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29話 天上への見送り

4/27誤字修正

「ちょっ、ま、落ちるっっっ!」


 谷間に跳ね返る、ハヤテさんの声。

 大丈夫。落ちませんよ?私達がしっかり抱えているんですから!




 私達三人は今、シエルド山脈の中間層にある、大渓谷の真上を飛んでいます。

 え?星の御方傘下の天津神達はどうしたのか、ですか?

 トロンベさん達以降、まだ戦っていません。


 実はですね、トロンベさんが撤退したのを確認したエルちゃんが、外から向かおうと言い出したんです。

 まあ、わからなくもないです。雷の御方がいた狭い部屋は、建物の入口からほとんど進まない所にあったので、沢山いるであろう天津神を蹴散らしながら廊下を入口まで突き進むより、外から入口に入った方が戦闘も少なくて済みそうですし。

 後は、運良くアイさん達に合流できたら、力を貸してもらえないかな…と。


 シキさんがいなくなった今、戦力が足りないのは目に見えていますからね!


 そこで封印施設へ引き返した私達は、壁の模様から外へ出たのですが、出た先は風がごうごうと唸る大渓谷の崖の壁、つまり足場が無い所だったんです。

 慌てて左手に掴んでいたハヤテさんの手を強く握りしめて落下を防ぎ、ハヤテさんに続き出て来たエルちゃんも飛んで事無きを得ました。


 ハヤテさんを吊るしながら少し進むと、伊耶那岐(いざなぎ)の宮らしきものがちらちらと見えて来た為、シエルド山脈の中に出た事が判明して、現在に至ります。

 手だけを捕まれた状態は怖いとハヤテさんが主張するので、翼の大きさから上昇力のあるエルちゃんがハヤテさんの脇辺りを抱え、私は膝辺りを抱える体勢にする、という事は空中でしましたが、それ以降はそのまま飛んでいます。


「う~ん。それにしても薬師ちゃん達見えんね」

「私達が戦っている間に、結構進んだのでしょうか」

「…どーでも良いから、早く足場があるとこまで飛んで欲しい…」


 伊耶那岐(いざなぎ)の宮に近付くにつれ、だんだん神術が立てていると思わしき音が耳に届いてきました。

 主に爆音、でしょうか?ドッゴン、ドッゴンいってます。

 遠目から見た感じ、特に建物は破損していません。伊耶那岐(いざなぎ)の宮の耐久性が、非常に高いものだという事を証明しているようですね。


「エルちゃん、あの爆音が続いている内に早く行きましょう。アイさん達がいなくても、雷の御方が捕まっていなければ、何とかできるかもしれません」

「うーん。薬師ちゃん達と合流できんかったら、外回りしちょる同僚掴まえて行こう思ってたけど…。確かに雷の御方捕まるの一番最悪だし、頑張りますか!」


 ま、宮から異音聞こえてたら皆戻って来ると思うし、と、私の提案にエルちゃんも同意します。

 体の痛みも、少しだけ和らぎましたし、突撃です!



◇ ◇ ◆ ◇ ◇



ドッゴン バリバリッ ジュオオッ


 擬音語で表すと、こんな感じでしょうか。

 私達がもう少しで伊耶那岐(いざなぎ)の宮に到着する、という時、伊耶那岐(いざなぎ)の宮の建物の入口が吹き飛び、雷の御方含む三人と、それを追う十人以上の天津神が、そこそこ広い野晒しの区域に飛び出して来たのです。その時の音が、こんな感じでした。


 前半二つは、雷の音です。


 雷の御方に付き従っているのは、エルちゃんを呼びに行ってくれた、夕日色の髪の産祇(さんぎ)アーベントさんと、初めてみる顔の、藤色の波打った髪を持つ女性の技司(ぎし)さん。

