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冗談じゃありませんわ!  作者: Salt@シルベチカ書籍発売中
第四章 王都を離れて

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4-11 「きっと史上最強の俺だ」



「もうそろそろ黙ろうか」と言いながら、エミールがカインの長い首をきゅっと絞めたのを見て、ユーフェミアは青い顔をしながら慌ててそれを止めた。

 言語を喋るとはいえ、小さな生き物がいたぶられているのを見るのはあまり気持ちがよくない。2人の会話を察するに、おそらくある種のコミュニケーションなのだろうが、初見のユーフェミアには刺激が強すぎた。

 よしよしと撫でてあやせば、「えへへ、優しいんだねユーフェミアは」とパタパタと尻尾を振りながらお礼を言われ、満更でもない気分になる。……が、エミールが何とも言えない顔をしているのに気が付いてユーフェミア慌てて姿勢を正した。


「カイン様、私はまだ求婚をされてる段階でして、お受けしてないですし、お受けする気も今のところありません」


 はっきりとそう言えば、今度はカイン越しにエミールがしょんぼりとでも言うように沈んだ顔を見せた。罪悪感で心がチクリと痛むけれど、結婚するわけには行かないのでユーフェミアはそれを見なかったことにする。

 そんな二人の微妙な関係をよそに、カインはエメラルドの瞳をぱっと輝かせた。

 顔はとても小さく、表情が読みにくいはずなのにどうしてだか分かりやすい。


「結婚しない?! しないの!!?

 それならよかった! ユーフェミアみたいな可愛い美人さん、エミールみたいな人の心を持たない人外な竜にはもったいないよ!


 あ、結婚しなきゃいけないのならブライアンはどう?

 エミールに似てるから顔はいいし、次男だし、騎竜馬鹿だけど真面目が服着て歩いてるみたいな男だし、竜の血は薄いけどリブレットの次男だから一途で浮気しないし、次男だけど近衛の副団長だから将来有望だし、鍛えてるからいい体してるし、今のリブレット家の子供たちの中で一番真人間だよ! 次男だけど!


 って、ああああああ! やめて! やめてよエミール!!! 首絞めないで!!!」


 ユーフェミアの名を呼びながら、子供のようにわんわんと泣いたカインを、ユーフェミアは今度は助けなかった。

 さすがのユーフェミアも、地雷の上でタップダンスを踊るようにエミールを煽ったカインを助けてやるほど、優しくはなれなかった。



*



 エミール・リブレットがカインを召喚したのは、今からおよそ20年前、3歳の夏の日のことだ。


 当時のエミールの話をする上で必要になってくるので、まずは彼の父である現リブレット公爵の幼少期の話をすることにしよう。


 リブレット公爵が幼い頃、具体的に言えば彼が6歳の時の話だ。


 敬愛する彼の曽祖父が亡くなった。


 若い頃からエミールのようにいくつかの伝説を残し、賢く美しい曽祖父は、最愛であり唯一の番であった妻を亡くしてからその生活のほとんどを、世界を旅することに費やして過ごしていた、幼心にも気高く美しい、尊敬してやまないエミールの先代である四聖の竜の魂持ちだった。


「本当はな、あいつが死んだ時にそのまま一緒に逝きたかったんだ。

 けどな、あいつが「たくさん長生きして、あちらで私にいっぱいお話してくださいね」って最期に言ったんだ。

 最愛の番の最期の願いを叶えないのは、四聖の竜の魂を持つ者としてあり得ないだろう?

