61話 初めての発動
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「イケメン吸血鬼×狼頭のマッチョ狼男とか、誰得?」
「………せめて、人の姿でやるべき」
謁見の間と思われる場所で繰り広げられていた衝撃的な光景に、ウブスナさんが宰相さんへ怒鳴りつける中、背後の双子勇者から謎の会話が聞こえてきました。
ただ、口にした理由はともかく、シグレさんの言葉は意味だけなら解りました……が、人間の姿で今の行為を行うって、結構目にキツイものがあると思います、よ?
それに一応、それどころではないんですけどね。
人狼に顔中を舐められている吸血鬼の男が、ようやくこちらに気付いたのか顔を向けてきましたし、ウブスナさんに宰相と呼ばれた人狼は、懐から魔術用と思われる杖を出して構えたのです。
「…陛下が、選択なさったのですわ。それにあたくし、個人の都合で動くなんて事、致しませんの。全力で、陛下の補助をするのみです!」
そして宰相さんの口から発せられた声は、なんとも上品な年配の女性の声でした。
頭部は狼ですが。頭部の関係で表情がよくわからない上に、黒い光の粒子を発生させた為、どことなく怖い感じですが。
けれど、その声を聞いた後で振り返ってみると、一応、振り向く動作がどことなく優雅だったような気がしなくもないです。
って、あの黒いのは!
パンッ!
「―――ほぅ、術名無しの闇の下級魔術に対抗できる使い手がいるとは…久々にまともな戦いができそうですね」
宰相さんが放った、土の封印施設で飛来したのと同じような黒い何かを私が『焦輝』で相殺させると、美貌を誇れそうな吸血鬼の男が初めて口を開きました。
その目は、銀の光彩と相まって氷のような冷たさを放っていますが、いかんせん未だに彼を舐め続ける人狼がいる為に恰好が付いていません。
ちなみに闇属性を術で防ぐ場合は、逆の属性である光属性か、光も闇も遮る事ができる土属性が必要だったりします。
風属性では完全にすり抜けてしまいますし、火属性や水属性では威力を半減させる事しかできないのです。
光属性もまた然り、ですね。逆の性質…闇属性か、光を通さない物質でなければ無理です。
それにしても、玉座の上の二人が、あまりにも目を反らしたくなる光景です。
顔中舐められている吸血鬼の男は、人狼帝王の唾液でべっとりとテカってますし、一応彼はこちらに注意を向けているからか人狼帝王を押し退けようとしていますが、今度は耳の辺りを舐められて僅かに硬直したのが見て判りました。
宰相さん、本当に恋人なら、止めた方が良いと思いますよ?
「シキさん、私、できればここから離れたいです」
「奇遇だな。我もそう思ったところだ」
「そうかしら~。見てると楽しそうだけれどー…」
「これ、もう毒草を部屋の隅で炊いて、部屋を密封するだけで良いんじゃないかしら」
「おお! アイ、ナイスアイディ…、それ、良い案じゃね!?」
あれ?アイさんとハヤテさんまで言うんですか?
