9.最初の依頼―クエスト―
コノエ村編は話がスローペースだなぁ、と書いてて思います。
速くすればいい話ではあるんですが、なかなかテンポ良く筆が進まないのが私です。のんびりまったりと読んでいただければ幸いです。
朝が来た。
あれから2時間程、俺は鍛錬を行ったが案外疲れてはいない。弓兵適性のおかげで体が強化されているからだろう。そのおかげで普段より多くトレーニングが出来た。
村も皆が起きていたのでまた昼間の顔に戻りつつある。何度か村人達に挨拶をし、俺はニーナのいる家へと戻った。
「あ、おはようございます……ってこれ二度目ですね」
「まぁそうだな」
朝が弱いニーナも目を覚ましていた。それでも若干、眠気が残っているように見えたが。
汗を流すために風呂に入ることにした。シャワーなんてものはないが、石造りの小さな浴槽があって俺は少し安心した。風呂を沸かす方法は薪とかを使うのではなく魔術を使用するというもの。この世界には水を温めるための簡単な魔術があるのだ。
風呂を終えると、食卓には朝食が並んでいた。ニーナが用意してくれたらしい。バケットのようなパンとトマトをベースに大豆やタマネギ、ブロッコリーを入れたスープという献立だ。
「悪いな、わざわざ俺の分まで」
「いえいえ、気にしないでください。さ、温かいうちに食べましょう」
簡素なメニューではあるが味は決して悪くない。
俺は食事を進めながらニーナに訊いた。
「この村じゃお前以外に獣人を見かけないんだが、やっぱり獣人族って珍しいのか?」
「確かに珍しいかもしれません。コノエ村に今いる獣人は私だけですし、世界的に見てもそこまで多くはないはずです。でも、人間と共生している獣人族は意外と多いですよ」
「そうなのか。じゃあ逆に、人間と暮らさない獣人族はどうしているんだ?」
「普通は森の奥に集落を作って暮らします。狩りを行ったり、森を転々と移住したりと原始的な生活をするらしいのです」
「だけど森って魔物が多く棲んでいるだろ、危険じゃないのか」
「獣人は基本的に普通の人間より高い身体能力を有しているんです。なので、余程危険な魔物でなければ倒すことには苦労しません」
「へぇ……あれ? ということはニーナも実は凄いのか」
しかしそれなら何故、ニーナは盗賊なんかに捕まったのだろう。
「いえ……私は片親が獣人ではない所謂「混血種」なのです。走るのは速いのですが筋力などは人間の少女と変わりません」
「片方の親が人間なのか。それでも生まれる子どもは見た目的に獣人になるんだな」
俺はそう言って、ニーナの獣耳へ目を移す。気付いたがニーナの獣耳はたまに、ぴょこっ、ぴょこっ、と動くようだ。
「身体能力や感性が「純血種」の獣人とは少し異なりますけど外見では区別がつきませんね。あと、人間と共生している獣人は大半が「混血種」です。「純血種」で構成される集落は規律や伝統が厳しいらしく人間界に溶け込むのが難しいので……獣人族が繁栄するには純血にこだわっていてはダメだと私は思っているんですが…………」
「へぇ……色々あるんだな。でも種族間で平和にやっていけるならまぁいいんじゃないか」
「表向きはそうです。人間と獣人はうまくお互いに協力して生きています……でも、問題がないというわけではありません。まだ差別や争いは残っているんです。一部の獣人が犯罪を犯したりすることもあるので……獣人を人間社会から排除したほうがいいという人もいます…………」
こういう話を聞くと、この世界がただの「ファンタジー」ではないということがわかる。いや痛感する。世界というものは何処も問題だらけらしい。
――まったく、めんどくさい。
その後、俺達は黙々と朝食をとった。
いつまでも重い話をひきずっているわけにもいかない。
俺が村に来て二日目。村を見て回りたいのでとりあえず出かけるとしよう。
「私が案内します」と申し出てくれたニーナと二人で周辺の散策をすることにした。
雲一つなく、蒼穹が途切れずに続く空は見ているだけで清々しい。
