65話 勇者ハヤテの真実
注! 65話は勇者ハヤテ視点です。
8/15誤字修正。
9/3年数の誤りを修正。
「目指すは飛行機の安定ライン!『複身転移送』!!」
カッ
―――ドゴッ!
手応えは、感じた。
ゲームでは、普通に敵のHPを減らして倒したけど、ここはゲームの世界であってもゲームの中じゃない。
なら、ヒガンに危険だと言われた転移魔術の使い方をしたら、と思ってやってみたら成功したらしい。
や、ダメージを与えただけで倒してない可能性もあるけど。
山とかがある方向に向かって使う場合は、その山より高い位置を通るように指定しないと、山に光速で激突してミンチになるっていう、アレ。
ユーリに固定化の神術で城を補強してもらったし、かなりのダメージは与えられたハズだ。
少し離れた位置から、特に怒鳴るでもないシキ様のゼーレを呼ぶ声が聞こえたから、危機的状況にはないと思っても問題なさそう……って事は、もしかして倒した?
とりあえず、シキ様に入れられた床の穴から脱出しようと、オレは詠唱しかけたんだけど…。
ピシリ
嫌な音に反応して上を見上げると、五階建てのビル程度の高さはあるんじゃね? って程高い天井のガラスに、ヒビが入ったのが見えた。
ガラスの向こうは夜空な暗さなのに、オレの目、よく見えたな。本気で人間の視力抜かしてね?
しかもヒビが入った場所は、どう見ても、オレが人狼型の吸血鬼ガイムをぶつけた辺りだ。
その周囲に、灰らしき煙のようなものが漂っていて、ゆっくりと飛散しながら降下してってるのが見えるから、間違いない。
そしてそのまま、ピシピシとヒビは範囲を広げていく。
………これ、絶対に割れて落ちてくるパターンだよな?
「…シキさん、あれ………」
「ハヤテの術に、ユーリの術が負けたようだな」
オレが埋まってる穴から少し離れた位置にいるっぽい二人の声が聞こえてくる。
って、あれ? こののんびり具合、もしかしてシキ様、割れたガラスが高所から降って来たら完全に凶器へ変貌する事知らない感じ!?
え、ヤバいってソレ!! 『風枷』で吹き飛ばすとか? …でもアレ、対単体用だから範囲狭いんだよな。しかも、下から使ったとして、空気抵抗少なかったら止められなくね?
飛行魔術とかで宙に浮かせるとかは…魔力溜めたり詠唱したりとか、絶対間に合わない。
かくなる上は、ゼーレかユーリにガラス片を燃やしてもらって…って、代わりに高温の液状ガラスが降って来るだけじゃん!!
オレが悩んでる間にも、ガラスはパンッと完全に割れ、床へと向かって落下を開始した。
こうなったら横殴り方向に『風枷』を使ってとか! 人間の動体視力だとタイミングが掴めない気がするけど、今の魔族状態の動体視力ならイケるはず!!
「『風―――』」
ゴオッ
カカカカカッ
けど、オレが術名を口にし終わる前に、床の上を暴風とも言える風が通り過ぎた。
もちろん床の穴の中にいたオレには、少し風がきた程度でなんも影響なかったけど。
「あ、ありがとうございます!」
「…誰だ?」
穴の上からは、どう考えても第三者が来てるっぽい感じの二人の声がする。
よし、飛行魔術だ。
「全てを舞い上げる壮大な風よ、我等を空へと運び賜え……」
あの時、シキ様とゼーレが頑張って吸血鬼ガイムを押しとどめてくれてたから、皆の位置は大体わかる。
当然、飛行対象はシキ様によって床下へ沈められた皆だ。そこには、ガイムによって操られてた月の勇者シグレと、彼の姉ミズキ、そして人狼の宰相も含まれている。
『飛空広風移送』!」
ぶわり、と風に押し上げられて、床の上へと到着した…ところまでは問題無かった。
けど、オレのすぐ横にある謁見の間の入口にいた壮年の男が、突飛な事を言い出したのだ。
「っ! きゅ、きゅきゅきゅ吸血鬼! 吾が娘への、かっ数々の暴力、いいい今、数倍にして返してやるぅぅ!!」
覚悟ぉ! と叫びながらシグレ達の方へ突進していく男を、呆然と見送ってしまったオレは悪くないと思う。
顔を真っ青にしつつ、勘違いをしたまま確認もせず突っ走るとか、え、何のコント?
