第45話 新たな刀の名
翌日。
俺――上塚賢吾は、いつも通り銀行へ出勤していた。
昨日、《試作五号》の実戦試験が終わった。
月影渓谷でLv13のロックリザードを相手に通常斬撃、受け流し、《魔力刃補助》、さらに魔力遮断機構まで確認した結果、システムから与えられた試作運用評価は《SS》。
そして俺は、《鉄刀・試作四号》に代わって《試作五号》を正式な主武器として登録した。
残っているのは、シズナ鍛冶師ギルドでの正式審査だ。
ただし、それは夜の話。
今は銀行員としての仕事がある。
「上塚主任、こちら確認お願いします」
「はい」
渡された書類へ目を通す。
数字。
日付。
記載内容。
一つずつ確認する。
AWOでは刀を振っているが、現実では銀行員。
しかも主任。
仕事中に《試作五号》のことばかり考えているわけにはいかない。
もっとも。
昼休み。
スマートフォンを見ると。
『昨日の試作五号配信、アーカイブ再生数が伸びています』
神崎さんから連絡が届いていた。
続けて。
『特に《武器を作る→実戦で検証する》という流れへの反応が良好です。通常プレイを優先していただきながら、今後も研究に大きな進展があった際は配信をご検討ください』
「今まで通りか」
それが一番ありがたい。
配信のためにAWOを遊ぶのではなく、AWOを遊んでいる中で見せたいものがあれば配信する。
正式契約後も、その距離感は変わっていない。
俺は簡単に返信すると、スマートフォンをしまった。
午後も仕事。
そして定時後。
寄り道せず帰宅する。
◇◇◇
夕食。
風呂。
家事。
翌日の準備。
全部終わらせてからVR機器を装着する。
《リアルコンディションチェックを開始します》
《睡眠状態:良好》
《栄養状態:問題なし》
《水分状態:問題なし》
《体温:正常範囲》
《身体活動:良好》
《フルダイブ可能》
「ログイン」
視界が暗転する。
次の瞬間。
銀麦亭。
いつもの客室。
腰には。
昨日から主武器になった《試作五号》。
俺は軽く柄へ触れてから、一階へ下りた。
「ジョウゴ、おかえり!」
最初に声をかけてきたのはミナ。
その隣。
カイト。
レント。
そして。
「来たか!」
「やっぱりいる」
バルガ。
「行くぞ!」
「どこに?」
「鍛冶師ギルド!」
「知ってるけど、少しくらい落ち着け」
「昨日から待ってんだぞ!」
「昨日は閉まってただろ」
「だから今日まで待った!」
「普通だよ」
カイトが葡萄ジュースを飲みながら笑う。
「バルガ、今日も朝から来てたぞ」
「また?」
レントが頷く。
「ただし今日は銀麦亭と工房を三往復」
「減ったな」
「減ったって何だ!」
昨日は五往復だった。
成長している。
たぶん。
マリアさんが厨房から顔を出す。
「ジョウゴ、夕飯はどうするんだい?」
「審査が終わってから戻ってきます」
「分かったよ」
するとミナが勢いよく立ち上がった。
「私も行く!」
「ミナも?」
「魔力工程協力者!」
「ああ、そうだった」
「忘れてたの!?」
「忘れてない。今思い出した」
「それ忘れてたって言うんだよ!」
さらにカイトとレントも立つ。
「俺たちも行くぞ」
「見届けたいからな」
「じゃあ全員か」
「早く行くぞ!」
バルガだけは。
もう入口にいた。
◇◇◇
夜のシズナ。
中央通り。
そこから職人街へ。
鍛冶師ギルドは、冒険者ギルドより少し小さい。
しかし建物そのものは頑丈そうで、入口の上には槌と金床を組み合わせた紋章が掲げられている。
中へ入る。
受付。
素材取引。
鍛冶依頼。
技術登録。
いくつかの窓口。
俺たちが向かったのは、一番奥。
《新規技術・特殊武器審査窓口》
受付にいたドワーフの男性が顔を上げた。
「バルガか」
「持ってきたぞ!」
「朝も聞いた」
「……来てたの?」
「確認しただけだ!」
受付のドワーフがため息をつく。
「三回来た」
「銀麦亭と工房だけじゃなかったのか」
レントが小さく呟く。
「活動範囲が広がっていたらしい」
「そこ感心するところ?」
俺は腰から試作五号を外した。
