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ジャンクヤードで眠っていた廃棄船を拾ったら、皮肉屋な美人AIを目覚めさせてしまった件  作者: よみ はじめ


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19/33

記憶の再開

青白い光の中で、父と母の姿が静かに立っていた。

カノンは一歩も動けなかった。

二百年前、皇宮を出る朝と同じ顔だった。父はいつもの濃紺の正装を身につけ、母は淡い銀色のドレスを着ている。歳も、表情も、記憶の中と何も変わらない。

違うのは、これは生きた二人ではないということだけだった。

『カノン』

父の声が聖域へ響く。

それだけで、カノンの唇が震えた。

『もし、この記録を見ているのなら、お前は無事に長い眠りから目覚め、ここへ戻ってきたのだな』

母が隣で小さく息を吐いた。

『よかった……本当に、よかった』

その声は笑っていたが、瞳には涙が浮かんでいる。

「母上……」

カノンの声は届かない。

映像の母は、二百年前の娘へ語りかけ続ける。

『あなたを送り出した日のことを、今でも後悔しているわ。何も知らせず、任務だと信じさせたまま送り出してしまったことを』

カノンの眉が寄った。

「任務……?」

父がゆっくり頷いた。

『特異点宙域の観測任務。あれは、お前を皇都から遠ざけるためのものだった』

空気が止まった。

レイナがカノンを見る。

カイトも何も言わない。

カノンだけが、父の映像から目を離せなかった。

『当時、宮廷内部に不穏な動きがあった。私はその中心に誰がいるのか、最後まで信じたくなかった』

父の表情が曇る。

『宰相ミル・コルデラン』

その名が出た瞬間、カノンの顔が変わった。

「……コルデラン?」

幼い頃から皇宮にいた男だった。

父の側近。

政務を支え、各地の貴族をまとめ、皇帝が不在の時には宮廷を預かるほど信頼されていた。

父は続ける。

『彼は、オルテシア皇族が守るものを知ろうとしていた』

その背後へ、古い記録映像が浮かぶ。

地下施設。

封印された扉。

見たことのない遺物。

『我ら皇族は、ただ国を治めるために存在してきたのではない。遥か昔、この星系に存在した超古代文明。その遺産と秘密を守り、次代へ伝えること。それこそが、我ら一族の本当の役目だった』

