16話 伊耶那美の宮
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「こちらには羽の付いた奴らが姫巫女様を連れ去ったと目撃情報があるのだぞ!消滅したくなければ監禁場所を吐け!!」
「私は、違います…知りませんっ」
どれくらい同じような問答が続いたでしょうか。
後ろ手に縛られ、翼も拘束され、足は何かのマホージンが描かれた石の付いた器具で纏められた状態でずっとこれです。
だんだん体が重くなっていっている気がするのは、足に取り付けられた器具の影響だとは思うのですが…。消滅という不吉な言葉がどう影響するのかはわかりません。器具の効果に含まれるのか、私を尋問している彼女が行う事なのか。
「…口の堅い奴だな…。いいか、貴様の様な下っ端一人でここ伊耶那美の宮に寄こされたということは、お前は捨て駒だったのだ。今吐けば、伊耶那美の宮の使いっ走りとして隷属はさせるが天津神共から匿ってやるぞ」
「わっ私は月の御方から犯人を捜す事以外命じられていません。それに伊耶那美の宮へも遣わされたから来たのではありませんっ!」
「先ほどから訳の分からぬ事をぬけぬけと…!自分の立場が分かっているのか!?」
バンッ
目の前の女性が私との間にある机を力任せに叩きました。
わかってます。濡れ衣を着せられて、尋問されてます。
あちらの配慮なのか、実力的な問題なのか、今この狭い部屋で私を尋問しているのは目の前に女性一人と見張りらしき女性一人の、合わせて二人。
足に付けられたマホージン付きの器具がある為なのか、今のところ物理的な暴力は振るわれていません。
それにしても私からすれば、こちらこそ意味のわからない事をあれこれ言われて困っているのですが…。
一応、今までの質問から考えて、この伊耶那美の宮にいるはずの姫巫女さんが、私のような翼の生えた存在数人に誘拐された、という事だけはわかります。
…時期が悪かったと諦めるしかありませんが、どちらにしろどこかで火属性の使い手を探さなければならないのは変わりません。
天津神系神族の天士だけでなく、地上世界の鳥系の魔族の方も似たような容姿になる事ができるのですが、何故天士が誘拐の実行犯だと思われているのでしょうか?
謎は深まるばかりです。
「ちっ、仕方がない、」
コンコン
尋問担当の方が何かを言いかけた時です。この狭い部屋に扉を叩く音が響きました。
尋問担当の方が見張り担当と思われる方へ目配せをします。
そして部屋に入ってきたのは、漆黒の神官服を着た血のように赤い髪の女性でした。
腰よりも長い髪がさらりと揺れ、桃色をした切れ長の目が鋭く私を見つめます。
「サーヤ、報告なさい」
「はっ。彼女は月の守護神を主としているようです。また、本人は何らかの犯人を捜していると主張しており、誘拐及び監禁場所については一切口を割りません」
「……そう。天士、妾は陸帝。煌帝コウギョクぞ。貴様が探す犯人とは何か、答えてみよ」
「は、はじめまして。私は天士、ゼーレ・サンハと申します。この度は姫巫女さん?が誘拐されたというお忙しい時期に訪れてしまい、申し訳ございません」
何と!こんな狭い尋問部屋に来たのは、本人の言う言葉が正しければ陸津神の最上位、陸帝・煌帝様でした。天津神の最上位は日の守護神である天帝・天照様ですが、一か月と少し前に亡くなった為、空位の状態です。
「私が捜している人物は、天帝を殺害した犯人です。もうお気づきかと思いますが、彼が亡くなった後、犯人が特定できない為次期天帝を決める事ができない、と天上世界は荒れております。事態の終息の為、私は地上世界に遣わされました」
「…ほう…」
陸帝が目を細め、嘘は許さないと視線で貫いてきます。
「では、そなた達はか弱き姫巫女を此度の天帝殺しの犯人に仕立てるつもりかえ?なければ姫巫女を盾に、犯人とされたくなくば従えと要求するのかや?」
………。
どうやら陸帝も、細かく聞いてくるだけで結局は私が誘拐犯の一味だと思っているようです。
「私は姫巫女さん?を存じ上げないので、そのような事は致しません!」
「では、何故この宮まで戻って来たのかや?そなたが此度の巫女姫の犯人と繋がっておらぬのならばそれを証明して見せよ」
「ここには本日初めて参りました。ですが…」
やってもいない事の証明は難しいものです。それに今までのやり取りから考えて、十日前にグレア村にいた事を伝えても、誘拐の実行犯では無いだけ、という話になりかねません。
陸帝の桃色の瞳が冷たい光を放ち、上から見下ろしてきます。
「やはり答えられぬのであろ?……サーヤ、実行犯であるか否かの神術適正検査後、神力吸収陣の輪を外さず牢へ。近くに見張りを置いておけば、死を感じた頃に口を開くやもしれぬ」
「はっ。承知しました」
陸帝は部屋を出て行き、尋問担当の女性、サーヤさんが拳大の水晶を持って来ました。
「良いか、貴様は神力吸収陣の輪を付けたままなのだ。つまりは体内に溜まっている神力だけでなく、体を構成する神力もこの石に吸われるという事。早く吐かねば消滅するのだぞ?」
「え……?」
神族の体って、神力で構成されてたんですか…!?