「これです」
「預かる」
受付のドワーフが慎重に刀を受け取る。
鞘。
柄。
鍔。
そして。
抜刀。
「ほう……」
銀色の刀身。
淡い青の刃文。
照明の下。
僅かに色を変える。
「これが例の《複合鍛造刀》の新型か」
「新型っていうか、派生型に近いです」
「説明を」
俺とバルガは、ここまでの経緯を話した。
高密度鉄。
黒鉄。
蒼鉄。
銀星砂。
青鉄砂。
それらを組み合わせて作った《星蒼導流鋼》。
内部に魔力経路を形成し、さらに経路そのものが高い自己安定性を持つこと。
そして青月石を利用した《魔力調整核》。
過剰な魔力が流れた際に作動する《魔力遮断刻印》。
全部。
一つずつ。
説明する。
受付のドワーフ。
途中から。
無言。
さらに。
奥から。
一人。
二人。
三人。
鍛冶師。
増える。
「……人増えてない?」
「気にするな!」
「気になるよ」
ミナが小声で笑う。
「珍しい技術だからじゃない?」
「そうみたいだな」
◇◇◇
やがて。
刀。
奥。
審査場へ。
俺たちも移動する。
そこには金床、試し斬り用の木材、金属板、魔力測定器などが並んでいた。
審査担当。
年配。
ドワーフ。
髭。
長い。
バルガより。
かなり。
「また妙な物を作ったな、バルガ」
「妙とは何だ!」
「褒めておる」
「ならいい!」
俺は小声でレントへ聞く。
「あの人は?」
「ギルドの鑑定表示が出ている」
見る。
《ガンドル》
《シズナ鍛冶師ギルド・技術審査長》
「偉い人だった」
ガンドルさんは試作五号を手に取る。
まず。
握る。
次に。
刀身。
見る。
指。
棟。
軽く触れる。
そして。
鑑定。
「魔力経路安定度99.3%……」
周囲。
ざわつく。
「本当か?」
「九十九?」
「そんな数値出るのか?」
ガンドルさんは黙ったまま、今度は刀を測定器へ置く。
《魔力経路測定開始》
淡い光。
刀身。
走る。
《経路形成:正常》
《経路偏差:極小》
《自己安定性:非常に高い》
《内部断裂:なし》
《異常滞留:なし》
ガンドルさんが俺を見る。
「魔力を流せ」
「分かりました」
俺は柄を握る。
魔力調整核。
現在。
《蓄積魔力:100%》
でも。
今回は。
俺自身。
少量。
流す。
起動。
スゥゥゥ――。
青白い光。
刃。
包む。
《魔力刃補助:ON》
《魔力経路安定度:99.6%》
「上がったぞ」
鍛冶師。
誰か。
声。
「使用中に安定度が上がるのか?」
「自己安定だけじゃない……魔力同調している」
ガンドルさん。
目。
細く。
刀。
見る。
「解除」
「はい」
魔力刃。
消す。
「次は過剰入力」
バルガが口を挟む。
「最大までやるなよ!」
「分かっておる」
「壊すなよ!」
「お前は黙っておれ」
「俺が作ったんだぞ!」
「審査を受けに来たのはお前だ」
「ぐっ……」
珍しく。
バルガ。
負けた。
ガンドルさんの指示。
俺。
少しずつ。
魔力。
上げる。
《入力魔力量:中》
さらに。
《入力魔力量:高》
そして。
一定値。
超える。
パチン。
《過剰魔力流入を検出》
《魔力遮断刻印:作動》
《魔力供給を遮断しました》
青白い光。
消える。
ガンドルさん。
すぐ。
刀身。
確認。
《刀身:正常》
《魔力調整核:正常》
《星蒼導流鋼芯:正常》
《再起動待機時間:30秒》
「安全機構も正常」
そして。
三十秒後。
再起動。
問題なし。
「なるほど」
ガンドルさんが刀を鞘へ納めた。
◇◇◇
次。
実戦記録。
システムに保存された月影渓谷での試験データ。
ロックリザードLv13。
通常斬撃。
魔力刃。
受け流し。
耐久低下。
魔力消費。
全部。
確認。
「試作運用評価SS……」
ガンドルさんが呟く。
そして。
バルガ。
見る。
「これを一度で?」
「まさか!」
即答。
バルガ。
「何度も失敗した!」
「だろうな」
「一号からだ!」
バルガが胸を張る。
「最初はただ刀の形にした!」
「二号で重心を変えた!」
「三号で複合鍛造!」
「四号で魔力経路!」
「それで五号だ!」
「……」
