第二十一話「登録と、手数料と、あと年齢」
「すまんジェイル……ちょっといいか」
三人が鑑定士を待っていると、一人の冒険者がジェイルに近づいてきた。
三十代後半の痩せた男。
目つきが鋭い。
他の冒険者とは違い、少し疲れた雰囲気が違う。
「先日の件で、ちょっと話があるんだ」
「あー、その話……」
ジェイルが、苦笑した。
男がギルドの隅の方を、指差した。
人気の少ない奥の机。
どうやら他の者には聞かれたくない様子。
「嬢ちゃん。ちょっと向こうで話してくる。すぐ戻るから待っててくれ」
「はーい!」
ジェイルが、リアをちらりと見て笑った。
リアなら問題はないだろう。
そんな顔。
そのまま、男と共にギルドの奥へ消えていった。
(……なんか気になるんだよな、あいつの視線。害があるって感じじゃないんだ。言いたいことがあるならハッキリ言えって!)
アルドはジェイルを目で追ったが、それ以上の関心はなかった。
冒険者同士の内輪話。
依頼の話か、誰かの噂か、金の話か。
知らんし、興味もない。
俺は素材を売って、金を手に入れて、村に帰る。
それだけだ。
ジェイルが何者であろうと、何を企んでいようと、リアと俺に直接危害を加えなければ、それでいい。
危害を加えるならば、それでもいい。
その方が分かりやすい。
とりあえず、他の素材も運んでおくか。
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しばらくして、受付の男が戻ってきた。
隣に白衣を纏った痩せた老人。
眼鏡をかけ、手には革張りのノート。
「鑑定士のガラントだ」
受付の男が紹介した。
「それじゃお願いします」
「うむ、わかった」
ガラントが、台の上の素材をじっくり眺めた。
指で皮の表面をなぞり、匂いを嗅ぐ。
硬度を確かめる。
他の素材も順次チェック。
しばらくの沈黙。
やがてガラントが、ふぅと息を吐いた。
「間違いないな。ジャイアントゴブリン、それも、特殊個体のものじゃ。これだけの大きさ、これだけの密度——希少品じゃな」
ギルド中が、またざわついた。
「やったね、トンソク!特殊個体だってー!高く売れるかな!」
アルドは、にやりと笑った。
「で、いくらになるんですか——っ!?」
リアが、わくわくと受付の男に尋ねる。
受付の男が、ガラントと顔を見合わせ頷き合った。
「皮、骨、爪、牙、武器、全部合わせて——」
「金貨、十枚」
「じゅ——っ!!?じゅ、じゅう枚——っ!?金貨——!?」
リアが、目を、見開いた。
その場で、ぴょんと跳び跳ねる。
「ああ。特殊個体の素材は、それだけ価値がある」
金貨十枚。
リア一家、十年間食っていける。
ウルムの村の年間予算にも迫る金額。
「やったぁぁぁ——っ!やった、やった、やったぁぁぁ——っ!」
(いや、まぁ当然だろ?それでも少ないくらいだ。何せ腕ちぎられて腹貫かれたんだぜ?それを考えれば安すぎる!)
アルドは内心では全く納得していない。
が——。
きっとこんなもんなのだろう。
さっき馬鹿にした冒険者どもが指を咥えてるしな。
痛快痛快!
「ただし」
受付の男がリアの興奮に水を差す。
「お嬢ちゃん、これは外部の買取になるんでね」
「……ふぇ?」
「まず国に納める税金が五割」
「ご、五割——っ!?」
「さらに、ギルドの取り扱い手数料が三割」
「さ、三割——っ!?」
「合わせて、八割が差し引かれる」
ゆっくりと、羊皮紙に数字を書きながら計算をしていく。
「金貨十枚から、税金五枚、手数料三枚。残りは金貨二枚」
(……は?)
アルドは、ぴくりと鼻を動かした。
今、なんて言った?
税金が五割?
冗談だろ。
通常の素材取引の税金は、高くて三割。
五割なんて、戦時下の臨時税くらいだ。
(なんでそんなことになってる。説明しろ!)
しかし——
アルドは、ぐっとその言葉を飲み込んだ。
ブヒッしか、しゃべれない。
気持ちを慮って説明してくれる親切なヤツなど、ここにはいない。
はみ出し者の集まり、冒険者ギルドだからな。
しかも俺はテイムモンスター。
モンスターが税金のことを語りだしたら、さすがにみんなパニックだ。
税に物申すオークなんて嫌すぎる。
俺らな殺すねっ、そんなモンスター。
リアが——項垂れていた。
「しょんな……金貨、二枚——」
しょぼん、と、肩を落とす。
目元に涙が滲んでいた。
「……みんなで分けるのに足りないよぉ……家が、壊れた人、いっぱいいるのに……二枚じゃ建て直せないよぉ……」
受付の男も、苦そうな顔をしていた。
「すまんね、お嬢ちゃん。こればかりは規定でね……せめて冒険者だったら……」
リアが、顔を上げた。
「冒険者だったら、何かあるんですか?」
「うむ。冒険者ギルドに登録している者は、手数料は一割になるんだよ」
「一割!」
「ああ。だから、冒険者はもっと多く報酬を受け取れるんだ」
リアが、はっ、と目を見開いた。
「私、登録するっ!」
「……なんだって?」
受付の男が、固まった。
アルドも、固まった。
待て待て。
冒険者ギルドの登録ってのは、確か——
「すまないねぇ、お嬢ちゃん。冒険者の登録には年齢制限があるんだ」
「年齢制限?」
「ああ。十六歳以上、つまり、成人になってからしか登録できない」
受付の男が、優しく続けた。
「お嬢ちゃんは、まだ十二かそこらだろう?あと、四、五年待たないと——」
「私、十六だよ?」
その瞬間——
受付の男の、動きが止まった。
アルドの、思考が止まった。
ギルド全体の、空気が止まった。
……は?
いま、コイツなんつった……?
「だから、私、十六歳。今年なったばっかりだけど」
リアが、不思議そうに、首を傾げた。
「大人だよ?」
アルドは、ゆっくりと、リアを見た。
薄茶色の髪を、後ろで束ねた小さな少女。
身長、百四十センチ、あるかないか。
胸は平らで、まったく成長していない。
顔つきは、明らかに子供。
どこをどう見ても12歳。
下手すれば、10歳。
それが——
16歳?
成人?
俺と、たった4つしか、違わない?
嘘だー。
思わずアルドの脚が、ふらり、とよろめいた。
ギルドの木の椅子に——どさりと座り込む。
「トンソク?どうしたの?おなかすいた?」
リアが、心配そうに、覗き込む。
その顔は、相変わらず無邪気な子供の顔。
でも、実年齢16。
アルドは20。
たった、4歳差。
こいつ、子供じゃねぇじゃん。
守る必要ねぇじゃん。
それなのに、こんなに振り回されてるの?
ひどくない?
「ところで!登録できますか?」
リアが、受付の男に、もう一度聞いた。
「えーと……身分証はあるかい?」
「あるよっ!はい!」
リアが、首から下げていたペンダント型の身分札を、受付に差し出した。
受付の男が、それをまじまじと見る。
生年月日が書かれている、確かに十六歳。
成人。
「……ほ、本当だ……」
受付の男が、額を拭った。
「い、いや、すまん、お嬢ちゃん——いや、ええと、リアさん。大変失礼な物言いを——」
「ううん、気にしないでっ」
リアが、にっこりと、笑った。
「成長期はこれからっ。すっごい大きくなるよ?」
(これから、すっごい伸びる気か……)
アルドは椅子の上で、呆然とリアを見上げていた。




