第六話 街への買い出しと出会い
「さて、フェンリ。秘密基地としての生活基盤を整えるために、まずは街へ買い出しに行こう」
「はっ! コージ首領、喜んでお供いたします!」
魔女の屋敷を確保した翌日、俺たちは再び貿易都市”ジーンの街”へと向かった。
若返った二十歳の肉体は恐ろしく軽く、森の悪路などあってないようなものだったが、問題は街に入った後だった。
「あ、あの……どうぞ、お通りください……!」
大通りを歩くだけで、すれ違う旅人や商人が、蜘蛛の子を散らすようにして左右に避けていく。
俺としては前世のスーパーで得た、完璧な営業スマイルを浮かべているつもりである。
だが彼らからすれば通常状態でも、俺はただの”最悪の化け物”にしか見えないらしい。
勝手にモーセの十戒のごとく道が開けていくのは、正直言って非常に居心地が悪かった。
そんな中で同行していたフェンリが、ふと裏路地の暗がりに視線を向け鋭い耳をピクリと動かした。
「……首領、見つけました。あそこにいる男は人間族のガワを被っていますが、あれは人狼です。同じ狼の血統ゆえ匂いで分かります。酷く迫害され路頭に迷っているようですな」
見れば路地の奥に、二メートルを優に超える筋骨隆々の巨漢が佇んでいた。
背中には身の丈ほどもある巨大な木製の棍棒を背負っている。
人間たちから忌み嫌われ孤独に街を渡り歩いてきたのだろう。
その荒んだ佇まいは、追放された俺たちの境遇とどこか重なるものがあった。
特撮ヒーローの物語において、孤独な実力者を組織にスカウトするのは定番中の定番だ。
「よし、声をかけてみよう」
俺たちが後を追うと巨漢はわざと人気のない寂れた公園へと移動し、不意に振り返って背中の棍棒を引き抜いた。
「……何か用か? 人間」
「久しぶりだな、王牙。この方は俺が絶対の忠誠を誓う、コージロウ首領だ」
フェンリが前に出ると、王牙と呼ばれた巨漢は鼻で笑った。
「人間に仕えるだと? 正気か、フェンリ。誇り高き狼の血を引きながら、そんな軟弱な人間に顎で使われるとは……。ただの犬に成り下がったか」
「なんだと……!?」
「俺とやる気ならやめておけ、人間。お前ごときでは俺の一撃で骨も残らんぞ」
王牙の凄まじい威圧感にフェンリが牙を剥くが、俺はそれを手で制し一歩前に出て手招きをした。
「あいにくと俺の仲間を侮辱されて呑気に引き下がるほど、優しくないんでね。やれるものならやってみろ、デカブツ」
「死ねぇッ!!」
激昂した王牙が凄まじい人狼の姿へと変化し、大気を引き裂く速度で巨大な棍棒を振り下ろしてきた。
まともに受ければ並の戦士なら肉塊に変えられているだろう。
だが俺は冷静に右腕だけを白銀の竜の肌へと部分変身させる。
――ガキィィイイイイン!!!
激しい金属音と共に、王牙の全力の一撃を俺は右手の平だけで完全に受け止めた。
足元の土壌が衝撃で丸く陥没する。
「な、何だと!? 俺の渾身の一撃を、片手で……!?」




