5-38 「ごきげんようオパーリア」
形は、ユーフェミアが知るトパリアズや、エメラルディアといった騎竜たちとよく似ていた。
けれど大きさがまるで違う。
トパリアズもエメラルディアも、その大きさはせいぜい馬よりちょっと大きいくらいで、竜騎士であるブライアン達が乗るのに最適な大きさと言えたが、目の前の竜は例えるなら象の体にキリンのような長い首を携えているような大きさだった。
その体を浮かせているのは、蝙蝠のような四対の羽だ。頭にはまっすぐ伸びた大きな紫水晶のような色の四本の角を生やしているが、その根元からはからうさぎのように長いたれ耳が、こちらの様子を窺うようにぴくりぴくりと動いているのが、なんだかとても可愛らしく見える。
赤い夕焼けに染まりながら、煌く真白の体躯は宝石のオパールのようにオーロラ色に輝いていた。
竜特有のエミールと同じ金色の瞳は、じっとユーフェミアを見つめていたが、その瞳からは悪意も敵意も感じない。
強いて言うなら、温かな優しさを感じた気がしてユーフェミアはどうしてだかホッとしてしまう。
「きゅーいっ」
と、真白の竜の背後から、とても楽しそうな声をあげながらトパリアズが顔をのぞかせた。
頭を低くさせながら、ユーフェミアとエミールに甘えるように近寄ってきた彼は、猫のように喉を鳴らしながらユーフェミアを見て尻尾を揺らす。
撫でてもらうのを待っているゴールデンレトリーバーがユーフェミアの記憶をかすめた気がしたが、エミールが「だーめっ」と言いながらトパリアズの鼻筋を撫でる。
「ユフィは僕の可愛い人だから、トパリアズにはあげないよ」
「きゅぅ!」
「ずるくない。さて、ごきげんようオパーリア」
オパーリアと呼ばれた竜(……つまり彼女は、だいぶ前に一瞬だけ話した現在の騎竜の長たる竜なのだが)は、きゅーいと、その体躯からは想像もできないほど小さくて可愛らしい声で鳴いた。
その声にハッとしたユーフェミアが、慌てて……然しながら淑女然とした様子で淑女の礼をする。
すると、オパーリアはきゅるきゅると楽しそうな声をあげたかと思うと、その大きな顔の鼻先をユーフェミアの胸元へと向けた。
触って良いのだと、本能的に感じたユーフェミアはオパーリアの額のあたりを、手袋を外した手でそっと撫でる。
柔らかなふわりとした毛に、ユーフェミアの手が埋もれる。その下に、確かにある鱗がオーロラに煌いて見えて心がときめいた。
夕焼け空の色に染まった真白の体躯がとてつもなく美しくて、ユーフェミアは思わずため息をつく。
かつて、未亜であった頃、飼い犬のジョンにしてやったように眉間を指先でマッサージするように撫でればオパーリアが、猫のように喉を鳴らした。
どうやらとても気持ちがよかったようだ。金色の、どちらかと言えば蜂蜜にも似た瞳がまろやかに溶けていく様子に、自分に対する好意を感じて、ユーフェミアはおもわず口元をほころばせた。
「ユーフェミアの事を褒めてるよ。上品で礼儀正しくて、美人なお嬢さんですねって」
「そう? エミール様、盛ってらっしゃるのでは」
「そんなまさか。僕は嘘がつけないって言ったでしょう?」
「おなかが痛くなるというあれですか? そんな子供だまし、私が信じるわけないでしょう」
などと言いながらも、オパーリアの様子から嘘ではないのだろうと悟ったユーフェミアは、オパーリアに対して微笑みながら「ありがとうございます」と言葉を返す。
その顔を見て、エミールはどうしようもないほどに嬉しくなってしまって、穏やかに微笑んでしまう。
「さ、ユーフェミア。それじゃあオパーリアに乗ろうか」
「……はい?」
「失礼」
ユーフェミアが返事もする間もなく、エミールはユーフェミアをひょいと抱き上げると、とても器用にオパーリアの背に乗った。
ユーフェミアは、乗馬の経験はある。
5歳の時にもらった誕生日プレゼントは栗毛に青い瞳が美しい牝馬であったし、王妃教育の一環としてある程度馬を走らせることもできる。
けれど騎竜には乗ったことはないし、鞍も鐙も、手綱も何もない裸馬に乗ったこともない。
ユーフェミアが知る騎竜隊の騎竜にはエメラルディアをはじめとして、皆鞍と鐙の他、式典の時は鎧をつけていた気がするがオパーリアにそれらは見受けられない。
トパリアズもオパーリアも、このアレクシオの地に生きる生来の騎竜なのだから当然だ。
それに、乗るなどとユーフェミアは一切思っていなかった。
「まっ」
「さぁ、しっかり掴まって」
「どこに!!?」
「それはもちろん、僕に」
ユーフェミアが返事をする間もなく、オパーリアの翼がばさりとはためいた。
飛ぶ。
そう直感したユーフェミアは、恥も外聞も捨ててエミールにしがみついた。
そんなユーフェミアを抱きしめるようにエミールは胸の中に収めると、なんの合図もなしにオパーリアはゆっくりその場から飛び立った。




