21話 昨夜の真相
【お知らせ】活動報告にも載せていますが、2016/4/1からは、然堂の就業により週に1~2話更新となる予定です。
更新日は主に土日となります。
7/2誤字修正
2019/4/27誤字修正
「こ、今度は光が消えません!成功しましたよ、シキさん!」
「そうだな。では―――生命を見守る大地よ、我が魔力を使いてこの地に試練を与えよ…『地乾固無変』」
目の前に、“命の泉”の地下で見た、光が消える前の巨大マホージンと同じものができあがりました。
そうです。私達、やっとスライム軍団を殲滅して、マホージンの復旧ができたんです!
…メイさんとの神術量の擦り合わせが上手くいかず、八回程度やり直しましたが。
え?擦り合わせって何の話…ですか?
実はですね、私、今まで全く知らなかったといいますか、正直光属性以外の適正が無いと信じていたので混合神術の事は全く頭に入ってなかったんです。
その混合神術による属性は、シキさんとメイさん曰く、二種類の属性の力を同じ量だけ混ぜることによって発現するものらしいんです。
…つまり、私とメイさんの出力がピッタリにならないとダメだったという事で…。結果、八回目で合いました。
最初は、本来のやり方同様、一人で混合神術を使った方が良いとかで私が挑戦したのですが、全く使い慣れていない火属性の力が大まかな調整しかできず、常に波打つような出力だった為、火属性はメイさんが担当する事になったんです。
ちなみに、誰も光と火の混合属性な太陽の属性を使いこなせないのにマホージンを復旧できた理由は、幸運な事に光を失っていたマホージンに細かい設定が記されていた為、神力さえ込めれば発動する状態だったからです。
“命の泉”もマホージンは残っていたので、きっと同じようなやり方で復旧できますね!良かったです。
「それにしてもシキ殿の魔力には感服であります。かなりの量を消費した自分達に分けてなお、上級の術が使える程残しておられたとは……」
「スライムどもの魔力を全て奪ったからな。消費率は大して無い」
「なんと!あれだけ自分達に分けてもまだまだ余裕があるでありますか!?コウギョク様より詮索を禁じられているでありますが、理由が非常に気になるであります……」
「ハヤテさんはシキさんの事を超一流の魔術師だと言ってましたよ?」
「これでも自分は、人間の超一流魔術師より少し強い程度の力を持っているであります。その自分を遥かに超える魔力容量を誇っている時点で……え、あの、シキ殿……?」
「………早くここから出るぞ」
さっさと踵を返すシキさんに、オロオロするメイさん。
一体どうしたのでしょう?心なしかピリピリした雰囲気になった気がしなくもない状態です。
坂もさっさと登って行って…って、ちょっと待ってください!私達、そんな簡単に登れないですよ!?
実は結局シキさんがスライムを殲滅させた頃、一番低い場所に位置するマホージンがある空間は、私の太腿の付け根辺りまでスライムの死骸による液体が溜まっていたんです。
そうです。床に座り込んだら完全に鼻よりも高い位置に水面がくる高さです。このヌルヌルの液体に足を滑らせて転んだら、非常に危険な状態です。
さっきのシキさんの言葉からして、この液体に魔力が含まれていない事も判明しましたしね!空気を吸って呼吸する人間だけでなく、魔力もとい神力を吸って呼吸している私にとっても危険な空間です。
…一応はですね、私とメイさんの神術『火壁』でかなり蒸発した為に、水かさは減っているんですよ?
きっと蒸発していなかったら、腰辺りまで水位があったんじゃないかと思います。ただし煮詰まったのかヌルヌルな粘度は上がってますが。
本当に地下世界は一体、どんな状態なんでしょう?湖の代わりにスライム溜まりがあってもおかしくない程度には沢山群棲してますよね。
あ、そうです。坂でした。登れないんです!
急勾配だからなのか、さっきシキさんが登ったのに付いて行こうとしたら、坂への一歩目が滑り、危うく液体の中にドボンとするところでした。メイさんなんて、おもいっきりこけてます。
試しに大股開いて水面より上の位置に足を着けないか挑戦してみたのですが…。
足を着ける事まではできても、登れる体勢ではありません。隣ではメイさんが跳び上がっての着地に挑戦していましたが、滑って下まで戻ってきてしまっています。
多分、太腿の付け根まで液体に浸かっているので、跳ねてもかなりの量のヌルヌルな液体が一緒に付いてきてしまうせいだと思います。
…シキさん、一体どうやって登ったんですか?
「シキさん、ちょっと待ってください!この坂、登れないですっ!」
「…水気が多い所では飛べない、という事はなかっただろう」
シキさんがこちらを振り返り、いつもの無表情で坂の上から見つめてきます。
というか、私が飛んで移動するの前提でさっさと登って行ってたんですね。
論より証拠。百聞は一見に如かずです!
私はメイさんより一歩下がり、翼を広げて見せました。ゴッと鈍い音が響き、私の翼の先周辺が両側の壁にぶつかります。多少痛いですが、翼の先はあまり神経が通っていない部分なので、おそらく刃物で切られても我慢できる程度です。
「この通路、狭くて羽がぶつかるんです。飛べませんっ!」
「………」
状況を理解してくれたのか、シキさんが溜息を吐きました。
しょ、しょうがないじゃないですか!できないものはできないんです!
私が心の中で言い訳をしていると、彼は立ったまま、足の裏だけで坂を滑り降りて来ました。
うん。確かに滑った方が歩くよりも早く下りれそうですもんね。
…と、いきなりザバーっという音と共に、水がシキさんとメイさんの上から落ちて来ました。
な、何事ですか!?
