↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつもデュオを組んでる無口な相棒が、クラスで浮いてるダウナーギャルだった  作者: なまら呑兵衛


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/15

第14話「……答え出たら、言って」

「で、お前ら付き合ってんの?」


 昼休みの教室で、拓海が弁当の蓋を開けながら言った。


 踊り場に行こうとした俺の腕を、がっちりつかんだまま。


「……付き合ってない」


「嘘つけ」


「嘘じゃない」


「じゃあ、なんで毎日一緒に帰ってんだよ」


「一緒には帰ってない。駅で合流してるだけだ」


「それを一緒に帰るって言うんだよ」


 拓海は、スマホの画面を俺に突きつけた。


 茅野さんとのトーク画面だった。


『しずく、今週マグカップ買ってた』

『百均で。黒猫のやつ』

『「真壁んちのコップでかい」とか言ってた』

『あとクッションも買ってた』

『あとコントローラーも買うって言ってた』


「……情報網、どうなってんだよ」


「茅野は全部知ってる。そして茅野が知ってることは、俺も知ってる」


 最悪の情報網だった。


「マグカップとクッションとコントローラーを置きに来る女子が、付き合ってないわけないだろ」


「付き合ってない」


「じゃあ何なんだよ」


「……相棒」


 拓海は、ゆっくりと箸を置いた。


「真壁」


「なんだよ」


「相棒は、マグカップを置いていかない」


    ◇


 同じころ。


 教室の反対側で、茅野さんが宵宮の机に両肘をついていた。


 あとで茅野さんから聞いた話によると、こういうやりとりがあったらしい。


「で、しずく。真壁と付き合ってんの?」


「……付き合ってない」


「嘘でしょ」


「……嘘じゃない」


「じゃあ毎日真壁んち行ってるの何?」


「……ゲーム」


「ゲームのためにマグカップ買う?」


「……カフェオレ、ぬるくなるから」


「理由が細かすぎるんだって」


 茅野さんは、宵宮の頬をつついた。


「じゃあさ、真壁のこと好きなの?」


「……」


「しずく?」


「……相棒」


「それ答えになってないって」


「……相棒は、相棒」


 ――教室の端と端で。


 同じ時間に、同じ答えを言っていたらしい。


 茅野さんは、あとでその話をしながら、腹を抱えて笑っていた。


「あんたら、打ち合わせでもしてんの?」


 してない。


    ◇


 結局、拓海の手を振りほどいて、踊り場へ向かった。


 階段を上る。


 いちばん上の段に、長い袖が見えた。


「……来た」


「来た」


「……遅い」


「拓海に捕まってた」


「……あたしも。まひるに」


 宵宮は、少しだけ疲れた顔をしていた。


 俺は、隣に座った。


 こぶし一個分。


 もう、それが当たり前の距離になっていた。


「……何聞かれた」


「付き合ってんのかって」


「……なんて答えた」


「付き合ってないって」


「……ん」


「宵宮は?」


「……同じ」


「だよな」


 なんだか、少しだけほっとした。


 ほっとした理由は、自分でもよく分からなかった。


    ◇


「へえー、ここがしずくの秘密基地かあ」


 階段の下から、聞き覚えのある声がした。


 振り返る。


 茅野さんだった。


 その後ろに、拓海もいた。


「……っ」


 宵宮の肩が、跳ねた。


「ちょ、まひる、なんで」


「つけてきた」


「……つけるな」


「だって気になるじゃん! しずくが毎日どこに消えてるのか!」


 茅野さんは、軽い足取りで階段を上ってきた。


「へえ、意外と広いね。日当たりもいいし」


「真壁、お前こんなとこで毎日昼飯食ってたのか」


 拓海まで、きょろきょろと見回している。


「ねえ、明日からここ、四人で食べない?」


 茅野さんが、手を叩いて言った。


「あたしと森も来るからさ。四人の秘密基地にしよ」


「……」


 宵宮が、黙った。


 俺は、宵宮の横顔を見た。


 半目が、いつもより少しだけ細くなっていた。


「……だめ」


「え?」


「……ここ、あたしの場所」


 初めて話したときと、同じ言葉だった。


 茅野さんは、くすっと笑った。


「じゃあ、あたしとしずくの場所にしよっか」


「……だめ」


「えー」


「……ここは」


 宵宮は、少しだけ言葉を止めた。


 カーディガンの袖で、口元を隠す。


