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71話 帰って来た片割れ

「雷の守護神様スゲーのな。マジで月の守護神の性格熟知してね?」

「伊達に幼馴染を五十数年もやっていませんからね。ただ、それ故か彼女から煙たがられていまして、誰かといる時に(わたくし)が近付くと逃げられてしまうのです」


 雷の御方の家へ招かれた翌日、私達は月の御方が立て籠もった天照(あまてらす)議事堂の前に来ていました。


 いえ、それがですね、雷の御方に一泊してから行く事を勧められまして…。

 でも最初は断ったんです! だって一泊もしていたら、翌日、地上世界に朝が来なくなるじゃないですか!

 天照(あまてらす)議事堂は地上世界の太陽に関係するお仕事をする為の場で、そこが占領されているとその日が勤務日になっている人達が出勤できないんです。

 その日地上世界を明るくする役目を持った人たちが出勤できないという事は、つまりそのまま地上世界は明るくならない、という事で…。


「それにしてもー、雷くんの言った通り籠ったままだったって事は、それだけわたし達への罠も沢山用意できてそうね~」

「まあ、月のの部下は闇属性が得意な者ばかりだから、光属性と太陽の属性が使えれば大抵突破できるだろうけどね」

「ちょっと待ってください、それじゃあ私は何なんですか!?」


 時々やって来る、本日出勤だった人達へ雷の御方が指示を出していくのを横目に、ユーリさんが不吉な事を言い出しました。

 それに次いで、星の御方が衝撃の事実を口にします。私、闇属性苦手ですが月の御方の傘下でしたよ!?


「ん? 今までの流れからして、月の守護神が星の守護神サマから隠す為に、自分の下に加えただけじゃね?」

「まあ、あたしもそれが妥当だと思うわ」

「え」

「…我も同意見だ」

「し、シキさんまで!?」


 そもそも、何で星の御方の行動を一から十まで把握したがるほど、彼の事が大好きな月の御方が、彼の嫌がる事をする必要があるんですか? 好きなら、相手が喜ぶ事を必死で探すはずですよね!?

 …あれ? ハヤテさんやみんなの言い方からして、未だに私が誘拐されていたって事が誤解だと思ってるの、私だけのような気が……。


「さて、突入前に星のはゼーレ殿へ、太陽の属性の神術を幾つかを伝授しておきましょうか」

「は? 混合神術は階級持ちになった皆が勉強する事だよ。太陽の属性もそれに含まれるし、何で今更?」

「え?」

「…え?」


 本日出勤だった人達への指示が大方終わったのか、雷の御方が星の御方へ話しかけました。

 話しかけるところまでは良かったのですが…。え、みんなが勉強するって、え!? 知らなかった私がおかしいんですか!?

 私が疑問の声を上げると、星の御方が驚きの目でこちらを見てきました。

 それを見て、雷の御方が苦笑をこぼします。


「やはりそうだと思いました。星の、混合神術はどう勉強したか覚えていますか?」

「僕は…同じ階級の先輩に習ったな」

「まあ、君はそうですね。元々混合神術は神術を自在に使えるようになった階級である、産祇(さんぎ)が新人に教える事になっているのです。けれどゼーレ殿が混合神術について知識を得てしまえば、月の属性の幻術が破られてしまう可能性が出てしまいます。恐らく月のが手を回し、ゼーレ殿に習わせないようしたのでしょう」

「でも、それじゃあゼーレは何故白金の翼に戻ったんだい? 知識が無い状態で、太陽の属性を発現できるとは思えないんだけど」


 星の御方が不思議そうな目で見つめてくるので、私はシキさんやハヤテさん、ユーリさんの方へと視線を動かしました。

 だってそうですよね?

 最初に太陽の属性の存在を私に教えたのはシキさんで、太陽の属性が何の属性を混ぜた結果なのかを教えてくれたのがハヤテさん。それからユーリさんに、太陽の属性は天津神系神族しか使えない事を教えてもらって、彼女とシキさんに特訓させられたんですから。

 星の御方もその顔ぶれを見て、なんとなく理解してくれたらしく、大きく頷きました。


「ああ、確かに陸津神(ろくつかみ)が太陽の属性を知ってるのはおかしくないね」

「最初に太陽の属性について口にしたのは、シキ様だけどな」

「でもー、流石に太陽の属性の術までは誰も知らなかったのよね~。わたしの権限で閲覧できる書物にも無かったと思うわ~」


 ですがそれも、ハヤテさんとユーリさんの言葉に固まります。

 …星の様、昨日からシキさん関係の事で、何故か結構反応している気がするのですが…失礼ですよ?