「アイさんとハヤテさんまで言うなんて、あの二人、中々ですね…!」
「え、ゼーレちゃん?」
「ゼーレ? 意味不明なんだケド」
「えっ!? だってあの二人、教都アシハラの宿でのアイさん達みたいな空気してますよ!?」
「「全然違うから!!」」
そうですか?あの、アイさんに膝枕されたハヤテさんが、哀を秘めた目をしてアイさんの頬に手を伸ばすとことか、今にも接吻しそうな雰囲気だったと思うのですが。
ちなみに、私達が会話している間に、宰相さんとウブスナさんで戦闘になっていました。先に吸血鬼を倒す、という方針からか、致命傷を負わせる事なく無力化を試みているようで、少々苦戦しています。
まあ、宰相さんが放ってきた魔術を全て聖杖で叩き落しているので、あからさまに苦戦しているようには見えません。ですが、宰相さんに近付けていない辺り、あまり余裕は無さそうです。
「っく、そこで見ておらんで手伝って欲しいのですじゃ!」
遂には応援を要請してきました。
私達は顔を見合わせ、頷きます。
「雪羊姉弟はウブスナ殿の補助を、ユーリ殿とアイは帝王陛下の足止めだ。ゼーレは全体の闇攻撃相殺に気を配りつつ、基本はユーリ殿達の補助。ハヤテは我と共に吸血鬼討伐だ」
シキさんが、パパッと指示を飛ばしました。雪羊三姉弟も頷いています。
…何だか私が一番大変そうな気がしなくもないですが、頑張りましょう。
「シキさん、闇属性は土属性でも防御はできるので、私の神術が間に合いそうになかったらそれで対応してください」
「ゼーレに魔術について教えられるとはな。了解した。こちらはどうにかする。人狼の方だけ対処を頼む。増援が来た時は…」
「大丈夫です。封印施設の時よりは、上手くやってみせます!」
胸当てに手を置き、私は宣言しました。
私が手を置いた場所には、シキさんに渡された収縮袋に入った魔砲筒が入っています。
万が一増援が来れば、部屋の入口に向かって太陽の属性の魔術砲を放ちまくり、できる限り人数を減らす役目も私にはありました。
魔王級の帝王と、その帝王を自分の術の影響下における吸血鬼。その二人だけで苦戦しそうなのは明らかなので、心苦しくてもできる限り邪魔者は排除する方針になったのです。
「…気を付けてくださいね?」
「―――我を誰だと思っている」
魔王級の人狼を相手にする私達も大変だとは思うのですが、吸血鬼は他人の精神に干渉できる魔術の使い手。
思わずシキさんを案じるような言葉を口にしてしまった私に、シキさんはふわり、と笑ってみせました。
本当に場違いですけど、この笑顔を見たら安心してしまうものです。ここは不敵に笑ってみせるところだと思うのですが、シキさんですしね。
そして笑みを見せた彼は顔を引き締め、吸血鬼の男へと体を向き直しました。
「フェリル帝国を占領せし吸血鬼殿! 我等は貴様を、国政を蔑ろにした罪で討伐する!」
シキさんが、いきなり攻撃を仕掛けたりする事無く、吸血鬼の男に宣告します。
それに対し少々怪訝な顔をした吸血鬼の男が、言葉を返してきました。
「どこの者か知りませんが、国政を蔑ろにした事だけが理由ですか? 乗っ取った事も理由の一つでしょう。わざわざ伏せる必要はありませんよ」
「我も一国の王。だが、民が平和に暮らせるならば、国の中核など誰でも良い」
「そのような考えを持つとは…。肉食動物系や無機物系以外の魔族のようですね」
え!? 今まで、吸血鬼の方々にはシキさんの人化状態を見破られた事が無かったのに、見破られましたよ!?
…本気で上位の実力があるみたいです。
「ふふふ、良いでしょう。群れている時点で大して期待はしませんが、精々楽しませてくださいね。…カレン陛下、戦いの時間です。我等の儀式を邪魔する者が、あちらに」
玉座に座ったままの吸血鬼が帝王に話しかけ、私達の方を指差してきます。
…それにしても、あの強面狼頭な筋肉帝王、カレンって名前なんですね。見た目と名前が正反対な感じで、違和感ありまくりです。
吸血鬼の男に促された人狼の王は、ゆっくりとした動作で彼の膝から降り、こちらを見下ろしてきました。
左目の辺りにある切り傷が迫力満点で、今まで吸血鬼の顔を舐めまくっていた人狼と同一とは思えない感じです。
「余の最後の楽しみを邪魔するとは、何と不躾な奴等じゃ。早急に排除させて貰おうぞ!」
そして一瞬。一瞬でした。ウブスナさんより少々高めなしわがれた声が聞こえ、帝王の体がブレて見えた次の瞬間、反射的にシキさんの前へ跳び出て構えた私の剣に、硬質な何かがぶつかったのです。
ギンッと響く音を合図に、各担当に向かって走るみんな。相手の力に押し負かされ、危うく扉の外へと飛ばされかける私。
ちょっとこれは色々補助神術が必要そうです。
「『与賜火力』!」
私が早さ二倍の神術を使おうとした瞬間、ユーリさんの声が響きました。数拍程、体が赤い光の粒子に包まれます。
あれです。マーシナル連邦で移動時にユーリさんから描けて貰っていた、筋力二倍の補助神術です。
そのままユーリさんは何度も同じ術名を口にしました。
みんなバラバラに散ってしまったので、範囲型の上級をすると、もれなく敵にもその効果が及んでしまうからでしょう。
それじゃ、私も…。
「ゼーレちゃーん、補助神術はわたしに任せて~!」
速度二倍の神術を使おうとしたら、ユーリさんに止められました。
続いてユーリさんは、『与賜風速』をみんなに掛けていきます。
それを耳で聞きながらも、私は左手用しか残っていない片手剣で、帝王の長い爪と切り結んでいました。
ちょっ、両手で攻撃する人狼相手に、右の片手剣が無い状態で戦うのって、難しすぎますよ!?