確かに、それなら魔力が高く感知ができる人でなければ天士姿が見えないのも納得です。
私が絶句したのを見て、尋問担当のサーヤさんがニヤリ、と嫌な笑みを浮かべました。
「ようやく己の状況に気付きおったか。………む。適正は光と火が大、水と闇が無し、土と風は小という事は実行犯ではないな…」
「あ、あの!」
「何だ、吐く気になったのか?」
「私、火の適正があるんですか!?」
なんという事でしょう!まさか自分に適正があったなんて。
という事は、ここに来ずとも私が火属性の訓練をすれば問題無かったという事なのです。
…光属性に付け加えて剣の扱いに長けているという理由から、天士として最初に司る象徴は≪剣の光≫だったはずなのですが、火も加わると象徴、変わりますよね?階級も変化するでしょうか?
私はその驚きからサーヤさんへ聞いてみたのですが、何故か彼女から今までのトゲトゲしさが少し無くなったよう、な?
…いえ、何故か呆れられている気がしなくもないです。
「…はあ?貴様ら天津神は階級試験の時、適正検査は行わないというのか?」
「行います!ただ私は、光以外の適正は無いと言われました」
「………」
何故かサーヤさんが、見張り担当と思われる方と目で何かを話し始めました。
顎をしゃくったり、首を横に振ったり。…よくそれだけで意味が伝わりますね。どれだけ長く付き合えばそんなに意思疎通が取れるようになるのでしょうか。
しばらくすると、サーヤさんがこちらへ向き直りました。その目からは何故か哀れみを感じるのですが…。
あ!もしかして、濡れ衣だという事に気付いてもらえたのでしょうか!?
「天士ゼーレ、悪い事は言わない。お主、天津神を見限って陸津神につけ。いいか?神術の適正は中程度までは努力で後から付ける事も可能だが、大となると天性のものなのだ。お主の適正検査をした奴は明らかにお主の資質を隠蔽している。お主を私欲で利用する気なのは明らかだ」
「え?」
私を指す呼び方が変わったとかいう問題ではありません。
試験事に能力を隠蔽されていた…?
適正検査をした試験官さん……。誰でしたでしょうか。思い出せません。
「…ふう。今回の事以外にも利用されていそうだな、お主。消滅させるのも哀れだ。メイ、封じの鎖を持って来てくれ。神力吸収陣の輪は外す。なに、コウギョク様にはきちんと報告するさ」
そのまま私は、手足や翼の縄と器具を全て封じの鎖に変えられ、牢へと運ばれました。
◇ ◇ ◆ ◇ ◇
「ううう…。シキさん、アイさん、ハヤテさん、ごめんなさい…。合流できなかったらどうしましょう…」
はめ殺しの窓からの溶岩の光だけが光源の牢の中、私は呟きました。
左の胸元に挿してある、シキさんから渡された花は未だ片方が蕾のままです。このまま咲かなければ、三人はどうにかして火山を登ってくるという事なのですが…。
助けてもらえるかよりも、シキさん達まで私の仲間なら誘拐に関わっていると誤解されて捕らわれないか心配です。
全員が捕らわれてしまえば、あの“命の泉”であった事を知る人が全員動けなくなるという事で。
結果、日の御方の殺害に関与していそうな多くの鬼系魔族が地上に出てくる事になりかねません。
シキさんと巨乳魔族の会話から、日の守護神の座に誰かが就き、太陽さえ顔をだせば昼間は彼らが活動し辛い状態になる事が分かっています。
ですが今は太陽が出ない状態…。すなわち彼らは時間に関係なく自由にできるという事なのです。
ただ、よく考えてみれば、私が捕らわれたままシキさん達が動こうとすれば、火の使い手だけでなく、光の使い手も探す必要がでてきます。
…私を助けるのと光の使い手を探すの、どちらの方が早いのでしょうか…?
