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54.私はピザをあきらめない

 昨年の秋、「壊れたので買い替えるトースター、どのサイズにする?」をテーマに家族会議が開かれた。何でもなさそうなテーマだったのに、始まってみると当初の想定よりも激しい議論へと発展。今まで通り食パン二枚を平置きするタイプを主張する家族A。それに対抗するようにサイズが小さいポップアップ型のトースターを主張する家族B。こうして父親が亡くなった際の相続に関する会議(※2分で終了)よりも紛糾したこの議論だったが、「我が家は家族の生活時間帯が違うので一度に大量のパンを焼くことがない」「キッチンの空きスペースが広くなる」これらのメリットによりB案有利で進むこととなった。この段階で家族C(※私)が提唱する「一度に食パン4枚を焼けるタイプのオーブントースター」案は風前の灯。しかし、そのような逆境の中でも私は粘り強い交渉を続けた。今までよりも広いオーブンを買うことで、どうしても叶えたい夢があったから。


 それはピザだ。私はピザをあきらめない。


 ドストエフスキーは「罪と罰」の最後で主人公ラスコーリニコフに「貧しいのが罪」と言わしめたが、私が常日頃から思っているのは「田舎者なのが罪」という事。数年前に地元へUターンした私を待ち受けていたのは「ピザが食べられない」という「罰」だった。田舎では「ラーメン屋はあるけど家系ラーメンのお店はない」とか、「カレーを食べれるお店は沢山あるけれどインドカレーはない」のように細分化されたサブジャンルが欠けている事はままあるが、ジャンルそのものがすっぽり抜け落ちているのがピザ屋さんだ。


 私のような昭和生まれのナイスミドルがピザと言われてまず思い浮かべるのはドミノピザ、ピザーラ、ピザハットといった宅配ピザチェーン。大学時代に友人の家で初めて宅配ピザを頼んだのが私にとってのピザの原体験であり、そして現在進行形で心躍らせる存在だ。

 これら宅配ピザチェーンで提供されるメニューは本場・イタリアとは文法が違う。ピザ文化が伝わったアメリカで突然変異を起こし、その変異体が輸入されたものなので基本的に猛々しい。本場では薄めの生地が使われる事が多いが、アメリカにおけるピザ黎明期にピザ生地の代用品としてトーストが使われていた経緯からか、ふっくらとした少し厚めの食べ応えがあるタイプが主流だ。具材も多民族国家らしく何でもありのミクスチャー状態。ただ、色んな具材があるものの、結局はペパロニやソーセージなんかの肉々しくてオイリーなやつがメインになり、そしてそれをこれでもかと乗せるような「お肉を前面に押し出す腕白なスタイル」が多いのはカロリー大国であるアメリカの「らしさ」と言えるだろう。本来の主役である生地とチーズ、ピザソースを蔑ろにするかのようなこの暴挙にイタリア人は白目を剝き、アメリカ人は歓喜の眼差しを向ける粗野で荒々しいピザだ。

 何にせよ、飢えた状況に相応しいボリューミーさの、かつ、ワイルドな味付けのピザを我々に教えてくれた事に日本国民を代表して感謝の意を表したい。

 そしてこの変異体は極東の地・日本にて更なる変化を遂げる。例としては「てりやき」と「マヨネーズ」が乗った「てりマヨ」を始めとして、「炭火焼肉」「プルコギ」等の日本で独自進化した、アメリカンとは別系統のお肉特化型が挙げられる。この農耕民族とは思えないアグレッシブな発想には狩猟民族であるアングロサクソン系のアメリカ人も羨望の眼差しを向け、そしてやっぱりイタリア人は白目を剝くこと請け合いだ。

 ちなみに個人的にはドミノピザのギガ・ミートがお気に入りだ。生地の上にペパロニ、イタリアンソーセージ、粗挽きソーセージ、燻しベーコンと、お肉に始まりお肉に終わるトッピングの絨毯爆撃を仕掛けたこいつは人の肉欲(お肉を食べたいと思う欲望)を剥き出しにしたかのような背徳の逸品。まさしく肉食の夢が詰まっているピザだ。


 だが、こいつらを気軽に堪能出来た生活はもう過去の事。私が住む寒村はデリバリー格差では最下層に属する地域。「フードデリバリーサービスが急成長」なんてニュースを見ても実感が沸かない棄てられた土地だ。ゆえに自宅のポストに宅配ピザのチラシが入る事なんてない。

 このような状況なので宅配ピザに関しては現状諦めざるを得ない。仕方がないではないか。「田舎者なのが罪」なのだから。しょうがないので都会に住んでる友人宅に泊まりに行った際か、旅行に行った際にホテルで食べる事にしよう。耐え難きを耐え、忍び難きを忍んでその機会を待つしかない。


 と、ちょっと話が逸れるが、本来ならばすべての国民はあまねく公平にピザを注文・配達してもらえる権利、いわゆる「宅配ピザ権」があるのではないだろうか。ゆえにピザは電気、ガス、水道、放送、郵便、通信と同じように「社会全体で均一に維持され、誰もが等しく受益できる公共的なサービス」、いわゆる「ユニバーサルサービス」であるべきだ。しかし、現実には日本中に多くの宅配ピザ難民が存在する。何故に政府はこの現状を放置しているのだろう。政治家連中は「田舎者は山崎製パンの『ピザパン』でも喰ってろ」とでも思っているのだろうか?

