28話 攻撃手段
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ギンッ ギンギンッ
次々と襲い掛かってくる重たい大剣。
私の刺殺を主目的として作られた剣でそれを受け止めるのは、自分の残りの武器を折る事と同意義です。更に言うならば、現在私が司る“剣の光”は速度が優れた剣の使い手という意味もある為、性別的な力差もある以上、重さには対抗しない方が賢明。
試合ならともかく、一人以外は殺して良いという宣言があった為、対抗してみて剣が折れてから「やっぱり無理だった」では取返しがつかないので、重さへの対抗は挑戦できません。
視覚を潰したトロンベさん相手では目晦ましも使えず、私はひたすら受け流す事に集中していました。
…いえ、本当は他に攻撃手段があるんです。
ただ、私の心が、同じ天津神の命を奪う目的で神術を使うのを拒んでいるだけなんです。
練習中の火属性神術。
これを使えば、相手の力を上回る神力が必要な光属性と違い、当たれば確実に相手へ傷を負わせる事ができます。
「ふぉふぉっ、下っ端のくせにワシの剣戟に未だ耐えるとはやるのう。じゃが防御だけでは体力の多い方が勝ってしまうぞい?体格的に考えても、もちろんワシの勝ちじゃがな!」
「“剣の光”を司る私、が、剣で負けるわけには、いきま、せんっ!」
トロンベさんが勝ちを確信した声音で話しつつ、体に黄緑色の光の粒子を纏わりつかせている事は、しっかり見えています。…エルちゃんがトロンベさんに使った中級神術、『火炎広弾』に近い光り具合。
この光の量なら、きっと対応できます!
「終わりじゃ。『風斬広舞』!」
「『火壁』!」
トロンベさんの左手から広範囲の風の斬撃が放たれる直前に、火の壁をトロンベさんの左手近くへと出現させる事に成功しました。
彼の周囲を舞っていた光の粒子の量で、術に込められた神力はなんとなく判る為、それを超える神力を込めて発動させています。
結果、上級神術に吸収されたエルちゃんの時とは逆に、こちらの火属性が風を吸収して大きく燃え盛りました。良かったです。トロンベさんが使った神術は、ちゃんと中級みたいです。
「何!?相殺したじゃと!?嬢ちゃんの翼の大きさからして、得意属性は一つではないのか!?それを無詠唱で…!」
さっきの神術に警戒してくれたのか、少し距離を置かれて向き合う形になっています。
左の剣を飛ばされた頃、トロンベさんの向こうにチラリと見えていたハヤテさんは、エルちゃんの加勢に行ったのか声は聞こえても私が見ている方向には見えません。
代わりに、ほとんど傷の無い束衛の男が、ぐったりと倒れています。
ハヤテさん、大の大人に勝てる程度に強かったんですね。今度野営する事になった時にでも手合わせを申し込んでみましょう。
って、多少の余裕ができたとばかりに現実逃避をしていては危険です。トロンベさんに集中しなくては!
私は、トロンベさんの動きに注意しながらも、飛ばされた剣との距離を測りました。…五歩程度、走らなくてはならない距離です。トロンベさん相手に結構遠いですね。
元の天士の姿なら、一度剣を光に戻して手元に具現化できるので、人化した状態で戦うのは結構不便です。
…あれ?
天津神の階級は翼を見たら判るのですが、人化して翼が無い私を見ただけで、トロンベさん、私の事を天士って言いませんでした?
