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48話 吸血鬼の従属種

 アイさんの視線の先にあった光景は、決して幻などではなく、私達が一瞬、驚愕で固まった間も動き続けていました。


 高い位置で一拍止まる、鈍く光る銀。

 アイさんを抱き起しているハヤテさんが動けるはずもなく、私は手元残っている左手用の剣を引き抜きながら

 ユーリさんの方へと足を踏み出しました。

 私が使える術名無しで発動可能な神術では、目晦ましの光しか間に合わないと瞬間的に悟ったからです。あんな至近距離では、視界を潰しても意味がありません。

 けれど、彼女の後ろへ廻り込むには僅かに時間が…―――っ!


 ダメだと思った、その時でした。




 カッ!!




 剣が振り下ろされる動作が見えた瞬間、男がいた場所が激しく光り、続いてゴオッと何か大きな物が高速で通ったような風が吹いてきたのです。

 そして、一拍遅れて少し離れた場所から、ドゴンッと大きな重量物が衝突したような音が響いてきました。


 白く光っていた為、何かが通った瞬間は見えませんでしたが、光に耐性がある私の視力はすぐさま回復し、男が消えている事を確認しました。

 思わず玄関の扉から外へ顔を出すと、左の向こう側に、地面を削った状態の大きな岩石が出現しているのが見えました。

 この村に入って来た際、辺りは暗かったとはいえ、旅客馬車ほどもある大きさの丸まった岩があれば、嫌でも気付くはずですが、全く記憶にありません。

 なんとなく心当たりがあったので後ろを振り向くと、お医者さんの後ろ首を掴んで床に引き倒している姿勢のシキさんと目が合います。


 あの咄嗟の瞬間に、詠唱無しで岩を飛ばしたのは、どう考えてもシキさんですよね。

 流石です。

 そう、ホッとしかけたのですが…。


「今の術は……何だ?」


 何故かシキさんの口から、疑問の言葉が出たのです。


「え?あの岩、シキさんが出したんじゃないんですか?」

「出しはしたが、男に当たらなかった」


 シキさんの言葉に私は建物を出て、周囲を警戒しながらそっと岩へと近付いて行きます。

 正直、男は吹き飛ばされた後、あの岩の下敷きになったのではと思ったのですが、シキさんの言葉が正しければ避けてとこかに隠れた可能性がありますし、しっかり確認しておかないといけません。

 …潰れていたらと思うと、正直、見に行きたくないのですが。


「つまりー、さっきわたしの後ろで光ったのとぉ、シキくんの岩は別の術って事でー、シキくんが狙った人物は避けたか消えたって事ね~?」


 私が恐る恐る岩の下を見に行こうとしているのを余所に、家の中からはユーリさんがシキさんに確認の言葉を投げかけるのが聞こえてきます。

 けれどそれに対する返事は、意外な声が返しました。


「光がシキ様の魔術とは関係ない上に男がいなくなってたんなら、ゼーレの神術で消えたんじゃね?ほらあれ、伊耶那岐(いざなぎ)の宮で使ってたやつ」

「…全く記憶に無いが」


 シキさんの困惑した声が聞こえた頃には、私は岩のところに辿り着いていました。

 うん。思ったよりも長く、地面が削れてました。おかげで岩の向こう側は、こんもりと土が小さな山を作っています。男の姿は、欠片も見当たりません。

 え、これ、もしかして確かめる為に掘らないといけない感じですか?


「あれ?あの資料室っぽいとこの地下で二回目に戦った時、ゼーレ思いっきり使って………って、そーだ。あん時既にシキ様いなかったな」


 私が半ばやる気を無くしていっている間にも、建物の中での会話は続いていました。

 シキさんがいなくなった後から多用した光属性の神術といえば、『消影閃(シュゼア・ミラ)』の事かもしれません。

 あれは、術に込めた神力より、相手の(・・・)体内にある神力が少ない場合、その相手を消滅させる事ができるという中級神術なので、まあ、可能性としてはあります。

 …けれど、私、中級神術は術名無しで発動できないのですが。

 まあ、もしかすると地上に来てから実戦が多かったせいで強くなった結果が出たのかもしれませんし、試してみましょう。


 私は何となく、対生き物消滅用の神術を、シキさんの魔力が色濃く残る岩に対して向ける事にしてみました。

 完全な無機物なので、例え術名無しで発動できたとしても光るだけで消えないとは思いますが、光っただけでも成功だとわかるので、問題無いですよね。口には出さず、『消影閃(シュゼア・ミラ)』っと!


