第三十三話「オッサンと、勘違いと、あと大当たり」(後)
(ゾロ目——大当たり——っ!)
見えないところでアルドが小さくガッツポーズ。
ジェイルの両手の剣が雷を纏った。
バチバチと、青白い稲妻が刃の表面で踊る。
それはジェイルの全身も同様。
青い光が漏れる。
電撃の力を受けて、筋肉がさらに膨張。
三十三の効果。
『雷神化』。
全能力上昇に加え、武器に雷撃属性付与。
触れた敵は麻痺に加え、熱による追加ダメージ。
ジェイルの目がぎらりと光る。
「お前は片方の頭を抑えろ。片割れは俺が何とかする」
「……了解した、トンソク」
ジェイルが雷を纏った二刀を構えた。
(……ふっ、オークに指示を受けるとは、ね)
アルドの口の端が、無意識に上がった。
シャアアア——ッ!
百足の双頭が襲いかかる。
ジェイルは左の頭。
アルドは右の頭。
阿吽の連携。
ジェイルは真正面から受け止めた。
バチバチバチ——っ!
雷が百足の牙に火花を散らした。
ジジジジッ——!
奇妙な鳴き声とともに、百足の頭部が動きを止めた。
電撃で痺れているのだ。
「くそったれがーーー!これでも喰らいやがれっ!」
ジェイルが吠えた。
ぐぐっ、と剣をデスセンティピードの額に押し込む。
雷の熱で甲殻を焦がしていく。
もちろん、これで勝った訳じゃない。
だが互角には戦えている。
(……いいぞ、それで十分だ優男!)
アルドは、にやりと笑った。
その時アルドは、右の頭部と対峙していた。
片方なら。
無明朧流が活きる。
アルドは目を閉じる。
(……心を……研ぎ澄ませ……)
無明朧流極意。
極限の集中の中、闇に、朧が浮かぶ。
物質の特異点。
その一点を、断てば——
斬れぬ物なし!
鎧だろうが、
岩だろうが、
甲殻だろうが、
硬さも大きさも関係はない。
(……見えた!)
百足の足の節々。
それぞれの点に、白い光が浮かんでいる。
明かり無き朧。
それを断つ。
音すらなく、剣が奔った。
ズシンッ、百足の右側の足一本が地面に落ちた。
「な、なにあれ——っ!?」
離れた岩陰からミーシャが叫ぶ。
「すごい、すごーい!二人ともがんばれーっ!」
リアも見守っている。
ゴッツは必死にトラップ解除しているので、それどころではなさそうだ。
シギャアアアア——ッ!!
百足が咆哮を上げた。
苦痛と怒り。
甲殻を、何の抵抗もなく、斬られた。
初めての屈辱。
こんなものは間違いだ、と言わんばかりに無数の足で羽交い絞めにしようとする。
麻痺させて。
恐怖にのたうち回らせて。
頭からゆっくりしゃぶってやる。
まぁそんなところだろ?
でもな?
アルドの剣が再び、奔った。
次々と足が落ちる。
まるで、紙でも切るように甲殻ごと切断。
絶対優位。
しかし、アルドの足がふらりと揺れた。
(……ちっ、まずいな)
人型の維持。
ワイルドオークの時より遥かにマシだが、それでも消耗が激しい。
刹那の姿を維持するだけでなく、極限の集中力を要する朧流を使い続けている。
体力が持たない。
長期戦は不利だ。
(……なら短期決戦、だな。ここで全部使わせてもらうぜっ!)
MPはある。
幸いレベルアップに次ぐレベルアップで、最大MPは30だ。
行ったれ俺の必殺技!
「イグニッション——っ!」
アルドが、叫んだ。
その、瞬間、ぼうっとアルドの全身が真紅の光に包まれた。
フルバースト。
勇者アルドの固有スキル。
全ステータス二倍。
MP尽きるまで持続。
現在の、MPは30。
持続時間は十五秒。
十五秒でケリをつける!
「無明朧流『環』っ!」
アルドが回転を始めた。
一回転。
二回転。
そして三回転。
回転の度に一閃を放つ。
回るほどに、速度が上がる。
回るほどに、剣の軌跡が増える。
奔る刃。
百足の残った足を次々切断。
それどころか……
胴体すらも切り刻む。
百足の目がアルドを睨むが。
(……終わりだ)
最大回転。
閃光が、首に奔った。
ぴしゅぁ——っ!
切断音すらなく、右頭部が宙に舞った。
どんっ。
地面に落ちた赤い複眼が、ゆっくりと光を失う。
(おっしゃ、勝ったぜっ!)
ここでフルバースト終了。
MPはゼロ。
体力もゼロ。
人型の維持が出来ない。
ぐにゃりとアルドの姿が揺らいだ。
輪郭が溶ける。
収束していられない。
ぐにゃ、ぐにゃ、ぐにゃ。
ピンクのぽっちゃりボディに変化。
「……ぶひっ」
アルドは地面にぺたりと座り込んだ。
もう何も残っていない。
全部を使い切る前に倒せた。
ジェイルが片方を抑えてくれたおかげだな。
少しは感謝してやるか。
そう思い。
ジェイルの、方を見た。
……ん?
……あれ?
……ジェイルさん?
ジェイルは地面に倒れていた。
否、倒されていた。
無様に地面に転がっている。
(お前何やってんの?)
ぐぞぞぞぞ——っ!
背後から激しい移動音。
振り返る。
そこには。
デュアルヘッド・デスセンティピードのもう一つの頭が牙をむく!
すぐそこまで迫っていた。
アルドは動けなかった。
動くことは出来なかった。
体力もMPも、ゼロなのだから。
人型化も、ワイルドダッシュも、不可。
何も、できない。
(……クソカッコつけがーーー!信じたのに——っ!騙された——っ!あの流れで負けてんじゃねーよ!!)
アルド、心の、絶叫。
(俺はこんな、ところで——っ!死ぬってのかーーーっ!)
ガキィン——っ!
牙が、アルドの胴体に食い込んだ。
深く、深く、深く。
ロングソードを盾に何とか耐える。
が……。
ばぎぃぃぃっ!!
折れた。
最後の頼みのロングソードが。
牙が左右から閉じる。
両断。
オークの、ぽっちゃりボディが、二つに。
上半身と、下半身が別々に地面に落ちる。
シャアアアア——ッ!!
百足の左頭部が勝利の雄叫びを上げた。
「嘘だ……そんなの嘘でしょ?トンソクは強いのっ。私のトンソクはとっても強いのっ。いやだーーーートンソクーーー——っ!!!!いやだーーーー!!!」
バルドたちと、その光景を見ていたリアの絶叫が——
ボス部屋に響き渡った。