 彼らを追って出て来た天津神は、二人の産祇(さんぎ)以外、全員技司(ぎし)のようです。


 私達はハヤテさんを、敷地の入口付近という名の後方に下ろし、雷の御方の元へ急ぎました。


技司(ぎし)エクレール、ただ今戻りました!陸津神(ろくつかみ)祭唱(さいしょう)は、やはり彼らに捕らえられていました。これが証拠です」


 エルちゃんの上司向けの言葉遣いに新鮮さを感じながら、私も声を上げます。


天士(てんし)ゼーレ、微力ながらお手伝いします!陸津神(ろくつかみ)祭唱(さいしょう)は各地の封印施設の弱体化に気付き対策を施していたところ、星の御方傘下の彼らに封印を解こうとしたと誤認され、拘束・拷問されていたようです」


 エルちゃんが、星の御方傘下の天津神に神術で攻撃しつつ、ユーリさんの纏っていたボロボロの服を手渡され、雷の御方の眉が歪みます。

 続いて私が口にした言葉に対し「そうですか…」と非常に疲れた声で彼は深いため息を吐きました。


「天上世界運営に関する書類を駄目にし職務妨害をしたあげく、他国の要人を誤認拘束で拷問まで…。これは一度天上世界に返って星の奴に確認しなければなりませんね。…ですが」


 雷の御方は、目の前に広がる、星の御方傘下の天津神達からの猛攻に目を向け、顔を曇らせました。


 天上世界へ戻る方法は、二つあります。

 一つは、自力で雲の上まで飛ぶこと。ただしこれは体力の他に強力な上昇力が必要です。さらに空にある幻影術を見破れる能力が無くては、重力を振り切る速度を保ったまま天上世界の建物の裏に激突し、死に至ってしまいます。

 もう一つは、伊耶那岐(いざなぎ)の宮の奥にある“転送の間”の転送陣を使う事。

 これは便宜上、転送陣と言っていますが、実際は陣から天上世界まで伸びる透明な筒状の神力の、中の重力だけを消すことで簡単に上昇できるようにしてあるだけです。

 もちろん、天上世界へ直通なので、途中で建物の裏に激突する心配はありません。


 自分の飛行速度による激突死を避ける為にも、できるだけ転送陣を使用したいと思っているように見える雷の御方に、私も賛成です。

 せっかく不正を暴ける高位の方が天上世界に議案を持ち込もうとしたのに途中で死亡してしまっては、この件が闇に葬られかねません。


「…お恥ずかしい事に、(わたくし)は武器での戦闘が苦手でして。宮の中を進むとなると神術だけで“転送の間”に辿り着く事は、恐らくできないでしょう」

「なら、行けるな!」


 雷の御方の武器苦手宣言に、やっとこの場にたどり着いたハヤテさんからの声が掛かります。


「…勇者ハヤテ殿、囮を使う場合は賛同できませんよ?」

「んな事しねーし。ようは、相手も武器が無けりゃ良いんだろ」

「…極端ですが、そうなりますね」


 ハヤテさんが、ちらり、と私を見てきます。

 そうですね。できますね。

 神力が足りるかが問題ですが、やってみましょう!


「私が、あちらの武器をどうにかします」

天士(てんし)である君が、ですか?」


 まあ、普通に考えたら疑問に思うかもしれません。


 私達天士(てんし)階級の人は基本的に束衛(つかえ)になる事が目標で、天士(てんし)になったときに無詠唱ができた下級神術とは別の属性の下級神術で、無詠唱で発動できるようになる事を目指し躍起になっています。

 私みたいに一つの属性を極め、天士(てんし)枠での最強を目指す人なんて、ほぼいません。

 中級神術を無詠唱でできるようになる事を目指すのは、普通なら天士(てんし)の上の上。エルちゃんの階級、技司(ぎし)になってからです。


「私、つい最近まで光属性以外は使えないと思っていたので、光属性はそこそこ極めているんです。『消影閃(シュゼア・ミラ)』!」


 神術合戦でごたごたしている場所の向こう、前線に立っていた一人の技司(ぎし)の手元から、眩い光りが炸裂しました。

 もちろん、武器は消滅しています。

 その光に視線を取られた雷の御方は状況を確認したのか、目を見開きました。


「その消滅神術は、(いにしえ)の種族の…!そう、ですか。月のところに…」

「雷の守護神様、これなら行けるだろ?ほら、早いとこ行こうぜ!」

「解りました。行きましょう。…議案は通らない気が大いにし始めましたが、行かなければ何も始まりませんからね」


 え、ちゃんと議案、通してくださいよ。

 天帝が不在の今、高木(たかぎ)である雷の御方は、月の御方と星の御方に並んで最高権力者なんですから。


「では、武器を取り上げます!『消影閃(シュゼア・ミラ)』!」


 目の前で繰り広げられる雷の御方と他四人(驚きな事にハヤテさんも加わっていました)対、星の御方傘下の天津神達の神術合戦の向こう側に目を凝らし、ひたすら『消影閃(シュゼア・ミラ)』を唱えます。

