表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オーク進化論~勇者がブタに?~  作者: 東雲 寛則


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/13

第十一話「樽と、六十匹と、あと首輪」

 牛小屋は、すっかりアルドの家になっていた。


 藁の敷き方も、寝転がる位置も、もう決まっている。

 入り口から二歩入って右側。

 そこが一番風通しが良くて、朝の光が顔に当たらない。


 我ながら、順応が早すぎるぜ。


 アルドは調理場からくすねてきた樽を眺めた。


 液体がなみなみと入った樽だ。

 それなりに重い。


 俺のメシを食った代金だ。

 これで済んだのなら上等だろ、なぁ?

 

 ブタは全く悪びれる様子は全くなかった。

 むしろ当然だと思っている節がある。

 

 きっとリアの一家も泣いて喜ぶに違いない。

 まぁ無くなったことに気が付くのは、いつになるか知らんけど。


 アルドは樽の縁を軽く叩いた。

 いい音がした。


 天井を見上げながら、アルドは考える。


 正体を明かすべきか否か。


 伝える方法はあるんだよなー。


 答えは超簡単、筆談だ。

 土の上に文字を書けばいい。

 俺はアルド、勇者で魔王四天王にオークにされて、ここまで転移させられた、と。

 それだけで、ただのオークではないと説明できる。


 しかし。


 信じるか?


 仲間に裏切られてブタになった勇者……。


 文字にしてみると、我ながら相当ひどい話だ。

 嘲笑と疑惑の眼差しが容易に想像できる。


 しかもテイムされている。

 テイム出来るのはモンスターだけ。

 どこをどう見ても怪しい。


 それだけじゃない。


 モンスターの中には人間の言葉をしゃべるやつがいる。

 人間に化けて近づいて、言葉巧みにだますのだ。

 賢いモンスターほど、人間を利用しようとする。


 俺が村人の立場なら絶対信じないね。

 断言できる。

 実際しゃべるモンスターなど一刀両断にしてきた。

 聞く価値なし。


 元に戻れる保証もない。

 身体は正真正銘オークだ。


 勇者に戻れる見通しが立たない以上、下手に正体を明かしても混乱を生むだけ、か。


 今は様子見だな……。


 その時だった。


「ゴブリンだーーー!!!」


 かなり近くで、叫び声が聞こえた。


 アルドは即座に跳ね起きる。


 次々と声が上がる。

 悲鳴。怒号。子どもの泣き声。


 牛小屋から飛び出すと、村の入り口の方角が騒々しくなっていた。

 松明の光が集まっている。

 男たちが農具や斧を持って走る。


 やはり来たか。


 アルドは冷静だった。


 村の入り口に向かおうとして——止まった。


(違う!)

 嗅覚が、別の方角を指していた。


 東側だ。


 血と土と、ゴブリン特有の腐臭。

 それが村の入り口ではなく、森との境目から漂ってくる。


 やはりそうだ。


 村の入り口に現れた十匹程度は、囮だ。

 村人の目を引きつけておいて、本命を別のルートから侵入させる。

 ゴブリンの古典的な手口。


 アルドは牛小屋に戻り樽を担いだ。

 反対の手には松明を持ち……


 走った。



---



「トンソク!?どこに行くの!」


 後ろからリアの声がした。


 振り向くと、リアが走ってついてきている。

 その後ろを、父親が追いかけている。

 二人とも血相を変えていた。


 なんで付いてくるんだよ!

 お前らが来ても意味ねーだろ!


 時間が惜しい。

 構わず走った。

 東側の森の境目を目指して。


 嗅覚が叫んでいた。


 近い。


 すぐそこだ。


 木々の間から、それが見えた。


 やはりゴブリンだ。


 一匹、二匹ではない。


 三十、四十……。


(五十近いぞ!)


 アルドは立ち止まった。


 月の光に照らされたゴブリンの群れが、じわじわと村の方角に向かって進んでいる。

 村の入り口にいたのは十匹程度か。

 こいつらと合わせれば、六十近い。


 村人は二百人。

 しかしまともに戦える人間がどれだけいる?

 農夫、老人、女性、子どもは戦力外。

 実際に戦えるのは百もいないだろう。


 しかも、戦闘職でない村人なら、三人がかりでやっと一匹倒せるかどうか。

 侵入を許せば終わりだ。


 ゴブリンの習性は知っている。

 若い女をさらう。

 自分たちの種族を増やすために。

 残りは皆殺し。


 それがゴブリンというモンスターだ。


 リアと父親が追いついてきた。


 父親がゴブリンの群れを見て、顔から血の気が引いていた。

 当然だ。

 数が多すぎる。


「……こんなに……ゴブリンが……」


 呟いた声が震えていた。



 アルドは父親を見ると目が合った。


 次にリアを見た。


 村の方向を指差す。


 父親が、数秒だけ考え、頷いた。


 通じた。


 父親がリアの腕をつかみ走り出す。


「行くぞ!」

「え、でも、トンソクが——」

「いいから行くんだ!」


 リアが振り向いた。


「トンソクーーー!!」


 何かを叫んでいた。


 が、その声も次第に遠ざかっていく。


 これで懸念していた問題は解決。

 人質にでも取られたら厄介だからな。


 アルドは前を向いた。


 ゴブリンたちは、アルドに気づいたようで、先頭の数匹が立ち止まった。


 オーク。

 それがわかると、一瞬、動揺が群れ全体に波及した。


 ゴブリンとオークは、同じモンスター陣営だ。

 敵対する理由はない。

 なのに、なぜ?


 だから止まった。


 しかし。


 先頭のゴブリンが、アルドの首元に見つける。


 青白く輝く首輪を。


 テイムの証を。


 ゴブリンたちがざわめいた。

 この声なき会話が、アルドにも理解できた気がする。


 こいつは人間に飼われているオークだ。

 人間の味方だ。

 なんと情けない。

 しょせんはオーク。


 小馬鹿にした目だ。


 先頭のゴブリンが、薄ら笑いを浮かべ、何かを叫ぶと群れが動き出した。

 アルドに向かって。


 ゴブリンは武器が使える。

 人間から奪ったもの。


 ゴブリンが槍を構えた。

 錆びた刃がついた、粗末な槍。


 先頭の一匹が踏み込んだ。


 アルドは半歩だけ横に動くと、槍が虚しく空を切った。


 すれ違いざまに剣を振る。


 ドサッ……


 ゴブリンが倒れた。


 何が起きたのか、一瞬誰も分からない。


 それでも弾かれたように、次の一匹が来た。


 斧を振りかぶって、全力で、正面から。


 アルドは剣で受けた。

 衝撃があったが無造作に弾いた。

 

 オークとはゴブリンでは力が違いすぎる。


 そのまま返す刀で仕留めた。


 二体。

 あっという間の出来事だった。


 群れの動きが止まり、先頭から順番に表情が変わっていく。


 余裕から——困惑へ。


 このオーク、何かがおかしい。


 アルドは剣の血を払った。


 五十近いゴブリンが、目の前にいる。


 さて……


 アルドの口角が自然と上がる。

 ブタ顔でも、この表情は作れるらしい。

 下卑た笑みにゴブリンたちが戦慄する。


 ゴブリン退治と行きましょうか!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