第二十七話「進化と、ぐにゃぐにゃと、あとホントの姿」
「な——」
「な、なんだっ!?」
「ブタくんが光って——」
四人がサンドイッチを口に咥えたまま、固まった。
「ト、トンソクっ!?」
リアが、慌ててアルドに駆け寄ろうとする。
しかし——
光は、ますます強くなる。
眩しい。
近寄れない。
そしてアルドの輪郭が滲んでいく。
体が、ぐにゃりと歪んだ。
「い、いや——っ!」
リアの悲鳴。
アルドが——
溶け始めた!
ワイルドオークの茶色い剛毛に覆われた体が、液状に変質する。
筋肉質のボディが——
ぐずぐずと、崩れていく。
ぐにゃ。べちゃ。とろ。
もうオークの体を成していない。
「ト、トンソクっ——っ!!トンソクっ!トンソクっ!しっかりしてっ!?」
リアは完全にパニック。
泣きわめいている。
アルドは——
すでに水たまりと化していた。
「……お、おい……あいつ……スライム、食いすぎたんじゃ……」
「あ、ありえるわ……」
「内側から溶かされたんだ」
「な、なんてことだ……食い意地が、身を滅ぼす、か」
ジェイルがぼそりと呟いた。
「やっぱり、オークだったってことか。ご愁傷様」
(おい、待て、こら!勝手に殺すな!)
アルドは心の中絶叫した。
俺は進化したんだつーの。
くそっ、体がうまく動かせねー。
なんだコレ。
ぐぐっ、と体が再生し始めた。
ぐにゃぐにゃの粘液状のボディが収束していく。
元にワイルドオークの形に。
「あ、トンソクがっ!戻ったっ!戻ったよっ!」
リアがぱぁっと顔を輝かせた。
「よ、よかったぁぁ……」
ぎゅっとアルドに抱きついた。
しかし——
次の、瞬間——
ぐにゃっ。
また、形が、崩れる。
「わっ!?気持ち悪っ!」
リアが思わず飛びのいた。
「ちょ、ト、トンソクーーー!?」
そして、またワイルドオークに戻る。
「あ、戻ったっ!」
と見せかけて、また崩れる。
ぐずぐず。
また、戻る。
また、崩れる。
「……」
四人が、ドン引きでそれを見ていた。
「な、なんなんだよ、気持ち悪いな……」
「安定しねぇ……」
「遊んでんのか……」
「もう、わけわからん、ホントにこいつ何者なんだよ……」
(俺だって、わけわかんねぇよ——っ!)
進化、したはずだ。
強くなったはずだ。
なのに、なんでだ?
頭の中に——
システムメッセージが流れた。
『ワイルドオークから進化しました』
『種別名:スライムオーク』
『固有スキル:メタモルフォーゼ』
……スライムオーク?
……そういうことか!
アルドは、自分の半分溶けた体を見た。
ぷるぷる揺れる粘液質のボディ。
半透明の肌。
ぼやけた輪郭。
スライムの性質を持ったモンスター。
自在に形を変える『スライムオーク』。
噂には聞いたことはあるぜ。
かなりのレアモンスターだ。
もっともレアなだけで、強いという話は聞いたことはねーが。
スライムか?
スライムを食いまくった呪いか?
意味わからん種族に進化しちまった。
失敗かよっ!
待て、落ち着け俺。
スライムオーク。
スライムの性質を持つオーク。
つまり——形状を自在に変えられるってことじゃないのか?
固有スキル『メタモルフォーゼ』。
形を変える能力。
……それは、わかった。
わかったが——
じゃあ、なんで思い通りにならねぇんだよ!?
