44話 能力の検証
6/18誤字修正
珍しく昼間と同じ曇天の夜、私はそっと窓を開きました。
本日の宿泊先は、何と!アイさんのご実家。
この麓街ハービスで唯一の三階建ての建物という、所謂お金持ちさんのお屋敷です。
街役場と言われる、この街を治める機関の建物すら二階建てなので、財力の違いが良く分かりますね。
ちなみに、この屋敷の裏側には、ハヤテさんのご実家があるそうです。
アイさんのご両親は二人ともお医者様らしく、現在は“根の無い医師団”に一年間限定の所属をしていて、世界中の戦場付近の地域を飛び回っているのだとか。全く気付きませんでしたが、ネム王国の竜の籠の駅がある村、シロツメ村で治療していた人の中には、アイさんのお母さんが混ざっていたそうです。
本日屋敷にいたのは、執事さん一人にお手伝いさん三人。
お手伝いさんの内、女性は二人で残りの一人と執事さんは男性でした。
って、そこはどうでも良いですね。
私は、窓から身を乗り出して、上下左右を確認しました。
天上世界にあるような街灯が無い為、暗い街にはほとんど人通りも無く、もちろん私が借りた部屋のある三階へ目を向ける人も見当たりません。
まあ、星も月も出てない真っ暗な夜に外を歩くのは、一般市民ではない人の方が圧倒的に多いはずなので、当たり前といえば当たり前かもしれませんが。
念のために大半の人の目には映らない、天士姿でそっと窓から空中へと身を躍らせました。
泥棒さんに狙われないよう、外から窓をそっと閉じます。もちろん、戻って来た時に入れるよう、鍵は開いたままですよ?
目指すは入口付近に広がる広葉樹の森。
あの夢の出来事は本当に夢なのか、それとも実際に体験にあった記憶なのか…、を確かめに行くのです。
飛行する私の視界の端には、チラチラと映る白金の羽。
そうです。私の翼の色はいつの間にか白銀ではなくなり、夢の中に出てきた少年と同じ、白金へと変化していました。
体調は大体元通り、でしょうか?体が軽すぎる気がしますが、まあ、慣れてきたので大丈夫…だと思います。
あ、街の入口で天士に戻ったあの件ですが、とっても騒ぎになりました。
横抱きされた私を見ていた人達が、「女の子が一瞬にして消えた!!」と恐慌状態に陥ったのです。
シキさんとハヤテさんとユーリさんに関しては羽の色の事で驚いていただけなのですが、恐慌状態に陥った街の人達が傍にいる状態では追及もできません。
特に私を横抱きしていたシキさんが最も被害を受け、「あ、悪魔だ!逃げろ!」とか「魂を喰われるぞ!」とか「俺達の街は俺達で守る!」とかで石やら掃除用具やらを投げつけられていました。
…金の刺繍があるとはいえ、ほぼ全身黒な見た目に冷たい印象の美青年なせいで、余計に疑う余地が無かったのかもしれません。まあ、実際には魔族の魔王なので、当たらずといえども遠からずかもしれませんね。
それでも、彼は流石でした。
飛んでくる物を水の塊や水の壁で全て完璧に防御し、傷一つ負っていません。
そんなこんなしている間に、アイさんが恐慌状態の人の前に出で誤解を解こうと口を開き、その間にシキさんから羽を出したまま人化するよう指示され、私は飛んだ状態のまま『人身化』を使用しました。
その効果は抜群。
悪魔だの何だのと口走っていた人達は、今度は「天使様の使者だったのか!?」とか「誤解して申し訳ありません!」とか言い出して、その場は私達への謝罪大会へと急変したのです。
…いえ、その、こちらこそすみませんでした。
恥ずかしいからと無暗やたらに天士姿に戻っちゃダメですね。
もし戻るんなら、せめて街の入口が見える前じゃないとだった、って事ですね。
って、あれ?
これ、本当に私だけが悪いのでしょうか?
お姫様抱っこな横抱きではなく、ただ背負われてただけなら、私も天士姿に戻ってまでして逃げなかったんじゃあ…。
昼間の騒ぎを思い返している間に、街の入口からほど近い、街道から身を隠せる場所に着きました。
何故こんなところに隠れるのかといいますと、現在の私は天士姿なので常人には見えないと思うのですが、運悪く魔力が高い人が近くを通った時の為、そして見えないと解っていても気になる視線をさける為です。
これで思う存分、各属性が本当に使えるのかが確認できます!