 目の前にあった大きな岩石が、カッと光りました。…なんだか、あっさりと成功してしまいました。

 岩石の存在は…―――。


「……こ、……がケ…ト…消した…と……?」

「っ、お父さん!」


 アイさんの叫ぶ声と共に、私の目には信じられない光景が飛び込んできました。

 対生物用だったはずの神術によって、岩が消えていたのです。

 神族の武器が消えた時は、持ち主の分身ともいえる存在なので大して気にしていなかったのですが、今回は違います。


 私は始めて、この神術を教えてくれた月の御方を問い詰めたくなりました。誤った知識のまま術を使えば、どんな事故に繋がるかわからないからです。

 場合によっては、術者本人の命にもかかってくるのです。


 目の前で、今まで大岩に支えられていた土が、バラバラと崩れていきます。

 …それでもユーリさんを襲おうとした男は、影も形も見えません。

 私は、自分が人一人を消滅させていた可能性が高い、という衝撃に押し潰されそうになりながらも、皆がいる建物に引き返しました。


「…で?オジサンは吸血鬼になったみたいだけど、人間だった時と同じく命を救っていく気はあるワケ?」


 建物に戻ると、シキさんと引き倒されているお医者さんはそのままに、ハヤテさんが聖剣を引き抜いた状態で彼らの傍に立っていました。

 アイさんはユーリさんに支えられつつも、未だに座り込んだままです。


「吸血鬼という超人種に出会った事で、医療方針は変わったけれど…、命を救う事は医者の使命だよ」

「……魔力は全て吸ったはずなのだが、まだ元気に話せるのか」

「ふふふ。この体は元々人間だからね。魔力が無い状態に耐性はあるから、魔力が無くなっても身体能力が落ちるだけなのさ」


 シキさんに後ろ首を掴まれ、床へうつ伏せに倒されているお医者さんが、楽し気に笑い声を漏らします。


「医療方針なんて変える必要無いだろ」

「あるとも!吸血鬼の彼等は病気に対する免疫力が高い。ならば全人類を吸血鬼の従属種にすれば、それだけで病死率が大きく下がるはずなのだ!」

「!!まさか輸出してる食料は…!」

「そうとも。…けれど陛下には難色を示されてしまってね。従属種の血は不味いから、と」


 ハヤテさんの顔が激昂に染まっていきます。シキさんにしても、よく見ると僅かに眉間に皺が寄っていました。


「だが私は血など人から摂る必要は無いと思っている。何故なら、食用に育てた牛の血の方が美味いからだ!それならば食用の牛を増やしつつ、全人類の従属種化を目指せば、吸血鬼の従属種となり血と液体しか口に入らなくなった我々も飢える事無く生きていける。陛下達純粋な吸血鬼の方々には、食用牛の血の美味しさを徐々にわかって貰えれば良い」


 お医者さんの声、聞いただけでも恍惚とした表情を浮かべてそうなのが判ります。

 そうですか。きっと牛肉大好きだったんですね。食用としてですが、牛への愛が重いです。

 彼の言い分に、私だけではなくハヤテさんの視線も少々彷徨へといっていましたが、そんな中、お医者さんに突っ込みをする勇者がいました。…魔王ですが。


「太陽の光で死亡するという特性はどうする気だ。日が出ていない間だけの世話で、食用の牛を美味く(・・・)育てる事はできないだろう。まさか全て魔族に任せると?」

「太陽の守護神は殺されたらしいからな。太陽が出ないならば、いくらでも外で世話ができる」

「従属種とやらになって知能が落ちたようだな。お前が重要視している牛が食べる物は何だ?」

「は?」

「牧草はこのまま日が出ない状態が続くと徐々に弱り、滅んでいく。それに太陽は交代制だ。時機に姿を現すだろう」

「なっ、陛下が仰ったのは嘘だと言うのかね!?」

「………」


 シキさんが、無表情のまま、私を見上げてきます。

 え?私にこの人の相手を任せる気ですか?無理です!


「オジサン、本当にバカになったんじゃね?多分、その陛下ってのも騙されてんだよ」

「!?」


 後ろ首を抑えられていたはずのお医者さんが、ハヤテさんの方をバッと見上げました。

 お医者さんから手を離したのでしょう。シキさんが、立ち上がり、お医者さんを見下ろします。


「どうしても全人類を吸血鬼の従属種とやらに変えたいのならば、太陽の光で死なぬよう、誰にでも実践できる解決策を先に打ち立て、それからにすることだ」


 行くぞ、とシキさんが建物の入口に向かって歩き始めます。

 え、お医者さん、アイさんのお父さんなんですよね?放っておいて良いんですか?

 ハヤテさんはどうするのかと顔を向けると、困惑した表情佇み、シキの背中を見ていました。


「シキ様、アイの親父は………」

「ハヤテ、気にしないで。お父さんは多分、もう死んだのよ」

「アイちゃん…」


 悲し気に目を伏せるアイさんは、きっと私の足元で青白い肌を更に青くして固まった彼の顔が、見えないのでしょう。

 俯いたままユーリさんの手を借りて立ち上がり、シキさんに続こうとします。


「でもっ!」


 ハヤテさんの叫びに、入口の扉をくぐりかけていたシキさんの足が、ピタリと止まりました。




「―――…我も、病死率を下げる事は必要だと思っている。その方法が吸血鬼の従属種になる事であっても。もし、その状態が太陽の日を浴びても死なず、吸血鬼共に精神を支配される事も無いのであれば、忌諱する事ではない。ただの人類強化だからだ」




 おそらくそれは、魔王だからこその言葉。


 王であっても、きっと人間の王なら、別の存在へ変えられる事への恐怖でそんな事は言えなかったでしょう。

 その場にいた全員に静寂が広がっても気にした様子は無く、シキさんは一度も振り向かないまま出て行きました。

 がくり、とせっかく立ち上がっていたアイさんが床に崩れ落ちます。


「アイっ!」


 完全に崩れ落ちる前に、ハヤテさんが抱き止め、私の足元のお医者さんの顔に僅かな怒りが浮かんだように見えましたが…まあ気のせいでしょう。

 私もそろそろシキさんを追う事にします。効率が悪いとかで、また置いて行かれても困りますし。




 私が建物を出てシキさんの後姿を見つけた頃には、後ろから小さな泣き声が聞こえ始めていました。

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