ガンドルさん。
聞く。
そして。
少し。
笑う。
「ならば問題ない」
「何が?」
「偶然ではない」
俺。
その言葉。
少し。
残る。
偶然。
ではない。
確かに。
一回。
奇跡的。
成功。
では。
ない。
失敗。
試験。
改善。
それ。
繰り返した。
結果。
今。
ここ。
◇◇◇
審査。
続く。
刀。
普通。
性能。
魔力機構。
安全性。
修理。
さらに。
魔力調整核。
交換。
可能。
そこも。
評価。
される。
「調整核だけ破損した場合、刀身全体を廃棄せずに済む」
「そのために交換式にしました」
「誰の案だ?」
「ジョウゴだ!」
バルガ。
即答。
「俺?」
「お前だろ!」
「そうだった」
「忘れんな!」
確かに。
修理できない武器。
嫌。
そう。
言った。
ガンドルさんが頷く。
「武器は壊れる」
「はい」
「どれほど優れた武器でもな」
「そうですね」
「ならば直せることも性能の一つだ」
「……はい」
そこ。
同意。
できる。
◇◇◇
そして。
しばらく。
待つ。
俺たち。
審査場。
端。
座る。
ミナ。
少し。
落ち着かない。
「受験結果待ってるみたい」
「分かる」
カイト。
葡萄ジュース。
飲んでる。
「どこで買った?」
「来る途中」
「準備いいな」
レント。
静か。
でも。
視線。
審査室。
気にしてる。
バルガ。
立つ。
座る。
立つ。
歩く。
また。
座る。
「落ち着け」
「落ち着いてる!」
「どこが?」
その時。
扉。
開く。
ガンドルさん。
戻る。
「待たせたな」
全員。
立つ。
そして。
システム音。
ポーン。
《地域武器技術審査が完了しました》
表示。
《審査結果:承認》
「……」
俺。
息。
止まる。
続く。
《《星蒼導流鋼芯刀剣構造》をシズナ地域特殊鍛冶技術として登録しました》
《基礎技術:《複合鍛造刀》》
《使用素材技術:《星蒼導流鋼》》
《補助構造:《青月導流構造》》
《安全構造:《魔力遮断刻印》》
《交換式魔力調整核構造を登録》
さらに。
《技術開発者》
《鍛冶師バルガ》
《剣士ジョウゴ》
《魔力工程協力者:僧侶ミナ》
ミナ。
目。
大きく。
「私の名前もある!」
「当然だろ」
「でも私、魔力流しただけだよ?」
「その魔力がないと作れなかった」
バルガ。
頷く。
「お前がいなきゃ経路形成できてねぇ」
「……そっか」
ミナ。
嬉しそう。
笑う。
そして。
バルガ。
「よっしゃああああああああ!」
「うるさい!」
鍛冶師ギルド。
響く。
周り。
鍛冶師。
笑う。
でも。
誰も。
怒らない。
◇◇◇
さらに。
通知。
《称号条件を達成しました》
「え?」
《称号《魔導刀開拓者》を獲得しました》
「また称号」
俺。
表示。
《魔導刀開拓者》
《魔力経路を内包する刀剣技術の開発に成功し、その実用性を証明した者へ与えられる称号》
《刀系武器の特殊製作時、微小な技量補正》
《魔力伝導系素材の鑑定補助》
「……鍛冶寄り」
カイト。
笑う。
「もう鍛冶師じゃん」
「剣士」
「槌打ちあるだろ」
「剣士」
「称号まで」
「剣士」
ミナ。
笑う。
「そこ譲らないんだ」
「本職だから」
バルガ。
腕。
組む。
「副業鍛冶師」
「違う」
「兼業!」
「違う」
「弟子!」
「もっと違う」
ガンドルさんまで。
笑ってる。
◇◇◇
そして。
審査。
終わり。
刀。
返却。
俺。
腰。
戻す。
その時。
ガンドルさんが聞いた。
「その刀、まだ《試作五号》なのか?」
「はい」
「技術審査は通った」
「……」
横。
バルガ。
見る。
顔。
すごい。
言いたい。
分かる。
「約束!」
「まだ何も言ってない」
「約束しただろ!」
昨日。
正式審査。
通ったら。
名前。
考える。
確かに。
言った。
「分かった」
俺。
刀。
見る。
青。
星。
月。
全部。
この刀。
入ってる。
星蒼導流鋼。
青月石。
淡い青。
刃文。
そして。
魔力刃。
青白い光。
「……星月」
「ほう」
ガンドルさん。
「星月?」
ミナ。
「星蒼導流鋼の星と、青月石の月」