 途中で状況に気付いた産祇(さんぎ)二人の指示で武器は収められてしまいましたが、合計八本は消しましたよ!

 私、頑張りました!………神力が尽きそうで、かなりフラフラです。

 私の状態に気付いてくれたエルちゃんに、少しだけ神力を分けてもらって、物理攻撃はできる程度に持ち直しましたが。


 流石、幼馴染様々です。


「奴らの動きを止めてくれたら、オレはケガさせずに行動不能にできるって事、頭の片隅にでも入れといてくれ。よっし、突入~!」


 ハヤテさんが聖剣を掲げて、神術合戦のただ中に突撃しました。

 え!?待ってください、まだ危険ですよ!?


「え、ゼーちゃん?…勇者様!?」


 ハヤテさんを追った私を追いかけて、エルちゃんも飛んで来ます。

 その後ろに足音が聞こえ始めたので、きっと雷の御方達もついて来ているのでしょう。


「相棒、出力…じゃなくて吸引力全開で頼むぜ!おりゃあっ!!」


 先頭を走っていたハヤテさんが、目の前に広がる火や風や水、そして氷や雷の神術に向かって、剣の平面をまるで木槌で叩くかのように振り下ろします。

 瞬間、轟音の響く空間が、割れました。

 割れた空間の向こうにいた、星の御方傘下の天津神達が唖然とした顔をしていましたが、多分こちらの雷の御方側も同じ心境だと思います。


 聖剣っていうからには、「魔」のものに有効な剣かと思っていましたよ。

 あ、でもシキさん曰く、魔力と神力は同じ存在なので効果としては私の思っていた通り、という事なのでしょうか。


「あの聖剣、魔剣の間違いではないのでしょうか…」


 ちらりと耳に届いた雷の御方の声に、私は激しく同意しました。



◇ ◇ ◆ ◇ ◇



「ここまでありがとうございます。(わたくし)とシュネーが抜ける為、戦力的に心許無いかもしれませんが…。お詫びとして神力を分けて行くので、どうか頑張って逃げ切ってください。…アーベント、後は頼みましたよ」


 重厚な扉がガンガンと音を立てる中、雷の御方の『与賜(トマヤ・)広源力(フィル・メーナ)』という言葉と共に、枯渇していた神力が二割程度回復したのを感じます。

 ちなみにシュネーさんというのは、藤色の波打った髪を持つ女性の技司(ぎし)さんの名前です。

 外回りに出されたせいでこの場にいない雷の御方傘下の人達の為に、産祇(さんぎ)のアーベントさんを地上世界に残して行くそうです。


「畏まりました。まずは残りの三人を集めて、今後の対策を考える事にします。もし、天上世界に帰還する事になりましても、寛大なお心でお許し頂ければと思うのですが…」

「大丈夫ですよ。五人全員が揃っているのであれば、(わたくし)は咎めません。…では」


 ばさり、と二つの影が、うっすらと白く光る筒状の者の中を羽ばたいて上昇していきます。

 それと共に、扉を固めていた氷に走る、無数のヒビ。

 エルちゃんと、シュネーさんが協力して神術で固めていたので、当然の結果です。


「さーて、こっから出たら、シキ様の所へ殴り込みに行かないとな」


 雷の御方とエルちゃん達が話している間、息切れで口を挟めなかったハヤテさんが、呟きます。

 今いる四人の中で、最も体力が無いと判明したばかりですが、大丈夫でしょうか?




 聖剣さん、ハヤテさんの事、お願いしますね。

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