でも、ゼーレは凄かった。オレが呆然としてた間にも動いて、壮年の男が振り下ろした剣を自分の左用の剣で受け止めた。
それにしても、あの男が持ってる剣、デザインがこの世界とかなり合ってなくね? 何か、日本の青銅器時代の神事用の剣みたいな形してんだけど。
「なな何故止める! その翼と光輪は天津神となった妖精族! 三千年前は吾が娘の為に共に戦った仲だろう!?」
「何の話かさっぱり解りませんが、シグレさん達は従属種にされた吸血鬼の被害者です! 絶対貴方の娘さんとは関係ありません!」
「従属、種…?」
ゼーレの言葉に呆然としたかのように剣を引く、壮年の男。
その男の後ろ姿は、このゲームの世界観に逆らって、古墳時代とか飛鳥時代とかの豪族のような古風な姿をしていた。
まあ、ユーリ達陸津神系神族が和風な姿してる事だし、一応は有り、か?
男が剣を鞘へ納めたのを確認し、ゼーレは剣を光の粒子に変化させて消して口を開いた。
「えっと初めまして。先ほどは硝子片から守ってくださって、ありがとうございます。私はゼーレ。天津神系神族の天士ゼーレ・サンハと申します。貴方は…」
「さ、サンハ!? しかも、ゼーレちゃん!?」
「…そう、です、けど…?」
あれ? デジャヴ感じんだけど気のせいか? 伊耶那岐の宮のとこでも、こんな感じのやり取り、二回くらいあったよーな…。
ゼーレが、いきなり馴れ馴れしい態度になったおっさんに引いたのが見えた。うん。相手が丁寧に名乗ってんのに名前名乗らない壮年の男とか、おっさんでOKだよな?
「ガイスト、君の勘は素晴らしい! 吾が発見したせいで勇者四人に記憶転写する意味は無かった気がするが、本当に地上世界で発見できるとは!!」
けど、そのおっさんは聞き流せない事を叫んだ。
勇者四人に記憶転写。
シラヌイとシグレから聞いた、この世界にはゲームと違って勇者が四人現れる事と、どう考えても切り離せない内容に聞こえる。
転写って何だ? オレは、憑依じゃなかったのか?
オレは、何故か重い自分の足を、必死で一歩前に出した。
「おい、おっさん」
「ハヤテ…?」
後ろから、ユーリと一緒に穴へ埋められていたアイの声が聞こえる。ごめん、アイ。
オレは今、お前に応えられない。
「オレはハヤテ・ヒロガイア。聖剣が抜けたから勇者になって活動してる。今おっさんが言った“勇者四人に記憶転写”って話、詳しく聞きたいんだけど」
「んんむ? 勇者? …何だ先に発見されていたのか。なら何故連絡しなかった? それに、吾はおっさんでは…」
「ゼーレが名乗ってたのに名乗らなかったのは、おっさんだぞ?」
「は、ハヤテ、何言ってんの? 覚えてないワケ? この人は…」
おっさんがオレの質問に答える前に、シラヌイが慌てて口を挟んでくる。
は? 覚えてないって何の話だ? 大体、何でオレがこのおっさんの事知ってるのが普通、みたいな言い方なんだよ。
オレがおっさんとシラヌイの反応にイラっとしかけた時だった。
古風な姿の少々気弱そうな顔したおっさんが、右手で作った拳を左手の手の平にポクリ、と打ち付けたのは。
「ああ、君は一番目の太陽の勇者だな! 説明も無しに転写してしまって申し訳ない。吾はこの世界で伊耶那岐神と呼ばれている者だ」
「えっ上位神様!?」
「やっぱりそうだったのね~」
「ゆ、ユーリさん、やっぱりって…!」
「だってー、伊耶那美神様と意匠が似ている服装なんだもの~」
ここでその名前が出てくんの? と思ったのと、ゼーレが一人慌て出したのは同時だった。
つーか、ユーリ、予想できてたなら教えてくれても良くね?
