第八話 元戦友の襲撃と”名乗り”のお約束
「良いか、二人とも。これから我が組織を拡大していくにあたり、絶対に守らなければならない重要な『オツヤク(お約束)』がある!」
翌朝、アジトの居間の整理整頓をしながら、俺は直立不動のフェンリと王牙に向かって熱弁を振るっていた。
「「オツヤク!!」」
二人の返事のキレは相変わらず素晴らしかった。
「一つ! 敵が名を名乗っている最中は、絶対に手を出してはならない! 二つ! 部屋に入る時は必ずノックをする! この二つは、どんな戦場であっても徹底してもらう!」
特撮ヒーローや悪の組織において、名乗り口上の最中に攻撃を仕掛けないのは絶対の美学でありマナーだ。
異世界であってもそのこだわりだけは譲れない。
「「はっ! 敵の名乗りを静聴し、礼儀を尽くして滅ぼす……! オツヤク、肝に銘じます!」」
ただの特撮オタクの様式美なのだが、二人の中では『敵に絶望を与えるための禁忌の儀式手順』として脳内変換されていた。
その時、指令室のバッジからアリサの緊迫した声が響いた。
『コージ、大変よ! 屋敷の外の結界の前に、いかにも高そうな華美な鎧を着た、トカゲ顔の男たちが大勢押し寄せてきているわ!』
「華美な鎧……。たぶん、イマガモノ国の聖騎士団だな。手早く片付けて、掃除の続きをしよう」
俺たちが屋敷の外へ出ると白銀の結界の向こう側に、二メートル近い背丈のトカゲ族の男が部下を引き連れて立っていた。
顔に無数の小さな傷を持つその男には見覚えがあった。
魔王討伐の旅で一緒だった聖騎士トレイダだ。
トレイダは手にした魔法の水晶がアジトを指しているのを見て、驚愕に顔を引きつらせていた。
「おいおい、何なんだこのボロ屋敷は……。国を護っていたあの神の結界が、なんでこんな場所にあるんだよ……! 嘘だろ!?」
「お前たち、よくぞ我らの秘密基地まで来たな!」
フェンリがすかさず前に出て、斜め四十五度ポーズを決める。
「こいつら、何なんだその妙な構えは……!? とてもコージの味方とは思えんが……。おい、大人しくコージを差し出せ! でなければ、姫様から授かったこの『広範囲消滅弾』で、この区域ごとすべて消し去ってやる!」
トレイダが腰の袋から、黒く禍々しい怨念の気を放つ掌サイズの杭を取り出した。
その禍々しい魔力の密度を見た瞬間、前世の万年平社員時代に培った俺の勘が、最大警戒のアラームを鳴らした。
あの一撃をまともに喰らえば、アジトが吹き飛ぶ……! お約束の戦闘開始だ!
「フェンリ、王牙、前衛を任せる!」
「「オツヤク!!」」
二人の巨漢が、凄まじい速度で結界を飛び出した。




