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47話 地図に無い村

8/27誤字修正

「貴さっグアァッ!!」


 夜の(とばり)が近付く中、ザシュリ、という鈍い音と共に響く、絶叫。

 そして、切り口からサラサラと粉状の何かになって消えゆく彼等。

 関所の見張りだった兵士を斬り捨てた当の本人は、光を失わない剣を軽く振り、鞘へと戻しました。


「ハヤテさん、目がまた金色になってます。そろそろ魔術を使った方が…」

「アイを助ける時に消費するからいい。早く行こーぜ」


 ハヤテさんに催促され、私達はフェリル帝国に足を踏み入れます。

 関所に詰めていた兵士さん達は、ハヤテさん一人が全て葬った為、誰一人いません。

 …フェリル帝国へ不法入国の為にやったように見えますが、別にこちらから問答無用で斬りかかったわけじゃないですよ?最初はちゃんと、穏便にすませようとしてたんです。

 吸血鬼が占領したとはいえ、一応まだ国の体裁が残っているようだったんです。

 なので入国理由を聞かれた際、この中で最も代表者っぽい恰好をしているシキさんが、ネム王国の旅券を取り出して「我々はネム王国からの使者だ。至急、帝王に確認したい事がある」と答えたのですが…。

 いきなり兵士さんは自分の首に下げていた笛を吹き、詰所にいた兵士さん達を呼び出したのです。

 この時点で、相手は穏便に済ます気が無い事が判りますね。


 しかも残念な事に、兵士を呼び出した彼は、「奴らは処分対象だ!」と声を張り上げたのです。捕縛ではない時点で、私達は武器を構えたのですが…。何故か戦闘が始まろうとした時点でハヤテさんが飛び出し、兵士を呼び出した人…やけに犬歯の長い人狼の魔族に斬りかかってしまいました。

 ですが最も虚をついたのは、それではなかったのです。


 次の瞬間、人狼の魔族が斬られた場所から粉状の何かになって消えていく、という現象が起きました。


 その不気味な現象目の当たりにし、敵味方共に時間が止まります。

 もちろんそんな好機を、暴走しているハヤテさんが見逃すはずがありません。

 衝撃が酷すぎたのか、三人目が葬られたところであちらの兵士さん達が我に返ってハヤテさんへ殺到したのですが、ハヤテさんの無慈悲な攻撃は止まりませんでした。私が掛けた神術、『与賜(トマヤ・)光速(ミラ・ハーシェ)』の効果である速度二倍もまだまだ残っている為、兵士達は反応しきれないのです。

 しかも恐ろしい事に、聖剣に斬られた兵士は、かすり傷でさえ、そこから粉状の何かに変化していくという追加効果付き。

 一応、致命傷か否かで粉状の何かへと変化する早さは違いましたが、傷をつけられたら最後、その部位を聖剣以外の物で取り除かない限り同等に消滅していきました。


「……なるほど、あれが灰になって消える、という現象なのか」

「シキさん、何か知っているんですか?」


 関所を抜けて走り出したハヤテさんを追いかけつつ、私はユーリさんを担いで走るシキさんに問いかけます。

 ちなみに麓街ハービスを出てハヤテさんが目を覚ましてから、毎度ある次の目的地までの移動はユーリさんを走らせない事でシキさんとハヤテさんの意見が一致していました。

 …まあ、私も一応は賛成したのですが、担ぐのはやめてあげて、とは主張したんですよ?