 このまま愚痴を言っていても何も始まらない。なので、次の衆議院選挙は「宅配ピザ人口カバー率100%」を公約として立候補しようかと考えている次第だ。政党名は勿論、「認識翼賛会」以外にない。その際はブラザーの皆様に選挙協力及び資金協力をお願いしたい。特に資金協力は非常に助かる。つきましては同志諸君よ、下記口座までお振込みいただければ幸いだ。


銀行名:お魚銀行

支店名:寒ブリ支店

口座種類:普通預金

口座番号:8830315

口座名:ニンシキヨクサンカイ


 決して皆様から預かったカンパを握りしめてパチスロのミリオンゴッド(※)をぶん回したりしないのでご安心を。私を信じてどんどんカンパして頂きたい。 


※・・・現役最高の荒さを誇るパチスロ台。めちゃくちゃ勝つ可能性があるものの、それ以上にめちゃくちゃ負ける可能性があるパチスロ界の暴れ馬。1日打つなら最低10万円の用意が必要。お金があったら打ちたいなぁ。



 そう言うわけで宅配ピザは諦めた。そうなると残るはイタリア料理店やイタリアンバルのピザ。「生地とチーズ、ピザソースが主役」な、「ピザ」ではなく「ピッツァ」と呼びたくなる本場仕様のやつだ。薄い生地にシンプルな具材はお腹にたまらないのでお酒のつまみにピッタリ。私のようなアル中予備軍の力強い相棒だ。

 しかし、現実的にはこれは宅配ピザよりも縁遠い存在。それもそうだろう。宅配ピザ屋すら敬遠する田舎にイタリアンガチ勢が出店するはずもない。くどい様だが私の住む寒村はど田舎。一般的な感覚ではお総菜コーナーの覇権的コンテンツは「唐揚げ」と相場は決まっているのに、近所のスーパーではそいつを抑えて「おからの煮物」「筑前煮」「にしんの昆布巻き」なんかが猛威を振るっている日本の特異点だ。これが真の田舎。少子高齢化が著しい我が地元では昭和を感じさせる「おばあちゃんの料理」が最大公約数的な美食。「ナポリやミラノで修行してきました」的なノリのお店をオープンする地域としては全くもって不適当だし、もしそんな事をしようとする知り合いがいたら「それは自殺行為だぞ」と言って全力で止めるだろう。



 このように宅配チェーンにしろイタリアンにしろ、田舎で専門店のピザを食べるのは至難の業。そもそもピザを食べたいと思う事自体が高望みなのだが、僅かながらも例外がある。田舎で食べれる数少ないピザ、それが冷凍やチルドのピザだ。


 令和になった今現在、スーパーのチルド売場や冷凍食品売場にはかなりの確率で複数種類のピザが並んでいる。昭和では考えられない光景だ。そして、これ系の商品は昔に比べると明らかに品質が上がり、明らかに美味しくなっているのが有難い。昭和の頃は「ピザもどき」としか言いようがない、怪しげで得体が知れない商品ばっかりだったのに、今ではそこそこのやつが簡単に手に入る。何と良い時代に生きているのだろう。

 その中でも特に日本ハムの「石窯工房 シャウエッセン ピザ」は快作だ。フォルム的にナポリピザに近しいこいつはお手軽なお値段と、レンジで4分温めるだけのお手軽な調理法なので晩酌時に大活躍。更に自宅なので「追いシャウエッセン」なんかの独自のアレンジを楽しむ余地もある。おかげで「ピザ欲」が芽生えた際はいつもこいつ。ピザ難民である私を支えてくれた恩人と言っても過言ではない存在だ。


 とは言え、人間は欲深い生き物。当初は「本格的じゃなくても有難い」と感謝していたものの、何度も食べているうちに「やっぱりこれは違う」という違和感が芽生え始めてきた。原因はシャウピザ側にあるのではない。私の調理法だ。レンジで温めたやつはあくまでも「ピザの代替品」と呼ぶべきもの。確かに形状はピザなれど、本質的にはヤマザキのピザパンと同じで限りなく惣菜パンに近い。パッケージには「レンジならもちっとした食感に」なんて記載があるが、実際には「のっぺりとした食感」でしかない。日本人がカリフォルニアロールに違和感を感じる様にイタリア人が違和感を感じる、否、むしろ「Vaffanculo!(クソくらえ!)」と激怒する代物だ。私が求めているのはこれではない。ナポリピザ特有の「サクッ」としたあの食感。あれを味わいたいのだ。

