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40話 お願い事

「我が元々行く予定であった魔王の城の場所だが、こちらで地図を用意する事もできる。どうする?」


 魔王なシキさんと戦った翌朝、ハヤテさん達の朝食後にまた控室へ集められたと思えば、いきなりな言葉を掛けられました。

 もちろん発声源はシキさんです。今日は、見慣れた黒髪の人間型です。

 ユーリさんは軽く首を傾げるだけでしたが、私とアイさん、そして隣に座るアイさんに支えられて何故か寝落ちしそうだったハヤテさんの三人は、一斉に驚きの表情でシキさんを見つめます。


 だって今の言葉、まるで私達に、シキさんと別行動をするかどうか決めて欲しいと言ってきているように聞こえるのです。

 もしかして狂戦士状態の時、私達に攻撃した事を後ろめたく思ってくれているのでしょうか。

 それとも、王都が襲撃されたせいで、国王しか決済できない案件が山積みになったからでしょうか。

 どちらにしても、シキさんはあの事を考慮せずに発言したようですが。


 …私達が地図を持ったところで役立てる事ができるのか、きっと考えてませんよね?


 各地の封印施設を廻ろうとしたユーリさんはともかく、私とハヤテさんはきっと無理です。アイさんはどうかわかりませんが。

 それにもっと重要な事があります。

 目的地は人間に害を成す可能性がある魔王の城。もちろん、害を成す事が肯定される状態であれば、打倒魔王も目的に追加されます。

 そんな中でシキさんがいない私達だけで、となると勝てる気がしません。

 だって昨日のシキさんですらボロボロで倒れる寸前だったという事は、元気な魔王であれば攻撃の防御も回避もままならない可能性が高いって事ですよね?


「シキさん、もし、昨日の攻撃の事を気にしているのでしたら、仲間として最後まで一緒に来てください」

「そーだよシキ様。オレ達だけだったら、辿り着けないか魔王にぶっ殺されるかのどっちかになるぜ」

「…情けない事に、あたしもハヤテの意見に賛成よ。もしあたしたちに申し訳なさを感じてるのなら、こんなのはどう?」


 私がシキさんに申し出ると、ハヤテさんとアイさんも援護してくれました。

 やっぱり二人も思いますよね。シキさんが居ないと困る、って。

 しかも、嬉しい事にアイさんがニヤリと笑って、シキさんに提案します。


「国の運営に関わらない事であれば、あたし達それぞれが一つずつ出すお願いを、シキさんが叶えるの」

「アイ、ナイス!…じゃなかった。オレは賛成!それでチャラ。お互い様って事で気にするの無しにしよーぜ!」

「あら~、それは良いわね~。何をお願いしちゃおうかしらぁ?」


 シキさんを引き留めようとしていた私達に、ユーリさんも加わりました。

 これでシキさんも文句ありませんよね?

 私が出した提案ではありませんが、ちょっと得意げな気分になってシキさんに顔を向け直すと、僅かに瞠目した彼がそこに居ました。


 シキさん、結構思い詰めてたみたいですね。


 あの時は目が見えないが為の勘違いが多々あったみたいなので、気にしなくて大丈夫ですよ?

 ただ、何で目が見えない状態になったのかの過程が気になります。

 あれだけバンバン魔術を飛ばせる彼に視覚を奪う魔術を掛けるのは、そう簡単な事ではないと思うんです。

 魔力の流れを感じるだけで魔術の攻撃を打ち落せる程の腕があるので、掛けられる前に回避するか潰すかできそうなんですよね。


「シキさん、一緒に来てくれますよね?」


 私が、最後のひと押しとばかりに言葉を付け足すと、彼がくしゃり、と表情を崩しました。


「……すまない。また、頼む」


 笑おうとして失敗したような…、初めて目にするシキさんの表情でした。



◇ ◇ ◆ ◇ ◇



「うふふ~。攻撃されて得するだなんてー、初めてだわ~。言ってみるものね~」

「……こちらこそ、これで国際問題にしないと確約してくれるならば安いものだ」


 シキさんが再び同行する事に決まった私達は、王城の出口に向かって歩いていました。

 上機嫌なユーリさんが両腕で抱えるそれは、収縮袋。

 大事そうに抱えているとはいえ、重さを感じさせない速さで歩いていますが、私は知っています。

 あの収縮袋に、果実酒が瓶ごと十五本入っているという事を!

