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17話 奪還の協力

※ 文章中に出てくる「乳酪(にゅうらく)」は、牛乳系の加工食品を表す日本語です。


7/2脱字修正

 ガラス細工で飾り付けられた精巧な作りの扉がサーヤさんによって開かれます。

 まず初めに目に入ったのは、正面にある、溶岩が目いっぱい見渡せる大きな窓に、黒地に淡い色の刺繍が入った領巾(ひれ)

 そして左側に―――。


「シキさん!?ハヤテさん!?」

「ほう…。この小娘で間違いは無いようだの」


 私に驚きの声に、右側から言葉がかかります。コウギョク様です。


「すまない。彼女が誤解を与える行動をして、手間をかけさせた」

「……よい。こちらもこの小娘に最近の行動等の詳細は聞いてはおらぬ。聞いておれば貴殿の庇護下にあると気付いていたはずじゃ」


 部屋の中央には応接台や椅子があるのですが、何故か部屋の中にいた三人は立ったまま会話をしています。

 …といいますか、シキさん、コウギョク様とほぼ対等に会話してるのは、どういう事ですか!?

 どこかの国の貴族かと思っていたのですが、相当位が高いですよね?


「あ、あの!庇護って一体…?」

「…シキや、この小娘、自分の立場を理解しておらぬようだが」

「そうだな。天帝殺害の犯人捜しにもかかわらず、一人で行動させられている事に何の疑問も持っていない時点で理解するのは難しいだろう」

「え、ゼーレって太陽の神様殺しの捜査員だったのか?」


 え、何なんですか?一人で行動ってそんなにおかしいんですか?

 …初めて会ってから道具屋へ向かう途中の簡単に説明した内容だけで、シキさん既に色々予測していたという事ですか!?

 適正検査をした試験官さんが私を利用しようとしていたとか、犯人捜しで一人の行動はおかしいとか、え、

 私の今までの行動は全て無意味………?


「な、シキ様、ゼーレの魂抜けかかってるぜ?」

「………」

「小僧、心配はせずともよい。そのような兆候は見えぬ」

「あー、すんません。今言ってる魂ってのは、気力とか意識とかを意味する言葉で…」

「…冗談のわからぬ奴じゃの。―――ああ、サーヤ、メイ、下がってよい」

「「はっ。扉の外に控えております!何か用がございましたら、お呼びください!」」


 私を入口に残し、サーヤさんとメイさんが部屋を出て行きます。


 でも一人で向かったのは、月の御方の指示で、それなら月の御方が何かおかしな行動をしているという事で…。

 いえ、もしかしたら私が話をきちんと聞いていなかっただけで、本当は後から誰かと合流する予定だったのかもしれません。…もしかしてこれ、天上世界に戻って月の御方へ再度指示内容を確認に行った方が良いという事なのでしょうか…?


「コウギョク殿、本来はここで我等も立ち去るところだ。だが、一つ条件を叶えて貰えると言うならば攫われた祭唱(さいしょう)…姫巫女殿の奪還に協力するが、どうする」

「奪還……?シキや、貴殿は心当たりがあると言うのかえ?」

「コウギョク殿の情報が確かであれば(・・・・・・)、だがな。間違っているならば、流石にわからん」

「……条件を聞こうかの」

「火属性の術が使えるようゼーレを鍛えたい。火属性の指導書、もしくは指導者の貸し出しを求める」

「許可しよう」

「では、契約成立だな。天津神が犯人というならば、地上では伊耶那岐(いざなぎ)(みや)以外、探す場所は無いだろう」

「…じゃが、地上にそれらしき宮は存在せぬぞえ?」


 あ、あれ?私がもんもんと悩んでいる間に、色々と事が進んでいるような…。


「ゼーレ」

「は、はいっ?」


 何故か突然シキさんが声をかけてきます。…コウギョク様と、何かの交渉中だったのではないでしょうか?


