8.弓兵、女の子と寝る
寝る(意味深)
でも、このふざけたタイトルと展開でもシリアス入る可能性だってあるからねっ
時々、夢を見る。
妹の夢だ。
何処かの野原を二人でかけっこしているだけの夢だがそれが何よりも楽しく、今の俺にとっては何よりも哀しい。忘れようとしても忘れられない、まるで呪縛のように俺の心を掴んで離さない「後悔」が片隅に居座り続けているからだ。
目を覚ます。
首筋にジットリとした汗を感じる。うなされていたような感覚はなかったが、あの夢も悪夢の類いなのだろうか。眠ったおかげで疲労感は消えていたが気分良い目覚めではない。
――ん?
寝ていたベッド、その布団の中に自分とは別の体温を感じた。掛布団を捲ると、そこにいたのはニーナ。しかも半裸である。
そーっと、布団をかけなおした。
落ち着いて俺は思考を巡らせる。客観的に考えてみよう。この状況は…………事後?
――――いやいやいや。
それはない、と脳がほぼ直感で判断を下す。俺は服を着ているし、自分で言うのもなんだがそんなに軽い男ではないはずだ。
だんだんと意識が覚醒していくうちに俺は昨日のことを思い出してきた。ニーナから話を色々と聞いた後、夕食を食べて……寝た。
どうやら想像以上に疲れが溜まっていたのか、すぐに眠りに落ちてしまったのだ。そして、この家にある寝室は一つ、この部屋のみなのである。
つまり――俺とニーナが同じベッドで寝るのは必然……って、もう既にマズイ要素しかない。論理は通っていても、倫理が崩壊している。
よし、とりあえずニーナを起こそう。
「おーい。起きてくれニーナ」
ゆっくりと身体を揺さぶり、意識の覚醒を促す。
「んん……あ、カリュウ様……」
モゾモゾと身体を動かして布団から這い出るニーナ。あまり寝起きが良いタイプではなさそうだ。
「ふぁぁ……」
ゴシゴシと瞼を擦り、ボーッと俺を見つめてから、欠伸を一つ。
ベッドの上に座るニーナに俺は問いを投げかけようとした――が。
どう訊けばいいものか。一応の確認なのでボカしつつ訊くとするか。
「なぁ、俺とお前は一緒に寝た(意味深)のか?」
沈黙が流れること、十秒。
最初は「ふぇ?」と質問の意味を理解していないのかまだ寝ぼけているのかわからない
反応を見せていたニーナだったが、自分の格好を見つめ、彼女の中で俺の質問を反芻したのだろう。茹で上がった蟹かタコのように彼女はみるみる羞恥の赤に染まっていった。
「こっ、これは違うんですっ! 」
せわしなく手を振りながら慌ててニーナは説明した。ただ純粋に睡眠をとっていただけらしい。
「その……私達「獣人族」は普通の人間とは違う習性がありまして……その一つが睡眠中、無意識に肌を晒してしまうという「脱ぎ癖」なのです」
「どんな癖だよ!」
「野生の本能らしいのでしょうがないのです」
「いやその理屈はおかしい」
野生動物は服着ないけど獣人は一応「人」だろ…………
しかしこれで俺達の間に不純云々がなかったことが証明された。めでたし、めでたし?
「話は変わりますがカリュウ様」
「なんだ?」
「昨晩はよく眠れなかったのですか?」
「いやそんなことはないぞ。充分、安眠出来たと思うけど」
「なら良かったです。じゃあカリュウ様は随分、朝が早い方なんですね」
あ。しまった。
窓の外に広がる空に陽は昇っていない。部屋に掛けられている柱時計を確認すると4時であった。元の世界の時間に当てはめるなら、だが。
何故こんな早起きをしたのかというと、俺は普段、親の口癖だった「早起きは三文の得」に影響されて毎朝4時頃に起きてはトレーニングを行う、ということが日課だったからだ。こういう習慣は身に染みつくと中々変えられないものである。
「まぁこれが俺の癖かもしれないな」
「それでは私はもう少し寝させてもらいます。朝は弱くて……ふぁぁ~」
「ああ。起こして悪かったな、おやすみ」
ニーナは既にスヤスヤと寝息を立てていた。朝が弱いのは本当らしい。しかし改めて見ると可愛いな。
気持ちよさそうに眠るニーナの顔は見る者を癒す、何だか小動物のような愛らしさがある。この魅力は獣人族のおかげか、それとも彼女自身が持つものか。
その答えを俺は掴んだ気がした。
♰ ♰ ♰
外に出るとひんやりとした空気に身が晒される。昼間は少し暑いぐらいだったが、明け方は気温が低いようだ。体を温めるにはちょうどいい。
村は静かだった。
漁村だったならば明け方ぐらいにはもう漁夫がせっせと働いているだろうが、此処は山に囲まれているため朝早くから仕事に出向くこともないのだろう。
さて。
とりあえずランニングだな。
村は所々に松明などの明かりが灯されているため道が見えないということはない。それでも夜の闇が元の世界よりも濃い。発達した科学文明がないからそう思えるのだろうか。それもあるが、この世界の夜はもっと恐怖を孕んでいる、そう感じた。
元の世界では忘れられた「喰うか喰われるか」、弱肉強食の掟がこの世界には深く根付いている。
そう、この夜の闇に含まれる怖さの原因は魔物の存在だ。
ここに来るまでに遭遇した魔物――ウルフラムと戦ってわかったが、あれはただの動物なんかではなかった。「狩り」に特化した存在であったのだ。
魔物はただの動物とは比べ物にならない。
これからも戦う機会があるなら鍛錬は怠れないな。
そう思って俺は力強く走り出した。
♰ ♰ ♰
カリュウが起床する2時間前、オストルトの森の奥、村人もそうそう立ち入らない領域で「それ」は蠢いた。
それは具現化した地獄のように、這い出た深淵の如く、ゆっくりと歩みを進める。
一歩、二歩。
漆黒の甲殻に覆われた両足が地を踏みしめる度に闇が波紋のように染みてゆく。
「それ」は息を吸い込み、禍々しいその頭部を天に向け―――そして、開放した。
絶叫。
大気が、生命が、森が、震えた。
この時のことを知っているのはオストルトの森に住まうものだけ。
人間はまだ、何も知らない。
その夜は、コノエ村に紅い月が昇っていた。
次回――今度こそ働く。
この主人公、全然世界救いそうにないのである。




