」


私は頷く。皿の上の肉を最後の一口まで食べる。味はよくわからない。しかし、温かさだけは感じる。


デザートが運ばれてくる。甘い香りが広間を満たす。私はそれを口に運ぶ。甘さが広がる。今日の疲れが、少しだけ消える気がした。


カシアンがワイングラスを上げる。告げる。


「明日からも、頼むぞ。ジャワド・タナカ。」


私はうなずく。心の中で思う。明日も、また何かが起きるのだろう。リナ・クロツキ。彼女の抱える闇。私が感じたあの奇妙な力。すべてが、これから始まる。


私はフォークを置く。静かに言う。


「ごちそうさまでした。」


【眠る前に】


夕食を終える。私は告げる。


「部屋に行きます。」


カシアンは短く答える。


「うむ。行け。」


ロゼリアの声は柔らかい。


「おやすみなさい。」


アウレリアの視線が私を捉える。紅の瞳がわずかに細まる。


「早起きして。寝坊しないで。早起きしなかったら、来て水をかけるから。」


私は抗議する。


「でも明日は土曜で明後日は日曜。休むよ。」


アウレリアの視線が強くなる。逃げる獲物を見るかのように。


「早起きしなさいと言ったの。起きなかったら、自分で来て起こすから。土曜でも日曜でも。気にしないわ。わかった?」


私は緊張を感じる。


「わかった。」


私は立ち上がる。椅子を引く。大広間を出る。廊下を走る。自分の部屋へ。ベッドに身を投げる。眠る。深い眠り。悪夢なし。夢なし。ただ暖かい闇。ただ休息。


【母の言葉】


同じ頃。部屋番号百六。


リナ・クロツキはベッドに座っていた。母からもらった包みを握る。開ける。母の手書き。ライメイア。雷の女神。最後のページの終わりに、小さな言葉。母から娘への言葉。


リナは読む。低い声で。震えながら。


「私はあなたと共にいる。どこにいても。雷の火花があなたの体で燃えている限り。私はいつもあなたと共に現れる。」


彼女は黙る。長い一瞬。心の中で呟く。


「希望の言葉。あの紙に書かれた。」


包みを巻く。胸に置く。強く抱きしめる。まるで母自身を抱きしめるかのように。ベッドに横たわる。天井を見る。


告げる。静かな声で。しかし暖かく。久しぶりに。


「今日は。今までで一番良い日だった。」


彼女は付け加える。


「アウレリア・ローゼンフィルに会った。動きが優れていた。負けた。それでも。彼女は私を少し評価してくれた。」


思い出す。アウレリアが手を伸ばしたことを。彼女に告げたことを。「あなた。素晴らしいわ。」負けたにもかかわらず。


呟く。低い声で。しかしどこか暖かさを含んで。


「ジャワド・タナカに会った。彼の愚かさと騙しやすさにもかかわらず。しかしとても優しい。」


彼女は少し笑う。両目をゆっくりと閉じる。眠る。深い眠り。悪夢なし。夢なし。ただ暖かい闇。ただ休息。そして母が共に。どこにいても。雷の火花が彼女の体で燃えている限り。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

第四話「母の言葉」でした。


今回はジャワドとリナの初めての会話を通じて、

リナの内面と彼女が抱える孤独を描きました。

そして最後に、母ライメイアが残した言葉が明らかになります。


次回、第五話では、物語は新たな局面へと進みます。

リナの秘めた決意、そしてアカデミーに訪れる新たな影。


【AIの使用について】

この作品の執筆にあたり、翻訳および文章整理の補助としてDeepSeekを使用しています。

物語の構成、キャラクター、展開はすべて作者自身によるものです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。