俺。
「そのままだけど」
レント。
刀。
見る。
「悪くない」
カイト。
「格好いいじゃん」
ミナ。
「綺麗な名前」
バルガ。
「もっと長く!」
「嫌」
「即答!?」
「《蒼天星月魔導刀》とか!」
「絶対嫌」
「何でだ!」
「長い」
「格好いいだろ!」
「星月でいい」
バルガ。
不満。
でも。
少し。
考える。
「……まあ」
「何?」
「呼びやすい」
「だろ」
俺。
刀。
抜く。
銀。
淡い青。
光。
その刃。
見る。
そして。
システム。
《装備名称を変更しますか?》
俺。
選ぶ。
《YES》
入力。
《星月》
決定。
ポーン。
《《試作五号》の名称を変更しました》
《新名称:《星月》》
表示。
《星月》
《分類:魔導刀》
《品質:希少》
《主使用者:ジョウゴ》
《製作者:バルガ/ジョウゴ》
《魔力工程協力:ミナ》
《シズナ地域特殊鍛冶技術認定武器》
「……星月」
俺。
小さく。
呼ぶ。
悪くない。
いや。
かなり。
気に入った。
◇◇◇
銀麦亭。
戻る。
マリアさん。
俺たち。
見る。
「どうだった?」
バルガ。
胸。
張る。
「通った!」
「そうかい。良かったねぇ」
「SSだぞ!」
「はいはい」
「反応薄くねぇか!?」
「じゃあ今日は祝いだね」
「飯!」
「結局それか」
でも。
全員。
笑う。
ミナ。
料理。
見る。
「今日はお祝いだからデザート二個でもいい?」
「満腹度見ろ」
「まだ六十三%!」
「なら食べすぎ付かなければ」
「やった!」
カイト。
葡萄ジュース。
掲げる。
「乾杯するか!」
「葡萄ジュースで?」
「俺はこれでいい!」
「二日酔い懲りたな」
「二度と嫌だ!」
レント。
静か。
杯。
上げる。
「技術登録と星月に」
俺。
自分。
杯。
持つ。
中。
水。
「水かよ!」
「明日仕事」
「ゲーム内だぞ!」
「気分」
そして。
軽く。
杯。
合わせる。
「乾杯!」
◇◇◇
食事。
終わる。
俺。
銀麦亭。
外。
少し。
出る。
夜。
シズナ。
街灯。
人。
NPC。
プレイヤー。
普通。
歩く。
俺。
腰。
刀。
触る。
《星月》
最初。
ただ。
刀。
欲しかった。
西洋剣。
悪くない。
でも。
俺。
慣れてる。
刀。
使いたかった。
それだけ。
そこから。
バルガ。
出会った。
素材。
集めた。
失敗。
した。
また。
作った。
冒険。
した。
新素材。
見つけた。
そして。
今。
AWO。
この世界。
刀。
一つ。
技術。
認められた。
「……面白いな」
ゲーム。
なのに。
作ったもの。
世界。
残る。
俺が。
冒険。
することで。
何か。
少し。
変わる。
そういうところ。
このゲーム。
面白い。
その時。
ポーン。
通知。
冒険者ギルド。
《新着依頼情報》
「ん?」
俺。
開く。
《シズナ周辺・特別調査依頼》
《対象:北東草原上流域》
《推奨Lv:11~13》
《依頼内容:河川上流部における魔力反応増加の調査》
《補足:青鉄砂採取地点より上流で異常反応を確認》
「……青鉄砂?」
俺。
表示。
見る。
北東草原。
俺たちが。
青鉄砂。
見つけた。
川。
その。
上流。
《異常反応》
「また何かあるな」
背後。
扉。
開く。
ミナ。
「ジョウゴ、どうしたの?」
「新しい依頼」
カイト。
レント。
出てくる。
「何の?」
「北東草原」
俺。
依頼。
見せる。
レント。
目。
細く。
「青鉄砂の上流……」
カイト。
「素材?」
そして。
少し。
遅れて。
バルガ。
「素材だと!?」
「まだ言ってない」
「上流だろ!」
「聞いてたのかよ」
「行くぞ!」
「今日は行かない」
「なんでだ!」
「もうログアウトする」
明日。
仕事。
それ。
変わらない。
でも。
次。
行く場所。
決まった。
新しい刀。
《星月》。
完成。
そして。
その最初。
本格的。
冒険。
北東草原。
青鉄砂。
採取地点。
さらに。
上流。
そこで。
何が。
起きているのか。
俺たちは。
まだ。
知らなかった。




