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第5話:白い船の報告


《セルカ》がリヴァーノの湾口に姿を現したのは、午後四時を少し回ったころだった。


 朝の出港から、まだ一日も経っていない。だが港では、すでに半日分どころではない噂が育っていた。


「東の怪船は三百尋もあるらしい」


「いや、海の上を飛んでたって聞いたぞ」


「船じゃない。古代人の城だ」


「ベルカディアが秘密裏に作った新兵器だって」


「ヴァルガニアの船だろ」


「帆なしで走るヴァルガニア船なんてあるかよ」


「魔物を船と見間違えたんじゃないか?」


 市場でも、酒場でも、荷役場でも、話題は同じだった。


 朝から十隻を超える船が、東方で異様な船影を目撃している。沿岸の通信魔法網を通じて届いた報告は、どれも一致していた。帆がない。煙がない。木造ではない。異様に速い。白い──あるいは遠目には灰白色に見える、巨大な船。


 そして昼を幾分か過ぎたころ、東へ調査に出た《セルカ》から、中継可能な海域へ戻った直後に短い魔法通信が届いた。


 内容は、たった三項目だった。


『接触成功』

『人が乗っている』

『会話に成功』


 それだけで、港は完全に仕事どころではなくなった。


 ◇


「《セルカ》だ!」


 灯台の監視員が声を上げた。防波堤の向こうに、風をはらんで膨らんだ帆が見える。


 普段なら、帰港する沿岸船一隻に注目する者など誰もいない。だが、今日は違った。岸壁には港湾労働者が集まり、漁師たちは手を止め、魚商人まで店を抜け出してきている。都市警備兵が、押し寄せる人垣を懸命に押し戻していた。


「下がれ! 荷役路を空けろ!」


「向こうの人間を連れてきたのか?」


「怪物は?」


「白い船はどこだ!」


「やっぱり魔物だったのか!」


《セルカ》が接岸し、縄が飛び、船員たちが係船索を巻きつけていく。その一連の作業が終わるより先に、質問が飛び交った。


 甲板に、船長のガルディオが姿を現した。長髪に無精髭、耳飾り、腰の湾曲刀。朝とほとんど変わらない、海賊じみた姿だ。


 だが、どこか妙に静かだった。


「ガルディオ!」


 顔見知りの漁師が叫んだ。


「どうだった!」


「でかかった」


「どれくらいだ!」


「ものすごく」


「何だそれ!」


 笑いが起こる中、ガルディオは甲板から降りた。


「人だったのか?」


「ああ」


「どこの国だ!」


「日本」


 聞き慣れない響きに、人々がざわついた。


「ニホン?」


「東にそんな国あったか?」


「昨日までは、なかったらしい」


 一瞬だけ、あたりが静まり返った。ガルディオはその隙に歩き出す。


「詳しくは?」


「領主閣下が先だ」


「おい!」


「あとで酒場に来いよ!」


「今日は無理だ」


 その返事に、知り合いの船乗りたちまでが顔を見合わせた。


 ガルディオが見知らぬ土地から帰ってきて、それを酒場で語らない。それだけで、今回の出来事がただ事ではないと皆に伝わった。


 後ろから、ネリオが降りてきた。両腕に抱えた帳面は、出港時より明らかに冊数が増えている。続いて降りてきたファルネは、まるで幽霊でも見てきたような顔をしていた。


「ファルネ!」


 魔術師ギルドの知人が駆け寄ってきた。


「船に術式はあったか?」


 ファルネは立ち止まり、何か答えようとして──結局、それだけを口にした。


「……それを説明すると、長くなる」


 ◇


 領主館の会議室に、港の潮の香りが持ち込まれた。


 ガルディオ、ネリオ、ファルネの三人の向かいに、リヴァーノ領主が座っている。その右には娘、左には直属の騎士。さらに港務官、魔術師ギルドの地方代表、ルメリア教会から派遣された司祭、財務を預かる官吏までが顔をそろえていた。


