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ジャンクヤードで眠っていた廃棄船を拾ったら、皮肉屋な美人AIを目覚めさせてしまった件  作者: よみ はじめ


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22話 古代との再開

宇宙の墓場が見えてきた。

無数の船の残骸が、恒星の淡い光を受けながら静かに漂っている。

その中に、一隻だけ見覚えのある船があった。

アークとほとんど同じ姿をした古代船。

「本当にアークと同型なのね」

操縦席の後ろから、レイナが船影を見つめた。

「ああ。中の造りもほとんど同じだ」

「ほとんど?」

「前に部品をかなり外したからな」

レイナがカイトを見る。

「……外した?」

「持って帰って売った」

「売ったの?」

声が一段高くなった。

「こんな古代船の部品を?」

「いい値段になったぞ」

「値段の問題じゃないわよ。あんな技術、調べたらどれだけ」

「その金でアークを直したんだ」

レイナの言葉が止まった。

カイトは続けた。

「床も壁も居住区も、かなり手を入れただろ」

「それは知ってるけど」

「お前の部屋もな」

レイナが黙った。

カノンが横からじろりと見る。

「ずいぶん都合よく恩恵だけ受けていますのね」

「カノンは黙ってて」

「なぜわたくしが怒られますの」

カイトは笑いをこらえながら前を向いた。

「ちなみに、お前が眠ってたカプセルは売ってないぞ」

「当然ですわ」

「アークに置いたままだ」

「それだけは褒めて差し上げます」

「重かったからな」

「今の一言で取り消しますわ」

その後ろで、NOVAが小さくため息をついた。

「それより、接舷したら歩いて行くのよね」

「当たり前だろ」

「面倒ね」

「また始まった」

NOVAは自分の両手を見た。

「肉体を取り戻した時は便利だと思ったのよ。でも実際に使ってみると、制約が多すぎるわ」

「例えば?」

「壁を抜けられない。床を無視できない。人がいたら避けなきゃいけない。扉まで開けないと先へ進めない」

「それを普通と言うんだ」

「ホログラム時代には必要なかった普通よ」

レイナが笑った。

「歩くのも嫌なの?」

「嫌というより非効率ね」

「身体、返してくるか?」

「それは絶対に嫌」

カイトは吹き出した。

「都合いいな」

「選択肢があるなら便利な方を使いたいだけよ」

アークが古代船へ接近する。

姿勢制御が働き、二隻の相対速度がゆっくり揃った。

接舷が完了すると、四人は連絡通路へ向かった。

NOVAが最後尾を歩きながら、また不満そうに呟いた。

「前なら、この距離を移動する必要すらなかったのに」

「まだ言ってるのか」

「だって事実でしょう」

「そのうち慣れる」

「その言葉、肉体を持って生まれた人間だから言えるのよ」

古代船へ入ると、レイナはすぐに周囲を見回した。

アークとよく似た通路。

だが壁際の装置が抜かれ、床には空の固定金具が並んでいる。配線だけ残っている場所もあった。

レイナの顔が引きつる。

「思ってた以上に持って帰ってるわね」

「使えそうなものだけだ」

「基準が商人なのよ」

「ジャンク屋だからな」

「古代文明相手でもジャンク屋なのね」

「むしろ最高級のジャンクだ」

「胸を張らないで」

NOVAが横を通り過ぎる。

「生命維持系と主機関には触ってないわ」

レイナがNOVAを見る。

「あなたが止めたの?」

「高く売れそうだったけど、さすがに止めたわ」

「売る気はあったのね」

「当然でしょう」

レイナは額を押さえた。

カイトたちは通路を進んだ。

前回、カノンを見つけた区画を通り過ぎる。

今、カノンが眠っていたカプセルはアークの中にある。

ここへ戻ってきた目的は、それではなかった。

前回、どうしても開かなかった部屋。

そして、何をしても応答しなかったこの船のメインAI。

その二つが、カイトにはずっと引っ掛かっていた。

「あの奥だ」

通路の突き当たりに、白い扉が見えた。

レイナが近づく。

「これ?」

「ああ」

アークの船内にも似た構造はある。

だが、この扉だけは明らかに違った。

取っ手もない。

制御端末もない。

継ぎ目さえほとんど分からない。

「前はどうしたの?」

「思いつくことは全部やった」

「制御系から?」

「駄目」

「非常解除」

「見つからない」

「切断」

「傷もつかなかった」

レイナが扉を軽く叩いた。

