27話 隠し部屋の乱闘
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「まさか同胞を叩きのめすとはの。技司エクレール・ナハト、そしてそこの天士、同申し開きはあるか」
封印施設の穴から隠し部屋へ出た私達を待っていたのは、神術による洗礼…ではなく、天津神六名からの質問でした。
不意打ちは免れたものの、私達どころか相手も武器を構えています。
私より大きな羽が四枚ある、彼らの中で最も位の高い産祇のお爺さんが口にした通り、申し開きのみ聞いてくれるだけで、戦いの火蓋が落とされそうです。
「証拠の無い不当な理由で、陸津神の祭唱さんを拘束しちょった経緯を知りたいんけど」
「フレア共和国へ抗議文を出す事無く、いきなり誘拐した伊耶那岐の宮には正義が無いと判断しました」
私達からすれば、これが真っ当な理由なのですが、一体あちらは……。
「不当だとぉ!? 奴は地下へ閉じ込めた悪魔の封印を解こうとしていたのじゃぞ!? 掴まえて当然な上、最終的に陸津神が何を企んでいるのか探る為にも、手を打たにゃならんのが、解らんのか!!」
「陸津神の祭唱は正しく封印の事を知っていたようだが、天津神のお前達は違うようだな」
「黙れ小僧! ワシはお前と話しとらん! 良いか、貴様等はこの地上に危険を振りまく因子を開放したのじゃぞ!? 許す分けにはならん。皆! 掛かれ! 誰か一人言葉が話せる状態ならば、他は死んでも問題は無い! やるのじゃ!!」
一斉に降り注ぐ、下級神術の雨。お互いを相殺しないようにか、水と風の神術だけのようです。
もちろん、下級神術だけで私達をどうにかできる訳がありません。
私やエルちゃんが防御用の神術を唱える前に、厚みのある水の壁が一瞬にして目の前に広がり、全ての術を掻き消してしまいました。
この隠し部屋に戻って来た時から青い光の粒子を纏っていた、シキさんの魔術です。
それだけでは終わりません。驚いて一瞬固まったエルちゃんを余所に、シキさんは術を解くのと同時に魔砲筒で魔術砲を撃ち出しました。無色透明のあれは、水の魔術砲です。
ドドドッドドドッ
「ぐわっ!」
「なっ!?」
「ひっ!!」
「っ、くそっ!行くぞ!」
六人いた内、束衛である三人全員にシキさんの攻撃が命中しました。
流石シキさんですね。一人、技司の方が術の発動兆候である光の粒子も無く突っ込んで来たので、次は私の番です。
「行きます! えいっ、えいっ!」
カッ!
「くっ! 目晦ましか!?」
二回連続で向かって来る技司の方に投げたのは、水の封印施設でハヤテさんの近くに投げた事がある『焦輝』。矢に当たった対象の網膜を光で焼き切るという、下級神術にしては恐ろしい効果を持っていて、外れたとしても強力な光で短時間の目晦ましになる、あれです。
一つは外れて後方の人達への目晦ましとなり、一つは彼にとっては運悪く、命中してしまいました。
…これで、上級の回復神術を使わなければ、その目は見えないままです。
「ひや~。シキ君って本当に強いんね。勇者様、これってウチ等必要無くない?」
「だから言ったろ。シキ様強いって」
エルちゃんが、過去に私が思ったような事を口にしています。そうですよね。あの時私が思った事は、普通に誰でも感じる事ですよね。
もちろんこちらが思った事は、あちらも思ったらしく、無暗に攻撃せず見守って…いえ、観察していた産祇のお爺さんが口を開きました。
「……貴様等ただの賊かと思うたが、中々やるのぅ…!」
「ちょい、産祇のトロンベ爺! 賊って何」
「ふん、陸津神と手を組もうとしている雷の御方が手引きした貴様等など、賊で十分じゃ!」
「っ! …つまりあんたは、雷の御方も賊て言うんわけね?」
「今頃は星の御方傘下の、産祇と技司の混合部隊が捕縛に向かっているはずじゃ」
「!?」
まさかの事態です。
こちらから言えば、不当に拉致監禁、そして尋問という名のおそらく拷問を受けた陸津神を救出する為の行為でした。
それが、あちらからすると地下世界の封印を勝手に解こうとした陸津神を逃がす、大罪人らしいのです。
雷の御方に対し、“捕縛”という言葉を使っているのは、天帝無き今、彼の就いている高木の地位が最も高位である為、命を奪う為には他の二人、月の御方と星の御方双方の許可が必要だからなのでしょう。
エルちゃんの周囲に赤い光の粒子が、産祇のお爺さん…トロンベさん? の周囲には黄緑色の光の粒子が舞い始めました。火属性と、風属性です。
まずいです。どう見てもトロンベさんの周囲に舞う光の粒子の方が多いです。
それに元々風と火は、組み合わせる事で威力を上乗せできる神術なので、下手をすると風に押し負けて、エルちゃんの神術の威力か上乗せされたトロンベさんの神術が、こちらに来てしまいます!
