表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/82

45話 先発と追走

6/11脱字修正。

「あ、シキ様!どこ行ってたんだよ!」


 ハヤテさんが、あからさまにホッとした顔でシキさんに駆け寄ります。

 そうです。木々の合間を縫うように広がる茂みの向こうから姿を現したのは、シキさんでした。

 普通なら、この暗闇の中あの距離では見えないのですが、ハヤテさんの腰にある聖剣の輝きのおかげか、そこそこの範囲が見えますね。


「………。祭唱(さいしょう)はまだアイの家か?」


 ハヤテさんもシキさんの質問に答えませんでしたが、シキさんもハヤテさんの問いに何も答えません。シキさん、ハヤテさん、ちゃんと会話しましょうよ!そんな事してると、仲が良い人すら離れていきますよ?

 私は思わず二人の人間関係が心配になりました。


「私は神術の属性について検証していました。ユーリさんは……見ていないのでわかりません」

「…起こして出発するぞ」


 一応でも、と私がシキさんの問いに答えると、彼はさっさと踵を返してしまいます。

 って、え?こんな真っ暗な中出発するんですか?

 いつも宿が無い時は野営して、その場を動かないのに、ですか?


「ちょ、シキ様、オレまだ睡眠摂ってないんだけど!」

「アイがどうなっても良いならば、好きにするといい」

「「えっ!?」」


 麓街ハービスへと戻っていくシキさんをハヤテさんと追っていると、私達の前で背中を向けたままの彼から、衝撃的な言葉が出て来ました。


「まさかアイ、どっかに行ったのか!?」

「旅客馬車ではない馬車に乗って、な」


 ハヤテさんは前方を歩いていたシキさんに走り寄ります。

 一瞬誘拐されたのかと思って焦りましたが、シキさんとハヤテさんの会話からしたら自ら乗ったみたいですね。

 あれ?それにしてはハヤテさんもシキさんも焦っているような…?

 今まで仲間として一緒に行動していたのに、突然何も言わずにどこかへ行ってしまった事には少々憤りを感じますが、焦るような事でもない気がします。

 確かに、彼女自身は魔物と戦う力が少ないですが、毒物でそれなりに対抗できそうですし、魔物避けの灰?とかで少しは戦闘を避ける事もできるのではないでしょうか。


「二人とも、何故そんなに焦ってるんですか?アイさんだって、魔物への対応はそれなりにできると思いますよ?」

「んな、普通の魔物との戦闘は、そこまで心配してねーよ!」

「…彼女の両親の所属から考えると、最悪の事態を考えた可能性があるという事だ」


 え?ええっ?何でシキさんとハヤテさんだけで話が通じてるんですかっ!?


 アイさんの家への道すがらシキさんに話を聞いたところ、元々はアイさんが珍しくハヤテさんを残したまま家を出た為、気になって後をつけてたらしいんです。ハヤテさんは、アイさんを気にして出て行ったシキさんが気になって追いかけていた、という事なんですね。

 で、街の入口に止まっていた馬車の御者の人と頷きあったアイさんは中に乗り込み、馬車は出発したんだとか。…この時点で、彼女と御者さんが知り合いだという事がわかりますが、それ以上は不明です。

