第百十五話「十日と、満月と、あと奇襲」
「ぶひ!?」
アルドが勢いよくメイトを振り返った。
おい!今何て言った?
「だから、いつ頃攻めてくるかなら、たぶん分かるっす」
「だせ!今すぐその情報を吐きだせっ!」
「ちょ、アニキ、近い!近いっす!」
アルドが詰め寄る。
いつだ。
いつ来る。
「えーっと……」
メイトが前足を上げ、爪を一本ずつ折るように数え始めた。
「えーっと、アレがアレだったから……んで……」
遅い。
「知ってることは全部いえ!」
「わ、分かったっす!全部いうっすから!」
メイトが慌てて両前足を振る。
「デモンレイア様は今、魔王様の勅命で探し物をしてるらしいっす」
何の話だ。
「それが急に決まった仕事らしいんすよ。だから元々の予定を後回しにして、そっちを優先してるっす」
アルドは苛立った。
知りたいのは襲撃の日時である。
何の話をしとるんだコイツは。
だが。
このチビドラゴンは、余計な話の中へ超重要情報を混ぜ込む癖がある。
我慢して聞く。
「本当は、ガルディアスより、この城の攻略が先だったんす」
「……そうなのか?」
「探し物がなかなか見つからない。だから俺っちが別動隊として、先にガルディアスへ侵攻してたんすよ」
そうだ。
メイトはヴァルデマールへ寄生し、ガルディアスを内側から崩す役目を担っていた。
「それで?」
「もし俺っちがヘマをこいたら、デモンレイア様は、元々の仕事に戻るっす。それがトール様の指示だったっす」
メイトが当然のことのように語った。
アルドの中で、いくつもの情報が一気に結びついた。
元々の仕事って。
「もちろん、このファスタ城の攻略っすよ」
やはり。
メイトは失敗し、ガルディアスは奪還された。
「なら、デモンレイアは、中断していた任務へ戻るってことか」
「そっす。ガルディアスが奪還されたって向こうに伝われば、デモンレイア様はすぐにコッチへ来るはずっす」
アルドはメイトの肩を掴んだ。
「な、何すか?」
「だからそれはいつだって!もったい付けんなっ!」
「ちょ、揺らさないでくださいっす!」
「た、たぶん!定期連絡の間隔からすると!」
ぐらぐら揺さぶられながら、メイトが叫ぶ。
「奪還されたのがわかってから、十日以内には確実に来れると思うっすー!」
十日。
待て。
ガルディアスを奪還してから何日経った?
砦を出て、王都へ向かった。
途中で野営を挟み。
城へ入り、謁見。
頭の中で日数を数える。
八日。
今日で八日目。
「ぶひぃぃぃっ!?」
「ぐえっ!?」
今度はメイトの首を掴んだ。
もう、いつ来てもおかしくねぇじゃねぇか!この野郎!
「く、苦しいっす!アニキ!首!首はダメっす!」
「ふざけんな!お前は何で毎回毎回、とんでもない情報を後から出すんだ!」
「だ、だって!」
メイトが必死に羽をばたつかせる。
「聞かれなかったっすから……」
「うるさい!黙れ!」
「トンソク?」
リアが不思議そうに首を傾げた。
「何でメイトの首しめてるの?ケンカ?」
「…………ぶひ」
「違うの?」
アルドは渋々メイトを離した。
「げほっ、げほっ……死ぬかと思ったっす。俺っち悪くないっすよね?」
アルドが睨む。
「……あ、いえ、何でもないっす。次の質問どうぞ」
学習が早い。
「戦力はどのくらいある?」
「戦力っすか?」
そうだ。
デモンレイアがここへ来るとして、どれくらい連れてくる。
「うーん……」
メイトは少し考え込んだ。
「たぶん、アークデーモンが二十くらいっすかね」
二十。
アークデーモン。
一体でも並の冒険者パーティでは手に余る高位魔族。
それが二十体ともなれば、一国にとっては災厄に近い。
だが。
アルドは眉をひそめた。
思ったよりも、はるかに少ない。
「ここに来るまで、移動が多かったっすからね」
メイトが説明する。
「機動力のある獣型の魔物が主力で、この国の各地に散ってるっす。デモンレイア様の近くに残ってるのは、護衛用の連中くらいだと思うっすよ。この国の戦力なら、これで十分って言ってたような?」
なるほど。
アルドは納得した。
ファスタを辺境と侮っているのだ。
それでもアークデーモン二十。
そして、カナ。
アルドの身体を使うデモンレイア。
まともな正面攻撃ならともかく、奇襲なら十分すぎる戦力だった。
十日以内。
今日は八日目。
誤差を考えれば、いつ来てもおかしくない。
アルドは、何気に窓の外へ目を向けた。
夜空には月が浮かんでいる。
その形を見て、一つ思い当たる。
三日後だ。
来るのは三日後。
アークデーモンは、月の満ち欠けに強く影響を受ける。
そして満月の夜、その力は大きく高まる。
わざわざ敵地の真ん中へ奇襲を仕掛けるのだ。
これを使わないほど、カナもデモンレイアも間抜けではないだろう。
なら。
来る。
三日後。
満月の夜!
「ぶひっ」
「なに?」
アルドはリアへ向かって、真剣にジェスチャーを繰り返す。
出来るだけ正確に伝わるように。
城。
応接室。
天井。
転移魔法陣。
そして。
三日後。
夜。
アークデーモン、二十。
情報を一つずつ。
「えっと……」
必死にアルドの言いたいことを飲み込む。
「勇者アルドは、ここに攻めてくる?」
「ぶひ」
「早ければ三日後の夜」
「ぶひ」
「アークデーモンが……二十くらい?」
「ぶひ」
「それで……応接室の天井にある転移魔法陣から入ってくる?」
「ぶひ」
リアは何度かアルドを見た。
そして。
「分かった!」
ぱっと表情が明るくなる。
次の瞬間、アルドへ抱きついた。
「ぶひっ!?」
「ありがとね、トンソク!」
ぎゅう、と抱き締める。
「やっぱりトンソクは頼りになるねっ」
「ぶ……」
「メイトもありがとっ!」
「きゅい!」
「じゃあ、ご主人様に伝えてくるねっ」
リアが立ち上がる。
「行ってきまーす」
ぱたん。
扉が閉じた。
部屋に残されたのは、アルドとメイトだけ。
「…………」
「…………」
「ア、アニキ!!」
「な、なんだ?突然大声だして」
メイトが尊敬の眼差しを向けている。
「何で来る場所どころか、日にちとか時間帯まで分かるんすか?スゲーっす!やっぱアニキ、頭いいっすね!」
ばさばさと羽を動かし飛び回る。
「そんけーっす!そんけーするっす!」
うるさい奴だ。
アルドはベッドへ腰掛けた。
別に大した推理ではない。
アークデーモンの魔力がもっとも高まるのは満月の夜。
次の満月は三日後。
わざわざ少数精鋭で奇襲するなら、もっとも力を出せる日を選ぶ。
それだけのことだ。
「でも、アニキ」
メイトが扉を見る。
「嬢ちゃん、一人で行かせてよかったんですかい?」
「?」
「あのクソ野郎んところに行くんでしょ?何されるか分かんねーっすよ。あいつ、さっきも何か気持ち悪かったし」
アルドは鼻で笑った。
心配いらない。
今の報告を聞けば、エルネストも、リアへ余計なことをしている場合ではなくなる。
三日後。
勇者アルドが、王城へ攻めてくる。
そう聞かされるのだから。