ぐにゃっ。
また、形が、崩れた。
「うわっ!」
「キモっ……」
……。
……お前ら容赦ないね。
落ち着け、落ち着け。
形態変化のスキルってのは、たぶん、自分がイメージした形になれるってことだ。
アルドは、目を閉じ集中する。
頭の中にワイルドオークの姿を描く。
さっきまで、自分が纏っていた姿。
……。
……。
ぐにゃぐにゃ、と揺れていた体が——
止まった。
収束する。
固まる。
茶色い剛毛が生え揃い筋肉が引き締まる。
ぐにゃりとした輪郭がワイルドオークの形に。
戻った。
「あっ——」
リアが、ぱぁっと顔を輝かせた。
「トンソクっ!トンソクだっ!」
「お、おお、戻ったぞ!」
「ちゃ、ちゃんと、オークだ……」
「もう、びっくりさせないでよ……」
ふぅ。
なんとか、なった。
ワイルドオークの姿をイメージしたら戻った。
失敗の原因がわかった。
ワイルドオークのイメージがあやふやだったのだ。
だから、形が安定しなかった。
今は自分の姿を全力で思い描いている。
だから戻れた。
なるほど、メタモルフォーゼ。
結構便利じゃねぇか。
自在に形を変えられるってことだろ?
可能性は——
無限大。
……ん?
……なんか、重いぞ。
……いや、なんか、しんどい。
体力がじわじわ削れていく。
ワイルドオークの姿を維持するだけで、体力を消費している!
ただ、立ってるだけでも限界——
いや、姿を保ってるだけで——
……まずい。
このまま、ワイルドオークの姿を維持してたら——
俺は死ぬ。
ぐにゃっ。
アルドは、姿を保てず、その場で液状化した。
そして——
崩れ落ちた体が——
べちゃっ。
周囲に飛び散った。
「うわっ!?」
「なんか飛んできたー—っ!」
「き、汚ないっ!」
「お、おい、これ、取れねぇぞっ!?」
「もうやめてくれっ……」
「うっ……気持ち悪い……」
「ち、ちょっと、ヤダ、ヤダ、ヤダーっ!」
「もーっ、トンソクってばあっち行ってーっ!」
非難轟々っ!
びっくりするほど罵詈雑言の嵐。
不可抗力だろっ、いい加減にしろ!
……くそっ、これ、まずいぞ。
アルドは、必死に頭を回転させた。
ワイルドオークの姿は異常に体力を消費する。
維持できない。
イメージに多大な労力が割かれているし、無理やり形作るとHPが削られる仕組み。
じゃあ、別の姿は?
もっと体力消費の少ない姿——
(要は、俺にとって一番しっくり来る形——本来の姿——本当の魂の形——)
……。
……。
頭の中に思い浮かべる。
本来の自分。
集中する。
ワイルドオークじゃない。
スライムオークでもない。
もっと——
ホントの俺!
(これだ——っ!)
水たまり状態の体が収束し始めた。
「あっ——」
「な、何か、形が変わって——」
「今までと違う——?」
「お、おい、まさか——」
粘液が収束する。
ぐにゃぐにゃ、と揺れながら——
人の形に。
二本の脚。
二本の腕。
胴体。
頭。
「ト、トンソク——?」
リアが目を見開いた。
粘液が人型に収束するその様子を、ただ見つめている。
ついに粘液の流動が——
収まった。
ダンジョンの空間が静まり返った。
アルドは、ゆっくりと自分の体を確認する。
……。
……。
ピンクの肌。
丸いお腹。
短い後ろ脚。
二本の、小さな牙。
……。
……。
普通のオークだった。
見慣れた姿。
……は?
なんでやねん——っ!
……いや、待て。
考えろ、考えるんだ。
魂の形。
一番しっくり来る姿。
体力消費の少ない形。
……まさか、俺の魂って——。
ピンクのブタなのか?
このぽっちゃりボディなのか?
アルドは号泣した。
それでも消費体力ゼロ。
……普通に動ける。
リアが突然駆け寄ってきた。
「前のトンソクだーーーーっ!!」
ぎゅっとピンクのアルドを抱きしめる。
「やっぱり、トンソクはこのほうが可愛いっ!」
「あ、あいつ、姿を変えられるのか……?」
「普通のオークになりやがった……?」
「でも、それって意味あるの?」
「で、これが、本来の姿……ってわけだな」
ジェイルが呟いた。
んなわけねーだろ!