 シキさんはとりあえず分かれ道までそっと後を追いかけ、監視用の花を馬車の屋根に投げつけてから戻って来たんだそうです。


「王都方面ではなく、国はずれの村へ向かう道に曲がった事は確実だ。そちらの方面で戦地だった地域となると、現時点の情報では例の国しかない」

「くそっ!何でだよ!?家に帰ってフラグ立てたりしなかったのに、何でアイがっ!」


 シキさんの説明を聞くにつれて、どんどん取り乱していくハヤテさんは、そろそろ彼に実家が見えてきた所で聖剣を抜きました。足を止め、聖剣を空へ掲げます。

 嫌な予感が、しました。


「我が魔力よ、我が求めし次なる場所へ、我等を送り届けん!!」


 聖剣から白い光の粒子が、ハヤテさんからは若葉色の光の粒子が吹き出します。

 先行してアイさんの家へ向かっていたシキさんが足を止め、がばり、と振り返りました。


「ハヤテ、唱えるな!魔力が足りていない!!」

「『複身転移送(ハクトゥ・タンリフ)』!」


 カッ


 ハヤテさんの言葉に合わせて光る、聖剣。

 辺りが、一瞬にして光に包まれました。私の『焦輝(ガウ・ミラ)』が放つ光といい勝負です。

 詠唱内容からして、これが例の転移魔術のようです。

 けれど。


 光が収まるのと同時に、どさり、と重たい物が地に落ちる音が響きました。

 私達の足元には、意識を失って倒れているハヤテさん。

 森の中で輝いていた聖剣も、光を失っています。


「ハヤテ、さん…?」

「触るな」


 突然の出来事に呆然とした私が、無意識に助け起こそうとしたのでしょう。

 ですがその手を、シキさんがパシリと掴んで止めました。

 一瞬何故、と思いましたが、シキさんが意味も無く止めてくるとは思えない事に気付き、寸前で言葉を飲み込みます。


「聖剣が魔力を放出した事で、再び吸収力を強めている。我等魔力が尽きると命も失う種族では、無暗に触ると危険だ」

「っ、シキさんは、ここにハヤテさんを置いて行くと言うんですか!?」


 だってアイさんの家にいるユーリさんも神族です。アイさんがいない今、誰も運べないって事じゃないですか!

 それともこの街で勇者だとしっかり認識されているハヤテさんを、誰かに頼んで運んでもらうと言うんですか?

 きっと無理です。彼等からしたら、自分達より強いはずの勇者が原因不明で倒れているようにしか見えません。絶対に恐怖の対象となって触ろうともしないと思います。


 カッとなって抗議する私に、シキさんが僅かに眉を顰めました。

 置いていくのはできないという態度の私が、そんなに不快なのでしょうか。


 けれど、さらに言い募ろうとした私の視界に青い光の粒子が映り、虹色の光まで現れたのです。


「…え?」


 虹色に光ったのは、ハヤテさんではなく彼が持つ聖剣。

 ですが、さっきの光の粒子といい、あの光り方といい、どう考えてもシキさんの魔力譲渡です。

 何故?とシキさんの顔をと聖剣を交互に数回見てしまったのは仕方がないと思います。


「聖剣が光った状態になれば、我なら魔力吸収に抵抗できる。しばらく待て」

「あ……」


 何という事でしょう!シキさんは、ちゃんとハヤテさんを置いて行かない手立てを考えていてくれたのです。

 方法は見た通り。無理矢理聖剣に魔力を奪われないよう、離れた状態で魔力譲渡の術を使い、少しずつ聖剣に魔力を溜めさせるというやり方です。

 それなのに私は、シキさんの話もちゃんと聞かず、彼を責めてしまいました。


「シキさん、その……」

「ここは我が受け持つ。ゼーレは祭唱(さいしょう)を連れて来い」


 しかもシキさんは気にしていないとばかりに、いつもの無表情で私を促してきます。

 でも、その案には乗りませんよ?


「『与賜源力(トマヤ・メーナ)』」


 光属性の神術にだって、力を譲渡する術はあるんです。

 どのくらい神力が必要か不明な今、彼にばかり力を消費させるわけにはいきません。

 それに私は、飲食しなければ魔力が回復しないシキさんと違って、睡眠を摂るだけで神力を回復できるんですから、懐にも優しいですよ?

 とりあえず上級神術一発分の神力を込めてみたのですが、残念な事に聖剣に光は灯りませんでした。譲渡が成功した証である虹色に光った後は、そのまま光は消えてしまいます。


「ゼーレ」

「何ですか?ハヤテさんはどっちにしろシキさんに運んでもらう事になりそうなので、これくらいは手伝わせてください」

「………。祭唱(さいしょう)を呼んで来て、三人で行った方が効率的かもしれないがな」


 私が折れなさそうな態度を見て諦めたのか、シキさんは軽く溜息を吐きました。

 でも、言われてみればそうですね。もうハヤテさんの実家である平屋の建物が見える位置なので、その裏側にあるアイさんの家への距離もほとんどありません。

 一瞬、ユーリさんを迎えに行こうかと思った時でした。


「わたしならー、ここにいるわよ~。『与賜源力(トマヤ・メーナ)』!」

「ユーリさん!」


 何故かアイさんの家へと続く大通りの奥から、ユーリさんが現れたのです。

 シキさんも僅かに目を見張っているあたり、どうやらユーリさんは気配を殺して来たようです。え?何でわざわざ…。


「うふふ~。流石に外であんな光が見えたらー、気になって来ちゃうわよ~。敵だったら困るもの~」


 ああ、敵対勢力への対策として、わざわざ気配を殺して来たんですね。納得です。

 ついでのようにハヤテさんへ掛けられた、神力譲渡の神術へは突っ込み無しです。神族は目も耳も人間よりは良いので、きっと見て聞いていたに違いありません。


 聖剣は、未だ光らず普通の金属の輝きを見せるばかりです。

 結局私達は、それぞれ合計三回ずつ、譲渡の術を行使しました。



◇ ◇ ◆ ◇ ◇



 ドドドンッ


 遠目に見えていた、大型の爬虫類のような形の魔物が、粉砕されるのが確認できました。

 粉砕したのは、シキさんが右肩に担いでいる魔砲筒から発射された、魔術砲。

 そういえば、魔砲筒で魔術砲を放つ時は、光の粒子は見えませんね。空気中にただよう神力…魔力を魔砲筒が吸収している感じはするのですが、それだけです。それなのに水の魔術砲が出たり岩の魔術砲がでたりと、いくつかの属性で撃てるようなのです。

