6-13「じゃぁ、僕とピクニックにいかない?」
「私にできる範囲でなら」
「なんでもする」と同義語のようなセリフに、側にいたカインは目を白黒させた。
彼女の「なんでもする」は二回目だ。祭でのデートの時、カレーでの昼食の際にユーフェミアは一度この発言をしている。
すっかりそれどころではなくなってしまったが、あの約束はまだ有効なのに、ユーフェミアはまだこれを重ねる気なのかと、カインは驚いた。
いい加減、エミール相手にそんな事を言ったら、何を要求されるか分からないぞという意味であるのだが、いっぱいいっぱいな彼女はやっぱり気がつかない。
冷血と言われようと、最高の淑女と呼ばれた元次期王太子妃だろうと、今のユーフェミアはエミールの前にいるだけで、ただ一人の可愛い女の子でしかなくなってしまう。
いっそ、「じゃあ結婚して」と、エミールがもう一度言ったほうがいいような気もしたが、エミールは思う所があったのかあえてそうはしなかった。
「……それじゃあ、僕の名前を呼んで」
「名前? ……エミール様ともうずっとお呼びしてますが?」
「どんな時でも敬称はなしで。僕も君をユフィって呼ぶから」
「お祭りの時のように?」
「うん、ユフィに名前を呼ばれるの、気に入っちゃった」
へらりと、エミールは笑った。
そんなことは造作もないが、それはお礼には全然ならないような気がして、ユーフェミアは眉根を寄せる。
「敬称を無くすのは構わないのですが、それじゃあお礼になりません。
もっとこう……何かないのですが?」
ユーフェミアは必死だった。
自分の体質を思って、火鼠のストール迄貰ってしまったのだ。
名前を呼び合うだけではまるで釣り合わない気がして、ユーフェミアの心に不安が募る。
それは漠然とした不安だった。
エミールの性質を知っていれば、決して思う事が無いはずなのに、釣り合わなかったら自分に興味を失うのではないかという不安が、ユーフェミアの心を占める。
絶対そんな事にならないと理解できるのに、心が「捨てられる」と警告を発する。
だって、だって……未亜はいつも捨てられたから……
「ユフィ?」
気がついたらエミールの顔がすぐ近くにあった。
ハッとしてその金の瞳と見つめ合うと、ホッとすると同時に恥ずかしくなってくる。
「ち、近いです」
「あぁ、ごめんね」
心臓がどきどきとして、たくさん暖かいものが溢れてくる気がした。
こぼしたくない、大事にしたいと、ユーフェミアは両手を胸に当てて自分の心が溢れないようにと押さえつける。
その仕草が、本当に効果があったのかは分からないが、それでも少しだけ落ちついた。
長い時間をかけて身につけた王太子妃たる心得が、どうにかユーフェミアに冷静な感情を取り戻させる。
その気高さを感じる表情に、エミールは口元をほころばせた。
王太子妃となるべく育てられたユーフェミアのその表情も尊くて、やっぱり全部好きだなぁと思わず微笑んでしまう。
「じゃぁ、僕とピクニックにいかない?」
「……ぴくにっく?」
「うん、僕と一緒に竜の住処に」
「竜の住処」
「オパーリアがね、君のこと心配してて、元気になったら顔を見せてほしいって」
「お、……オパーリア様にまでご心配を……」
「うん、まぁそれはそれでついでだからって言うあれなんだけど」
「?」
首を傾げるユーフェミアに「本命はこっち」と、エミールはにこりと微笑む。
「約束したでしょう。 公爵家には個人用に厨房があるって」
「ええ、そういえば」
「ユフィが療養してる間に、手入れをしてもらったんだ。
だから、ピクニックでユフィが作ったものを食べたいなって、おねだりしてもいい?」
甘えるように小首を傾げるエミールに、ユーフェミアは理解が追い付かなかった。
長く、おそらくたっぷり60秒意識を飛ばしたユーフェミアは、ハッと現実に戻った後、か細い声で「い、市で材料から選んでもよろしければ……」と、声を紡ぐ。
二度目の……、いや。
ある意味本当の意味での初めてのデートの約束であった。
ひとまずこちらまで