「それで」


 領主が身を乗り出した。


「どんな船だった?」


「まず、そこからですか」


 娘が言った。


「まずそこからだろう」


 ガルディオは咳払いをした。


「でかいです」


 領主の目が輝いた。


「どの程度だ?」


「百歩近くはあるでしょう」


「百歩?」


 港務官が顔を上げた。


「少なく見積もって、です」


「船幅は?」


「うちの船を横につけたら、子供みたいなもんです」


「積載量は?」


「知りません」


「砲は?」


「船首に一門」


 そこで初めて、騎士が口を挟んだ。


「一門だけか?」


「あからさまなのは、ですね」


「大きさは」


 ガルディオは手で大きさを示した。


「俺たちの大砲とは別物です。短い。だが……」


「だが?」


「向けられたくはないですね」


 騎士の目が細くなった。


「他の兵器は」


「見せてないんでしょう」


「つまり、不明か」


「そういうことです」


 待ちきれない様子で、領主が尋ねた。


「帆は?」


「ありません」


「櫂は」


「ありません」


「外輪は?」


「ありません」


「では、どうやって動く?」


「そこから話がおかしくなります」


「すでに十分おかしいぞ」


 ガルディオが目配せすると、ネリオが帳面を開いた。


「彼らの説明では、“機械”というものが仕事をしているそうです」


「機械」


 領主が繰り返した。


「水車や歯車のようなものか?」


 港務官の問いに、ネリオは首を振った。


「そう尋ねました。しかし、それより遥かに広い意味で使っているようです」


「魔導機械ではないのか?」


 ギルド代表がそう問うと、ファルネが顔をしかめた。


「それが」


 全員の視線が、彼に集まった。


「魔法ではないんです」


 沈黙が落ちた。


「……何が?」


「船が、です」


 ギルド代表は笑いかけて、途中でやめた。


「待て。あの大きさの船を、帆も櫂もなく動かしているのだろう?」


「はい」


「ならば推進術式がある」


「ありません」


「魔力炉は」


「感じませんでした」


「魔石は?」


「ありません」


「術式盤は?」


「ありません」


「隠蔽されていた可能性は」


「あるかもしれません。ただ」


 ファルネは苛立ったように頭を掻いた。


「船の中を歩き回って、灯りも、扉も、空気を冷やす装置も見ました。どれもちゃんと動いている。それなのに、私が知っている魔力反応がほとんどないんです」


 ギルド代表の顔から、血の気が引いた。


「では、何で動いているのだ」


「それを私に聞かないでください」


 一方の領主は、楽しそうだった。


「素晴らしいな」


「閣下」


 騎士が睨んだ。


「いや、素晴らしいだろう」


「危険です」


「危険であることと、興味深いことは両立する」


「閣下の場合、その二つが両立すると、後者しか見えなくなるのが問題なのです」


 娘が小さく息を吐いた。


 ◇


「乗員は?」


 港務官が尋ねた。


「三十数人」


 ガルディオの答えを、港務官は一度聞き流しかけ──そして止まった。


「何人だと?」


「三十と少し」


「……あの船をか?」


「ああ」


「一交代分の人数ではなく?」


「船全部らしい」


「そんな馬鹿な」


「俺もそう言いたかったよ」


 ガルディオは肩をすくめた。


「《セルカ》とほとんど変わらん人数で、あの城みたいな船を動かしてるんだ」


 財務官が眉を寄せた。


「漕ぎ手は?」


「いない」


「奴隷は」


「いない」


「下働きは」


「もちろん仕事をする船員はいる。だが、俺たちのような数はいらないらしい」


 領主は指を組んだ。


「機械が、人間の代わりに働く」


「本人たちは、そう言っていました」


「だから船員が少ない」


