第七話 新しい仲間
「じゃあ、今度はこっちの番だ」
驚愕に目を見開く王牙の手首を掴んで棍棒を押し返し、前世で二十年培ったキックボクシングのコンビネーションを叩き込む。
ガラ空きになった腹部への鋭い前蹴り、そして前屈みになった彼の顎目がけて、完璧な右アッパーを突き上げた。
――ドゴォオオオオン!!!
「ぶふっ!?」
巨漢の体が宙を舞い、そのまま地面へと激しく転がった。
人間状態の格闘技とはいえ、改造された肉体から放たれる一撃の威力は絶大だった。
王牙は白目を剥き完全にノックアウトされていた。
しばらくして意識を取り戻した王牙は、信じられないものを見るような目で俺を見上げ、ガタガタと震え出した。
「人狼状態の俺を人間が圧倒するなんて……化け物かお前は……!」
「言い方が悪いなこれからは首領と呼べ。行く当てがないなら、俺たちの仲間にならないか? 美味しい三食と、立派な部屋は保証するぞ」
差し出された俺の手を、王牙はおっかなびっくり握り返してきた。
「……俺のような化け物でもいいのなら、御身の棍棒としてどこまでも従いましょう」
こうして二人目の仲間を確保し、俺たちは物資を買い込んで森の奥の屋敷へと戻った。
「し、首領……! この屋敷、神の如き結界が張られていますぞ! 我ら魔の眷属では、触れただけで消滅しかねん!」
アジトの前に到着した途端、王牙が白銀の結界を見て悲鳴を上げた。
「気にするな。俺の身内なら無傷で通れるようにお約束……オツヤクを設定してある」
俺が先頭に立って歩くと王牙は恐る恐る結界をくぐり、本当に何も起きないことに目を丸くした。
「ただいま、アリサ。新しい仲間を連れてきたぞ」
エントランスで俺が声をかけると空間が揺らぎ、この屋敷の元主である幽霊の少女アリサが姿を現した。
『おかえりなさい、コージ。ふーん、今度は随分と大きくて強そうな新人さんを連れてきたのね。よろしくね』
「ひ、ひぃいいいいい!!? ゆ、幽霊ぇえええええッ!!!」
「何を驚いている。首領の力に比べれば、驚くようなことは……何もない!」
さっきまで戦場で猛威を振るっていたはずの強靭な人狼が、情けない悲鳴を上げて俺の背中に左右からしがみついてきた。
強がっているもののフェンリも怖かったらしく、巨漢二人に抱きつかれ俺の骨がきしむ。
どうやら彼らはオバケの類が何よりの苦手らしい。
『酷いなぁ、女の子に向かって化け物みたいに驚くなんて。コージの仲間じゃなかったら、呪ってあげるところだわ』
「な、何だと……!?」
「もはや、何の迷いもない……。神の結界を操り、死霊すら平然と配下に置くとは、コージ首領、貴方は本物の最凶の化け物だ……!」
二人は恐怖と感動が極まった顔で俺の背中から離れると、示し合わせたように並んで”斜め四十五度ポーズ”をビシッと決めた。
「「秘密結社・逆鱗の首領に、絶対の忠誠を!!」」
ただの可哀想な幽霊の少女を居候させているだけなのだが、二人の脳内では、俺が世界の闇を統べる魔王以上の絶対者として完全ロックオンされていくのだった。