「あ、あの! 先ほどは剣を向けてしまって申し訳―――」
「ああ、気にしないで欲しい。吾が勘違いで生き物を殺すところだったのを、止めてくれたのだ」
「でも…」
「ゼーレ、今オレが話してたんだから、ちょっと黙ってて欲しーんだけど」
何だか長くなりそうな謝罪を無理矢理止めると、ゼーレは一瞬目を見開き消え入りそうな声で謝罪の言葉を口にした。
しゅんとする姿は、子犬が怒られて縮こまる姿を思い起させたけど、うん、気のせいだ。
いつの間にかシキ様がゼーレのところまで来てて、頭をポンポンと軽く叩き慰めると、どことなく浮上したように見えるソレとか、ペットとご主人様じゃあるまいし。
「で、日本の神様と同じ名前の伊耶那岐神サマ、記憶転写って…」
「まあ、日本でも吾は伊耶那岐であるから、あの子もそういう設定にしたのだろう。記憶転写に関しては、ガイストから高木の位になる際に乞われた、吾からの祝福に関する事だ」
え、何。日本でも伊耶那岐って、あの日本を作った神様と同一って言いたいのか!? や、ゲームの世界だから、設定って言葉は合ってる…のか?
後、ガイストって誰。響きからしたら男っぽいけど。
自らを伊耶那岐だと名乗った彼は、ゼーレをチラリと見て、視線をオレに戻した。
「本来は君へ記憶を転写する前に説明をする手筈だったのだが、ガイストが焦るあまりに一番目だけ手順を飛ばしてしまったのだ。今更言うのは遅過ぎるとは思う。だが、一応でも契約内容は伝えさせて欲しい」
「契約、内容…」
さっき口を挟んで来たシラヌイは、え、何ナニ聞かされて無かったの?と目を丸くしている。
ウブスナのじーさんは、正気にもどったらしい人狼の宰相に状況説明をしていた。
シグレは…姉のミズキと同じく、赤い光を目に灯したまま、緩慢にもがいて立ち上がろうとしている。…ホラーだ。吸血鬼が消えた状態でもまだ操られたままとか、え、コレどうすんの?
オレの思考が、僅かに逃避を始めたのは、予感していたからかもしれなかった。
何故なら。
「汝、条件を飲むならば、かの世界で汝の記憶を持つ者の体験を、夢の世界で全て見せよう。……条件を飲むか。ならば生涯をかけ、ガイスト・サンハの妹ゼーレ・サンハを探し出し、伊耶那岐の宮へ連絡せよ。捜し人の特徴は金の髪と橙の目、金の小さな一対の羽を持つ幼子という。さあ、行け勇者よ。その未来の記憶を使いて、かの世界を旅するのだ」
憑依でも転生でもなく。
「オレは、ずっとハヤテだった、のか…?」
「日本のとある女子の記憶が追加されただけの、な」
「じゃあ、新千早は?」
「今でも元気に過ごしている。あちらとこちらは時間の流れが違うから…そろそろ大学を卒業する頃か?」
それじゃあ例えクリアしても、日本に帰るとか、無理じゃないか!
「そんな……」
膝の力が抜け、体が勝手にガクリと床へ崩れ落ちた。
カラン、と聖剣がオレの手から抜け落ちる。
そうだよ。ヒガンにあんな事言った当のオレだってまだゲームの中にいる感覚だったんだ。
でも、違和感だってあった。
“オレ”は帰れると思って頑張ってるんだと思ってたけど、ゲームの世界なのにアイを失う事が怖くなったりだとか、きっとアレは元からあったハヤテの感情だったんだ。
ゲームの中だっていう感情と、今を必死で生きようとする感情と、ごちゃ混ぜだった事に、もっと疑問を持つべきだった。
「ハヤテ!」
ああ、アイの心配する声が聞こえる。
オレに異変があった時、いつも真っ先に心配してくれたのは、彼女だった。
「い、伊耶那岐神様か何だか知らないけれど、ハヤテに何したの!? 事と次第によっては許さないわよ!!」
「あ、アイさん! 上位神様に失礼ですよ!」
「ゼーレちゃんは黙ってて!」
ごめん、アイ、オレ………。
「吾が何かしたのは十年前。今は何もしていないよ」
「じゃあ何でハヤテは!」
「……アイ、大丈夫だから」
オレは、伊耶那岐と名乗る男に噛み付くように怒鳴るアイを、小さく手を挙げる事で制した。
「大丈夫。けど、混乱してる。しばらく時間くんね?」
頑張ってこの世界がオレの生きるべき世界だと、認めるから。