「え、ただの妖精族の末裔が…?」

「星の、彼の自己紹介を聞いていなかったのですか? …いえ、ネム王国自体を調べていないのでしたね。ネム王国の幹部は、大樹族が多いと聞きます。平均寿命が約千四百歳という彼等なら、三千年前の(いにしえ)の時代について現在まで伝承を残していても何らおかしくありません」

「…高木(たかぎ)の雷殿、大樹族の平均寿命まで知っているとは中々の調査能力だな」

「いえいえ、(わたくし)の部下が優秀なだけですよ。それに隠していない情報なのでしょう? 調査をしようとしたのでしたら、しっかり判明するはずの内容です」

「ぐっ…」


 雷の様、シキさん、なんだか星の御方が潰れてますよ?

 遠回しにザクザク斬り込まないで、何か言うなら正面からガッツリいきましょうよ!

 って、そんなのんきにしている場合じゃなかったですね。


「星の御方、地上世界が心配なので、とりあえず太陽の属性の神術について教えてください」

「っゼーレ…!!」


 星の御方の嬉しそうな反応に、何故かハヤテさんの辺りから舌打ちが聞こえてきた気がしますが、ここは無視です。

 朝が来ないせいで、混乱しているかもしれない地上世界の住人が心配ですからね!

 ちなみに天上世界が真っ暗なのは通常運転です。

 …日の御方がご存命だった頃は、彼の勤務時間の間だけ明るかったのですが。彼の勤務時間や勤務日以外は、光属性の神術を使える人が、思い思いの範囲を神術で照らしていただけです。


 そうして私は、星の御方から短時間の特訓を受けたのでした。



◇ ◇ ◆ ◇ ◇



「ホントに雷の守護神様は行かねーの?」

「先程星のとゼーレ殿の神力を補充する為に、半分以上神力を使いましたからね。それに、この結界を解く人にも神力を提供しなければなりませんから。議事堂の近辺にでも隠れて、空気調節にでも勤しむ予定です」


 結局私が習ったのは、陽光を発する神術(目晦ましの光に高熱が付け足されたもの)と、解呪の神術(『滅楔(ムッセ・)消闇光(シュゼア・ミュール)』の太陽版のような…?)の二つでした。

 陽光は何とかできそうですが、解呪の方は『滅楔(ムッセ・)消闇光(シュゼア・ミュール)』より難易度が高いので、咄嗟に使うとか無理な気もします。

 でも、陽光、効果が怖いので、多分今回は使わないですよ? 星の御方は、何故使えない感じの術を教えてきたのでしょうか…。


「空気調節…?」

「おや? 地上世界の住人は、陸津神(ろくつかみ)以外空気が無いと呼吸できないのではありませんでしたか?」

「そーだけど…」

「! ハヤテ、そういえば昨日の途中から、普通に話せるくらい息苦しさが無くなってたわ!」

「っ! そいや、そーだよ! 来たばっかとか、超苦しかったのに今大丈夫じゃね!?」


 まあ、悩んでいても始まりませんね。


「それでは、天照(あまてらす)議事堂の結界を解きます!!」

「じゃあ僕は念の為に、ゼーレの後で太陽属性の解呪の神術を議事堂全体に掛けてみるね」


 私は、そっと真っ黒な結界を触って強度を確かめました。

 …感覚的に、帝都ハウンドを覆っていたものと同じ術。強度は少し上。範囲は天照(あまてらす)議事堂がそれなりに大きな建物とはいえ、帝都ハウンドとは比べるもなく非常に狭い感じです。

