表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オーク進化論~勇者がブタに?~  作者: 東雲 寛則


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/43

第三十九話「役目と、思い出と、あと尻パン」

 

「イグニッション!」


 アルドの全身が、真紅の光に包まれた。

 勇者の固有スキル『フルバースト』。


 全能力が二倍。

 MPを継続消費する代わりに、圧倒的な身体能力を得る。


 アルドの姿が消えた。


 否。


 速すぎて目で追えない。


 次の瞬間、魔竜の胸元に斬撃が走った。


 硬い鱗が砕ける。

 魔力の流れを止められているためだ。


 魔竜が反撃に出る。

 爪。

 牙。

 黒焔。

 尾。


 だが、アルドはすべてを躱し、いなし、斬る。

 無明朧流に力任せの攻撃など通じるはずがない。


「やっぱり……すごいです……」


 エリスが呟く。

 ラインが盾を構えたまま笑った。


「あれが勇者だ。悔しいが俺たちとはモノが違う」

「ええ」


 カナは鋼糸を操りながら、アルドの死角を潰す。


「アルド、左後ろ!」

「見えてる!」

「見えてるなら対処して!」

「お前の出番を作ってやってるんだ!ホントは嬉しいんだろ!」

「違う!」


 トールは魔竜の動きを観察し続けていた。


「アルド!胸部中央、魔力が集中しています。逆に利用できそうです!」

「そこが急所か?」

「おそらく!」

「おそらくかよ……」

「確定情報が欲しいなら一度喰らってください」

「ぷははっ冗談が上手くなったな、トール!」


 魔竜は倒れない。

 フルバースト状態のアルドでも押し切れない。


 黒焔魔竜ヴァルグレア。

 それは、厄災と呼ばれるに足る怪物だった。


 魔竜の口が開く。


 至近距離。

 最大魔力の極限黒焔ブレス。


「アルドーーー!」


 カナが叫ぶ。


 アルドは目を閉じた。


「アクセル!」


 真紅の光がさらに濃くなる。


 イグニッション後にのみ使える、フルバースト第二段階。


 MP消費は倍になる。

 しかし能力は三倍。


 効率は悪い。


 だが——


 強い。


 黒焔が放たれるより早く、アルドは魔竜の顎を蹴り上げた。


 ブレスを放つことはできず、後ろに大きくのけ反る。


「おらぁ!」


 アルドの聖剣が魔竜の胸を抉る。


 鱗が砕け、肉が裂ける。


 だが、まだ浅い。


「ちっ。硬いな」

「アルド様、長引くとMPが!」

 エリスが叫ぶ。


 アルドは笑った。


「分かってる……だから、さっさとケリをつける!」


 魔竜の翼が暴れる。

 尾が迫る。

 爪が大地を削る。


 そのすべてをかいくぐり、アルドは胸部中央へ迫った。


「ブースト!」


 光が……爆ぜた。


 第三段階。


 MP消費は、さらに倍。


 能力は四倍。


 持続時間は長くない。

 燃費が最悪。

 それでも、威力は極大。


「ベルガ聖騎士剣——」


 聖剣が白く輝く。


 魔竜が、本能的に危険を察した。

 黒焔を全身から噴き上げる。

 近づくものをすべて焼く、黒い炎の鎧。


 だが。


 アルドは止まらない。


 エルヴィント魔剣術『ルムージュの嵐』を放つ。

 魔力を乗せた暴風が、黒焔を一瞬だけ押し退ける。


 その一瞬でいい。


「ヘリオス・ブレイカー!」


 閃光が魔竜の胸を貫いた。


 心臓を穿つ一撃。


 黒焔魔竜ヴァルグレアの巨体が、大きく硬直する。


 グ、オオ……。


 咆哮が途切れ、巨体が崩れる。


 勝った。


 誰もが、そう思った、その時だった。


 空が割れた。


 もう一つの咆哮。


 空の上から、巨大な影が舞い降りる。


 同じ黒鱗。

 同じ双角。

 同じ気配。


 黒焔魔竜。


 二体目。


「嘘でしょ……番いだったの?」


 カナの顔から血の気が引いた。

 ラインがボロボロの盾を構え直す。


「エリス、下がれ!」

「はい!」


 トールが杖を握りしめる。


「まずいです。アルドのMPがもう……」


 その通りだった。


 フルバーストを使ったアルドのMPは完全に空。

 常人なら立っていることもできない。



「二体目か」

 聖剣を肩に担ぐ。

「チャンスを伺ってたとはね。勇者と戦うには、ちょっと物足りんとは思ってたところだ。武勇伝には弱すぎる」


「強がってる場合じゃないでしょ!」

 カナが叫ぶ。


「強がりじゃない」

 アルドはちらりと後ろを見た。


 そこにはエリスがいた。


 聖女が祈りを捧げている。


「御子が祈ります。神よ。御名において奇跡をお示しください……」


 祈りの声。静かで。澄んでいて。

 戦場の轟音の中でも、不思議とよく通る。


「勇者に、再び……力を……」