 それから、ほとんど聞こえないくらいの声で。


「……ここは、真壁とあたしの」


 しん、と踊り場が静まった。


 茅野さんの目が、まんまるになった。


 拓海は、天井を見上げていた。


 前にも見た、悟りを開いた顔だった。


「……へえ」


 茅野さんの口元が、ゆっくりと吊り上がっていく。


「そっかそっか。真壁としずくの、ね」


「……違う」


「今言ったじゃん」


「……言ってない」


「言った! 森も聞いたよね!」


「聞いた。録音しとけばよかった」


 宵宮は、両方の袖で顔を覆った。


 頭のてっぺんまで。


「……帰って」


「はいはい、お邪魔しましたー」


 茅野さんは、拓海の背中を押して階段を下りていった。


 途中で、一度だけ振り返る。


「真壁。泣かせたらぶっ飛ばすからね」


 二回目だった。


    ◇


 二人が去ったあとの踊り場は、やけに静かだった。


 宵宮は、まだ袖で顔を隠している。


「……宵宮」


「……」


「顔、出せよ」


「……出さない」


「昼飯、まだ食ってないだろ」


「……食べない」


 パンの袋が、膝の上で手つかずのままになっていた。


 俺は、少し迷ってから聞いた。


「……付き合ってない、よな」


 袖の向こうで、宵宮が動きを止めた。


 それから、ゆっくりと、袖を少しだけ下ろした。


 半目が、こっちを見ていた。


「……カナは」


 学校で、その名前を呼ばれたのは初めてだった。


「……どう思ってんの」


 どう思っているのか。


 付き合ってない。

 それは、事実だ。


 でも、それだけなのか。


 毎日駅で待ち合わせて。

 部屋に宵宮のものが増えていって。

 水曜日の夜、一人で食べたカップ麺が、やけにまずかったこと。


 それを、なんて呼べばいいのか。


「……分からん」


 正直に言った。


 宵宮は、しばらく俺の顔を見ていた。


 それから、ふいと前を向いた。


「……ん」


「悪い」


「……謝んなくていい」


 宵宮は、パンの袋を開けた。


 一口かじる。


 もぐもぐと噛んで、飲み込んでから、ぼそりと言った。


「……答え出たら、言って」


「……ああ」


「……待ってるから」


 待ってる。


 その言葉は、袖に隠れていなかった。


    ◇


 放課後。


 駅の改札の前で、宵宮が待っていた。


 手には、新しい紙袋。


「……これ」


 部屋に着くと、宵宮は紙袋から箱を取り出した。


 コントローラーだった。


 黒い本体に、小さな紫のステッカーが何枚か貼ってある。


「……ネイルと、お揃い」


 確かに。


 黒とくすんだ紫。


 宵宮の爪と、同じ色だった。


 宵宮は、自分のクッションに座って、新しいコントローラーをつないだ。


 スティックを、何度か倒してみる。


「……ん。ずれてない」


「よかったな」


「……これで、四つ目」


「四つ目?」


「……ヘアゴム。マグカップ。クッション。コントローラー」


 宵宮は、指を折って数えた。


 数えていたのか。


 俺だけじゃなかったのか。


「……まだ、増える」


「まだ増えるのかよ」


「……だめ?」


「……だめじゃない」


「……ん」


 宵宮は、新しいコントローラーを握って、画面を見た。


 横顔が、少しだけ満足そうだった。


    ◇


 午前零時。


『……ん』


 YOIがログインしてきた。


「おつかれ。コントローラー、どうだった?」


『……最高。ステッカー、もう一枚貼る』


「そうか」


 降下して、物資を漁る。


 途中で、スマホの通知が鳴った。


 天気予報のアプリだった。


「明日から梅雨入りだってさ」


『……だる』


「傘、ちゃんと持ってこいよ」


『……持ってく』


「この前、忘れてずぶ濡れだっただろ」


『……今度は、持ってく』


「本当だな」


『……本当』


 YOIは、傘を持っていくと言った。


 ――この人の「持っていく」があまり当てにならないことを、俺はもう、知っている。

お読みいただきありがとうございます!


付き合ってない二人、ついに友人たちに秘密基地がバレました。

そして宵宮さん、また盛大に自爆しています。


次回、梅雨入りです。

……傘、ちゃんと持ってくるんでしょうか。


続きが気になったら、ブックマーク・★評価をいただけると更新の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。