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38話 ネム王国の夜

5/14誤字修正。

「さて、俺も忙しいのでちょっとしか無理ですが、何か聞きたい事があれば、それなりに答えますよ?」


 落ち着いた意匠なのに、どう見ても高級そうな家具達。

 可愛らしい、白いスズランが髪に混じった給仕の女の子によって注がれる、紅茶。

 自分が招き入れた部屋で、ヒガンさんが柔らかい笑顔を見せました。



◇ ◇ ◆ ◇ ◇



 どさり


 私の目の前に置かれる、分厚い本。

 たった一冊ですが、地上世界は天上世界より製本技術が低い為、たとえ同じ頁数であっても地上世界の本の方が分厚くなります。…と言っても、流石に倍の厚さにはなりません。私の手のひらの長さよりも分厚く見えますが、一体彼は何を持ってきたのでしょう?


「ハヤテさん?それは…」

「…ヒガンに進められた魔術書。移動が楽になるから、絶対覚えろってさ」


 長机の向かいに荒々しい音を立てて座ったのは、ハヤテさん。

 ちなみに私の手には、鬼系魔族に関する伝承の解説書があります。

 …実はヒガンさんとの会話後、本日はお城に留めてくれるとの事で、夕食までの約二時間を好きに過ごして良いだとかで、ユーリさん以外、アイさん含む私達三人は図書館に来ていました。

 もちろん、一般公開されている方しか閲覧できませんけどね。


「それにしても、びっくりよね。あんな、シキさんとほとんど歳が変わらない感じの人が、彼の育ての親だなんて」


 トス、と私の隣に、アイさんが座ります。彼女の前に置かれた本は………?薄めのものが数冊のようですが、全て題がかすれて読めません。

 かなりボロボロになっていますが、それ何ですか?


「だよなー。けど性格が違い過ぎるし、俺達からかわれてんじゃね?後でシキ様に聞いてみようぜ」

「ところでアイさん、それは何ですか?」

「ああ、これ?」


 真偽不明なシキさんの育て親に関する話は横に置いて、アイさんは薄めの本の裏表紙を捲って見せてくれました。

 う~ん、天上世界で言う旧字体で書かれていて、読み辛いです。

 発行、愛する、好き、会?……王…?

 私が首を捻っていると、アイさんが解説してくれました。


「これは古語で書かれているから、今とは文章の構成が少し違うの。今風に言い直すと、陛下愛好会発行って書かれてるのよ。この国創立時の本が無いか探していたらボロボロなこれを発見したんだけど、当たりみたいね。現代の文法になったのは、約百七十年前から百五十年前。ネム王国は百九十から二百年位前にできたはずだし」


 何をもって当たりと言っているのか、さっぱりです。それにアイさん、物知りですね。私、国の成り立ちなんて、伊耶那岐(いざなぎ)の宮がある、聖オオオ国とその聖オオオ国に滅ぼされた国くらいしか知りませんでしたよ?

 しかも「陛下」って………。ヒガンさんの言葉を信じるなら、該当者は一人しかいませんよね。


「…あら?これ、書物というより、画集みたいね…。でも…え?」

「ん?アイ、どうしたんだ?………ブフッ!うっわ、お約束キター!」


 アイさんの戸惑いの声に、ハヤテさんが向かいから机の上に体を乗り出し、上から覗き込んだと思えば、すぐに体制を崩して体を震わせ始めました。

 一体何が描かれていたのでしょうか?


「アイさん?」

「あ!ゼーレちゃんは見ちゃ駄目よ!!」


 気になって覗こうとしてみれば、空気を裂く勢いで椅子ごと離れるアイさん。

 え、ちょっと!余計に気になりますよ!?


「え、アイさん?」

「駄目よ、駄目!シキさんだって知らなかったら、普通に眺めるところだったけど、これはゼーレちゃんが見て良い物じゃないわっ!」

「え、別にそんくらい良くね?シキ様をからかうネタにはなりそうだけど」


 そこまで騒がれると、どうしても見たくなるのが人情。天津神だって同じです。

 こうなったら強硬突破です!


「『与賜(トマヤ・)光速(ミラ・ハーシェ)』!」

「え?ゼーレちゃん!?」


 私は速度二倍の補助神術が放つ光が消える前に、アイさんの持つ画集が見える位置まで移動しました。

 ちゃんと周囲にぶつからないよう、気を付けましたよ?

 そして気になる画集の絵は………。


「か、可愛いです………!!まさかこんな幼い頃に建国していただなんて…!」


 美少女といっても差し支えないほど可愛らしい、幼いシキさんでした。

 え?何で美少女っぽいのにシキさんとわかるのか、ですか?