「お前、伊耶那岐(いざなぎ)(みや)の場所は知っているな?」

「え、はい。地上世界と天上世界を繋いでいる場所なので、地上に降りる際、通って来ました」

「…という事だ」

「なるほど。その小娘が道案内なのじゃの」


 どことなくコウギョク様がシキさんの事を恨めし気に見た気がするのですが、気のせいでしょう。



◇ ◇ ◆ ◇ ◇



「自分は束獲(つかえ)メイ・アーベントゾンネ。神術は火と土の属性、武器は短剣が得意であります」


 場所は伊耶那美(いざなみ)の宮の、石橋を渡り切った外側。

 なんと、あの見張り担当だった女性、メイさんが私の指導と姫巫女奪還員として同行する事になりました。

 冬の青空のような色の髪に瑠璃色の目をしていて、全く火や土を使うようには見えません。

 ただし、肩にかかる程度の長さの髪を、ぴっちりそろえているような髪型は、彼女の生真面目さを引き立たせてます。


「オレはハヤテ・ヒロガイア。聖剣に選ばれたから勇者やってる。魔術は風。よろしくー」

「宮の中でも行いましたが、一応。私は天士ゼーレ・サンハです。光の神術が得意です。火の神術の指導、よろしくお願いします」

「シキ・ネフェルテム。ネムの国では王の座にいるが、旅が終わるまでは気にしなくて良い。基本は魔砲筒を使うが、水と土の魔術も扱える。ゼーレの指導を頼む」

「「っ国王様!?」」


 私とメイさんの言葉が被りました。え、どこかの国のお偉いさんというのはともかく、貴族どころかその上だったんですか!?


「ねっネムの国というのは、あのネム王国でありますか!?果実酒と乳酪(にゅうらく)が有名な、あの!?」

「そうだな。年に一度、コウギョク殿に果実酒を贈っている、そのネム王国だ」

「え、じゃあ何、ここにあっさり入れたのって毎年シキ様の国が貢いでたからっつー事?」

「…瓶五本程度しか送っていない。我が国からの参拝者を毎度世話して貰っている礼だ」

「そ、そうだったのでありますね………!!」

「あ、あの、シキさん、何故今になって国王だと…?」


 何だかメイさんの興奮が止まりません。

 シキさんはシキさんで彼女に迫られてもサラリ、といつもの無表情で躱しています。

 まあ、私も国王だと聞かされて驚いてはいたのですが、メイさんの興奮具合を見て一気に冷めてしまいました。


 シキさんは軽く首を傾げ、一つ頷いてから口を開きました。


「ああ。コウギョク殿との会話でゼーレとメイが不思議そうな顔をしていたからな。メイはともかくゼーレには言ったと思っていたが…。ハヤテが知っているような態度だった為に、どうやら言い忘れていたようだ」

「ちょっとシキ様、人のせいかよー」

「お前の情報源の問題だ」

「答えになってねーし!」


 そういえば、あの“命の泉”からこっち、シキさんとハヤテさんの掛け合いが増えた気がします。

 今だって…て、あれ?


「そういえば、アイさんはどうしたんですか?」


 そうです。アイさん、すみません。自分の事でいっぱいいっぱいで、アイさんの事忘れてました。

 確かに魔術が使えない彼女が来るのは危険ですが、一体どこで待っているのでしょうか。

 …火山の麓とか、割と危険な場所じゃないですよね…?


「アイならイグヌス街で待ってるぜ。オレ達が戻るまでは医者の助手して路銀の足しにする予定」

「助手ができるお仲間がいるでありますか?」

「そ。オレの幼馴染。薬師免許の三級持ってるから助手できんの。合流したら紹介するな」


 へぇ…。もしかしてハヤテさんと二人で旅していた間も、助手で路銀稼いだりしていたのでしょうか。

 ハヤテさんよりすっごく重たい荷物を持って歩き、路銀までしっかり稼いでいるなんて……。ハヤテさん、男性として甲斐性無さ過ぎじゃないでしょうか。それとも戦闘はほぼハヤテさん担当だったとかでつり合いが取れていた、とか…?


「では下山だな。メイ、土属性の神術で協力を頼みたいのだが」

「下山と神術の繋がりが見えないでありますが、一体…?」

「この顔ぶれで術を使う事無くへブル火山を下りる事ができるのは、女性陣だけだ」

「そー。オレらは溶岩に耐えらんないからな。シキ様とオレの魔術だけで進んでも良いけど、メイの魔術とゼーレの速度アッ…上昇の魔術、あ、ごめん神術か…を組み合わせたらパパッと下りれそうなんだよな」


 聞いたところ、行きはシキさんが魔術で溶岩の流れていない地面を盛り上がらせ、他から溶岩が流れて来ないようにした上で、ハヤテさんが足止めの魔術を上空から自分たちに向けて使う事でガスを防いだそうです。