「ダメです! エルちゃん、水にしてください!」
「ごめんゼーちゃん、もう遅い!『火炎広弾』!」
「ふぉふぉっ! 勝ったな、『風巻広斬』!」
「っ! トロンベ爺、詠唱無しに上級!?」
天井から火の玉を降り注がせるエルちゃんの術に対し、トロンベさんの術は下から風の渦を発生させ、火の玉を切り裂き渦へ取り込んでいきます。
僅かに黄緑の光を纏っていただけの風の渦は、だんだんと火を纏っていき、さながら炎の竜巻です。
…私、これを止める神術使えないのですが。
「このっ! 渇きの地獄をす…間に合わなっ―――」
「『水壁』」
慌てて何かの神術を詠唱しかけたエルちゃんを余所に、シキさんが一言、術名を口にしました。
最初に術名無しで出現した水の壁と、おそらく同じ術が、最初に見た時よりも分厚くなった形で炎の竜巻を上から包み込みま……。
ジュオッ
えっ!? 隠し部屋の中が一瞬にして、隣に立っていたシキさんとエルちゃんがうっすらと見える以外、真っ白な蒸気で何も見えなくなりました!
「竜巻はどうなったんですか!?」
「問題無い、消え…」
「くっ! 中級神術を取り込んだ上級神術を、中級の詠唱破棄なんぞで消すとは、小僧、貴様何者じゃ!?」
「現場検証もせず、罪を偽造する者に明かす義理は………っ!?」
ピタリ、と、あまり見えない状況でも伝わってくるほど不自然に、シキさんが止まりました。
「シキさん?」
まさか、あのトロンベさんの上級神術を隠れ蓑に、他の人が…、いえ、他の人の周りに光の粒子は見えませんでした。自分の目を信じるなら、一番怪しいのはトロンベさんの術自体が特殊だったという事になります。
「ふぉ、なんじゃ小僧、さっきのアレは無理矢理か。しばらくは術の反動で止まっておれ! 次じゃ!」
バタタッ
術を発動させる為の光の粒子ではなく、足音が向かってきます! え、シキさん、本当に大丈夫ですか!?
私はトロンベさん曰く反動で固まっているかもしれないシキさんの前に踊り出ました。
ギィンッ
「ふん、小娘が!」
「私が現在司るのは、“剣の光”。武器の打ち合いで負けるわけにはいきません!」
なんとなくで見えた感じ、初めにシキさんが魔術砲で吹き飛ばした束衛の男です。
いくら私が“剣の光”を司っていても、男女の力差は存在するので、すかさず私は下級神術の目晦ましを発動させて後退し、体勢を崩した彼の両腕を刺して蹴り飛ばします。
こういう時、真っ白な視界は下着が見えないので良いですよね。
「―――…を求む僕の元へ、この身を送り届けん……」
「シキさん?」
蹴り飛ばしてからシキさんの元へ下がると、足元に見た事があるマホージンが広がりました。
…深緑のこれは、グレア村へ行く途中にシキさんが発動させた事のある、転移魔術です。
「すまない、緊急事態が発生した。我は国へ一度戻る」
「え?」
聞きなれない、一人称。
近場でハヤテさんの怒声が発せられ、誰かの呻き声が上がりました。
「ここを出たならば、お前達は命の泉に向かうと良い。運が良ければ我も合流できるだろう」
「わ、私達も手伝います!」
エルちゃんの声と、何かが焦げる臭い。
そして、悲鳴。
「…それまでに終わらせる事ができなければ、我が国は終わる」
「何を言って…」
私達の目の前に現れ、一瞬にして水の塊に吹き飛ばされる、技司の誰か。
「我から離れろ、ゼーレ。転移に巻き込まれた者は死ぬ」
とん、と、きっとあまり強くない力だったとは思います。
ですが、訳が解らず呆然としていた私にはそれなりに強い力で、横に押されました。
