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冗談じゃありませんわ!  作者: Salt@シルベチカ書籍発売中
第四章 王都を離れて

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4-12 「これ、国の危機だ」



 カインはざっくりと言えば転生者である。

 彼が記憶する人生の一度目は、地球の日本で生まれて、80歳近くまで生きて大往生して世を去った、パティシエ経験のあるオタクな女性だった。

 結婚はしなかったが、それなりに楽しい人生だったと、彼は自信を持って言うだろう。


 二度目の人生はこの世界の平行世界の過去に生まれた宰相の息子だった。

 その時に様々なことを経験した彼は、のっぴきならない事情で創造主の代理という名の端末として生まれ変わることを選んだ。

 そののっぴきならない事情については、また別の時に話すことにして、今はこうして生まれた彼の話である。


 カインには生まれ変わりたい明確な目的があった。

 その目的のために、いつか子孫が然るべきタイミングの時に自分を召喚してくれるように入念に準備して眠りついた。


 はずだった。


 目覚めた瞬間、目の前にいる召喚者に、愛称を貰うことで初めて彼はその存在を確定するのが、彼ら創造主の代理の在り方である。


 そうしてカインが目覚めた先にいたのがエミールだった。

 その姿を認めた瞬間、カインは絶望した。

 のっぴきならない理由でなったため、創造主の代理と言えどその権限のほとんどに制約を持っていた彼であったが、一目見ただけで目の前幼い幼児がただの幼児ではないと理解できた。


 子孫でもなければ、真っ当な人間でもない。

 おまけに目覚めたい予定の時代よりも20年くらい早かった。

 冷静を装って目の前の幼児に尋ねれば、舌ったらずな話し方で「王立図書館に魔導書があったからやってみたんだよ」とにっこり笑って答えたエミールは、カインが何か言うよりも早く「じゃあ君の名前はカインね」と愛称を与えてしまったのだった。



 カインには名前がなかった。

 前世の名前はあるが、それはあくまで前世の彼の名前であって、今の彼の名前ではない。

 そうして、創造主の代理として生まれた彼に名前を付けてくれる存在はいないし、たとえ名付けてくれるとしても、創造主の代理といいう立場上おいそれと名づけを受け取るわけにもいかない。

 にも関わらず、カインは確信犯的な犯行で名前を与えられてしまったのだ。


 カインは盛大に頭を抱えた。

 愛称さえもらわなければ「間違いでした」と逃げることもできたが、愛称を与えられるのはある種の隷属の契約だ。

 契約を交わしてしまった以上、いかに創造主の代理と言えど、端末でしかないカインに逃げ場はない。


 どうしてこうなったのかと調べれば、どうやらカインが慎重に慎重を重ねた結果、彼の子孫たちは彼を呼び出すための魔導書を、貴重であるがゆえに「とても貴重な書物」として王家に寄付していたらしい。

 更に言えば彼の家系に伝わる魔道の基礎と応用を利かせ、前世で生きていた異世界の言葉を理解しないと解けないはずの暗号で封じられたままだったはずなのに、目の前の齢3歳でしかないエミールに「久しぶりに楽しかったよ」と封印を解除されて涙目だった。


 これでも、前世の彼はそれなりに能力あった青年だったはずだ。

 厳密に言えば、カインはこの世界に生きた彼とは別の、平行世界で生きた青年である。

 非常にややこしいのでざっくりと話すが、この魔導書を用意したのも、子孫に託したのも、カインと同じ魂を持ちながら別の生き方をし、若くして宰相を務め、国王を支えた賢君と呼ばれた青年で、魔法の知識は魔術塔の魔法使いにも劣らないはずだった。


 それがこのざまである。


 エミールが自己紹介で「四聖の巨竜の魂もち」だと言わなければ、カインはエミールの天才的な魔法センスに絶望したまま溶けていたに違いない。


 それでも、エミールに召喚され契約したカインにとって、エミールはまごうことなきご主人様である。

 創造主の代理という特殊な立場でありながら、カインはあくまで使い魔という枠組みであった。

 召喚された以上ご主人様に制約のもと仕えるのは、使い魔の常である。


 ぶっちゃけた話、最初は適当に仕えて早々に何とかして封印に戻り「20年くらい経ったら起こして」と、改めて子孫に伝えて眠るつもりだった。

 「とりあえずぼくのおうちにおいでよ」と言われ、リブレット家に招待された先で、カインは公爵にでも話をつけて、今後の事を考えようと思ったのだ。


 そこでカインの目論見は大きく外れる。 


 カインが見たのは、たった3歳でリブレット家の絶対君主となっていた傲慢なエミールの姿だった。


 カインは本能的に理解した。

「……これ、国の危機だ」と。


 ディシャールにおいて、公爵クラスの人間ならリブレット家の四聖の巨竜の魂持ちが、いかに重要で、厄介なのかは勿論知っている。

 カインの前世である青年は、公爵になる前に現状を選択したが、様々な経験をした関係であの時代の四聖の巨竜の魂持ちにかなりの煮え湯を飲まされた記憶もある。

 それでも、当時の四聖の巨竜の魂持ちはかなりふざけた男だったが、人としての常識は理解していた。理解した上でそれをぶち壊す型破りな男だったから、それはそれでとても信頼のできる仲間だったのだけれど、過去の話は置いておこう。


 けれど、この目の前にいるエミールは控えめに言ったとしてもただの暴君だった。

 ディシャールにおいて重要で、厄介な四聖の巨竜の魂持ちがこんな暴君では、その影響で国が崩壊しかねない。

 それは、カインが前世で切に願って求め、今なおそのために邁進している約束が、それ以前の問題でかき消えることを意味する。


 カインは悟った。

 おそらくカインは、エミールを最低限真っ当にするために、今目を覚ましたのだと。


 カインはリブレット公爵に会うと、求められればカインの「創造主の代理という名の端末」としての知識を与える代わりに、エミールの躾に対しての全権を手に入れた。


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