しかも、人化しているはずな私に向かって、翼の大きさがどうとか…。
私が不審な点に気付いて考える間も無く、トロンベさんの周囲が、小さく黄緑に輝きました。
彼が術名を口にしないまま飛散して来た風の刃に、私も対抗して火属性の下級神術をぶつけていきます。
もちろん、術名無しの発動です!慣れていない分、無駄に神力が消費されている気もしますが、間に合わなければ命に関わるので気にしちゃダメです。
…このまま神術合戦にしてくれないでしょうか?シキさんに壁へと叩きつけられたせいで体のあちこちが痛いですし、できるだけ動きたくありません。また斬りかかられたら、残っている右手用の剣も吹き飛びそうです。
あまりの痛みに現実逃避率が上がってきている気がしないでもないので、そろそろ危険な気が…。
「くっ!ワシは神力が見えると思っておったが、その翼の残滓をかたどる神力は偽装じゃったのか!天士と見せかけて油断させるとは、何と狡猾な奴じゃ!」
「……偽装もなにも、私は天士ですよ?」
「ここまで高度な神術を使っておきながら、そんな嘘はワシに通用せんぞ!」
ええー……。なんだかトロンベさんの中で、私の人物像がスゴイ何かになっていっているみたいです。
私の階級は天士で間違い無いですよ?神力の残滓とかで見えたという羽の大きさも枚数も、きっと合ってますよ?
私達の間で、風の刃と火の玉との衝突が、少しずつ増えていきます。
エルちゃんとハヤテさんのいる方向は、確認しません。
月の御方を姉に持つ、あのエルちゃんがいますし、きっと二人して負ける事は無いと信じています。
「星の御方の邪魔をするあげく、ワシにここまで抵抗するとは、嬢ちゃん、さては日の御方の元部下じゃな!?いい加減、正体を見せぇいっ!」
かなり誤解されています。
ですが、全身の痛みに耐えながら人化の術を維持し続けてまで戦う理由は、今この時において全くありません。
ここである程度は誤解を解かなければ、今後もっと壮大な誤解をされる可能性があるので、本来の姿程度は見せた方が良い気がします。
そもそも私が人化していたのも、人間と会話する為であり、私と会話する相手が周囲に不気味がられないようにする為です。
ここには私が見えないアイさんはいませんし、こんな状態の伊耶那岐の宮に、彼らが観光客を受け入れているとは思えません。
網膜が焼き切れているトロンベさんに私の姿が見えるとは思えませんが、人化の神術を解く良い機会でしょう。
飛来する風の刃を防ぐ火で、私達の周囲が赤く何度も閃きます。
私は人化の神術を解き、金属の煌めきを見せる一対の羽を、ばさりと広げました。
「私は月の御方の傘下。“剣の光”を司りし者、天士ゼーレ・サンハ!月の御方のご命令で、日の御方を害した犯人を捜索しています!」
全身が痛い今、人化のときにのみ発現する防具が無いのが少々心細いです。
まあ、人化を解いた分だけ神術の使用に余裕ができるので、危険度は変化していないかもしれませんが。
これで少しは誤解が解けたかも、とトロンベさんの顔を窺おうとした私は、バカでした。
「貴、様が星の御方を―――!!」
ガキンッ!
ピシリ、と間近で響く、不穏な音。発生源は、私の剣の刀身からです。
さっきまでのどこか使命を帯びた顔と打って変わり、完全に憤怒に燃えた表情のトロンベさんによって、少しずつ広がる、ヒビ。
折れないように、神力を刀身に思い切り込めてみますが………、ダメです!折れます!
「貴様がっ、星の御方を惑わせた張本人かっ!!」
「っ!」
キンッ…!
折れたような音と共に、真っ白になる視界。
折れた瞬間に襲って来るであろう痛みに耐えようとして…、けれど何も起きない、間。
「なっ!?」
そして、真っ白な視界の向こうで響くトロンベさんの驚愕の声とたたらを踏む音に、私はそっと、瞼を開きました。
私の折れた剣の向こうにいるのは、素手のトロンベさん。
そう、何故か素手なのです。
今までその手にあった大剣は、どこにも見当たりません。
その驚きの表情からも、彼が自分で武器を収めたわけではない事は明白です。
「な、んじゃ、これは……。神力がワシの剣に集中したと思ったら、剣ごと消えよったぞ!?一体、何なんじゃ貴様は………!」
私は何もしていないはずなのですが、剣を消した犯人は、トロンベさんの中では“私”だと確定しているようです。
え、あの、待ってください。私、何もしてませんよ!?
