表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オーク進化論~勇者がブタに?~  作者: 東雲 寛則


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

71/75

第七十一話「勝利と、進化と、あと黒いオーク」

 ぜいぜい。


 肩が上下する。


 全身が汗だくだ。


 砂を噛むような表情。


 いや。


 本当に口の中が砂だらけだ。


 ぺっぺっ。


 アルドは口中の砂を吐き出す。


 戦いの余韻。


 そういうものに浸る前に、まず砂をどうにかせねば非常に不快。


 だが、何はともあれ完全勝利である。


 モンスターの群れは壊滅。

 ランドコカトリスのチャンピオン個体も討伐。


 ガルディアス砦に向かうはずだったモンスター侵攻は、アルドとジェイルの二人によって食い止められた。


 そう、たった二人だけで。


 正確には、リアも黒焦げ料理で参戦していたが。

 もしかして、影の功労者か。


 アルドは首をひねらざるを得ない。


 あれが勝負の決め手になったのだから。



 遠くで見張っていた三人の兵士たちは、しばらく呆然としていた。


 誰も声を出せなかった。


 目の前で起きたことが、あまりにも現実離れしていたからだ。


 百を超えるモンスターの群れ。


 しかも、ランドコカトリスを中心とした、危険な混成部隊。


 普段の侵攻とは規模が違う。


 倍、いや、質を考えればそれ以上かもしれない。


 もし、あれが砦に到達していたら。

 ここを突破されていたら。


 砦は全滅していた可能性すらある。


 仮に勝てたとしても、壊滅的な被害を受けていたのは間違いないだろう。


 未曽有の危機だった。


 それを……オークと冒険者ひとりで……。


 片付けた。


「報告だ。早く、セレスティア様に知らせないと」


 一人がようやく声を出した。


「信じてもらえるかな?」


「見たまま言うしかないだろ」


 三人は大慌てで砦へ走り出した。


 ガルディアス砦、始まって以来の快挙。


 空前絶後の大快挙である。


 もっとも、その快挙を成し遂げた当の本人は、というと。


 ランドコカトリスのチャンピオン個体を見下ろしていた。


 首を失った巨体。


 強敵だった。


 ジェイルには分かった。

 トンソクは、今、何かを噛みしめている。


 モンスターとはいえ、命をかけて戦った相手。


 強敵との別れ。


 もちろん、勝利の充足感の方が大きいだろう。


 だが、それだけではない。


 どこか寂しさもある。


 強敵と書いて、「とも」と呼ぶ。


 命をかけて戦うということは、互いに理解し合うということでもある。


 言葉などなくても。

 種族が違っても。


 死線の中でしか分かり合えないものがある。


 ジェイルは、静かに見守る。

 やはり、トンソクはただのオークではない。


 この背中に、どれほどの宿命を背負っているのか――。


 そしてアルドは考えていた。


 蒸しか。


 焼きか。


 それが問題だ。


 チャンピオン個体の肉質はいかほどのものか。


 普通のランドコカトリスより筋肉が発達している。


 おそらく、硬い。


 だが、その分、旨味も濃いはず。


 じっくり蒸して柔らかくするか。

 あるいは、皮をパリッと焼いて、噛みごたえを楽しむか。


 香草があれば最高。

 旨塩があればなお良し。


 いや、贅沢は言うまい。


 今はあり合わせの物で我慢してやろう。


 あの触れるだけで斬れそうな殺気は、どこかへ消し飛んでいた。


 完全にいつものブタ顔である。


 アルドは、ふっと息を吐くと、メタモルフォーゼを解除した。


 ワイルドオークの姿が崩れ、筋肉質だった体が縮む。


 だが、そこに現れたのは、いつものピンク色のオークではなかった。


 漆黒で小柄。


 リアとそう変わらないほどの背丈。


 今まで見たこともないオークの姿だった。


「おい!お前その姿はどうしたんだ!?」


 ジェイルが目を見開く。


 驚くのも無理はない。


 そこにいたのは、見たこともない小柄なオーク。


 どこか、影のように薄く、悪戯を企んでいる子供のような姿。


 それが、アルドの新たな進化、「ハイドオーク」だった。



 時は、少しだけ遡る。


 アルドが、上半身だけで地面を駆けていった時のこと。


 両腕だけで、がしがし、口には万能包丁。


 下半身はない。


 残ったアルドの頭にあったのは、一つだけ。


 ジェイルが落とした料理。


 あれを食えば、体が戻るはずだ。


 正確には、もう一つあった。


 殺す。

 絶対に殺してやるからな、あの鳥野郎。


 なぜここまで怒りが湧いてくるのか、アルド自身にも分からなかった。


 感情というより、魂の命令に近い。


 理屈ではない。


 遺伝子に刻まれた何か。

 奥底に埋め込まれた衝動。


 かつて、剣の師である『刹那』に言われた言葉が、頭の片隅をよぎった。


 お前の中には、もう一人のお前がいる。

 お前という人間ではなく、『勇者』という概念そのもの。

 御せよ。

 でなければ、それは、いつかお前自身を飲み込むぞ。


 知るか。

 なら、この滾る何かを、どこにぶつければいい。

 答えてみろ!