火属性は何度も使っているので今回試したりしませんし、周囲の木々を気にする必要も無く、気楽にできるはずです。
「まずは、伊耶那美の宮で適正が小と言われた、土と風からですね」
水の封印施設でやった時のように、神力を属性変換して周囲に漂わせる事ができれば成功。
後は私の目の特性で、漂わせる事ができる光の粒子の量から、現在の適正値を大まかに測れば終了です。
属性の適正値って、使える神術の強さに比例するんです。
適正無しならもちろん使えませんし、小なら下級まで、中は中級まで、大は上級まで使う事ができます。
ちなみに究極神術という、上級のさらに上の段階がありますが、これは大の適正がある人の中でも才能がある人しか使えないそうです。
「よしっ!先に土です!」
土、ツチ、つち…。
いつも属性変換をする時、私はその属性を感覚的に脳内で描いて行うのですが、土って一体何を思い浮かべれば………?
脳内で描けない為、もちろん属性変換された光の粒子が周囲に漂う事もありません。
「だ、ダメです、先に風をやっときましょう」
風っていったら、アレですよね。ビュウッとか、ゴオッとか。
風、カゼ、かぜ―――!!
土と比べて想像しやすいので、私は目を瞑って集中し、全力で属性変換しました。
土と違って、神力が消耗していく感じがします。できたっぽいです!
私はドキドキしながらそっと目を開きました。
周囲でキラキラと輝いているのは、ハヤテさんがよく纏う若葉色とも言えそうな黄緑色の光の粒子。
そしてその輝きの量と範囲は……。
「どう見ても小の適正じゃないですよね…。上級までできそうです」
あれですか?翼の色が変化したのと同時に、適正値まで変化したとかですか?
得意な光属性で漂わせる事ができる光の粒子よりは若干量が少ない気がしますが、火属性で出せる光の粒子の量とは同じくらいな気がします。
何だか、夢の中でできないと言われた闇属性もできる気がしてきました!
「とりあえず次は、水の属性ですね」
理由はただ一つ。闇と比べて水の方が、感覚的に脳内で描けそうだからです。
ザアザアとか、ザバーッとか、バシャンって感じですよね?
よしっ!伊耶那美の宮で適正無しと言われましたが、夢で否定されたのは闇だけですし、できそうです。
水、ミズ、みずっ!!
今度は目を開けたまま行います。
脳内に水の間隔を描いた瞬間、青い光の粒子がポツポツと輝き始め、神力を注ぐ度にシャラシャラとどんどん増えて行きます。
森の木々と青い光が絶妙な均衡を保ち、木々に青白い光が灯っているかのような神秘的な光景が広がりました。
こうなれば測定は後回し。
神秘的な光景をどれくらい広げる事ができるか、挑戦したくなります!
私が気合を入れて神力を注ごうとした時でした。
「ゼーレ?」
「えっ?」
がさり、と街道側の茂みが音を立て、聞き覚えのある声がしたのです。
「やっぱゼーレじゃん!あれ?シキ様は?」
現れたのはハヤテさんでした。
でも余計な一言が気になります。
「何故シキさんの名前が出てくるんですか?」
「や、オレ、シキ様が部屋抜け出したからこっそり後を追ってたんだけど見失って…。で、茂みの奥がぼんやり光ってるの見えたから近付いたってワケ。金色の羽も見えたし、それじゃシキ様はゼーレのとこ行ってたのかって思ったんだけど、どーやらハズレっぽいな」
「…ハズレとは失礼ですね」
それにしても、シキさんはこんな夜中にどこへ行ったのでしょう?
しかもハヤテさんが「フラグ立ててないはずなのに」と謎の言葉を小さく呟いた事と合わせても、少し気になります。
「ところでゼーレはこんなとこで何やってんだ?」
「…見て、わかりませんか?」
「わかってたら聞かねーし」
周囲に漂う青いに光の粒子を見たら、神術の練習してるのかと思う程度の予測はできると思うのですが…。
光の粒子が見えるようになってあまり日が経っていないせいで、そこまで頭が回らないという事でしょうか?
「実はですね、気絶している間に夢を見まして。その夢の中で私、登場人物から闇属性以外は使えると聞いたので、本当かどうか、検証してるんです」
「へ~。で、結果はどーだったんだ?」
「え?」
あれ?周囲を漂う、青い光の粒子を見たら判りますよね?