 果実酒が収納袋へ入れられる光景を一緒に見ていたアイさんが、自分の体重と同じくらいの重さなのに、と呟いていたので、結構重たいハズなのですが…。


 本当に、重さはそのまま体積だけ小さく、な収縮袋ですよね?重さまで圧縮できる収納袋ではないですよね?


 ちなみにこれは、アイさんがシキさんに提案した事の結果です。

 国でそこそこ偉い立場にあるユーリさんが、私達以外に目撃者はいないからと、果実酒を毎年送ってくる量の五倍の本数くれるならば国際問題にならないよう攻撃された事は公開しない、と言ったのです。

 しかも、フレア共和国から支援物資が後二日程度で到着予定なので、その果実酒は物資のお礼として処理する、とも。

 お願いというよりも取引な気がしましたが、本人達が良いのなら、私は何も言いません。


 とにもかくにも、国王なシキさんの行動は迅速でした。

 アイさんの「国の運営に関わらない」という制限がある為か、ここ数年で献上されたまま持て余していたという、果実酒を収納している地下室に私達を案内し、ユーリさんに好きな物を十五本選んで良いと告げたのです。

 アイさんが、金額的に支援物資の分を入れた状態でトントンなんじゃ…、とか言っていましたが、もしかしてネム王国の果実酒って高級品なのでしょうか?


「…あら~?ヒガンさーん、もしかしてお見送りに来てくれたのかしら~?」


 ホクホク顔で歩いていたユーリさんが声を上げます。

 辿り着いた王城の正面玄関の中ほどには、確かにヒガンさんが立っていました。

 他に人は…見張りの兵士さん四人程度です。


「…ヒガン、こんな時にすまないが、頼む」

「任せてください。ところで陛下、情報部が妙な事を分析してしまいまして」

「妙な事?」


 私達はシキさんとヒガンさんの近くに立ち止まりました。

 …さっきから静かなハヤテさんが、いよいよアイさんに寝ながら引っ張られる状況になりそうです。

 夜更かししていたのでしょうか?


「はい。例の国が占領された日付が、我が国の情報部が持ち帰った情報と、周辺の他国が握っている情報とで大きく差があるようです。今回の襲撃元の事を合わせると、恐らく我が国の情報が正しい為に、情報ごと叩き潰そうとしていたと思われます」

「………」

「我が国の情報では秋の上月(かみつき)十と四日。他国では秋の上月(かみつき)零と二日です」


 シキさんとヒガンさんがネム王国の王都襲撃に関して話していると思えば、何故かシキさんがこちらをちらり、と見てきました。

 え、私知りませんよ?例の国とか、占領された日とか言われても、一体どこの国の話なのかついていけません。


「我が国の情報では太陽が出なくなった後、他国の情報では太陽が出ている期間に占領されています」


 ヒガンさんが、どこかの国が占領された日について、言い方をかえて口にしましたが、一体それに何の意味があるのでしょうか?

 そもそも国を占領した側にとって、占領した正しい日付を他国に知られる事が良くない事態って何なんでしょう?