 …その内、闇の魔術砲も出そうですね。


 私達は今、私の神術『明光(ミュール)』で無駄に広範囲を照らしながら街道を進んでいました。

 もちろん、速度二倍の『与賜(トマヤ・)光速(ミラ・ハーシェ)』の神術は掛け済みです。

 麓街ハービスでは、馬か馬車を借りようとしたのですが、夜中に押しかけたのがダメだったのか、例の吸血鬼に支配された国方面へ行くという事自体がダメだったのか、全て断られてしまった為、徒歩です。


 しかも、最初は走っていたのですが途中でユーリさんの体力が尽き、結局無理はできない、と早歩きで頑張る事になりました。

 ちなみにハヤテさんはシキさんの左肩に担がれています。体調不良ではなく、自業自得で倒れたという事で、この運び方で問題無いそうです。


「それにしても、本当に攻撃神術使っちゃダメなんですか?まだ後二つも国を越えないと着かないんですよね?…シキさんばかりに負担を掛けているようで申し訳ないのですが」

「だが、フェリル帝国の隣は、無機物系魔族の国だ。吸血鬼からすれば同族にできない上、餌にもならない。その国は放置し、斜め向かいの水の国か、一つ飛びにこちら側の人間の国へ勢力を広げようとしている可能性がある」


 実は麓街ハービスを出る際、私達はシキさんから禁止事項が言い渡されていました。

 内容は、「命の危険が迫らない限り、攻撃神術を禁じる」というものです。もちろん、同類語とも言える魔術も同様です。

 魔砲筒の魔術砲も魔術の一種なのでは?と思いましたが、彼曰く、軍事にお金を掛けている国では、ほとんどの高位武官が持っているらしく、本人に魔力が無くても発動するので、ただの武器による攻撃とみなされるそうです。で、魔力が無い人が魔術砲を撃つと、何も変換されていない魔力の塊が飛出すのだとか。

 ただ、一部の魔術師だけが行える、状態異常を付加する行為は、半魔術に分類されるそうです。…魔力が属性変換された時点で、半魔術に分類すべきではと思う私って、おかしくないですよね?


「でも、勢力を広げるなら、普通は近場からだと思うのですが…」


 ユーリさんは口を挟みません。

 一度バテた事で休憩したとはいえ十分程度しか休んでない上に、既に早歩きを初めて一時間は経っています。呼吸が荒くなってきていて、少々きつそうです。


「八ヵ国程度隔てた我が国に、吸血鬼化した狼共が来たくらいだからな。奴等は攻め易いと思えば、どこにでも出現しそうだ」

「…下手したら、このネイト王国にも魔の手が伸びている可能性がある、という事なんですね…」

「………」


 シキさんが、黙り込みました。


「…あの?」

「―――…確かに、そうだな」


 シキさんが、ピタリ、と立ち止まります。そして、おもむろに方に担いだ魔砲筒を仕舞いました。


「シキさん?」

「え?きゃっ!」

「ゼーレ、走るぞ!」


 いきなりシキさんが右肩にユーリさんを担ぎ上げ、走り出します。


「し、シキさん、どうしたんですか!?って、『明光(ミュール)』!」


 私も慌てて追いかけます。速度を上げた事で、暗闇が近付く速度も上がり、私は慌てて『明光(ミュール)』を再度唱えました。

 走り抜けて行くなら、長時間照らす必要もないですし、術に込める神力が少なくて良い事は利点ですね。

 体力だけが問題かもですが。

 …と思ったところで、橙色に近い黄色の光の粒子が舞い始めました。続けて、私とシキさんの体が、同色の光りに数拍だけ包まれます。


「シキさん、今のは…」

「体力を倍にする魔術、『与賜広(トマヤ・フィル・)土活(テアクーチェ)』だ」


 流石シキさん。抜かりありません。

 ユーリさんがバテる前に使った方が良かったのでは?と思いはしますが、ユーリさんの体力を三とするなら、私の体力は五。両方を倍にした場合、さらに差が広がるので、あまり意味は無かったかもしれません。




 その後、下級神術だけは使用許可が下り、ひたすら私達は爆走しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