「っシキ殿!何のつもりであります、かあっ!?」
見事な素早さです。メイさんが驚いて叫ぶ間に、シキさんは彼女をぱぱっと担ぎ上げていました。
ああ、さっきの水は、体に着いたヌルヌルな液体を流し落とす為だったんですね。
そうですよね。スライム軍団の洗礼を受けていたシキさんが、二度ほど液体へ突っ込んでドロドロになったメイさんを持とうとしても、そのままだと滑りますよね。
私は微妙に現実逃避をしていました。
…だって担ぎ上げているんですよ?左肩にメイさんを。
つまり必然的に…。
「ゼーレ、お前も来い」
え、私には自分から来るよう言うんですか?頭陀袋のように担がれるのをわかっていて行く乙女がいると思っているんですか?
いえ、きっとシキさんは特に何も考えてないと思いますし、メイさんが担がれている以上、坂の上までの間に誰かに見られる事は無いとわかってはいるのですが…。
自分から行かないと、とか、私を羞恥で殺す気ですか?その担がれ方、シキさんの正面から見るとスカートの人は下着が見えるたいせい体勢ですよ!?
メイさんは本人曰く、「シノビ服」というズボン型の服なので大丈夫ですが、私は………。
担がれるという選択肢しか無いなら、せめて無理矢理担がれたいです!
「………」
「………」
自分から行きたくない私は、結局無言でシキさんに訴えかけるしかありませんでしたが、彼は途中で軽く首を傾げ、私が動かない理由に全く思い至らないようです。
「し、シキ殿、頭に血が上って来て、そろそろ辛いのでありますが…」
「ふう…。仕方あるまい」
メイさんの言葉のおかげで、ようやく彼から動いてもらえました。
体勢的にも非常に恥ずかしいですが、自分からやっているわけではないという言い訳が、僅かに自尊心を慰めます。
メイさん、助け舟、ありがとうございます……!!
◇ ◇ ◆ ◇ ◇
「宿を変える、でありますか?」
地下への穴から出て、少々男湯のお湯を貰いスライムの死骸という名のヌルヌルな液体を流し終えると、シキさんが突然宿を変えたいと言ってきました。
ハヤテさんが発熱したと聞いたので、もう一泊は必要かと思っていたのですが、何故宿を変える必要があるのでしょうか?
メイさんも私と同じく疑問に思ったらしく、不思議そうな顔をしています。
「夕方までにハヤテの熱が下がれば面倒だ。男湯から女湯が覗けん宿は無いか?」
「「………」」
シキさんの言葉で、昨夜の真相が、大体わかってしまいました。
そうですか。昨夜ハヤテさんが露天風呂で騒いでいたのは、女湯を覗こうとしていたからだったんですか。
で、シキさんが珍しくも面倒と言っている事から考えると、その覗きをしようとした事が原因で、今回の地下への穴騒動に繋がったんですね。
封印の効力が切れたマホージンを発見できた事だけは、幸いだったかもしれませんが、これはアイさんに言って一緒にハヤテさんをキツく叱ってもらわないといけません。
とりあえずは、アイさんと合流ですね。
「シキ殿、家族風呂を目玉としている宿があるであります。即座に勇者殿ごと移動するであります」
そういえば、イグヌス街って温泉やお風呂を目玉にしてる宿がやたら目に付きますよね。
火山が近いので、お湯を作る熱源に困らないからという理由なのでしょうか?
「って、あれ?シキさん、どこに行くんですか?」
「宿の主人に、地下の事を報告する。ハヤテは部屋に寝かせているからアイと出る支度をしておいて欲しい」
露天風呂の男湯用脱衣所の出口から出ると、まだ清掃中の札が立っていました。
ここの宿屋のご主人は気が利く人なんですね。
私達が一度部屋に戻ると、もうアイさんの荷物は無くなっていました。
彼女は収縮袋も持っている為か、どうやら荷物ごと持ってハヤテさんの看病に行ったようです。
私達二人の荷物もほぼ無い為、使った寝具を整えた後は、二つ隣の男性陣用に取っていた部屋の扉を叩いていました。
コンコン
「はい…、あ、ゼーレちゃん、メイさん、お帰りなさい!大丈夫だった?」
「はい!太陽の属性も発現できたんです!あ、ところでハヤテさんはどんな感じですか?」
「ああ……」
アイさんが私達を部屋の中へ誘います。
「一応精力の付く薬は飲ませたし、ちょっと熱が高い気はするけど、ハヤテったらいつも一晩で復活するから多分大丈夫よ?」
「…ぅ……だ、れ?…ぉか…さん?」
「違うわよ。ゼーレちゃん達が来たわ。シキさんはまだ戻って来てないし、もうちょっと眠っときなさい」
本当に熱が高そうです。僅かに開かれた目も視線が定まることなくゆらゆらしてますし、熱が高いという割に青ざめた顔色でした。これは今もなお、熱が上がり続けているのかもしれません。
…こんな弱った姿を見ると、覗きの件で怒る気にもなれません。完全に回復した上で、またいらない事をした時にでもまとめて怒る事にしておきましょう。
「か…ぎ、渡…てない、のに、ど…して?」
「シキさんから借りたからに決まってるでしょ?ほら、無理すると治るものも治らないわよ」
アイさんがまるでハヤテさんのお母さんです。手慣れた様子で彼のズレた布団を引っ張り上げ、かるくぽんぽん、と叩きます。
ですが、そのほのぼのした風景も、突然瓦解したのです。
「…ぃつも、れ…らくして、こな…のに、わたし、が…なとき、だけ…―――」
聞きなれない一人称。
彼は本当に、ハヤテさんですか?