 この私が見た頁の彼、魔族の姿なんです。

 淡く儚い薄桃色の髪と、髪の間に見え隠れする同色の花の蕾。そして、ちょっとツンツンしている気がする髪は、彼の面影が残っています。

 ただ、現在の彼には後ろへ伸びる白い角的なものもみえましたが、この幼い姿には付いていません。

 金の瞳も画家の力なのか暖かみがあり、吊り上がりぎみな切れ長の目も、今と違ってくりっと大きく愛嬌があります。

 この絵を描いた画家の腕を信じるなら、歳は人間でいうと七から九歳程度でしょうか。そういえば、彼の背に漂う蕾を付けた茎も、細くて本数が少ないです。

 実物に忠実なのか画家の誇張なのかは不明ですが、どこか神秘的なのに愛らしいという、心臓がキュンと音を立てる錯覚を起こすほど、非常に目の癒しとなる姿ですね!


 私が、可愛らしさに心の中で悶えていると、アイさんがどこか呆然とした感じで呟きました。


「…そう、か。そう、ね。そういう見方もあったわ。あたしとした事が…。いえ、これはゼーレちゃんが純真なだけかもしれないのよ…?」

「へ~、意外と頁数あんだな。…つか、この画集、シキ様正面見てるの最初の一枚だけじゃね?このヨーグルトっぽいの食って幸せそうにしてるとことか、斜め前どころか斜め上から描いてるよな?隠し撮り、いや、隠し描きなんじゃ……」


 ハヤテさんが、アイさんが持ってきた別の薄い本を手に取って、パラパラと捲っていきます。アイさんは何も言わないので問題無いのでしょう。…あれ?それじゃ、何でさっき私は駄目だと言われたのでしょうか?

 あ、ハヤテさん、私にも見せてください!


「あら、言われてみればそうね。ますます怪しいわ。……それにしても、シキさんって酸酪(さんらく)が好きなのかしら?笑ってる気がする絵は、もれなく全部、綺麗な細工の硝子の器に入った酸酪(さんらく)を食べているんだけど」

「んんん~?………マジだ!こっちの画集もアイが言った通りになってる!」


 こうして私達は一時間程騒いだ後、それぞれ別の本の読書を開始するのでした。



◇ ◇ ◆ ◇ ◇



「それでは陛下がまだ戻っていませんが、先に頂いてしまいましょう。都民を土の外に出すのは、ほんの五分あれば完了するはずなので、戻って来ないという事は別の仕事を発見してしまったんでしょうし」


 場所はヒガンさんが最初に案内してくれた部屋。私達の目の前には、フレア共和国の宿に勝る見た目の料理が並べられていました。

 本来は中級貴族用の控室らしいのですが、来客用の食堂では会話がし辛い、とのヒガンさんの配慮らしいです。少しだけ例の食堂を覗かせてもらったのですが、確かにあれは嫌ですね。椅子と椅子の間隔が広すぎて、大声を出さないと端に座っている人同士では会話ができない感じでした。


 …ところでヒガンさん、これ、私も食べないといけない感じですか?既に神力が四分の一近くになってる私では、途中で力尽きそうなのですが。

 襲撃の脅威もやっと抑えたと言っていたところで、ここまで持て成してくれなくて良かったんですよ?


「あら?ヒガンさんは食べないの?」


 目の前の料理をどうするべきか悩んでいると、アイさんの声が上がります。

 確かに、彼の前には料理が無く、飲み物…それも紅茶らしきものや、ただの水らしきものしか置いてありません。お酒の臭いがしない辺り、両方ともお酒ではない事は明白です。彼、この後も仕事の予定がありそうですね。

 ところでアイさん、私の方にも気付いてくれたりは…。


「俺の種族である大樹族は、口から摂取する水分と光合成で生きているんです。つまり、残念な事に飲み物以外は口にできないんですよ。俺の分まで、食事を楽しんでくださいね」

「あの~。ここまでしてくれて-、申し訳ないのだけど~…」


 アイさんの疑問に、ヒガンさんが笑顔で返したところで、ユーリさんが口を挟みました。


「わたし、今日の戦闘でー神力をとっても使っちゃって~…。食べ物を分解する力が足りない気がするのー…」

「!わ、私もです!しっかり睡眠を摂ればそれなりに回復すると思うのですが、さっきの今では神力が足りなくて。…大変申し訳ないのですが、辞退して良いでしょうか?」


 ユーリさん、ありがとうございます!こういう事って、一人だと言い辛いんですよね…。


「ああ、そういえば神族は魔力…いえ、神力が食事代わりでしたっけ。陛下が戻ってきたら、襲撃したお詫びとして魔力を分けるよう伝えておきますね」

「食事とは違うのだけどー…。わたし達はぁ、睡眠をしっかり摂って回復するのが普通なの~。無理にくれなくても大丈夫よー?」

「陛下なら、心配しなくても大丈夫ですよ。…それでは、頂きましょうか」


 ユーリさんが遠回しにシキさんからの魔力譲渡を遠回しに断ってくれましたが、ヒガンさんは適当にあしらい、両手の手の平を胸の前で合わせました。

 軽く目を閉じ、何かに祈るような恰好に見えますが、どうしたのでしょう?


