第六十四話「爆炎と、勇者の舞と、あと偵察」
思ったより、爆発は大きかった。
地面に埋めていた魔法弾は、アルドの想定を超える威力で炸裂した。
追ってきた十体ほどのグレイウルフは、木っ端みじん。
爆風で四方へ吹き飛び、黒焦げの肉片になって転がっている。
傍からみれば見事な戦果。
戦術的には大成功だが、食材としては、かなり怪しい。
肉片は土に混じり、焦げ、炭となっている。
これを食うのか?
いや、食えなくはない。
だが、できればもっと良い状態で食いたかった。
皮はぱりっと。
中はじゅわっと。
爆発で木っ端みじんにする料理は、いくら何でも雑すぎる。
アルドは自分の罠設計に、深く反省した。
火力調整。
次回の課題である。
しかし、その爆発に、モンスターの集団は一瞬足を止めた。
群れ全体が、土煙の向こうのアルドを警戒している。
さすがのモンスターでも、そこから何も考えずに突っ込んでくるほどアホではないらしい。
アルドは万能包丁を肩に担ぐ。
このまま止まられると困る。
魔法弾は、まだ残っているのだから。
誘導して踏ませるか、ラディカルショットで撃ち抜くか。
どちらにせよ、敵が動いてくれなければ意味がない。
ならば仕方がない、やるかアレを。
アルドは、封印されし必殺技を思い出した。
『勇者の舞』。
かつてアルドが、酒の席を盛り上げるために開発した技である。
勇者アルドの人生を、一つの舞として表現する。
誕生、修行、旅立ち。
出会いと別れ。
そして苦悩。
勝利。
それらを、全身の動きで表現する、壮大な舞。
ただし、仲間からは不評だった。
心底腹が立つので、二度とするな。
真顔で言われた。
そうして、勇者の舞は封印された。
だが。
今、解き放つ時!
アルドは万能包丁を地面へ突き立て、踊り始めた。
くね。
ぐね。
ぬる。
腰を振り、肩を揺らす。
短い腕を優雅に伸ばす。
片足で三回転を決め、止まる。
喜び。
怒り。
哀しみ。
楽しさ。
それらを、オーク顔でキメていく。
そのくねくねとした動きは、不快としか言い表せなかった。
ふざけているようで。
挑発しているようで。
馬鹿にしているようで。
それでいて、顔の喜怒哀楽だけはやけにしっかりしている。
だから余計に腹が立つ。
見てはいけないものを見せられている。
そんな感じだった。
遠くで見ていたリアは、真剣に首を傾げた。
「あれ、なにしてるの?」
ジェイルは額に手を当てた。
「俺に聞くな」
「トンソク、楽しそう」
「いや、あれはたぶん挑発だ」
「挑発?」
「おそらく、だけどな」
ジェイルにも自信がなかった。
その時、モンスターの一体が吠えた。
ランドコカトリスが嘴を鳴らす。
群れの空気が変わる。
明らかにキレていた。
先ほどの爆発で仲間が吹き飛んだ。
危険への警戒。
それらを押し流すほどに、目の前のオークの踊りが不快だった。
そして、モンスターたちは突撃を再開した。
アホだった。
「ぶひっ」
かかった。
単純な連中だ。
いや、単純ではない。
勇者の舞が高度すぎたのだ。
とりあえず、そういうことにしておく。
アルドは剣を引き抜くと、地面へ向ける。
ラディカルショット。
放たれた衝撃波が、二つ目の魔法弾へ直撃した。
爆発。
また十体ほどのモンスターが吹き飛んだ。
ランドコカトリスの羽毛が舞い、ラッシュボアが横転し、スパイクラットが空中でばらける。
だが、今度は群れ全体が止まらなかった。
数が多い。
前列が吹き飛んでも、その後ろが突っ込む。
犠牲やむなし。
だからどうした。
それがモンスターの強みだった。
知能は獣程度にはあるはず。
だが、メンタリティは虫に近い。
命が軽いのだ。
敵のも味方のも。
恐れを知らない。
腕がもげようが。
足が取れようが。
痛かろうが。
痒かろうが関係なし。
前へ。
前へ。
前へ。
ただ進む。
武器を持ち魔法が使える人間が、モンスターに遅れを取る理由の一つがこれだ。
人間は恐れる。
痛みを嫌う。
死を避ける。
仲間の死で止まる。
自分の損失を計算する。
モンスターとは違う。
だから、モンスターを狩るなら……。
モンスター以上の怪物になるしかない!
それが勇者。
それがアルド。
アルドは逆に集団へ向かって突撃した。
万能包丁をロングソードの形に保ったまま、真正面から飛び込む。
ランドコカトリスが嘴を突き出す。
アルドは半身でかわし、すれ違いざまに刃を振るう。
首が飛ぶ。
エッジビーストが鋭い鎌の腕で斬りつけてくる。
身を沈め、下を潜るように避けながら腹を裂く。
ラッシュボアの突進。
直前で横へ滑り、その勢いのまま、後ろ脚をぶった斬る。
巨体が転がり、後続を巻き込んだ。
互いに突撃状態なら、目の前の一体以外はいないも同然。
全力疾走しながら、横への攻撃は難しい。
通過してしまえば、やれるのは、急ブレーキと急反転。
だが。
急制動は、ワイルドオークの十八番だった。
ワイルドダッシュで地面を噛むように止まる。
土が弾けると、次の瞬間には、もう反転していた。
群れが向きを変えるより先に、アルドの体勢は整う。
ラディカルショット。
三つ目の魔法弾が炸裂。
今度は五体ほどが吹き飛んだ。
爆風で群れ隊列が崩れる。
そこへアルドが飛び込む。
斬る。
オーク一匹が、百を超えるモンスターの群れを掻き回していた。
その様子を、三人の兵士が見ていた。
セレスティアが置いた監視役である。
彼らは昨日の乱闘には参加していない。
だが、噂には聞いていた、化け物オークがいると。
檻をすり抜けた。
兵士を百人以上倒した。
馬鹿な話だと、最初は笑って聞き流した。
そんなわけがあるか。
オーク一匹に何ができる。
誇張に決まっている。
だが、食料を半分食われたと聞いて、笑えなくなった。
そして今日は、そのオークがモンスターの群れに八つ裂きにされる様を見に来た。
そう思っていた。
実際には、とんでもないものを見た。
「……強い」
一人が呟いた。
「とんでもないな」
もう一人が、喉を鳴らす。
あれは、ただ暴れているだけではない。
戦略的に爆弾の位置へ引き込んでいる。
群れを乱し、集団の弱点を突いている。
敵の性質を理解している。
そして何より。
恐れていない。
百を超えるモンスターの群れを前にして、怯むどころか、逆にイキイキしている。
「……あれで食料半分なら、安いもんだろ」
誰かが言った。
否定する者はいなかった。
三人は、報告を記録することも忘れ、アルドの戦いに見入っていた。
モンスターの中心で、アルドは万能包丁を振るう。
肉を捌くように……敵を斬る!