 ただし足止めの魔術は風圧が酷い為、道が途切れても跳んで向こう側へ渡る事ができないという事で、土属性魔術での足場作りは非常に重要なのだとか。


「魔物に関しては、シキ様の足場の高さとオレの魔術の風圧で特に襲ってくるとかなかったぜ」

「足止めの術を!?勇者殿は変わった術の使い方をするのでありますね」

「んや?こんな変則的な使い方教えてくれたのはシキ様だぜ?」

「!!本当でありますか!」

「…早く行くぞ」


 そして私達は、ハヤテさん曰く行きの半分の速さで下山したのでした。



◇ ◇ ◆ ◇ ◇



「ゼーレちゃん!良かった、無事だったのね!」


 イグヌス街でアイさんと合流した途端、人化していた私は何故か思いっきり抱き着かれました。

 …あれ?何だか既視感が……。


「アイさん。お待たせしました。…ですが無事、というのは…?」

「もう!聞き込み中に、シキさんがゼーレちゃん捕まったから迎えに行くって言ったときは心臓が止まるかと思ったのよ!?無事を願って何が悪いのよ!」

「え、捕まっ…え?し、シキさん!?」


 何で街の中にいる状態で私が捕まった事に気付いたんですか!?


「ゼーレが助けを呼べば一瞬で助けに行けたのだが…。気概があるのが仇になったな。おかげでハヤテと一から登山だ」

「意味が解らないのですがっ!」

「ゼーレ、あの魔法陣の施設での話覚えてねーの?あの花で、魔法陣から出てきた魔族の人数を数えれるんなら、見える(・・・)って事だろ。捕まる光景くらい、見りゃわかるぜ?」

「なんと、シキ殿が都合良く宮に現れたのはそのような仕掛けが…。納得であります」


 …私、一人で頑張った気になっていたのですが、シキさんに影から保護されてたんですね。

 コウギョク様の仰っていた庇護下という言葉が、まんま合っていたという事なのでしょう…。


「…何だか、シキさんには助けてもらってばかりで、悔しいです」

「ふっ、ではもう少し強くなり、もう少し周囲の状況を把握できるようにならなくてはな」


 シキさん、人が落ち込んでいる目の前で、そんな慈愛すら感じるふわりとした笑みは反則ですよ?

 あなたの表情の種類がと~っても少ない事を知らなければ、絶対にときめいてる場面です。


「シキ殿も笑うのでありますね…。こう、婦女子の心臓を鷲掴みにしそうな笑みであります…」

「あら、あなたもあたしと同意見なのね。ところでどなた?あたしはアイ。薬師をしてるわ」

「自分は陸津神(ろくつかみ)束獲(つかえ)メイ・アーベントゾンネ。この度天士(てんし)殿の神術指南及び姫巫女様の奪還員として同行することになったであります」

「…姫巫女様の奪還?」

「コウギョク様とシキ殿の契約であります。奪還に協力頂く代わりに、自分が天士(てんし)殿に火の神術の指導を行うであります」


 いつの間にか、アイさんとメイさんも自己紹介が終了し、何か話し合っています。

 …と、気が付けばシキさんは目の前から消え、少し先でハヤテさんと何か話し合っていました。

 ハヤテさんがこちらを振り返り、笑顔いっぱいで左手を振ります。悩みが無さそうで羨ましい限りです。


「アイ、ゼーレ、メイ!今日はもう日が暮れるから、この街に泊まろうぜ?シキ様もしっかり休んだ方が効率良いって言ってるし」


 ハヤテさんに呼ばれ、私達三人は顔を見合わせました。


「し、しかしこうしている間にも姫巫女様は……」

「メイさんは良いかもしれないけど、疲労してる人の回復はきちんとしておいた方がいいわ。ほら、ゼーレちゃんとか何だか顔色悪いじゃない。こんな状態で進んだら、途中で倒れてなおさら遅くなるわよ」

「えっ?わ、私はそんな…」

「ほら、行くわよ。泊まる事は決定事項なんだから」


 アイさんが私達の手をぐいぐい引っ張って行きます。

 …ハヤテさんより重たい荷物を持って移動しているだけあるのか、そのスラリとした見た目からは想像できない力強さです。

 といいますか、女性陣の中で一番年下と思われる彼女に引っ張られる私達って一体………。


 イグヌス街の建物は、少々独特な造りをしていました。


 へブル火山のすぐ近くにある為か、万が一溶岩が流れてきた時用なのでしょう。大半の建物が地面から私の肩辺りの高さまで石垣的なものが積まれ、その上に石造りの家が建っています。何かのお店らしき建物には、太陽が出ていれば光を跳ね返すと思われるほどの光沢を放つ、色とりどりのタイルが貼られ、朝から夕方まで曇りっぱなしの空の代わりに街を彩っていました。

 けれどもきっと、太陽が出ていれば、いっそう綺麗な光景になる事でしょう。


 やっぱり、日の御方を殺した犯人を捜して、空に太陽が出るよう頑張りたいです。




 もし、私が誰かに利用された状態なのだとしても。

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