「ピザ窯じゃないと駄目」なんて贅沢は言わない。とにかく焼いたピザが食べたい。レンジで温めたピザはもううんざりだ。そしてこの状況からの起死回生の一手はただ一つ。それが前述した「一度に食パン4枚を焼けるタイプのオーブントースター」の導入だった。


 

 そして話は冒頭の家族会議に戻る。紆余曲折あったものの、エリートビジネスマンらしい粘り強い交渉で家族を説き伏せる事に成功。無事に私の案が採用されるに至った。そして購入してきた新しいトースターをキッチンに設置しながら私は思った。


「やっと家でピザが焼ける」と。


 早速、いつもの「石窯工房 シャウエッセン ピザ」をNEWトースターで調理してみる。ジリジリとオーブンの火で熱されるシャウピザ。やがてチーズがプクプクと泡立ち始め、それと時を同じくするかのように「みみ」の部分が白色から薄茶色へと変色していく。温めているのではない。これはまさしく焼けている証拠だ。

 出来上がったやつを食べてみると今までのレンジ調理より格段に美味い。今まで口にするたびに「しっとり」とした食感で山崎製パンのピザパンを想起させてきた「みみ」の部分もナポリピザを思い起こさせるクリスピー加減。これぞ追い求めてきた「サクサク」だった。そしてチーズも以前より美味しく感じられる。きっと「温める」と「焼く」の調理工程の違いがこの変化を生み出しているのだろう。この変化を東西新聞の山岡さんみたいに科学的に解説をしたいのだが、フィーリングで生きてる私にはちょっと無理難題。よって、ブラザーの皆様においては「オーブンで焼くとチーズは美味しくなる」とだけ覚えておいて頂きたい。

 その後も「シャウエッセン ピザ」を何度か焼いたが、その度にレンジ調理との差に感動してしまう。オーブン調理における「追いシャウエッセン」の加減もつかめてきた。NEWトースターの導入は間違ってなかった。田舎にUターンしてから10数年。実に長い年月だったが、私の日常は遂に「まともなピザ」を取り戻すことが出来た。ピザを諦めなくて良かったと心から感じている今日この頃だ。


 さて、こうして私はピザを取り戻すことが出来たが、おそらく昔の私と同じようにピザが食べられなくて困っているブラザーが大勢いらっしゃると思う。既に述べたように日本には多くのピザ難民が存在する。ピザに飢えた同志よ、広いオーブントースターを購入するのだ。確かに大きくなった分だけ台所のスペースが狭くなるし、場合によっては圧迫感を感じさせてくる欠点はある。そしてそれが原因で家族関係に多少の亀裂が入るリスクもある。実際、私も家族からトースターのことでネチネチ言われているが、その効果が絶大なのは保証しよう。ゆえに私のように粘り強く交渉し、NEWトースターを導入して頂ければと思う次第だ。


 私はピザを諦めなかった。


 そして、貴方もピザを諦めないで欲しい。





・・・と、締めに入りそうな流れから恐縮だが、人間は欲深い生き物。当初は「ちゃんとしたピザを食べれるだけでも有難い」と感謝していたものの、何度も食べているうちに「やっぱり宅配ピザチェーンの荒々しいやつも食べたい」という欲望が芽生え始めてきた。そしてその欲望を刺激するかのようにピザハットが「宮崎名物 たっぷりタルタルチキン南蛮」という肉食フェロモン全開なリーサルウェポンを市場投入だ。チキン南蛮に目がない私としては食べたくて食べたくて震えてしまうほど魅惑的な新商品なのだが、最寄りのピザハットまで片道約1時間なのがつらい。配達は当然無理だし、テイクアウトしても家に帰る頃には若干冷めている距離ではないか。熱々のそいつをビールで流し込みたいのに・・・


 こんな悲しい思いをさせられるのは筆者が田舎に住むピザ難民ゆえ。この不公平を是正するため、やはりピザは「ユニバーサルサービス」であるべきだ。そのために我々は一致団結し、政局へ打って出るべきではないだろうか。そしてそのためにはまず活動資金。同志諸君よ、繰り返しになるが下記口座まで資金援助のご協力をお願いしたい。


銀行名:お魚銀行

支店名:寒ブリ支店

口座種類:普通預金

口座番号:8830315

口座名:ニンシキヨクサンカイ



 それではブラザーの皆様、筆者がパチ屋でミリオンゴッ・・・ではなく、全日本国民が宅配ピザを食べられる世の実現のため、余裕資金を可能な限り振り込んで頂きたい。


 それでは皆様のご送金、お待ちしております。

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― 新着の感想 ―
子どもの児童会イベントで「研修施設のピザ釜(耐火レンガ製)でピザを焼こう!」というイベントがあり、参加したお父さん方は「自宅にピザ釜つくろうか」と盛り上がっていました。奥さん方に止められていましたが。…
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