長い時間ここにいる気がしますが、私達神族は食事の必要がなく、睡眠も神力の回復の為にしか行わない為、全く時間の経過がわかりません。
それにこの牢に入れられてすぐ、眠気に襲われてしばらく眠っていた気がするので、それなりに時間は経っているとは思うのです。
眠ったおかげか、体の重さは尋問中より大分無くなりました。
ただ、尋問中と違い手が前に縛り直されたのみで、足も翼も鎖で巻かれているため、非常に動きにくい上寝辛いです。
人化したら翼も仕舞えると思ったのですが、封じの鎖の影響なのか、神術が使えません。
おかげで、自分一人の力では脱出できないと知ってから、非常に暇です。
…天上世界では見た事がなかった神力吸収陣の輪があれば、じっくり観察できたのに、とか思ってませんよ?
もしそれが足に巻かれたままでしたら、今頃私は消えかかっていた可能性もあるので、きっと観察なんてできなかったと思いますし。
ああ、でも自分に巻かれていなかったら………。いえ、今のは忘れてください。私の気の迷いです。
見える位置に見張りの方はいません。陸帝は見張りをと仰ってましたが、神力吸収陣の輪を取り、封じの鎖にした事で当初とは違う体制にしたのでしょう。
さらに言えば、私は絶対にこの牢から逃げ出せないと思っている…と。
その通りですが。
シキさん達は、来てくれるのでしょうか?もし来てくれなかった場合、陸津神達はいつまで私をこの状態にしておくつもりなのでしょうか。
疑問と不安でグルグルしてきた頃、石造りの廊下にどこからか足音が響いている事に気が付きました。
カツン カツン カツン
音はだんだん大きくなり、近づいて来ているようです。
天津神は基本的に飛んで移動するのですが、陸津神は歩く事が多いんですね。
…もしかして、もう私の処遇が決まったのでしょうか。
カツン
牢のある区画に入口に現れたのは、私の尋問を担当していたサーヤさんでした。後ろには見張り担当のメイさん(だったと思います)が付き従っています。
「あ、あの…」
私は思わず、自分の処遇について聞こうと口を開いたのですが、彼女は苦虫を噛んだかのような顔でカツカツと私の入っている牢に大股で近づいて来ます。
…何があったのでしょう?
「出ろ、コウギョク様がお呼びだ」
ガシャリ、と牢が開けられ…たまでは良かったのですが、何故か見張り担当でしたメイさんが牢に入って来て私に巻いていた鎖を次々と外していきます。
え?今までの話から考えて、私に逃げられたら困るのではないのでしょうか。
「何だ」
「い、いえ、鎖、外してしまって大丈夫ですか?」
「はっ!自分の方が強いとでも言いたいのか?…それにここで暴れたらお主の立場もさらに落ちる。思えば初めからお主は大して抵抗しておらんかったな」
ただ、そのまま歩かせるのは問題だったのか、私は二人の間で両手を掴まえられるようにして廊下を進む事になりました。
コウギョク様というのは、あの尋問の最後にいらっしゃった陸帝です。
そんな雲の上の方が、私に直接処罰を下すというのでしょうか。
…そういえば、尋問中にサーヤさんから「使いっ走りとして隷属はさせるが天津神共から匿ってやる」や「天津神を見限って陸津神につけ」と言われていました。
もし、それに関する術は陸帝しか扱えないというのであれば、今の状態も納得できます。
けど、冗談じゃありません!
そんな事をしたら、自由に動けず、日の御方を殺害した犯人も捜せなければ、鬼系魔族が地上へ出てくる事も止める事ができなくなります。
…隷属に関する術を掛けられる直前が逃げ時でしょうか?それとも、今の内に……?
考えている間に、ガラス細工で飾り付けられた精巧な作りの扉の前に立たされていました。
ここで止まったという事は、ここに陸帝がいるという事です。
サーヤさんが、扉に手を伸ばします。
コンコン
「技示サーヤ参りました」
「入りなさい」
間髪無く返る、中からの声。
陸津神の陸帝、コウギョク様です。