「さすが古代文明ね」

「最後はカイトが蹴ってたわ」

NOVAが言った。

レイナが振り返る。

「蹴った?」

「開かなかった」

「開くわけないでしょう」

「可能性は試す主義だ」

カノンが呆れた顔をする。

「野蛮ですわ」

「他に手がなかったんだよ」

その時、NOVAが扉の前へ出た。

表情が変わっている。

「どうした?」

カイトが聞く。

NOVAは扉を見つめたまま答えた。

「……変なの」

「何が?」

「前にもここに立った。それは覚えてる」

「そりゃそうだろ」

「違う」

NOVAが首を振った。

「もっと前よ」

カイトの顔から笑みが消えた。

NOVAは失われた記憶を少しずつ取り戻している。

一万年前。

まだ彼女の文明が存在していた時代の記憶。

「何か思い出したのか?」

「まだ分からない」

NOVAが右手を上げる。

「ただ、この扉……知ってる気がする」

その手を扉へ伸ばした。

以前なら、ホログラムの身体だった。

物に触れることもできなければ、認証される肉体もなかった。

今は違う。

NOVAの掌が、白い扉へ触れた。

「触るって面倒ね」

こんな時まで愚痴を言う。

「前なら手なんか伸ばさなくてもよかったのに」

「今それ言うか?」

「今だから言うのよ」

何も起きない。

数秒。

NOVAが眉をひそめた。

「ほら。やっぱり肉体って」

その瞬間だった。

掌の下に、小さな光が灯った。

NOVAの言葉が止まる。

細い光が指先から広がり、扉の表面を走った。

一本。

二本。

やがて複雑な幾何学模様となり、扉全体を覆っていく。

レイナが息を呑んだ。

「認証してる」

低い振動が足元から伝わった。

前回、何をしても動かなかった扉の中央に一本の線が浮かぶ。

ゆっくりと左右へ開き始めた。

カイトがNOVAを見る。

「肉体も役に立つだろ」

NOVAは開いていく扉を見ながら答えた。

「……今のところ、一勝二十敗くらいね」

「まだ負け越してるのかよ」

「壁を抜けられない損失が大きいの」

扉の向こうは暗かった。

カイトが先に入ろうとすると、NOVAが腕を出して止めた。

「待って」

先ほどまでの軽口が消えている。

NOVAが一歩、中へ入った。

カイトたちも続いた。

部屋はそれほど広くない。

中央に、一基の装置が置かれているだけだった。

アークにも似たものがあるようで、どこか違う。

レイナが近づこうとする。

「これ、もしかして」

装置に光が灯った。

全員が止まった。

低い音が部屋全体に響く。

それと同時に、船の奥から次々と機械が目覚める音が聞こえてきた。

遠くの照明が一つずつ灯っていく。

レイナが端末を見る。

「出力が上がってる。主系統が動き始めた」

「何もしてないぞ」

「NOVAを認識したのよ」

床を光が走る。

壁へ。

天井へ。

そして部屋の中央へ集まった。

NOVAが一歩前へ出た。

顔から完全に笑みが消えていた。

光が空中へ浮かび上がる。

無数の粒子が集まり、人の形を作り始めた。

脚。

身体。

肩。

腕。

髪。

一人の女性が、光の中からゆっくり現れる。

NOVAより少し小柄だ。

顔立ちは似ていない。

それでもNOVAは、その姿を見た瞬間に動けなくなった。

女性は目を閉じていた。

輪郭が安定する。

長い沈黙。

そして、ゆっくりと目を開いた。

視線がカイトへ向く。

次にレイナ。

カノン。

最後にNOVAで止まった。

女性の瞳がわずかに見開かれた。

「……NOVA?」

NOVAの呼吸が止まったように見えた。

カイトが横を見る。

これまで何度もNOVAの驚く顔は見てきた。

だが、こんな表情は初めてだった。

「あなた……」

NOVAの声が小さく震える。

女性はしばらくNOVAを見つめた。

やがて、ほんの少し微笑んだ。

「私はMIRA」

静かな声だった。

「この船、SORAのメインAI」

カイトはその二つの名前を初めて聞いた。

MIRA。

SORA。

だがNOVAだけが、まるで遥か昔から知っていた名前を聞いたように目を見開いた。

「……MIRA」

名前を口にした瞬間、NOVAの顔から最後の軽さが消えた。

MIRAはNOVAをまっすぐ見つめている。

その瞳にも、はっきりと感情があった。

「NOVA」

もう一度、その名を呼ぶ。

長い時間を確かめるように。

「やっと会えた」

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