僅かによろめいた私でしたが、どうにか踏ん張り、体勢を立て直しましたが、シキさんは真っ白に視界を覆う蒸気の向こうへ消えて行くところでした。
「し、シキさん!一人で行くのはっ…」
「来るな!!」
ダンッ
「っ!」
「『緑身送双』!」
壁に叩きつけられた痛みに耐えて瞑った瞼の向こうで、柔らかな淡い光が発せられました。
おかしいですよね。あんなに手荒な事をした人の術が、柔らかな優しそうな光だなんて。
意識を飛ばしておきたい痛みに耐えつつも瞼を開けば、辺りは靄程度の白さにまでなり、部屋全体が見渡せる状態になっています。
…敵の天津神が、二人減っていました。きっとシキさんが“巻き込んだ”のでしょう。
「ゼーちゃん! 今の光は…って大丈夫なん!?」
ハヤテさんは天津神の剣戟に集中して話せないようですが、エルちゃんがちらりと振り返り、戦いつつも気遣ってくれます。…私だけ痛い、とか言ってられません。
それに、「国は終わる」と言っていたシキさんも心配です。一刻も早く、この状態を何とかしないとです!
「く、ワシの部下を道連れに自爆しおったか!」
自爆ではありませんが、この場にいない時点で似たようなものです。
訂正はしません。
「エルちゃん、ハヤテさん、一刻も早く、ここを突破しましょう! ―――万物最速の光よ、」
私の詠唱を阻止せんと、産祇トロンベさんが斬りかかってきます。
全身が痛いです。きっとまともに剣を受け止める事はできないと判断した私は、回避と目晦ましを駆使しつつ、詠唱を続けました。
「その速さを我等へ与え賜え…『与賜光広速』!」
上級神術の光が、私達三人をふわり、と包みます。本当は中級の与賜光速を三回唱えても良かったのですが、一番戦う術が少ないハヤテさんへ敵が集中しない為にも、あえて使わせてもらいました。
詠唱中は普通、他の神術が使えないので、攻撃対象としてはもってこいなのです。
え? それなら目晦ましの神術を使っていた私は何、ですか?
私は元々、光以外適正が無いと言われた事を信じて、光の神術を極めようとしていたんです。
『焦輝』は細かい方向調整をしながら投げないといけないので厳しいですが、大まかな方向以外は気にせず発動できる目晦ましの光程度なら問題ありません。火の神術は習い始めたばかりなので、きっと無理ですが。
「ゼーレ、シキ様は!?」
移動速度が二倍になったハヤテさんは僅かに余裕ができたらしく、ようやく声を上げました。
もちろん、今も天津神の一人、束衛の男と切り結んでいます。
が、私も余所見している暇はありません。
「緊急事態だとかで、行ってしまいました! ここを切り抜けたら詳しく話します!」
「しゃべる余裕があるとは、嬢ちゃん余裕じゃのう?」
「今余裕が無いと、後で大変です、から、ねっ!」
至近距離で『焦輝』を投げ、トロンベさんへ当てます。
…が、見えなくなったはずの彼は、私がいる場所へ的確に大剣を振るってきました。
「なっ、え!?」
「ふぉふぉっ、ワシくらいの熟練になるとの、目が見えずとも神力で仲間の場所が感知できるのじゃ」
ヒュンッと耳元で唸る風の音。
見えていた時よりは正確さが無くなっているものの、私がいる場所はほぼ正確に捉えているようです。
ギンッ ヒュッ
まずいです。左用の剣が飛ばされました。
ハヤテさんは、束衛の男相手に一杯一杯。
エルちゃんは、前衛を担当する、技司と両腕が使えず神術担当の後衛となった束衛の二人組相手に、手が離せません。
…シキさん、私達も終わりそうです。