「頂きます」

「「「…?」」」


 彼が口にした言葉に、ハヤテさん以外の私達…女性陣三人が首を傾げました。

 …そういえば、ハヤテさんも食べる前に時々両手を合わせてましたね。目は閉じたりしていませんでしたが。

 ヒガンさんは、頂きますと口にした後、あっさりと両手を離し、杯に手を伸ばしました…が。

 流石に私達三人の視線には気付いたらしく、首を傾げてきました。


「どうしたんですか?ユーリさんとゼーレさんはともかく、アイさんとハヤテさんは食べれますよね?」

「ヒガンがやった、日本式のアレに驚いてるだけだぜ」

「…ああ、『頂きます』ですね。この国では一般的になっているので、忘れていました」


 ハヤテさんとヒガンさんの会話の内容から、先程ヒガンさんがやった「頂きます」が、二ホン式の何かだとは解りましたが、……えっと?


「ヒガンさん、今のはー…食事の前にする儀式という事かしら~?」

「儀式…といえば儀式、ですね。飲食を行う際、自分達の命の糧となってくれる命に、そして自分が口にするまでに労力を費やしてくれた人々に、感謝を捧げる風習があるんです」


 へえ…。そんな意味が込められていたんですね。

 …あれ?でも、その言葉を口にするときには、相手の大半ってその場にいないですよね。


「相手には伝わらないと解る行為を、それでもなお行うなんて、不思議な風習があるんですね」

「結局は自分の行為に対する後ろめたさを無くす為の、自己満足って事でしょ?」

「そうかしら~?命を大切にする、とっても良い風習だと、わたしは思うわ~」

「…うわー。認めてるのユーリだけとか、女の子、超現実的過ぎるー…」


 と、ヒガンさんではなく何故かハヤテさんがげんなりしていましたが、彼が食事を口にした事で、アイさんもそれに続きます。

 …ユーリさん。思ったのですが、私達、このままだと暇ですよね?

 食べる事ができない料理を前に、そわそわするだけというのはちょっと…。

 ですが、私の心配は杞憂に終わりました。紅茶を三口ほど飲んだヒガンさんが、口を開いてくれたのです。


「ところで、本来は仕事でここに来れないはずの俺がここに来ているのには、訳がありまして」

「え!?ヒガン、仕事とかやってんの!?」

「…勇者、不敬罪って知ってます?王族だけでなく、貴族でも適応できるんですよ。そもそも俺って魔族の地位は魔王の下の讃犠(さんぎ)な上に、この国の宰相やってるんです。基本的には仕事に忙殺されてる立場なんですよ?」

「あら?宰相って、王が子供である場合か、女性の場合に出現する地位じゃなかった?」


 そうなんですか?私には人間の地位に関しては詳しくないので、とりあえず会話はアイさんに任せましょう。

 …それにしても、目の前の料理が気になりますね。特に一人に対する鶏肉の量がおかしい気がします。一人に対して鶏ほぼ一羽分って…。


「ああ、陛下の場合は、即位した時はまだまだ子供だったので、親代わりな俺が補佐してたんですよ。そしたらいつの間にか宰相って事になってて、他の役職作るのも手間って事になりまして」


 え、それって、シキさんが未だに子供扱いされているという意味では…ない、ですよね?


「ええっ!?それじゃ、あの画集、そのまま当時のシキさんだったって事!?」

「………画集…。アイさん、陛下の髪の色は何色でしたか?」

「え?薄桃色だったけど」


 アイさん、それって驚くところなんですか?生き物である以上、成長する前の過去の姿は存在するものだと思うのですが。

 ヒガンさんは溜息を吐いて「回収しなければ」とか言っていますが、あんな素敵な画集を回収する意味が解りません。多くの人に知ってもらわないと勿体ないと思います。


「…まあ、画集の事は後にして、忙しいはずの俺がここにいる理由は、国の未来を左右する質問をしなければならないからなんです」


 へえ。ちょっと騒がしい感じの人だったので、そんな事を任されるほど高位の人だとは思っていませんでした。

 私、ちょっと失礼でしたね。ヒガンさん、すみません。




「ゼーレさん、あなたは陛下の申し出を受ける可能性はありますか?」


 へ?


 ヒガンさん、国の未来を左右する質問って、さっき言いませんでした?

 そもそもシキさんの申し出って、何の話ですか!?

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