片方の手の爪の間に剣を捕らわれないように細心の注意を行いつつ、下手したら残像だけしか見えないこの動き。相手の体の向きと、肩周辺の動きから当たりを付けて動かないと間に合いません。
けれど、こっちは生憎、物理専門ではないんです。
「えいっ!」
パンッ パパパンッ!
剣と爪との攻防の最中に、私は容赦無く『焦輝』を放ちました。
例え成功しても、シキさんみたいに魔力で感知される可能性もありますが、成功した場合はアイさんが彼の索敵範囲から外れるはずです。
そして、運の良い事に、人狼は回避ではなく防御を選びました。体に当たれば、それだけで網膜を焼く神術なのに、です。多分、効果を知らなかったのでしょう。
「はっ、視力を奪ったところで、余は止められぬわ!」
…けれど、やはり相手は魔王級でした。その言葉から、視力を奪う事には成功したようですが、真っすぐに私へと掛かかり、剣を弾いていきます。
そうですよね。私の剣の素材、私自身の神力ですし、魔力が感知できる時点で、私の剣捌きもそのまま見えているはずです。
うーん。結構マズイです。火属性は室内に燃えそうな箇所が多い為、できる限り使いたくないですし、他の属性は訓練していないどころか術を覚えていないので使えません。
ですが、何故か人狼の動きが僅かに鈍りました。
…一体どうしたのでしょう?
「…何じゃこの悪臭は。小娘、さては人狼対策に腐った食物を持ち込みよったな!?」
「えええっ!? 誤解ですよ!」
そんなもの持ち歩きたくありません。が、人狼はその悪臭とかのせいで集中力が微妙な感じになっているという事ですね。
と、その時、どこかで嗅いだような、不思議な臭いがしました。
ええっと、どこでしたっけ…? たしか、シキさんが………。
そうです! シキさんが煙たいと言っていたあれです! アイさんがグレアの森で焚いていた、あの薬草!!
人狼には腐った食物の臭いに感じるんですね。ご愁傷様です。
もちろん、心の中で思っただけで、態度に出す暇はありません。
視界の端に、黒い光の粒子が舞った気がしたので、効くか判りませんが、目晦ましの光を大量にその周辺へ向けて放ちました。
複数の声が上がった気がしましたが、そんな事に構ってはいられません。
なんて言ったって、帝王の相手をする組は、私が唯一の前衛なのです。
ひたすら後ろへと行かないよう、一人で食い止めないといけません。
ってそうです!
「ユーリさん!風属性か水属性で、防御に使える神術教えてください!!」
「あら~? ゼーレちゃん、光と火だけだったんじゃ…」
「多分、中級までなら即興でも何とかできます!」
麓街ハービスの入口付近の森で、割と簡単に属性変換できたこの二つなら、きっと使えるはずですし城を燃やすなんて事もありません。
「剣を扱いながら魔術を使おうとするとは、お主、余を見くびっておるようじゃの」
「あなたこそ何言ってるんですか。さっき、私の神術で視力を奪われましたよね?」
「何、じゃと? 先程の光の矢は小娘が…!?」
え、あの状況、どう見ても私の辺りから光の矢が飛びましたよね?
まさか、元々あまり視力に頼らない戦い方とかしてるんですか!?
「ゼーレちゃーん! 復唱してね~!」
そして私は、ユーリさんが発する詠唱の言葉を復唱し、敵の自由を奪う術、『風檻』を初めて発動させました。




