↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつもデュオを組んでる無口な相棒が、クラスで浮いてるダウナーギャルだった  作者: なまら呑兵衛


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/14

第8話「……二十秒」

「……はい」


 踊り場に着くなり、紙袋を差し出された。


 昼休み。

 昨日の土砂降りが嘘みたいに、窓の外は晴れていた。


「……タオル」


「ああ、わざわざ悪いな」


 受け取ろうとして、宵宮さんが袋を引っ込めた。


「……中、見ないで」


「なんで」


「……いいから。家で開けて」


 そう言って、紙袋をもう一度押しつけてくる。


 袋の口は、テープで三重に止めてあった。


 厳重すぎる。


    ◇


 いつもどおり、ひとつ下の段に座る。


 ……いつもどおり、のはずなのに。


 なんだか、落ち着かなかった。


 昨日の夜、ノートの線を半分消してから。


 宵宮さんの「ん」が、いちいち耳に引っかかる。


「……真壁」


「ん、何?」


「……今日、なんか変」


「変?」


「……こっち、見すぎ」


 見ていたらしい。


 自分では気づいていなかった。


「……悪い」


「……別に」


 宵宮さんは、ふいと顔をそらした。


 カーディガンの袖が、口元まで上がっている。


 今日は、袖が乾いていた。

 ちゃんと、いつもの長さに戻っている。


    ◇


 確かめたい。


 でも、直接は聞けない。


 「お前、YOIか?」なんて聞いて、違ったら。


 俺は、ネットの相棒を探してクラスのギャルに詰め寄る、ただのやばいやつになる。


 しかも、あたし調査ノートの前科つきだ。


 だから、遠回しにいく。


「昨日さ、夜ゲームしてて」


「……」


「最後の試合、すごかったんだよ。残り一部隊で、こっちは二人とも体力ギリギリでさ」


「……」


「最後の三十秒で、なんとか勝った」


 宵宮さんが、紙パックのストローをくわえたまま、ぼそりと言った。


「……二十秒」


「え?」


「……最後、二十秒くらい。三十秒もなかった」


 沈黙。


 宵宮さんの動きが、止まった。


 ストローをくわえたまま。


 半目が、ゆっくり、ゆっくり見開かれていく。


「……宵宮さん」


「……」


「なんで知ってんの」


「……って」


「って?」


「……って、森が言ってた」


「森は昨日、九時に寝てる」


「……」


「あいつ、夜更かしすると次の日死ぬタイプだから」


 宵宮さんは、ゆっくりとストローを口から離した。


 それから、紙パックを握りつぶした。


 べこっ、と音がした。


「……知らない」


「いや、今――」


「……ラスアリとか、知らない」


「俺、ゲームの名前言ってないけど」


 宵宮さんが、固まった。


 完全に、固まった。


 次の瞬間、カーディガンの袖が、顔全体を覆った。


 両腕で。


 頭のてっぺんまで。


「……予鈴、鳴る」


「まだ十分あるけど」


「……鳴る」


 宵宮さんは、顔を袖で隠したまま立ち上がった。


 そのまま、壁にぶつかりそうになりながら階段を下りていった。


 途中で一回、踏み外しかけていた。


    ◇


「お前、宵宮さん見すぎ」


 五限の途中。


 前の席の拓海が、プリントを回すふりをして振り返った。


「……見てない」


「十秒に一回は見てる」


「数えるな」


 見ていた。


 宵宮さんは、窓の外を向いたまま、こっちを一度も見なかった。


 ただ、耳だけがずっと赤かった。


 その隣の席で、茅野さんがにやにやしながら宵宮さんの脇腹をつついている。


「しずく、なんか顔赤くない?」


「……赤くない」


「熱ある?」


「……ない」


「真壁と何かあった?」


 宵宮さんの袖が、茅野さんの肩をぺしっと叩いた。


 けっこう、いい音がした。


    ◇


 家に帰って、紙袋を開けた。


 三重のテープを剥がす。


 中には、昨日貸したハンドタオル。


 ちゃんと洗って、きっちり四つ折りにしてあった。


 それと、小さな付箋が一枚。


『ありがと』


 丸っこい字だった。


 タオルを手に取ると、ふわりと甘い匂いがした。


 うちの洗剤の匂いじゃない。


 昨日、踊り場で背中のすぐ後ろにあった匂い。


 ――中、見ないで。


 付箋を見られたくなかったのか。


 それとも、この匂いの方だったのか。


 俺はしばらく、四つ折りのタオルを持ったまま動けなかった。


    ◇


 午前零時。


『……ん』


 YOIがログインしてきた。


 心臓の音が、少しだけうるさかった。


「おつかれ」


『……おつかれ』


 降下して、物資を漁る。


 今日のYOIは、なんだか口数が多かった。

 多い、といっても、いつもの倍くらいだけど。


『……カナ』


「ん?」


『……最近、どう』


「どうって」


『……その、クラスの。ギャルの』


 宵宮さんのことだ。


『……仲いいの』


「仲いいっていうか……」


 踊り場のこと。

 カフェオレのこと。

 雷のこと。

 四つ折りのタオルのこと。


 全部、思い浮かんだ。


「最近、ちょっと気になる」


『……』


「……いや、変な意味じゃなくて」


 画面の中で、YOIのキャラが、急に走り出した。


 安全地帯の外に向かって。


 全力で。


「おいYOI! そっちリング外!」


『……』


「死ぬって! 戻れ!」


 YOIのキャラは、リングの外で体力を削られて、そのままダウンした。


『……操作、ミスった』


「どんなミスだよ」


 俺は、慌ててリングの外まで走った。


 スモークを焚いて、YOIの横にしゃがみ込む。


 蘇生ゲージが、じりじりと伸びていく。


 一年組んで、初めてだった。


 俺がYOIを蘇生しに行くのは。


『……来なくてよかったのに』


「来るだろ。相棒なんだから」


『……』


 ゲージが満タンになる。


 YOIのキャラが立ち上がる。


『……ん、ナイス』


 いつもの言葉なのに、いつもより少しだけ小さかった。


    ◇


 リングの中に戻って、物資を漁り直しているとき。


 俺は、ずっと聞きたかったことを口にした。


「なあ、YOI」


『……何』


「お前、ネイルとかしてる?」


 沈黙。


『……してる』


「何色?」


『……』


 長い沈黙だった。


 敵の足音すら聞こえない、静かな沈黙。


『……教えない』


    ◇


 ログアウトしたあと。


 俺は、ノートを開いた。


『一人称「あたし」の女子リスト』


 その下に、昨日までなかった項目を書き足す。


 ・雷が嫌い

 ・夜、家にいたくない

 ・昨日の試合を「二十秒」と言った

 ・ネイルをしている(色は教えてくれない)


 宵宮しずくの名前の上の線は。


 もう、ほとんど残っていなかった。

お読みいただきありがとうございます!


宵宮さん、自分から盛大に墓穴を掘りました。

そして一年目にして、初めての「逆蘇生」です。


続きが気になったら、ブックマーク・★評価をいただけると更新の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。