コノエ村は小さな村だが住宅も意外……といってはなんだが、立派だ。裕福な村なのだろうか。周囲は森ばかりの辺境の村なのに何処に財源があるのか不思議だ。
村人は畑を耕すなど、それぞれの仕事をせっせとこなしていた。
だが。
俺はどこか違和感を覚えた。
「コノエ村にあるお店は四つです。道具屋さん、調合屋さん、工房さん、お食事処が村の中心辺りに点在しています」
「ほう。だが今は特に用事がないな……」
寄るだけ寄ってみるか、などと考えていると、聞き覚えのある声が聞こえた。
「おお、昨日はよく眠れましたかなカリュウ殿」
「おはようございます、村長」
俺は気になっていることを村長に訊くことにした。
「なんとなく村に活気がないというか村人達にあまり元気がないように見えるんだが…何か理由があるのか?」
「そのことじゃが……ちょうどおぬしに相談しようと思っていたところじゃ」
「俺に?」
「ああ、そうじゃ。実はここ最近、森の魔物たちがよく村の近くまで降りてくる。そのせいで畑が荒らされたり、村人が襲われたりと困っているのじゃ」
コノエ村は山の麓にあるが、森から一定の距離をとり、柵で防護し魔物に襲われないよう対策はしてある。今まで頻繁に魔物が村の近くまで来るということはなかったそうだ。そのことを考えると―――
「何か異変が森で起きている」
「そう考えるのが妥当じゃろう。住処を追いやられたか、エサを失った魔物がここまで来てしまっている、という線が濃厚じゃ。もしかすると捕食者が現れたのかもしれん」
「捕食者……か」
強大な魔物が出現し、元々いた種の魔物の住処が脅かされている。納得できる理由だ。
「…………で、俺にその捕食者を討伐してほしいんだろ?」
俺に言葉に村長は困ったような顔になる。
「いやまぁ、そうしてもらえればありがたいとは思っておる。じゃが、おぬしは客人じゃ。ニーナを助けてもらったのにそんなお願いはできんよ」
「気を遣ってもらう必要はない。困ってる人を放っておけない性格なんだ」
「そうか……それではここら辺りに生息する魔物の間引きと森の調査を頼んでもよいかの?」
間引き。増えすぎた動植物を人の手で減らすことだ。コノエ村に被害がこれ以上及ばないよう魔物を駆除しろ、ということである。目下、俺に出来ることはそれぐらいだろう。小型の魔物を倒しつつ、大元の原因となっている魔物――捕食者を発見出来れば上出来だ。
無論、捕食者たる魔物の存在がこちらの杞憂であればそれに越したことはないが……村人らの不安を取り除くためにも一度、調査をしてみる価値はある。
「わしらで可能な限り報酬は用意しよう。正式なものではないが、冒険者へのクエストというわけじゃ」
「クエスト……街のギルドで取り扱われる依頼のことだな」
「そうじゃ。ギルドを通すと正規の依頼として扱われるじゃろうが、わざわざ遣いを送るのも時間と手間がかかるのでな」
ともかく、俺と村長の間で契約は成立した。
村のためにも早急に依頼をこなす必要がある。そのため俺はすぐに森へと向かうことを決意した。
「それは危険です!」
その旨を伝えたところ、今まで黙って話に頷いていたニーナが声を上げた。
「まず装備を整えるべきです。いくらカリュウ様が強くても油断は禁物ですっ」
言われてみればそうだ。俺はこの村で体操服から村人が着る簡素な衣服を貸してもらっていたが戦闘を想定した「防具」を持っていなかった。武器は《ガンスディーヴァ》があるので問題はない。しかし防御には不安が残る。クロスボウは接近戦で不利なため、今ある装備では必然的にナイフで魔物を相手にしなければならないのだ。
ナイフの扱いも衝撃から身を守る術も学んでいたためウルフラム程度の魔物なら苦戦はしないと思うが、慢心は出来ない。未知の異世界に放り出された身なのだ。あらゆるリスクを考えて動くべきだろう。
「そうだな……じゃあニーナ、さっき言っていた店を案内してくれ」
「任せてなのですっ」
ニーナの獣耳がぴょこっ、と揺れた。
次回――クエスト準備
防具選びは重要。裸装備で古龍なんか二度と狩りません(筆者談)