「たぶん」


「面白い」


「またそれですか」


 娘が呟いた。


 ◇


「そして、彼らは言葉を学びました」


 ネリオが言った。


「誰が?」


「道具が、です」


 司祭が、初めて眉を上げた。


「道具?」


「最初は、ほとんど話が通じませんでした」


 ネリオは経緯を説明した。指差し、絵、名前、数字、簡単な単語──そしてファルネの翻訳魔法。


「こちらの翻訳術も使いました。ただ、まるで向こうの道具が、それを見て学習しているようでした」


「学習?」


 ギルド代表が訊いた。


「最初は『我々、友、争わない』程度でした」


「それが?」


「数時間後には、普通の質問ならかなり通じるようになっていました」


 今度こそ、ギルド代表は黙り込んだ。司祭が静かに尋ねる。


「その道具には、意思があるのですか」


 ネリオは困った顔をした。


「分かりません」


「ミウラは、機械だと言ってた」


 ガルディオが口を挟んだ。


「ミウラ?」


「向こうの船長です」


「船長の名まで聞いたのか」


「俺の名も教えましたよ」


「それは良い」


 領主が微笑んだ。


「何がです」


 騎士が訊いた。


「名前を交換した相手とは、少なくとも名前を知らない相手よりも、殺し合いにくい」


 司祭がゆっくりと頷いた。


「一理ありますな」


「司祭殿まで」


「ただし、一理だけです」


 ◇


「彼らは、どこの民なのです?」


 娘が尋ねた。


「日本、という国です」


 ネリオが答える。


「島国?」


「そうです。地図を見せてもらいました」


 娘が反応した。


「地図を?」


「はい」


「どの程度正確なものでした?」


「……分かりません」


「写してきたの?」


 ネリオは少し誇らしげに、帳面から一枚の紙を取り出した。


「可能な範囲で」


 机の上に置かれたのは、細長い島々が弧を描いて連なり、複雑な海岸線を持つ──リヴァーノの誰も知らない形だった。


「この国が、東のどこかにあるのか?」


 領主が訊くと、ガルディオは首を振った。


「そこが一番妙なんです」


「妙?」


「昨日までは、この世界にはなかったそうです」


 誰も、言葉を発しなかった。


 窓の外から、遠くの鐘の音が聞こえてくる。領主ですら、すぐには質問しなかった。


 やがて、ギルド代表が低く言った。


「国土転移?」


「そんな術は知りません」


 ファルネが即座に答えた。


「お前が知らないだけかもしれん」


「国家一つですよ」


「古代文明なら」


「なら、なぜ日本人自身が知らないんです?」


 司祭が口を開いた。


「彼らは、それをどう説明している?」


「説明できない、と」


 ガルディオが答えた。


「原因を調べている最中だそうです」


「自分たちも知らないのか」


「ええ」


「嘘である可能性は」


 娘が小さく言った。


「あるでしょうな」


 騎士が答えた。


「異世界の民を名乗れば、出自を隠すには便利です」


「俺もそう思った」


 ガルディオが言った。


「でも?」


「嘘にしては、船がでかすぎる」


 騎士の目が細くなる。ガルディオは続けた。


「普通の嘘なら『遠い島から来た』で済むでしょう。あんな船を持ってる連中が、わざわざ誰も信じそうにない話を最初に持ち出す理由が、俺には分からん」


「信じるのか?」


「信じてはいません」


 少し間を置いて、ガルディオは言った。


「ただ、疑うなら疑うで、もっと話を聞かないと何も始まらんでしょう」


 騎士は、それには反論しなかった。


 ◇


「人口は?」


 財務官が訊いた。ネリオが帳面の頁をめくる。


「八千三百万です」


「……何だと?」


「八千三百万人」


「国全体でか?」


「そうです」


「八百三十万ではなく?」


 娘が聞き返した。