 光がアルドへ流れ込んだ。

 枯渇したMPが、一瞬で満たされていく。


 完全回復。


 アルドに力が戻った。


「……相変わらず反則級だな、さすが聖女様」


 アルドが笑う。

 エリスは微笑んだ。


「反則なのはアルド様ですよ」


 これが、勇者パーティ。


 カナが支える。

 ラインが守る。

 トールが見抜く。

 エリスが満たす。


 そして、アルドが全てを終わらせる。


 勇者以外は人間の域を出ない。


 だからこそ、勇者を支えるためだけに選ばれた。


 それが、このパーティの形だった。

 勇者のパーティの形だった。


 二体目の魔竜が黒焔を吐いた。


「カナ!」

「分かってる!」


「ライン!」

「エリスには指一本触れさせん!」


「トール!」

「右角の根元、魔力反応が薄い!そこを崩してください!」


「エリス!」

「いつでも準備は出来ております!」


 完璧だった。


 いつものフォーメーション。

 必勝の形。


 アルドは聖剣を構えた。


「イグニッション!アクセル!ブースト!」


「ベルガ聖騎士剣『ルミナス・エンド!』」


 白い光が、天から降りた。

 それは斬撃であり。

 祈りであり。

 勇者という存在そのものだった。


 魔竜の身体が縦に裂ける。



 静寂。


 燃える森。

 砕けた大地。

 二体の魔竜の死骸。


 その中心に勇者アルドが立っていた。


 振り返ると仲間たちがいた。


 カナは肩で息をしている。

 ラインは盾を支えにして膝をついている。

 トールは魔力切れで顔色が悪い。

 エリスは祈りの反動で、ふらついている。


 全員、限界だった。


 だが、生きている。


 勝った。


 アルドは笑った。


「皆!よくやった!」


 その一言に、全員が顔を上げる。


「カナ。お前の陽動がなきゃ奴は落とせなかった」

「当然でしょ。私がいないと、アルドなんて三回は死んでるんだから」


 アルドは笑う。


「ライン。エリスを守り切ったな。上出来だ」

「俺の仕事だからな」


 ラインが、少しだけ笑った。


「トール。情報は正確だった」

「それは、幸運でした」


 トールはため息をついたが、口元は緩んでいた。


 最後に。


 アルドはエリスを見る。


「エリス」

「はい、アルド様」

「お前がいなきゃ、二体目は無理だった」


 エリスは静かに頭を下げる。


「私は、祈っただけです」

「その祈りが一番重要なんだ」


 アルドは当然のように言った。


 勇者の力は圧倒的だ。


 だが、無敵ではない。


 MPが尽きれば、アルドもただの人。


 だからエリスがいる。

 聖女の祈りで、勇者のMPを満たす。


 何度でも。

 何度でも。

 勇者を勇者たらしめる。


 まさに、アルドのための『MPタンク』だった。


 それを、アルドは理解していた。


 だから感謝していた。

 仲間たちに。

 自分を支えるために選ばれた者たちに。


 彼らがいるから、自分は戦える。


 彼ら以外は戦闘でお荷物。

 勇者と共に立てる者など、そうはいない。


 だからこそ。


 感謝しなくてはならない。


 アルドは、そう思っていた。


 リーダーとして。

 勇者として。




「……ぶひ」


 ダンジョンから街へ向かう帰り道。

 アルドは、オーク姿で歩いていた。


 食べすぎで眠い。


 隣にはリアがいる。


「トンソク、しっかりしなさいっ!食べすぎなのよ!だから眠いのっ!」

「ぶひ」

「今度からそんなに食べちゃダメだからね?もうっ私がついてないとダメなんだからっ」


 ふくれっ面を、アルドはちらりと見た。


 リア。


 ど素人のモンスターテイマー見習い。

 聖女であるはずがない。

 エリスとは全然違う。


 なのに。


 さっき、リアの魔力はアルドに流れ込んだ。

 死にかけたアルドを、もう一度奮い立たせた。


 あの感覚。


 忘れていたものを、思い出させた。


 エリス。

 ライン。

 カナ。

 トール。


 勇者パーティ。


 自分を支えるために選ばれた仲間たち。


 それなのに。


 あいつらは。


 あれだけ助けてやったのに。

 あれだけ感謝してやったのに。

 勇者として、認めてやったのに。


 なぜ。


 俺を——


 アルドの中で、怒りが燻る。


 むかついた。


 やっぱり、むかついた。


 思い出すだけで腸が煮えくり返る。


 だから、決めた。

 改めて決意した。


(やっぱり、ぶん殴る!)


 あいつらに会ったら、絶対にぶん殴る。


 カナも。

 ラインも。

 トールも。

 エリスも。


 特にエリス。


 あいつは、少し強めにいく。


 泣くまで尻をパンパンしてやるから覚えてろ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