 アルドは地面を掻きながら、内心で吐き捨てた。


 そして見つけた。

 ジェイルが落とした料理。


 いや、料理だったもの。


 モンスターに踏まれ、ぐちゃぐちゃになっている。


 どれが何の肉なのか分からない。


 焦げた生焼け。


 矛盾まみれの土まみれ。


 泥と一体化している。


 もはや食べ物ではない。


 だから?


 あの鳥野郎を殺すのに、それが何の関係がある?


 アルドは、その泥ごと散乱していた料理を貪り食った。


 土まみれ?


 関係ない。


 もともと炭化していたのだ。


 味?


 丸飲みすれば関係ない。


 飲み込め。


 取り込め。


 力に変えろ。


 この滾る感情のままに!


 アルドは泥と肉と焦げを、まとめて腹へ流し込んだ。


 その瞬間。


 体の奥で、何かが弾けた。


 レベルが上がる。


 一つ。


 また一つ。


 さらに一つ。


 泥の中の料理は、複数のモンスターのものが混じっていたのだろう。


 アルドの体が熱くなる。


 力が満ちる。


 そして、頭の中に声が響いた。


『レベルが10になりました。進化しますか?』


 あたりまえだ。


 アルドは即答した。


 使えるものは何でも使う。


 オークだろうが、スライムだろうが、モンスターだろうが関係ない。


 勝つためなら、何でもやる。


 進化開始。


 アルドの形が変わる。


 崩れた体が、再構築される。


 スライム状だった肉が収束し、別の質感を帯びる。


 黒く。


 影のように。


 そして、声が響いた。


『ハイドオークに進化しました』


 ハイドオーク。


 アルドは記憶を辿った。


 確か、そういうモンスターがいた。


 物がなくなると、子供がからかい半分に言う。


 ハイドオークに持っていかれたー。


 そういう存在。


 戦闘しているところなど、ほとんど見たことがない。


 とにかく手癖が悪い。


 何でも盗む。


 どうやっているのかは、長年の謎とされていた。


 追い詰めても、煙のように消える。


 だから、ハイドオーク。


 隠れるオーク。


 盗むオーク。


 消えるオーク。


 体も小さく、ノーマルオークより戦闘には向いていない。


 だから?


 アルドは口の端を歪めた。


 進化したからといって、今までの能力が失われたわけではない。


 確かに、スライムボディではなくなった。


 実体を持つようになった。


 だが、メタモルフォーゼの能力が失われたわけではない。


 スライムオークに進化した後でもワイルドダッシュが残っていたように、これまで得た能力は形を変えても残っている。


 ならば、今、戦闘に適した体へ変わればいい。


 ワイルドオークへ。


 アルドの体が再び変形する。


 漆黒の小柄な姿から、茶色の剛毛をまとった戦闘形態へ。


 レベルアップの効果か。

 あるいは、アルドの怒りか。


 力が漲る。


 そして、アルドは走り出した。



 ここまでが、先ほど起こったことだった。


 そして今、戦いは終わり、アルドはハイドオークの姿で立っている。


 ジェイルが目を丸くしたまま固まっていた。


「トンソク……お前、また変わったのか?器用な奴だな」


 まあな。

 ちょっと得意げな顔をした。


 だが、本心では違う。


 この姿、小さい体躯。

 リアとそんなに変わらない。


 歩幅がとにかく短い。

 一歩が小さ過ぎる。


 移動に時間と労力がかかる。


 これはイカン。


 そして何より……。


 ジェイルが見下ろしてくる。

 それが果てしなく気に食わない。


 ならば、答えは一つ。


 メタモルフォーゼ。


 アルドの体が、再び変化する。


 漆黒の小柄な姿から、見慣れたピンク色のオークへ。


 いつもの姿。


 戦闘には向いていないし、格好も良くない。


 威厳もない。


 だが、体力消費がない。


 省エネ形態。

 結局、ここに落ち着く運命。


「次から次へと、何がしたいんだ?」


 ジェイルが呆れたように言う。


 知るかっ!

 俺が聞きたいわ!


 アルドはブちぎれそうになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