 必要な神力は、上位神術に必要な量の十五回から二十回分でしょうか。

 必ず解く為にも、二十回分くらい込めてみた方が良さそうですね。


「……我が神力よ、今、光となりて闇に縛られし哀れな贄を陽光の下に解き放たん―――」


 私が詠唱と共に白い光の粒子を作り出す中、数歩隣に立っていた星の御方の周辺に、白い光の粒子と赤い光の粒子が出現します。

 そしてその光の粒子は、一瞬にして白っぽい黄色の光の粒子へと変化しました。

 …先程太陽の属性について習う際、他の混合神術についても軽く触れたのですが、星の御方って、光属性と闇属性を混ぜる必要がある月の属性以外、全ての混合神術が使えるらしいです。

 なんでも、雷の様に風を繋ぎとして入れるでもなく、光と闇の相反する属性だけを混合させるのは至難の業で、今でも唯一尊敬できる月の御方の得意分野なんだそうです。


「――…『滅楔(ムッセ・)消闇光(シュゼア・ミュール)』!!」

「『天道(アムトゥルス)白昼下(・ビブルグ)』!」


 カッと光って闇属性の結界を私の神術が消し飛ばし、それに続いて星の御方の神術が天照(あまてらす)議事堂の中に入り込むかの如く輝きます。

 ふう、後は突入ですね!

 私は、人化している事で腰の鞘に挿している片手剣を二本、引き抜きました。

 そうです。二本なんです! 

 雷の御方が、修理済みの剣を渡してくれましたよ! 雷の御方曰く、少々欠けて無くなっている部分があったとの事で、持ち手の飾りを削ったらしいのですが、パッと見全くわかりません。

 まあ、今の私の神力の質と、この件の神力の質が別物になってしまっているので、この件が終わったら“武器製作休暇”を取る事を勧められてしまいましたが。

 あれ、苦手なんですよね…。一ヶ月から半年もの間神力を意識的に出し続けて、自分の神力を凝縮させて塊を作り出すとか、たった二か月間ですら発狂しそうでしたし。


 私が戦いの後の事に思いを馳せてうんざりしていると、体がフワリ、と虹色の光に包まれました。

 神力が回復するのが判ります。感覚的にシキさんの魔術ではなさそうな……。状況的に、雷の御方ですね。


「月のが籠るとしたら、高確率で天照(あまてらす)の間だろうね。あの間は寿命を削る事と引き換えに、神術の威力を五倍にする効果があるから」

「月のは寿命に関して知らないようでしたが、産祇(さんぎ)以上になれば知る事ができる事を知らずに放っておいた彼女の問題なので、気に掛ける必要は無いでしょう」

「「「え!?」」」


 私とハヤテさん、そしてアイさんの声が被りました。

 ちょっと待ってください! それって月の御方を追いかけて行って、そのまま戦う可能性が高い私達にも適応されますよね!?

 まさか、雷の御方が外で待機しておくと言ったのも、それが原因なんじゃ…。


「ちょっと待てよ! つまりオレらがそこで戦ったら、オレらまで寿命削られるんじゃね!?」

「そうなるね。ただ、神術や魔術を使わなければ問題無いよ? それに削る、と言っても体内時間が二倍になる程度だし、一日で解決すれば気にする程でも無いと思うな」

「まあ、ほぼ毎日出勤する必要がある天照(あまてらす)の地位に就いた者は、寿命がほぼ半分になる、とまで言われていますね」


 よ、良かったです。短期解決できれば、大丈夫ですね!


「…良かった。皆がみるみる年老いたら、どうしようかと思ったわ」

「あの月の守護神がそんなところに籠るとは思えねーけどな。オレは若い見た目のまま、ガンガン命が削られるのかと思ってビビったぜ」

「上位神でもない限り、全世界を照らす為に力を増幅させる必要があるのは判りきった事だがな」

「五倍も底上げするならー、何か代わりに差し出す事になっててもおかしくないわよね~」


 ほっとしたように息を吐く人間組と、当然のように頷く人外組に、何だかいつも通りのような空気を感じます。

 そんな私の仲間を見てか、なんだか雷の御方と星の御方が微妙な顔をしました。

 一体どうしたのでしょう?


「…気負ったところで何も変わらないのは判っているけど…」




「ゼーレと仲間達、そろそろ突入するよ!」


 星の御方が皆に向かって声を掛けました。

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