 ですが、ハヤテさんに長距離運べる筋力は無いですし、シキさんはマーシナル連邦から魔族形体の問題上、背負えないですし、だからと言って体の前にくる位置で抱き上げるのも邪魔だとかで、結局担がれる方向に。

 ちなみに前、ハヤテさんに“お願い”されて背中から生えている柔軟な動きをする茎で抱えて運んだところ、目撃した人間を恐怖に陥れるという事があった為、あの時の運び方については速攻で却下されました。

 そんなシキさんですが、マーシナル連邦最後の街からフェリル帝国への関所へ行く際、人型へと変化しています。それでも担いでいるのは…。もうしょうがないですね。


「鬼系魔族の伝承には、吸血鬼についても記載されている。寿命ではなく外的要因で命を絶たれた者は、灰となって消える、とあったのだ。同じく灰となり消える要因として、太陽の光というものもあったが」

「太陽の光!それじゃ、私が太陽の属性で神術を使えるようになれば、有効な攻撃ができるという事なんですね」

「でもでもぉ、伊耶那岐(いざなぎ)の宮は知らないけれどー、それ以外の地上にはー、太陽の属性の術について知っている人はいないと思うわ~」

「そうだな。その属性を扱えるのは天津神のみだという事が真実ならば、伝わっていない可能性が高いだろう」

「そうですか…」


 残念です。せっかく役に立てると思ったのですが。

 そういえば、まだ土の属性と闇の属性の適正も確認できてないんでした。アイさんに追い付いてハヤテさんが落ち着いたら確認したいですね。適正があれば、私にできる事が広がって役に立てそうです。

 とりあえず現時点では太陽の属性を使いこなす事を諦め、私はハヤテさんに置いて行かれないよう、走る事に集中しました。

 途中で、シキさんが「…いや、だが…」とか何か考え事をしていた為、揺られて酔い始めたユーリさんに話しかけるわけにもいかず、集中するしかなかった、とも言えますが。



◇ ◇ ◆ ◇ ◇



「馬車…」

「アイが乗った馬車と同じ型だ」

「っ、アイ………!」


 関所から一時間ほど駆けた頃でしょうか。地図には記載されていなかったのですが、右手に小さな村が見えました。しかも、近付けば二頭仕立ての馬車が止まっているのが見えます。

 シキさんからの返答に、ハヤテさんが小さくアイさんの名前を口にして、そのままの速さで小さな村へと突っ込んで行きました。

 私とシキさんは、顔を見合わせ、ハヤテさんに静止の言葉を掛ける事無く追いかけます。


 ハヤテさんは他の家には見向きもせず、止まっている馬車から一番近い家へと飛び込みました。

 いきなり家宅侵入って…と呆れかけたその時です。


「やめろ!入れるな!!」


 ハヤテさんの感情が籠った怒声が響きました。

 ここまで感情が籠った声となると、その家にはきっと…。

 ユーリさんを地に下ろし、私達はハヤテさんが入った家へと飛び込みました。


 そこには。


 暗がりの中で刃と刃を合わせる、ハヤテさんとお医者さんがいました。

 そしてお医者さんの後ろには寝台の上に寝かされた、アイさん。

 暗い為、顔色はわかりません。ハヤテさんが既に戦闘を初めていますし、もうすぐ夜な状態で戦うのは、地の理が無い私達では不利です。

 私は村全体を明るくする為、『明光(ミュール)』を唱えようとしたのですが…。


 唱えようと口を開いた瞬間、周囲に見覚えのある白い光の粒子がブワッと現れ、瞬きをする間に辺りが明るく照らされたのです。


「え?」


 おかしいです。今まで、中級神術は術名を口にしないと発動しなかったのに。

 …いえ、そういえば一度、伊耶那岐(いざなぎ)の宮で、術名も無く『消影閃(シュゼア・ミラ)』が発生したような?

 思わず私は考え込みかけてしまいました。

 けれど。




「くそっ!早くしないとアイが…!このバカ医者、どけっ!!」

「心配せずともハヤテ君にも入れてあげるから、もう少し大人しくしていてくれないかね」

「太陽の光なんかで死ぬ吸血鬼とかお断りだ!」


 自分の術以外にも新たな疑問が発生してしまいましたが、今は後回しです。

 青白い肌をしているお医者さんの言葉に、アイさんの方へ目をやると、寝かされたアイさんに意識は無く、左腕の肘周辺の肌が青白く変色していたのです。

 ハヤテさんと戦っているお医者さんの肌の色といい、ハヤテさんの言葉といい、あれが吸血鬼化なんじゃ…。


「シキ様!頼む、このバカ医者を…!!」


 シキさんが、返事の代わりにハヤテさんの方へ走り寄ります。

 そして青白い肌のお医者さんが犬歯の長い口を開き、何かを言おうとした瞬間、いつの間にか出していた魔砲筒で殴り倒しました。…魔砲筒、そんな使い方して大丈夫なんでしょうか?