 占領する為の情報が漏れたのであればともかく、終わった後で占領できた日を他国に知られても特に問題は無い気がします。


「はーい、あたし、お願い思い付いちゃった。シキさん、その“例の国”について、占領されたっていう辺りから詳しく教えて欲しいの。話の流れからして、あたし達がこれから行く魔王の城と関係あるんでしょ?もちろん、情報の収集方法は聞かないわ」

「………」

「陛下?」


 私が解決できない疑問に頭を悩ませていると、本日二番目のアイさんから、例のお願いが入りました。

 当然、アイさんからの提案を知らないヒガンさんが、シキさんに疑問の視線を向けました。


「シキさんが昨日の事を気にしているようでしたので、アイさんが提案したんです。お詫びに一人一つずつシキさんにお願いを叶えて貰う事で、お互い様という事にしよう、と」

「気にして…?それなら何故全―――…ああ、襲撃の件ですね。次の目的地まで戦闘を全部陛下にやって貰うとか良いんじゃないですか?陛下強いですし」

「……ヒガン」


 ヒガンさんはシキさんの事を敬愛している所があったので、私が状況を説明で納得してくれるのかちょっと心配でしたが、納得どころかノリノリの提案までしてくれました。

 うーん。それも楽そうで良いですが、倒れる寸前なシキさんより強いと思われる魔王のところに向かう手前、戦う訓練はきちんとしておいた方が良いと思うんですよね。

 シキさんもそれに気付いているのか何なのか、ヒガンさんをほぼ無表情のまま半眼で見てますし。


「それでは皆さん、またお会いしましょう。あ、周囲には気付かれないようにして欲しいのですが、陛下は収納袋を持っています。重たい荷物は彼に預けると良いですよ」

「「えっ、収納袋!?」」


 アイさんと声が被りました。


「ええ。俺が考案から完成までさせた作品なので、莫大な魔力は必要ですが、お金はそこまで掛からないですから」

「か、開発者!」


 思わず私はヒガンさんに詰め寄りました。

 彼が大きすぎるせいで顔を思いっきり上に向ける必要がありますが、気にしません。だって天上世界には無い、魔術を駆使した画期的すぎるあの袋の製作者ですよ!?あらゆる魔術に精通しただけでは作れると思えない技術が詰まったあの袋の、ですよ!?


「開発に何年かかったんですかっ!?」

「…天士(てんし)様……?」


 後ろから、壊れた、とか聞こえたり、ヒガンさんがどことなく引き攣った顔をした気がしましたが、気のせいという事にします。

 だって凄いじゃないですか。他に似たような事ができる人が結構いるならともかく、あれだけ値段が高いという事は、未だ同じ機能を持った模倣品が作られたりしないほど、他人には真似できない技術を持っているって事なんですから!


「あの普通の袋にしか見えない素材で、どうやって術の効果を留めてるんですかっ!?内側にマホージンという物を描いてるとかでしょうか?まさか布に何か仕掛けが…!!」


 私が興奮のまま、捲し立てた時でした。

 神力が回復した事により綺麗に直っていた胸当ての鎧を、後ろへ引っ張られたのです。

 当然、それを装備している私は後ろへ仰け反る事になりました。


「…ゼーレ、構造は公開できん。早く行くぞ」


 シキさんです。

 しかも、私が後ろ向きなまま、ずるずると王城の外へ繋がる正面扉へ引っ張られます!!

 えっ、シキさん!?私自分で歩けますよ!?


 しかも、私達が横を通り過ぎた時にあっけに取られた風に固まっていたアイさんとユーリさんが、ニマリ、と表情を崩したのが見えました。幸か不幸か、ハヤテさんはうとうとと船を漕いでいるままです。

 私が後ろ向きなまま引っ張られているせいでよく見えますね!


「あら?あらあら~?」

「ちょっと、ちょっとー!あたしのお願い無視してゼーレちゃんだけ連れてく気―っ!?」


 固まったままのヒガンさんを置いて、ユーリさんとハヤテさんを引きずったアイさんが、笑いながら追いかけて来ます。

 背後で、大きな扉が開く音がしました。


「その話は王都を出てからだ」


 シキさんが、大きくはないのに、よく通る声で、アイさんに返事をします。




 うん。わだかまりは無くなったみたいですね。

 気まずい旅になる事はなさそうです。

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