 そうじゃなきゃ、俺はあっという間にこの世界にさよならしていたさ」


 幼いリブレット公爵を膝にのせて、冒険譚を語りながら亡き愛妻に言葉を捧げる曽祖父の事が、絶対である四聖の巨竜であることを抜きにして公爵は大好きだった。

 その曽祖父が、今際の際に最愛の曾孫に残した言葉があった。


「すまない、すまないなぁ坊や。俺の長い旅はどうやらここで終わりらしい。

 そうなると、タイミング的に次の俺は、お前の息子だか娘だかになるだろう。


 俺のこの心も記憶も、今はもうあっちで首を長くして待ってるあいつにあげちまうから、次の俺はまっさらだ。

 ただ魔力と知識を持ってるだけの新しい俺だろうが、どうしたってタイミングが悪い。


 坊やには悪いが、きっと史(・)上(・)最(・)強(・)の(・)俺(・)だ。


 俺の親より殊更手を焼くだろうし、はっきり言って面倒だろう。

 なんてったって、初代と同じくらい強い竜だ。


 けれど決して挫けるなよ。

 坊やは俺の自慢の曾孫なんだ。

 きっとなんとかなる。

 だから、嫁を大事にして、幸せになれよ」


 大きな手で最後の力を振り絞って公爵を撫でた曽祖父は、優しく微笑んだかと思うところりと死んだ。

 それが先代の四聖の巨竜の最期だった。


 時は流れて、公爵は14歳の時に当時6歳だった伯爵令嬢に恋をし、番として求めた。

 それだけ見れば犯罪臭がしたが、決して犯罪ではなくちゃんと順序と段階を踏んでいるので白い目を向けるのはやめてあげてほしい。


 とある事情から、実家であまり良い扱いをされていなかった伯爵令嬢を、リブレット家の例の権利の全てを使って保護し、囲い込み、リブレット家の親戚筋の侯爵家の養女にし、彼女が12歳になってすぐ例の書類を駆使して婚約し、16歳になるのを待って結婚した。

 完全に計画的確信犯であるが、犯罪ではない。


 清く正しく理性的であった公爵だったが、10年という長い時間最愛の番の側で耐えたせいか、伯爵令嬢はリブレットの血族には珍しくすぐに身ごもり、十月十日の後に跡取りとなる長男を無事に産み落とした。


 最愛の番となった、伯爵令嬢……いや、現在公爵夫人となった妻が産んだ息子を見て、公爵は喜ぶと同時に絶句することになる。

 リブレット家の血筋に宿る本能が、生まれたばかりの赤子に反応し、彼は曽祖父の今際の際の言葉を思い出させた。


「あぁ、我(・)が(・)君(・)……」


 公爵はそう呟いて、本能的に生まれたばかりの赤子に膝をついた。

 それが今代の四聖の巨竜である、エミールが生まれた日の出来事だった。


 この日から公爵は、息子の育て方に関して頭を抱えることになる。

 手短に、かつ分かりやすく話せば、四聖の巨竜という絶対なる存在への竜の本能と、親としての躾が共存しなかったのだ。


 乳児期ならともかく、自我の芽生えはじめた幼児期において、エミールは大抵の子供が迎えるいやいや期を当然のように迎えた。

 赤子の我儘を、将来のためにある程度厳しくしたかった公爵だが、エミールは四聖の巨竜という西大陸最強の竜の魂を持って生まれたため、対・竜に対して全ての我儘を通すだけの力を持ってしまっていた。

 更に公爵にとって幸運であり不運であったのは、曽祖父の予言通りエミールが歴代の四聖の巨竜の魂持ちの中で、最もその魂の容れ物として最適な体を持って生まれてしまったことだ

 曽祖父が言った「お前の息子はめちゃくちゃ大変(意訳)」という今際の際の台詞再びを思い出し、公爵は絶望する。


 至極単純に言えば、理性的で真面目であった公爵は、理性的で真面目であったが故に竜の本能に逆らえず、四聖の巨竜の魂持ちである息子を本能に従ってデロデロに甘やかしてしまったのだ。

 もちろんこれは本意ではない。

 本能に従う様はまるで洗脳された気狂いのようで、公爵は正気に戻ればひたすら後悔するを繰り返した。


 結果として出来上がったのは、齢3歳にして人間全てを馬鹿にしたような傲慢さを兼ね備えた、件の第一王子も真っ青な最強の竜の魂を持った最凶の幼児だった。


 普通だったら、まだ3歳と思ったところであったが、四聖の竜の記憶と魔力と知識を持った3歳児は、傲慢が服を着て歩いていると言っても仕方がないほどであり、この時の彼がそのまま成長していたなら、決してあのクズな第一王子の事を笑うことができなかっただろう。

 なんせ、父である公爵を顎で使っても許されていたのだ。

 この頃の出来事は、エミールにとっての貴重な黒歴史である。

 

 そのエミールが、どうにか普通の人間のように振舞うことができるようになったのは、3歳の夏の日。既に天才と持て囃され王立図書館の本を1/3ほど読み進めていたエミールが、うっかり手に取った魔導書のおかげだった。


 ディシャールで使われる言葉とは別の言葉で紡がれたその魔導書は、その当時から数十年ほど前にどこかの公爵家から寄贈されたということ以外、まるで分らない本だった。

 エミールは、単純に暇つぶしとしてその魔導書を解読し、それが何かの召喚魔法だという事実を突き止めた。

 突き止めた以上、試してみたくなるのが好奇心である。

 エミールはただ単純に、暇つぶしの延長戦でその召喚魔法を発動させた。


 魔力を練り上げて、依り代を粘土をこねるように作り上げ、解読した呪文に魔力を載せてあっさりと詠みあげる。

 そうして呼び出されたのがこのカインと呼ばれる「創造主の端末」だった。




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