「私も三度確認しました」


 ネリオは紙に、現地の数字で「八千三百万」と書いてみせた。


 その場にいた全員が、しばらくその数字を眺めていた。


 リヴァーノ領内の人口など、比べものにもならない。ヴァレシア王国全体でさえ百九十万──その四十倍を超える数だ。


 領主の顔から、初めて表情が完全に消えた。


「間違いではないのか」


「向こうの道具が、数字を表示しました」


「国土は?」


「正確な面積は聞いていません。ただ、人口は確かです」


 財務官が小声で計算を始めた。騎士は、別のことを考えていた。


「その八千三百万を養える国が」


「はい」


「一隻の船を三十人で動かす技術を持っている」


「はい」


「そして、我々の知らない動力を使う」


「はい」


 騎士は椅子の背へ身体を預けた。


「……最悪だな」


「何がだ?」


 領主が振り向いた。


「敵だった場合です」


 その一言で、会議室の温度が下がった。


「敵対行動は?」


「ありません」


 ガルディオが即答した。


「一度もか?」


「一度も。こっちに大砲を向けもしなかった」


「こちらは武装していたのだろう」


「ああ」


「にもかかわらず?」


「むしろ、こちらが武器を下げたら、向こうも距離を詰めてきた」


「客人として扱われたのですか?」


 司祭の問いに、ガルディオは少し考えた。


「そうですね」


「侮辱されたことは?」


「なし」


「脅されたことは?」


「なし」


「何か要求されたことは?」


「なし」


「では、少なくとも現時点では」


 司祭は、胸元にある円環と炎を象った小さな聖印に触れた。


「彼らを敵と断じる理由もありません」


「ですが、安全とも言えません」


 騎士が言った。


「もちろんです」


 司祭は穏やかに返した。


「慎重であることと、無礼であることもまた、同じではありません」


「そういうことだ」


 領主が嬉しそうに頷いた。


「閣下がおっしゃると不安になるのは、なぜでしょうね」


 ◇


 領主が立ち上がった。


「では、私が会おう」


「なりません」


 騎士、娘、港務官──三方向から同時に声が飛んだ。領主が瞬きをする。


「まだ何も説明していないが」


「十分です」


 娘が答えた。


「日本人を招くのでしょう?」


「ああ」


「そして、ご自身で港まで迎えに行く」


「よく分かったな」


「お父様ですから」


「なら話が早い」


「早くありません」


 騎士が机に両手をついた。


「相手は、我々の王国全体より遥かに人口の多い、未知の国家です」


「だからこそ、領主本人が出る意味がある」


「相手が閣下を拘束したら?」


「なぜ拘束する」


「それを確認している最中なのです!」


「では、君も来ればいい」


 騎士は口を閉じた。眉間に深い皺が寄る。


「……そういう問題ではありません」


 ガルディオが横を向いて、笑いを堪えていた。


「笑うな」


「笑ってませんよ」


「顔が笑っている」


「生まれつきです」


 ◇


 その後の一時間は、日本人よりも、領主をどう扱うかの方が難航した。


 日本との接触そのものについては、意外なほど早く意見がまとまった。接触を断つ理由はない。むしろ、未知の巨大国家が沖合に存在する以上、情報を得ない方が危険である。交易の可能性、医学、造船、言語、自然哲学、そして魔法を使わない技術──聞くべきことは多すぎるほどだった。


 ただし、無制限に市内へ入れるわけにもいかない。最終的に決められた条件は、明快なものだった。


 日本側の正式な訪問団は少人数とし、指定の岸壁を使用すること。武装は護衛に必要な最低限にとどめ、無断での武器や魔法の使用は禁じる。市内の移動にはリヴァーノ側の案内を伴い、第一回の会談は港務所で行う。疫病その他の危険については、双方で確認する。