 私の些細な心配を余所に、ハヤテさんは今まで相手をしていたお医者さんを無視し、アイさんに駆け寄り、抱き上げました。

 そのまま、傍でシキさんによる魔力吸収の痛みで、唸り声を上げたお医者さんには目もくれず、私達の傍まで運んで来ます。


「ハヤテさん、アイさんは…」

「…まだ、戻せる。ユーリ、使える中で一番強い回復魔じゅ、神術をかけてくれ」

「え?回復神術は怪我以外治せないわよ~?」

「治すのは怪我だ」


 見た感じ、腕の変色以外に異常が見えないアイさんを床に寝かせ、ハヤテさんはおかしな事を口にします。

 怪我って…怪我ですよね?血が流れてる状態とか、骨折とか。

 首を傾ける私達の前で、ハヤテさんはまるでアイさんの変色した腕を固定するかのように、彼女の左肩へ自分の右膝を乗せました。

 そして静かに引き抜かれたのは、先程までお医者さん相手に振るっていた、聖剣。


「ハヤテさん、何を……!?」

「―――…アイ、ごめん」


 ハヤテさんが目を伏せ、アイさんの左手を自分の左手で握り込んだ瞬間。


「あ、あ゛あああぁっっ!!」


 今まで意識の無かったアイさんがカッと両目を見開き、悲鳴を上げました。

 彼女の左腕の関節部分には、深々と突き刺さる、聖剣。腕を切断する向きではなく、まるで腕を縦に裂くかのような向きでまっすぐ突き立てています。

 聖剣を突き立てられたアイさんの腕から、血ではなく、粉…いえ、灰がこぼれ始めました。


「っ、これは……」

「ユーリ!早く神術を!」

「剣を刺したままだなんて~、無茶苦茶よー!」

「途中で抜くから早くしろっ!」


 鬼気迫るハヤテさんの形相に、ユーリさんが戸惑いながらも頷きます。


「―――世界を包む我らが源よ、万物に宿る生命の力を分け与え賜え…『欠器再生(カレイツ・セイーヌ)』!」


 周囲に舞う、六色の光の粒子。その量は上級神術を使うよりも確実に多く、より正確に表現すると、中級神術で見える量のおおよそ六倍の量でした。

 アイさんの体が六色の光に包まれるのを確認したハヤテさんが、彼女の腕から聖剣を引き抜きます。

 瞬間、こぼれ出していた灰が赤い血に変わり、そのままユーリさんの神術で傷が塞がっていきました。

 変色していた肌の色も、元通りになっています。


「っ、は、間に、合った………」

「ハヤ…テ?」

「っアイ!」


 どうやらアイさんもちゃんと目が覚めたみたいです。第一声がハヤテさんの名前だなんて、彼女らしいですね。

 ハヤテさんが急いでアイさんの肩から膝をどかし、彼女を抱き起しました。


「ごめん、ごめんな、アイ。もっと早く来れてたら、痛い思いさせずに済んだのに」

「そんな事…。大体、あたしが先に行っ…―――!!」


 アイさんの言葉が途中で途切れ、彼女の視線が、ユーリさんの方で固定されました。

 不思議に思った私とハヤテさんも、アイさんの視線を辿ってユーリさんの方を向きます。


 そして。




 開いた扉の前に立ったままのユーリさんの後ろで、長い犬歯を生やした男が、鈍く光る剣を振り上げたのが見えました。

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