現象としては、術に込めた神力より力が少ない相手ならば消滅させる事ができる『消影閃』に似ていますが、あの神術は対生物用だと月の御方に教えられました。
対無機物の神術は知らないので、私ではないはずです。
思わず他の二人かと視線を巡らせましたが、二人は前衛の技司と後衛となった束衛の二人組相手にギリギリの戦いをしていて私に構う余裕は見えません。
では、誰が?
トロンベさんの剣が消える前、彼の剣のすぐ近く…、私の剣に神力を集めていたのは、もちろん私です。
考えつつも視線を戻すと、産祇という高木の三神のすぐ下の位であるにもかかわらず、トロンベさんは素手による攻撃も、神術による攻撃も行うどころではないように、未だ動揺していました。
今の内に手元の折れた剣と、彼の向こうへ落ちている剣を、光へ変換して手元に納めておきましょう。
…剣を収めてから気付きました。
私達、天津神系神族の武器は、一ヶ月から半年もの間、自分の神力を凝縮させて作り出した塊を、専門の鍛冶屋に持って行って作って貰っています。
武器が無い者や破損した者に対して、“武器製作休暇”というものが与えられる程度に、長期間、一日中神経を尖らせる作業です。
もちろん、本人の技量にもよりますが、時間を掛けた方が強力武器の材料となります。私は神経を尖らせ続けるのが大変だったので、二ヶ月頑張った後は継続を断念しましたが。
って、そこはどうでも良いですね。
問題は、シキさん曰く、私達神族の体は神力の塊だという事です。
それなら、その神族自身の神力で作られている武器は………?
ちらり、とエルちゃん達の相手の手元を確認します。
ものは試し。やらずに悩むのは時間の無駄です!
「『消影閃』」
カッ!
「うわっ!?」
「なっ!?」
「え、何今の光…って、まさかゼーちゃん!?」
「武器消すとか、意外と鬼畜ー」
うん、ごめんなさい。
トロンベさん、武器を消した犯人、私かもしれません。
基本的に中級神術は、無詠唱はできても術名無しはできなかったので、私、旅してる間に強くなったみたいですね!
「産祇トロンベさん、ごめんなさい。意識していなかったのですが、どうやら私の神術で消してしまったみたいです」
「く、見えぬ事で分析もままならんの。じゃが、貴様の言う事が真実なら、月の御方は星の御方に内密で貴様のような化け物を飼い慣らしていたという事か。すぐにでもお伝えせねば」
「…見逃してくれるのですか?」
すぐに去ってくれて良いんですよ?と、私は期待の眼差しで見つめます。
…が、そう簡単にはいきませんでした。
「笑止!この部屋の上、資料室の外にはワシ等の他に星の御方の傘下が集まっておる。雷の御方の捕縛か、ワシ等の方か、先に終わった方が終わっておらぬ方へと合流する手筈じゃ。この部屋からワシ等が出たとて、何の不利益も無い。むしろ体勢を整えるだけじゃ!」
その言葉と共に、斜め後ろから、ドッ、と重たい者が床へ落ちる音が響きます。
「くっ、残り二人も倒れたか!ワシだけでも行かせてもらう!『風巻広斬』!」
「『火壁』!」
ゴオオッ
エルちゃんの中級神術を吸収できた、あの上級神術の竜巻です!
とっさに火の壁を作ったのですが…。
っ、駄目です。流石に、中級神術の『火壁』では、上級に巻き込まれて…!
「ゼーちゃん、もうちょい頑張って!―――凍える空気を払う火よ、寄せ来る敵を遠ざけよ『火壁』!」
エルちゃんの神術が、私の神術と重なりました。
安定する、火の壁。…上手く風を吸収して風の上級神術を相殺する事に成功したようです!
風の神術による手応えが無くなり『火壁』を消した頃には、トロンベさんの姿だけ消えていましたが、行先は分かっています。
この部屋の上の資料室の外。
私達は一体、何人と戦う事になるのでしょうか。