 そして日本側がこれを受け入れるなら、リヴァーノは彼らを公式な客人として迎える。


「妥当でしょう」


 娘が言った。


「異論はありません」


 騎士も頷き、港務官が記録を取る。


「では、迎賓の担当を──」


「私が」


「閣下」


 また始まった。領主は真顔だった。


「外国の正式な使節が、領内へ来るのだぞ」


「正体不明の外国です」


「だからこそだ」


「こちらの安全確認が終わるまで、お待ちください」


「それでは相手に失礼だ」


「閣下が亡くなられる方が困ります」


「私は、そんなに簡単には死なない」


「向こうの船を見たあとだと、それ、あんまり説得力ないですぜ」


 ガルディオが呟くと、領主は彼を見た。


「君までか」


「俺は閣下に金を借りてますから。死なれると寝覚めが悪い」


「返す気はあるのか?」


「もちろん。いつか」


 娘が額に手を当てた。


 ◇


 最終的な妥協案は、こうなった。


 日本側の使節が上陸したら、まず港務官と警備隊が接触し、危険がないことを確認する。その後、港務所前の広場で領主本人が正式に迎える。領主は岸壁そのものには出ない。


「岸壁から百歩以上は離れていただきます」


 騎士が言った。


「五十」


「百」


「七十」


「百」


「……分かったよ」


「護衛を減らそうともなさらないでくださいね」


 娘が横から付け加えた。


「威圧的ではないか」


「三十人です」


「二十」


「三十」


「君まで」


「お父様ですから」


 領主は不満そうに椅子へ座った。だが、その顔には隠しきれない期待が浮かんでいた。


 机の上には、ネリオが写した日本列島の地図と、ガルディオが描いた白い巡視船の絵。そして、大きく書かれた八千三百万という数字。


 領主はそれらを眺めた。


「別世界、か」


 誰にともなく呟く。


「本当に、そんな場所から来たのなら」


「どうされます?」


 娘が父を見た。


「聞くさ」


「何を?」


 領主は少し考えた。


「全部だ」


 騎士が、深いため息をついた。


 ◇


 その夜、リヴァーノでは、いつもより遅くまで灯りが消えなかった。


 酒場では白い船の話で持ちきりになり、商人たちは未知の交易相手について算盤を弾いた。魔術師たちは「魔法を使わない機械」という矛盾について議論を交わし、ルメリア教の司祭たちは、異世界から来たという人々をどう理解すべきか話し合った。


 港の子供たちは、帆のない船の絵を描いた。もちろん、誰一人として正確には描けなかった。


 そして、領主館では。


「お父様」


「何だ」


「寝てください」


「あと少しだ」


 領主は机に向かっていた。紙には、びっしりと質問が並んでいる。


 日本には王がいるのか。八千三百万もの民をどう養っているのか。なぜ三十人で巨大な船が動くのか。魔法なしで、どうやって光を作るのか。どのような文字を使うのか。どれほど遠くまで航海できるのか。病を治せるのか。空を飛べるのか。彼らの世界はどんな形をしていたのか。そして、なぜここへ来たのか。


 娘は、その紙に目を落とした。


「……これ、明日全部聞くおつもりですか?」


「もちろん」


「相手も疲れますよ」


「では、途中で食事を出そう」


「そういう問題ではありません」


 首を傾げる父を見て、娘は諦めた。


 窓の外、東の海は暗い。


 その遥か向こうに、日本という国がある。昨日まで存在しなかった国が。


 ◇


 翌朝、リヴァーノの東方監視塔で、見張りが鐘を鳴らした。


 一度、二度、三度。ただの船ではないことを示す合図だ。


「東方に大型船!」


 望遠鏡を握った監視員が叫んだ。港務官が塔の階段を駆け上がってくる。


「特徴は!」


「白い船体です!」


 朝日を受けて、水平線の向こうに白い船が浮かび上がっている。監視員は息を呑んだ。


「昨日の船です!」


 巡視船「いわみ」。その後部では、一隻の小型艇が発進の準備に入っていた。乗り込むのは、先遣使節の四名と護衛、そして検疫官。


 日本人が初めて、ヴァレシア王国の地に足を踏み下ろす朝が来たのだ。


 そして港務所では、その報告を聞いた領主が真っ先に立ち上がっていた。


「よし。迎えに──」


「まだです、閣下」


 騎士が即座に扉を塞いだ。


 リヴァーノの長い一日は、まだ始まったばかりだった。


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