「あ、あの、私、光属性しかできなかったのが、火属性もできるようになったところでしたよね?」
「ん?オレの認識ではそうだけど、何で自分の事なのに疑問形になってんだよ」
…確定しました。
「ハヤテさん、目、元の機能に戻ってますね」
「え!?嘘、もしかして今、何かやってる途中なワケ!?キラキラ~ってなってんのか!?」
どうやら術発動前な光の粒子が見えるのは、目が金色になっている間だけみたいです。
元々の色である青い目な今、残念な事に周囲の木々に灯るようにして輝く光の粒子は見えていない…と。
疲れてきたので、私は属性変換を止めました。
辺りは夜の闇、しかも森の木々のせいでほぼ真っ暗な状態に…は戻りませんね。ハヤテさんの腰の聖剣が、篝火程度の明るさで、白く輝いています。
「とりあえず、さっきまでは水の属性を試していました。青い光と森の木々との相性は抜群ですね!」
「くっ!聖剣のいらないオプションさえ無ければ、金色な目のままが良かったのに…!」
神父的な光景を説明できない私の語呂に少々残念な気持ちになりましたが、ハヤテさんはしっかり想像できたのか、ガクリ、と地面に膝を着いてしまいました。
ところでオプションって何でしょう?ハヤテさんの口ぶりからして、害のある呪いみたいなもの、といったところでしょうか。
でも、昼間の巧妙な嫌がらせの仕返しができた気がしてスッキリです。その内、ユーリさんにもしたいですね!
シキさんとアイさんにはしません。昼間の騒ぎが大きくなった時の被害者と、騒ぎを治めるのに一役買った功労者なので。
まあ、沈んでいるハヤテさんは放っておいて、属性変換の続きです。
問題は、感覚を想像できない土と闇ですね。
…えっと………あ。
「ハヤテさん、ハヤテさん」
「…何?オレ今、人生最大の悩みと戦ってんだけど」
「あのですね、土とか闇の、感覚って何か知りませんか?」
「は?」
きっと、一人で悩むから解決できないんです。傍に他の人がいるなら、聞くしかないですよね?
ハヤテさんは一瞬、私を恨みがましい目で見上げましたが、私が用件を言うと、目を点にしました。
あれ?もしかして、メイさんの時みたいに伝わってない感じですか?
「えっとですね、私、属性変換するとき、脳内でその属性を感覚的に描いて行ってるんです。光属性ならカッとかフワッっという感じ、火属性ならボオッとかゴオオッって感じで、ですね」
「あ、あぁー。んじゃ、土はゴゴゴッとかザザザッで、闇はズズッとかシーンとかじゃね?」
通じました!しかも、メイさんの時とは違い、私が脳内に響かせる時に使うような擬音語です!
「土がその音になる理由を聞いて良いでしょうか?」
「ほら、地震とか流砂とか、そんなイメー…感じだろ?で、闇の方は、底なし沼のような真っ暗な亜空間に引きずり込まれる感じと、真っ暗で何も無い静寂が満ちた空間な感じ」
「沼って水じゃあ…」
「や、あくまで“のような”だからな?ブラックホールとか言っても、お前解んないだろ」
ハヤテさんの知識って、一体どこからくるんでしょう?
時々聞いた事がない言葉を言い直しているみたいなので、本来その言葉は、彼の中で日常的に使われていたはずなのです。
普通聞かない言葉を、日常的に使う場所……。
「ハヤテさんの家は、学者さんでもしているんですか?」
これしかない気がします。
これなら、日々専門用語が飛び交ってて、それに慣れた彼がうっかり、なんて事はありそうです。
「え?学者ってか、科学者…?まあ、近所からは魔女の館とか呼ばれてるけど、実際には薬の研究しててアイの家に卸してる」
「時々口にしている、聞きなれない言葉もそれで?」
「へっ!?あ、や、これは……」
何故かハヤテさんが焦り始めました。意味がわかりません。
私はなんとなくな興味で詳細を尋ねようとして一歩踏み出し、けれど突然現れた人の気配で踏みとどまります。
ガサガサと音を立てる茂み。
そして。
「―――…そんな所で何をしている」
どことなく不機嫌そうな声が響きました。