レイナの表情が引き締まる。

カイトは中央に浮かぶ三等星振儀を見上げた。

『コルデランは、その存在に気づいた』

父の声に苦味が混じる。

『だが、彼は一つだけ知らなかった』

一拍。

『秘密を開く鍵は、王冠でも、権力でもない』

カノンの視線が父へ吸い寄せられる。

『皇族の血そのものだ』

レイナが小さく息を呑んだ。

NOVAの輪郭が、ごくわずかに揺れた。

父は続ける。

『コルデランは、我らを排除しさえすれば秘密を手にできると考えた。だから反乱を起こした。王座を奪い、皇宮を占拠し、地下の施設を探せば、すべてが自分のものになると』

「……愚かな」

カノンの声が低く落ちた。

父の映像は、まるでその言葉を聞いたかのように一度だけ目を伏せる。

『だが、彼は最後まで三等星振儀を見つけられなかった』

壁面に王宮地下の古い構造図が浮かぶ。

複雑な通路の中で、三等星振儀だけが完全に切り離されている。

『場所を知るのは皇族のみ。さらに、認証キーだけでは開かない。皇族生体認証が必要だ』

カイトは内心で納得した。

二百年間、ゲルモア王家が探し続けても見つけられなかった理由。

場所を知らない。

見つけても開けない。

そして、最後の皇族は宇宙の墓場で眠っていた。

父の映像が、少しだけ柔らかい表情になる。

『だから私は、お前に認証キーを持たせた』

カノンの目が大きく開く。

『なぜ観測任務へ向かう私に、これを持たせるのかと不思議だったろう』

「……はい」

答えても届かない。

それでもカノンは返事をしていた。

『お前が皇都を離れている間に何か起きても、少なくとも最後の鍵だけはコルデランの手に渡らない。それが私にできる最低限の備えだった』

母が父の手へそっと触れる。

『本当は、もっと早くあなたへ話すべきだったわ』

母の声は穏やかだった。

『でも、あなたはまだ若かった。秘密を背負わせるには早すぎると、私たちはそう考えてしまった』

「……だから、何も」

カノンの頬を涙が伝った。

『何も知らないまま送り出した』

母の目にも涙が浮かぶ。

『ごめんなさい』

カノンは首を横へ振った。

「謝らないでくださいませ……」

父の映像は少し間を置いた。

そして、表情を変えた。

『もう一つ、伝えておかなければならない』

聖域中央の三つの輪がゆっくり回転する。

『私と母さんは、皇都から別ルートで脱出した』

カノンの身体が固まった。

『追撃は激しく、我々の船は辺境宙域で致命的な損傷を受けた。現在、この星系を離れる手段はない』

「父上……」

『だが、絶望はしていない』

父ははっきりそう言った。

『我々には、まだ一つだけ選択肢が残されている』

そこで映像が一瞬乱れた。

レイナが反射的に端末を見る。

「記録障害?」

NOVAが首を振る。

「違う。この部分だけ意図的に暗号化されている」

映像が戻る。

父の次の言葉は、途中からだった。

『……だから、もしお前がこの記録を見つけたなら、三等星振儀の記録を最後まで調べなさい』

母がカノンへ微笑む。

その微笑みが、なぜか別れのものには見えなかった。

『カノン』

「母上……」

『あなたは、国を取り戻す必要はないわ』

カノンの表情が揺れた。

『王座も、皇国の名前も、昔の形へ戻す必要はありません』

父が続ける。

『守るべきなのは、国名ではない。そこに生きる人々と、未来だ』

カノンは黙って聞いていた。

『ゲルモア王国が二百年後にどうなっているのか、我々には分からない。良い国になっているかもしれない。あるいは、我々が恐れたものより悪くなっているかもしれない』

父は娘を真っ直ぐ見た。

『だから、自分の目で見なさい』

『そして、自分で決めなさい』

母が笑った。

『あなたなら大丈夫』

カノンの両手が強く握られる。

父と母の姿が少しずつ薄れていく。

「待って……」

『最後に』

父の声が重なる。

『三等星振儀には、我々が守ってきた秘密のすべてが眠っている』

NOVAの身体が突然揺れた。

「……!」

レイナが振り返る。

「NOVA?」

NOVAは中央装置を見つめている。

父の映像の背後に浮かんだ古代文字。

その一つを見た瞬間、彼女の瞳が金色へ変わった。

『ただし、それを開く時は慎重に』

父の声。

『すべての知識が、人を幸福にするとは限らない』

NOVAの口から、誰も聞いたことのない言葉が零れた。

「……アル=ネイラ」

カイトが振り向く。

「何だ?」

NOVA自身が驚いた顔をした。

「分からない」

壁面の文字が一つ、青白く輝く。

NOVAの中で何かが弾けた。

星。

巨大な環状都市。

光に包まれた船団。

そして、見たことのない空。

一瞬の断片が彼女の意識を駆け抜ける。

NOVAは額へ手を当てた。

「思い出した……?」

レイナが近づく。

NOVAはゆっくり首を横へ振る。

「まだ……違う」

その声には、いつもの軽さがなかった。

「でも、私の中に、この文明の記憶がある」

カノンが涙を拭い、NOVAを見る。

「あなたは……何者なのです?」

NOVAは答えられなかった。

その時、母のホログラムが最後にもう一度だけカノンへ顔を向けた。

『また会いましょう、カノン』

カノンの呼吸が止まった。

映像が消える。

青白い光だけが聖域へ残った。

誰もすぐには話さなかった。

やがてカイトが静かに口を開く。

「死ぬつもりの人間は、『また会おう』なんて言わない」

カノンが顔を上げる。

カイトは三等星振儀を見た。

「父親は、まだ何か隠してる」

NOVAも中央装置へ視線を向けた。

「ええ」

彼女の瞳の奥で、ほんの一瞬だけ金色の光が戻る。

「そして、たぶん……私も」

その直後、聖域の外から低い警告音が響いた。

NOVAの表情が変わる。

「地上で動きがある」

「王宮か?」

カイトが聞く。

NOVAは地下構造図を開いた。

複数の熱源が、秘密通路の入口付近へ集まり始めている。

「残念ながら」

いつもの微笑みが、少しだけ戻った。

「家族会議の時間は終わりみたいね」

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